可哀想、なんて言ってはいけないよ
「シロ」
私を呼ぶ声に顔を上げれば、別室へ続く襖が開いており、そこからひょっこりと顔を出した双子の兄。
私の半身とも呼べる存在だが、ほんの少しの間を開けて、表情はそのままに首を傾ける。
なぁに、そんな言葉と共に開いていた本を閉じた。
栞を挟めるのを忘れていたが、ページ数はともかく、読んでいた内容は覚えているので問題はない。
こっち、手招きされるままに立ち上がる。
畳を足裏で叩きながら向かえば「シロッ!!」叫び声のように名前を呼ばれた。
勢い良く後方へ引き寄せられ、バランスの崩れた体は引き寄せられた方向へと倒れ込む。
「お前、何やってんだ!」
真後ろから体を抱え込まれ目を見開く。
羽織っていた白衣のポケットからは、バラバラと棒付きキャンディーが零れ落ちる。
頭上から響く声は、俺はこっち!とか、連れて行かれたいのか!とか、焦りと怒りがごちゃ混ぜになっていた。
首だけを上に向けて、その声の主を見やれば、片割れで半身の兄がいる。
色素の薄い茶髪から覗く白い耳朶には、ゆらゆらと揺れる黒い輪型のピアスが揺れていた。
女性顔負けとも言える、中性的な顔立ちは険しく、眉根を寄せたまま私を見下ろすので、瞬きを数回繰り返す。
双子だが二卵性の私達は似ていないし、性別だって違う。
綺麗な顔を歪めるのを見ながら「知ってる」と返せば、当然のように「はぁ?!」と驚きの声が上がった。
その際に、私を抱き込む腕には更に力が込められる。
兄と同じ形をしていたそれは、視線を戻した時には黒い霧になり霧散した。
何か別の思念の塊だったのだろうか、それとも別の存在が兄の形を作ったのか。
瞬きをして消え行く霧を見る。
「……でも、泣いてたから」
消える霧に手を伸ばしてみたけれど、何も掴めることがなく、それは消えてしまう。
兄の腕の力は強くなる一方で、短く切り揃えてある爪が、二の腕に食い込んで痛かった。