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Mortal Luxury Cruise Ships  作者: 江上 那智
第一章 船上の悪夢
5/22

第五話

結構かかってしまいました。

先日ご指摘がありまして、二話と三話の一部及び四話目の中ほどを改訂しております。

ご指摘くださった方に感謝です。

どうぞお楽しみください。

――4F、下り階段前。



(さて、恵里香に大見栄きって来たけど……なーんも打開策浮かばねえ)

というのも、複数を近づけずに戦うには得物が短すぎるのが要因の一つにある。


(長柄のもの無いかな? デッキブラシでもいいんだけどなー……ん? あれは……)

ふと目に入ったのは病気男が出てきたと思われる部屋の中にあるモノ。

蒼太や恵里香の部屋にもあった気がするがその辺は覚えてない。


(これ、いいじゃん)

蒼太が目を付けたのはやはり電気スタンド。

それも、床に置く長いタイプ。所謂(いわゆる)フロアスタンド。

コンセントをスタンド側の根本から引きちぎり、持ち上げてみる。

このまま使えばちょっとしたロングメイスだ。


(これだと取り回しがキツイか? 台座取るか)

あの素早いレイジ相手に振り回すのは若干不利に感じたので台座を外す。


(うん、引っ叩く場合強度は心配だけど突き刺すなら問題なさそうだな)

上手く使えば噛みつきを防御したり、受け流したり、病気男の時みたいに飛び掛かられても対処が容易になる。


(これは良いものだ……やっぱ正攻法かー)

隠れるところも不十分であるため、どうあがいても奇襲で倒せそうなのは一体まで。


(二対一か、噛みつきさえ食らわなければいいんだけど……爪って大丈夫なのか?)

多少の被弾は覚悟するしかない……とはいえ、その被弾が致命傷。

爪による傷で感染するか不明なので、やはりかすり傷一つ負わずが理想である。


(うし、悩んでも仕方ねえ。行くか!)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



足音をたてないようにそろりと階段を下り、隙を伺う。


(レイジが一番遠く、ネクロが一体向こうを向いた……もう一体が……今!)

横を向いているネクロの一体目掛けて駆け出す。


蒼太の挙動に気づいたネクロが口を開けてこっちを向いた瞬間に口内から脳を目掛けスタンドを突き入れる。

胸部を蹴り飛ばし、口からスタンドを抜くと即座に倒れているネクロの膝を踏み砕く。


(っし、もしまだ動いてきても機動力はこれで落とした!)

異変を察知したもう一体のネクロとレイジが共に走り出す、やはりレイジは異常な速度だ。


距離的にはレイジの方があるが、速度で勝る為にこのままではほぼ同時に接敵する形になる。

蒼太は自分からネクロに接近し、レイジの正面に来るように足を払い転がせる。

そのまま後頭部にスタンドを突き立て地面に貼り付けにし、それを支点にクルリと半回転でレイジの突進を躱すと背後から蹴りを見舞って自分の体制を立て直す。

その際キッチリとネクロを踏み砕くのを忘れてはいない。


(なんとかタイマンに持ち込めたな)


――――――――――――――――――――――――

――恵里香の客室


(モルモット……)

恵里香は蒼太の言った言葉が引っかかっていた。


(万が一……万が一その可能性が正解だったら……)

頭ではそんな筈はないと否定しているが、心がもしかしたらと訴えてくる。


(もし万が一の方が正解なら蒼太が言っていたモノが無い(・・)筈)

緊急事態に陥った際に必要になる道具、低体温を防いだり日数分の非常食だったり確実に助かるためのモノが何処かにでもある(・・)方がオカシイ。


(……やっぱりどこにも無い!)

じっくりと思い返してみれば、この船に乗る乗客全員が緊急時の説明をされていない(・・・・・・)。


(ここは……逃げ場のない巨大な棺桶……なの?)

恵里香は考える、この実験場の対象が「レイジやネクロなのか」、それとも「生存者なのか」。


レイジやネクロの感染者が対象の実験であるならば、感染力や殲滅力と言った所謂「争いに使える細菌兵器か」の実験。

生存者が対象ならば、この状況下で生き延びれる「生存力のある強い人間を選定する為」の実験。

あるいはその両方か。


恵里香は蒼太ほど映画は詳しくないが、逆にゲームやアニメは色んなジャンルを齧っている。

一度火が付くとそっちの方にどんどん妄想が膨らんでいく。

負の想像が心を支配し身動きが取れなくなった恵里香は、死の恐怖に怯えながら蒼太の帰りを待ち続けた。


――――――――――――――――――――――――


(マジかよ、病気男より強ええぞこの!)


