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Mortal Luxury Cruise Ships  作者: 江上 那智
第一章 船上の悪夢
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第一話

ゾンビ終わってまたゾンビ。

この作品はシリアス展開を重視してます。

つたない文章ですがどうぞお楽しみください。

「お前はクビだ!」


「ああ、言われなくてもこんなクソみたいなところ出て行ってやるよ!」

ここ数年で通算5度目の解雇通告。

原因はほとんどが雇い主側、黒も黒。真黒な経営方針に真っ向から対立してしまったが故の結果。


自分の考える正義に基づいての行動なので後悔はしていないが、やはり腑に落ちない。

(はあ……またハロワ通いとバイト探しか……)

割と早いうちに両親を亡くしたが遺産のおかげで住むところがあり、慎ましく過ごせば多少の贅沢品も許容できる程度に金はあるが、一生となればまた話は違ってくる。


中空蒼太(なかぞらそうた)は母親の命と引き換えに生まれ、その後は男手一つで育てられた。

そんな父も長年の無理が祟り、蒼太が20の時に鬼籍に入る。


父には自分の信念があり、いつも世の中の理不尽に真っ向から立ち向かっていた。

耳にタコが出来るくらい聞かされた父の信念。


――どんなに理不尽でも自分の中の芯を折らなければなんとでもなる。


父から継いだその信念を貫いた結果が5度の解雇なのだから、正直者は馬鹿を見るというのが間違いではない証明だ。


「只今父さん、母さん」

仏前に水をあげて、乾いた食料をさげて新しいものに代える。

いつもの日課だ。


「父さん、またクビになったよ。でも俺、負けなかった。だからアイツは俺を切るという”逃げ”に出たんだ……それでさ……」

この報告もいつもの日課。


今わの際に「俺と母さんはいつもお前を見守っている」と言われたから。

幽霊や神様なんか信じてはいない。

でも、こうすることで遺影が笑ったように感じるから。

側にいてくれてる気がするからやっているだけの事。


報告を済ませ、買ってきた食材で簡単な料理を作り食事を取る。

人心地ついた後、玄関に転がっていたDM類をチェック。

これもいつも通り。いらないもの、必要ないものをはじいていく中で蒼太は一通の封筒に手を止めた。

今時にしては珍しく、仰々しい封蝋がなされた手紙。


「なんだコレ……宛名は俺だけど……」

差出人は不明、訝しく思いながらも封をあけて改めてみる。


『おめでとうございます、中空蒼太様は最新豪華客船の試乗クルージング旅に選ばれました。〇月×日の……』


(キャッチの類か……にしては手が込んでるな。〇月×日……明後日か)

捨てても良かったのだが、ちょうど仕事もなくなった。

気分転換にもなるだろうか? と考える。


(もしキャッチの類なら一蹴してしまえばいい、本当なら儲けものだな。ドレスコードは……当然あるよなぁ……服か……あ、そういえば)

クローゼットの奥に祖父が洒落で買った燕尾服があったのを思い出して漁る。

蒼太の祖父は所謂お調子者で、よく町内会で芸を披露しては笑いを取っていた人物。

燕尾服を着て芸を披露する姿はただの芸人にしか見えなかったのは懐かしい思い出だ。


「お、あった……まだ着れるか?」

タンスの肥やしになっていたので多少埃臭いが、虫食いもなくシミもカビもないのにホッとした。

試しに着てみるが胴回りが少々緩いだけで裾も丈も袖も問題なし、ベルトだけでなんとでもなる。

まるで(あつら)えたかのような一品。


「あとは靴だな」

同じくクローゼットの奥にあった燕尾服とセットの靴を引っ張り出す。

これはちょっとだけ汚れていたので磨きあげると、新品同様とまではいかないまでも普通に見れるようになった。

サイズは少し窮屈に感じるが大した気になるものでは無い。


(我ながら物持ちの良さにビックリするな)

よくもまあ捨てずに取って置いたものであると自分に感心する。


(準備は大丈夫だな、明日はお金を下ろして……留守番は給料出して従兄妹に頼むか)

