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2016年/短編まとめ

可哀想、なんて言ってはいけないよ

作者: 文崎 美生

「シロ」


私を呼ぶ声に顔を上げれば、別室へ続く襖が開いており、そこからひょっこりと顔を出した双子の兄。

私の半身とも呼べる存在だが、ほんの少しの間を開けて、表情はそのままに首を傾ける。


なぁに、そんな言葉と共に開いていた本を閉じた。

栞を挟めるのを忘れていたが、ページ数はともかく、読んでいた内容は覚えているので問題はない。

こっち、手招きされるままに立ち上がる。


畳を足裏で叩きながら向かえば「シロッ!!」叫び声のように名前を呼ばれた。

勢い良く後方へ引き寄せられ、バランスの崩れた体は引き寄せられた方向へと倒れ込む。


「お前、何やってんだ!」


真後ろから体を抱え込まれ目を見開く。

羽織っていた白衣のポケットからは、バラバラと棒付きキャンディーが零れ落ちる。

頭上から響く声は、俺はこっち!とか、連れて行かれたいのか!とか、焦りと怒りがごちゃ混ぜになっていた。


首だけを上に向けて、その声の主を見やれば、片割れで半身の兄がいる。

色素の薄い茶髪から覗く白い耳朶には、ゆらゆらと揺れる黒い輪型のピアスが揺れていた。

女性顔負けとも言える、中性的な顔立ちは険しく、眉根を寄せたまま私を見下ろすので、瞬きを数回繰り返す。


双子だが二卵性の私達は似ていないし、性別だって違う。

綺麗な顔を歪めるのを見ながら「知ってる」と返せば、当然のように「はぁ?!」と驚きの声が上がった。

その際に、私を抱き込む腕には更に力が込められる。


兄と同じ形をしていたそれは、視線を戻した時には黒い霧になり霧散した。

何か別の思念の塊だったのだろうか、それとも別の存在が兄の形を作ったのか。

瞬きをして消え行く霧を見る。


「……でも、泣いてたから」


消える霧に手を伸ばしてみたけれど、何も掴めることがなく、それは消えてしまう。

兄の腕の力は強くなる一方で、短く切り揃えてある爪が、二の腕に食い込んで痛かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何とも深いような気がする(?!) ただ、題名があってないような気がします。
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