蒼太が心臓目掛け突き出したスタンドを両手でつかみ、少し後ろに下がることで威力を殺すレイジ女。

下半身の力が入るのを視認し、押し返してくると踏んだ蒼太は相手が押してくる力に逆らわず、身体を逃がしてレイジ女のバランスを崩しにかかる。


それを察知して自ら軽く前に跳躍すると、その勢いを利用して蹴りを繰り出して来た。

反射的に後ろに跳んで威力は減らしたが、それでも殺しきれずに蒼太は壁にぶつかってしまう。


「げほっ……赤……じゃなかった。マジでつええぞ……何か武術習ってやがったな?」

このレイジ女は絶対に何か武術をやっている。

体捌きや重心の安定感が素人のモノではなかったからだ。


最初の一撃で相手を警戒させてしまったのも分が悪い要因の一つ。

そのおかげで、このレイジ女は蒼太から一定距離をとり、確実に反撃出来るときにしか攻撃してこないのだ


(考える頭があるってだけでキツイ……)

蒼太はスタンドを杖にして、やっとの思いで立ち上がる。

その様子を見てニイと口を釣り上げてレイジ女が嗤った。


蒼太の状態を見て攻勢に切り替えたレイジ女は左の甘手を前に突き出し、右の苦手を顔の横に溜め突進する。

狙いは蒼太の首元。

かざした左手をそのままブラインドとして使い、本命の右手で掴み壁に叩き付ける算段だ。


――刹那、世界が暗転する。


「アンタに足りなかったもの、そりゃ場数だ」

スタンドを口から引き抜き、ネクロ化しないよう完全に止めをさす。


先の蒼太の状態は演技だった。

これ以上動けないと見せかけ、相手からの攻撃を誘ったのだ。


右が本命なのはわかっていた。

なので囮の左は一切無視し、突き出される右の手を掻い潜り射線より移動。

逆に相手の首を掴み、スタンドの先端目掛けて押し付けるように態勢を崩すだけで、あとは勝手に自分のつけた慣性で突き刺さるわけだ。


――――――――――――――――――――――――

――恵里香の客室。


「ただいま、きつかったー」


「……おかえりなさい」


「ん? どうした、元気ないな」


「うん……それなんだけどね」

恵里香は蒼太が戦っている間に自分で調べた事を伝える。

たどり着いてしまった想像の話も踏まえて。

それを聞いた蒼太は薄々と思っていた事を伝えることにした。


「恵里香、実は俺も気になることがあるんだ」


「気になる事?」


「この船の造りだ」


「どういう事?」


「違和感に気づかなかったか? 階段が離れていることに」


「あ」

階段が離れている。

普通に考えれば階段は4、3、2、と繋がっているのを想像する。

だが、この船は4~3階と3~2階に降りる階段は離れているのだ。

しかも端から端に歩かされる。


「さらにいうと2階から1階に降りる階段も凄く不便な位置にある」

2階から1階に降りる為にはまず2階のプロムナードと公園を経由しなければならない。

客室から直接1階に行けない時点で構造に問題があるのだ。


「実験場説が間違いないとしたら……」


「逃がす気はないって事だろう、その方が辻褄が合う」


「……そう……だね……」

そう言って恵里香は黙り込んでしまった。

再び思考の闇に沈んでしまったのだろう。


蒼太はどう声をかけていいものか悩み、目を泳がせた。

不意に時計が目に入る。


(いつのまにか夕方か……結局何も食ってないな……)

今までは緊張感やらなにやらで空腹感を感じていなかったが、気づいてしまってはそうもいかなくなる。


(あ、そういえば)

豪勢な食事に辟易したとき用で鞄の中にお菓子が入っているのを思い出した。

さっそく鞄を漁ることにする。


「あった、ほれ恵里香も」


「え? これ……」


「俺の食事に飽きたとき用非常食」


「あ、ありがとう……」

恵里香と蒼太は三日ぶりに食べるお菓子に何とも言えない気分になった。


「う……うええぇぇん……」


「お、おい泣くなよ」


「だって、帰れないかもしれないんだよ? ここで死ぬかもしれないんだよ!?」


「……それは俺が絶対にさせない、生きてここから出る。だから安心して、シャワー浴びて今日はもう寝よう」

実をいえば朝から戦闘と緊張で蒼太はかなり疲れていた。

圧倒的に足りないが、ほんの少しでも食事欲求が満たされ今度は眠気が襲ってきている。

それは恵里香も同じだったようで、戦闘こそなかったもののただ待つというのもかなり精神を削っていた。


「……うん。ぐす……」


「先に行っておいで。明日は必ず食料を手に入れる、そしてここから出る」


「うん……うん……」

二人は順に汚れを落とす。

戻ってから手はしっかり洗ったが、そこ以外のどこかに体液が付着していて感染しては拙いと注意深く身体を清めた。

奴らを踏み砕いた足は特に念入りに。


「ほら、おいで。……お休み、恵里香」


「うん……」

今にも消えてしまいそうなほど参っている恵里香をそっと抱きしめ、明日に備えて蒼太は床についた。

ブックマーク、評価、感想をくださった皆様ありがとうございます。

お付き合いいただき有難うございました。

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