第二話
第二話です。
どうぞお楽しみください。
(ゾンビ、ゾンビですよ! 小生はどうしたらいいですか!? あ、あと三日で蒼兄が帰ってくるからまってれば大丈夫です!)
そこまで考えて、はたと思い直す。
(……封鎖されたココに帰ってくる? どうやってです? 壁を越えてゾンビの群れを突破して?)
そこまで考えてから朱音は自分の置かれた状況が絶望的だという事に気が付いた。
そうなると次々に考えたくないことが溢れてくる。
(ここに居れば一時的に安全? 食料が尽きたらどうするです? 壁の向こうから助けは来ない? そうですよ……助けられないから封鎖したですよね……じゃあ壁の向こうは安全?)
そう、手の施しようがないから封鎖した。
ならば封鎖区域の向こうは安全なのだろう、それは間違いない様に思える。
(なんとか壁の向こうに……ゾンビステルス……まずゾンビを捕まえて……バラすです!? でもゾンビスレではかなり効果的……うう……嫌です……)
現状の最善手はそれ以外に無い。
このまま外に出たところであっさり仲間入りするのが目に見えてる。
情報ではゾンビの身体能力はかなり高く、一般人が相手にするには荷が勝ちすぎる、というか無理。
気づかれないで移動するにはゾンビに擬態するしかない。
でも擬態するために必要なゾンビは凶暴体でなくとも脅威的。
激しい矛盾である。
ゾンビと戦いたくないからゾンビと戦う。
禅問答の類かと疑いたくなる、でもやらなければいけない。
頭が痛くなるほどどうしようか悩んだ結果朱音は……。
(くう……)
寝た。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
雀の声爽やかに、窓から差し込む日差しが心地よい朝、時間的には昼。
「ふぃー、よく寝たですよー。って……」
昨晩どのような状況下で寝落ちしたのか思い出して朱音は落ち込んだ。
首を垂れてるとお腹の虫が声を上げる、考えて見ればショッキングな出来事続きで昼食すら取っていない事に気づく。
(何は無くとも腹は減るですね……)
手早く食材を取り出し、料理の準備をする。
そもゾンビは料理の匂いで集まってきたりしないのだろうか? という疑問は浮かんでない様子。
さっとレタスを千切り、油を引いたフライパンにソーセージを投入。
破裂防止で切れ目を入れておくのは忘れていない。
程よく火が通ったらそこへ卵を入れ、蓋をして蒸す。
その間にたっぷりバターを塗ったパンをトースターに入れて3分焼く。
コーヒーメーカーから注がれる香りが何とも言えない。
「んーブレックファスト」
優雅な朝食の時間だ、昼だが。
外をゾンビがうろついてなければなお良かっただろう。
朝食を終えて人心地着いた後は入浴である。
朱音はいつもそうしている為、半ば無意識だったと思う。
さっぱりして思考がクリアになったところでほかにいい方法が無いか昨日のスレをチェックする。
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【地元】ゾンビを撃退しつつ閉鎖された都市から逃げ延びるスレ二体目【千代田】
148:名無しのゾンビ:20XX/0X/XX(木) 12:12:07
なんかウチの近所から料理のいい匂いがただよってきたのだが
149:名無しのゾンビ:20XX/0X/XX(木) 12:15:34
この状況下で料理とかどんな猛者wwwwww
153:名無しのゾンビ:20XX/0X/XX(木) 12:42:16
さらに石鹸のいい香りまで来たんだが……
156:名無しのゾンビ:20XX/0X/XX(木) 12:51:52
どんだけ普通に生活してんだそいつwwww鋼の精神wwww
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(ほえ~、凄い人もいたもんです)
自分の事とはつゆ知らず、間の抜けた感想を述べながらもスレを追っかけるが、有用な情報は上がっていない。
(結局ココから逃げるにはステルス作らなきゃならないですか……)
最終的にはその結論で落ち着くことになる。
ゾンビを討伐し、ステルス装備を作るための道具を探すためにまずは蒼太の部屋に向かう朱音。
ついでにエッチな本も探したが見つからず、少し落胆する。
発見したのは木刀、ダンベル、腹筋ローラー、懐かしのブルワーカー、ビリーさんの軍隊式トレーニングDVD。
それにサバゲ―の本とエアガンとガスマスクが見つかった。
この中では木刀とダンベルが武器として使えそうだ。
ガスマスクはステルス用にもってこい、口も保護出来て大変Goodなのだが……。
(いったい蒼兄は何がしたかったです?)