旅は一週間、その間まったくの不在は流石に不安がある。

印鑑は持ち歩いてるから通帳類は盗られてもすぐにどうこう出来るもんじゃない。

でも、空き巣に入られたら気分が悪い。


(日当5000の食費2000で一週間49000なら妥当か? 面倒だから50000ぴったりでいいか……アイツは現金だから先払いだな)

従兄妹に払う日当も決まったので蒼太は寝ることにする。


次の日、その話を持ち掛けられた従兄妹はちょうど欲しいゲームがあったようで二つ返事で了承してくれた。

蒼太の憂いは完全になくなった。


――――――――――――――――――――――――


――当日、港。


従兄妹にお金を渡して港に来た蒼太は目の前の光景に面食らった。


(まさか本当だとは……)

色とりどりのドレスに身を包んだ女性、ピシリと礼服を着こなしている男性。

日本人以外にもそれこそ様々な……正直蒼太には一生縁が無いのではないかと思われるような人たちが次々と船に乗り込んでいた。


(俺、場違いなんじゃ……)

人波の列に並んで乗船チェックを受けている前の人を眺めながら戦々恐々としていると、ついに自分の番が訪れる。

持って居た手紙を乗務員の人に渡すとニッコリと微笑んで


「これは中空様、ようこそおいでくださいました。どうぞお楽しみくださいませ」

あっさり通ることが出来た。


――fantastic(ファンタスティック)Ocean(・オーシャン)


重量

225,000トン


全長

360メートル


乗客

5,200人


アメリカをイメージしたプロムナードと草木が豊かな公園。

アミューズメント施設や劇場があり、それ以外にも船上サーフィン、プールも楽しめる。

さらにアイススケート場にミニゴルフ場など大凡船の上でやるものなのだろうか? と疑問に思ってしまうほどの施設が備わっているのがウリらしい。


自分のあてがわれた客室にたどり着き、部屋を前にして内装の絢爛さに尻込み、蒼太は立ち尽くしていた。


(これ、夢なんじゃないだろうか……)

頬を抓ってみる。


「……痛い」

しっかりと夢じゃないのを確認していると、クスクス笑い声が耳に届いた。

それが自分に向けられたものだという事に気づいて蒼太は慌てて声の方を振り返る。


「ふふふ」

見れば年のころは自分とそう変わらない、20代のおとなしそうな女の子が蒼太を見て笑っていた。


「……何みてんだよ……」


「あ、ごめんなさい。私も貴方と同じこと考えていたから可笑しくなっちゃって」


「同じこと?」


「うん、私がここに居ていいのかなーって」

聞けばこの女の子も不審な手紙を受け取っており、いざ来てみたら今の状況である。

蒼太同様夢でないかと疑っていたらしい。


「あ、私鮎川恵里香(あゆかわえりか)。お魚の鮎に簡単な方の川、恵む里の香りで鮎川恵里香、よろしくね」


「ああ、俺は中空蒼太。真ん中の空に蒼く太いで中空蒼太だ、よろしく」

年齢は蒼太の一個下の23歳でコールセンター勤務。

溜まった有給を消化しろと上からのお達しで一週間休みをもらえたから、騙されてもいいかーくらいの軽いノリだったという。


(出会いは微妙だったけど、よく見たらなかなか……)

