ポイントカードはお持ちですか?
コンビニで買い物をした。
板ガムを1個、お茶のペットボトルを1本、パンを1個である。
それらをレジに持っていくと、店員がやってきて、勘定をし始めた。
「350円になります」
100円玉を4枚、財布から取り出す。
「お客様、Dポイントカードはお持ちですか」
大手販売店のポイントカードの所持を確認された。
ポイントカードは、持っていない。
そういうややこしいものは作らない主義なのである。
首を横に振る。
幾秒かの沈黙が流れたのち、店員は困ったように声を出した。
「ですから、Dポイントカードは、お持ちでしょうか」
なに。あの仕草が分からなかったというのか。
少し面食らったが、どうということはない。
「持っていないです」
「そうですか。でしたら、今からお作り致しましょうか」
そんなつもりはない。
「すいません、カードは使いませんので」
「ですけれども、Dポイントカードは多くの店で使えます。受けられる優待も様々でして…」
随分としつこいなあ。
「お気遣いなく。要りませんから」
少し強めに発言した。
店員は張り付けたような笑顔を崩さない。
「でしたら、お客様。当店のポイントカードは、お持ちですか?」
持っていない。
「持ってません」
「そうですか。でしたら、今からお作り致しましょうか。当店のポイントカードは多くの店で…」
要らない。
「要らないです」
「大丈夫です。無料ですから」
「要らない」
「そんなむきにならずに」
「むきにはなっていません。要りません」
店員は、そうですか、と一息。
「400円お預かりいたします」
やっと、受け取ってくれた。
「ここで普通ならば50円のお返しなのですが、当店のポイントカードがあれば、30円引きとなりまして、80円のお返しになりますが」
そんな説明されても、要らない。
「要りません。早く渡していただけますか」
「こちらのパンですが、温めますか」
まあ、食べるつもりだったから、温めてもらおうか。
「お願いします」
店員は業務用電子レンジにパンを入れ、スイッチを入れる。
「パンの温めついでに、当店のポイントカードはいかがですか」
「要りません」
「当店のポイントカードがあれば、レンジで熱する時間を2倍にできますが」
「やらなくていいです」
店員は、くじ引き用の箱を取り出す。
そういえば、今はアニメフェアだったか。
特定の商品を買うと、くじが引けるのだとか…
「お客様、くじを1回どうぞ」
こういうのは、なんだかんだで、けっこうドキドキするものだ。
くじ引き箱に手を突っ込む。
念入りに当たりくじをさがしていると、店員が口を挟んできた。
「お客様」
「なんでしょう」
「このくじ引き箱の中に1枚だけ」
「はい」
「当店のポイントカードが入っています」
その物言いにカチンと来たため、乱暴に引いた。
何かの応募券であった。
「残念でした。ポイントカードでなくて」
「どうせ、無料じゃないですか。ポイントカードだなんて」
電子レンジが仕事の終わりを報告する。
レジ袋に商品を入れていく。
「当店のポイントカードがあれば、温めたパン用のレジ袋をご用意できますが」
「要りません」
店員は容赦なく、冷たいペットボトルと暖かいパンを一緒の袋に入れていく。
レシートを受け取ると、そこには店員のサインが書かれている。
「次回の会計時にそれをお渡しください。ポイントをお付けいたしますので」
「要りません」
「そんなこと言わずに。今日は5倍デーですので」
「知りません」
半ば強引にレシートを取り去ると、一目散に店の外へと出ていった。
コンビニで買ったパンを食べ、茶を飲んだ。
板ガムを食べて口臭を消したのち、営業先へと歩いていく。
「株式会社無限ループの大和田です。よろしくお願いいたします」
営業先の担当者に名刺を渡す。
「ドブロク株式会社の瀬ノ元です。よろしくお願いいたします」
そう言いながら、担当者が渡したものは、ポイントカードであった。
「ああ、すいません」
顔を赤らめながら、すぐに引っ込める。
呆れ顔を隠そうともしない私に対して、はにかみながら、担当者は弁解した。
「いやいや、申し訳ないです。近くにあるコンビニのポイントカードが5倍デーでしたので、つい…」
同じ店員さんと何度も顔を合わせて、こちらとしては顔なじみだと思っているのに、変わらずポイントカードの要求をされると、ちょっともやっとしますよね。