朱音にはゴーグルではなくガスマスクの方がカッコいい気がするという蒼太の浪漫が理解できなかった。
次に物置を物色する。
まず目についたのはレインコート上下、その奥には消火器となぜか防火用の破砕斧。
(なんでこんなのあるですか?)
消火器と一緒においてある破砕斧が意味不明である。
一応破砕斧も出しておく。
さらに台所からはゴム手袋も発見し、いよいよゾンビを倒して体液を手に入れるという段まで来た。
こういうと中々にマッドな香りがする。
直接対峙なんてもっての外、さてどうするかと頭をひねる。
不意打ちで木刀を一当てしたところで確実に一撃で沈黙させられる筈もない、自分の力は十二分に理解しているつもり。
ならばどうするか、答えはダンベル。
どうにかして窓の下におびき寄せ、重力の力を借りて頭部を破壊する。
紐を括り付けておけば万一外しても回収は容易。
二階の高さまで跳んで来たらお疲れ様。
単純明快で確実だ。
(さっそくおびき寄せるですよー)
まず目覚まし時計を用意する朱音。
しばし熟考してからやめた。
(釣れたらすぐ止まらないと周辺のが集まってきたらおしまいです……)
何か無いかと探し回ってあるものを発見する。
最近ではおいてある個人宅も少なくなってきた固定電話、通称「家電」。
(これなら……)
自分のスマホで鳴らして釣れたら止める、なんと理想的なアイテム。
さっそく朱音は二階に上がりダンベルを落とす。
手を離した場所でどの位置に落ちるか確かめるためである。
この段階で気づかれなかったのは本当に運が良かった。
何回か試して大体の位置を把握した朱音はついにやり直しの利かない本番を迎える。
(来たですよ……って子供!?)
フラフラと寄ってきたゾンビは見たところ12~3くらいの女の子だった。
腕は片方無く、足を引きずっている。
朱音の位置からは見えないが喉元を食いちぎられたのか頸椎がむき出しになっていた。
(う~……ごめんなさい!!)
外せば今度は自分の命の危険が危ない。
祈るように手を離すと、狙い違わずダンベルは子供ゾンビの頭部を破壊して地面に降り立った。
成功したのを確認し、一階に降りてベランダから中へと引きずり込む。
あとは砕いてレインコートにかけるだけなのだが……。
(ひぃぃん……やっぱり良心が咎めるですよぉ……)
破砕斧を手に持ち、振り下ろそうとしては止めるを繰り返す朱音。
人型のモノを手にかける忌避感と罪悪感に嗚咽し、自分より年下の子供が犠牲になる事に涙を流した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!)
意を決し、振り下ろされた刃は少しずつ少女だったものをただの肉の塊へと変えていく。
一振りごとに謝罪をし、ひたすら打ち付ける。
一度でも手を止めたらそれ以上はもうできなくなるだろう。
だから完全に終わるまでは止まらない、止まれない。
一体どれほどの時間がたっただろうか、まだ日は落ちていない。
体感は数時間、実際は一時間にも満たない時間だっただろう。
元はなんであったか、原型が一切分からなくなった肉の塊を前に朱音は静かに涙を流して立ち尽くしていた。
やがて、ゆっくりとだが動くことを再開した朱音はただ一言も発せず、何も思考することもなく黙々とバケツに肉塊を移していく。
それが終わる頃にはすっかりと日が落ちていたので、この日は食料などを背負い鞄に詰め、シャワーを浴びて布団に入る。
未だ手に残る肉を砕く感触に震える、つい先ほど自分がしたことが頭から離れない。
目を閉じると少女が自分を食らおうと歩いてくる姿を想像をしてしまう。
(眠れない……怖いです……蒼兄……蒼兄……)
朱音は一睡もできず、朝を迎えた。
少し短いかもしれないですが、キリがよかったのです。
朱音ちゃんは扱いやすい。
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