恵里香は誰もが振り向くような美人かと言ったらそうではない。

しかし、黒目がちの目が印象的な、五人に一人は振り返るであろう整った容姿をしていた。


一度も染めたことがないであろうショートボブに整えられた黒髪はしっとりと美しく、前髪が落ちないようにつけられたヘアピンがより可愛らしさを引き立てている。


「ね、ね。どうせだったら一週間一緒に回らない? こんな豪華な空間に一人だと居たたまれなくって」

見た目の印象から大人しそうだと蒼太は思ったが、どうやら積極的な性格のようだ。


実際、蒼太も身の丈に合わないこの場違いな空間で一人で一週間過ごすことを考えたらゾッとしない。

それだけ恵里香の提案はとても魅力的なものだったので二つ返事で了承する。


恵里香はお互いの連絡先を交換しようと言ってきた。

客室は二つ隣だったので連絡先の交換は必要ないのでは? と蒼太は聞いたが


「ココだけの付き合いで終わるんですかソーデスカ」

と言われては交換しないわけにいかない、ただスマホを出すのが面倒だったから聞いただけでそこまで言われるとは思ってもみなかった。


蒼太としても折角可愛い女の子の連絡先が聞けるんだから、その面倒以外特にと不満は無かったのでこれも了承する。

連絡先の交換を終えたあと、一旦解散して昼食を取り合流。


「どこいこうか?」


「なんでもあるからな。上から見に行くか」


「上から……屋外プールとか? 私の水着見たいの? 残念、まだ親密度が足りない」


「ば、ちげーよ! ってか親密度ってなんだよ」


「あれ? 恋愛ゲーとかやらないの?」

聞いたことはあるが蒼太は家庭環境からそこまでTVゲームに興味を持っていない。

隠す必要もないのでその旨を伝えると


「ごめんなさい……」

何故か謝られてしまった。


「べ、別に気にしてねーからそんな顔すんなって!」


「ほんと? ありがと」

泣いたなんとやらがもう笑った。くるくると変わる表情が見てて飽きない。

恵里香が嬉しさで思わず抱きついてきた時に腕に当たった、慎ましやかだがしっかりと自己主張してくる胸の感触に、内心でガッツポーズを取りながら蒼太はそう思った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



――屋外


「すごいね」


「ほんとすごい」

我ながら語彙に乏しいと思いつつもそう感想するしか出来ないくらい豪奢で、いままでも思っていたが酷く自分がこの場にふさわしくないと蒼太と恵里香は卑下してしまう。


ふと端っこの方に青ざめた顔で海を眺めている人物が蒼太の目に入る。


「恵里香、あの人……」

気分悪そうにしているのが心配になり、恵里香に声をかける。

恵里香に自分の事は呼び捨てでいいと言われたので蒼太はその通りにしている。

女の子を呼び捨てにするなんていうのはいつ以来だったかと考えたが今はどうでもいい。


「本当だ、具合わるいのかな……行ってみる?」


「……いや、連れがいるみたいだから大丈夫だろ」

一人の男が側に寄っていき、青ざめた人の背中をさすっていた。

盗み聞きするつもりは無かったが会話が聞こえてくる。


「Are you alright?」


「no problem……I appreciate your kindness……」


「……正直行かなくて良かったと俺は思っている」


「私も……」

二人とも英語はさっぱりだった。


屋上から順に降りていき、気になった施設で遊んでいるうちに時間は夕食時に差し掛かっていた。


「ディナーは大ホールだって。何が出るかな?」


「普段なら絶対食べようと思わない金額の食事なのは間違いないな」

夕食への期待に胸を膨らませながら会場入りする二人。

食事に関しては言わずもがな期待通り、最高級の料理に舌鼓を打ちながらゆっくりとした時間は過ぎていく。


「蒼太、蒼太」


「ん? どうした恵里香」


「あれ、昼間の人。まだ具合悪そう」


「……本当だ。船酔い……じゃないよな?」


「なんとか無理にでも食事して栄養を取ろうとしてるみたいに見えるね……あ!」


「あ!」

昼間の体調不良な外人さんが盛大に吐いた。

堪えたのが仇となり勢いよく口内から飛び出した吐しゃ物が前方に居た女の人を汚してしまう。


連れの男性が必死に謝って、ハンカチで拭いている……よく見れば吐しゃ物は赤い色をしていた。


「恵里香……あれ、血じゃないか?」


「え? ほんとだ、赤い……あの人大丈夫かな?」

どうやら男は医務室に連れていかれるようだ。


「何か、食事って雰囲気じゃなくなったな」


「今日はもう寝ちゃおっか」


「そうだな」

お付き合いいただき有難うございます。

限定された空間なのでそこまで長いモノにはならないかも。

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