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9.攻略対象対策会議 


 はっきりしたことがある。


 ゲーム補正はあったのだ。




 エド兄様に一時的な婚約者になってもらう、と言うテストケースを行ってみることにしたんだ。


 第一段階として、グレイシア様はハルト兄様に全部打ち明けて協力を仰ぐ。

これにはグレイシア様は悩んでいらっしゃったのだけど、ロディが信じてくれて協力してくれていることを説明し、グレイシア様自身もロディと長くお話をされて、その結果ハルト兄様にグレイシア様は全て打ち明けた。


 ハルト兄様は「グレイシアやリディアルナが言うんなら信じるよ」とキラキラした笑顔付きで協力を約束してくれた。


 ……なんだかとんでもないことをやらかしそうなので、グレイシア様に見張っておいていただこう。




 と言う、下準備を進めている間に、何とあの鈍感大王に春が来たのだ!!





 お相手はクラリス・ブランシュフルール男爵令嬢。14歳。

 なんと今年度の見習い騎士の大会、剣の部の優勝者だということだ。

 騎士見習いって筆記試験があって、そのうえで得意な武術の試合形式で合否の判定をするらしい。もちろん男女混合。

 見習い騎士試験って、下は10歳位から上は25歳くらいまでいるんだよ。その中での優勝ってすごいよね。

 で、その剣の腕を買われて正妃さまの守護騎士団に入団。


 前にも説明したかもだけど、この女性守護騎士団は基本正妃宮で暮らすんだ。

 そこでエド兄様が一目ぼれをしたらしい。



 やるなぁ、兄様。



 でもすごいのはここからだった。失礼ながら私はエド兄様のことは、私と同じくらいの恋愛偏差値だと思っていたんだ。


 それが。 

 

 一目ぼれをしたその日に本人に告白。

 まぁ、この世界の男爵令嬢が王家の申し出を断るわけはないんだけどね。

 とにかくOKを貰って、その後ブランシュフルール男爵邸まで赴き、御当主に婚約を申し出てきたということだ。


 何という行動力と決断力。恋愛偏差値底辺とか言っててごめんなさい。



 とにかく急なお話だったので、今日のところは内々のお話で、ということで発表は後日ということになった。


 うぅ、またパーティか。


 

 でも、あの国王が許可したのもちょっと意外かな?酒毒が脳まで回りましたかね?

 下手したらエド兄様も外国の王女と婚約させられるんじゃないかと思っていたのに。

 

 でも良かったよね、エド兄様。





 …………そして、多分これはゲーム補正なのだろう。


 グレイシア様の記憶でもエド兄様の婚約者はクラリス嬢らしい。けれど婚約は、やはり学園に入学後だったはずだというのだ。


 これは卑怯な真似をせずに、きちんと攻略しろということか。


 だったら主役の恋愛偏差値は考慮しろよと叫びたい。

 誰に文句を言ったらいいんだ。

 ああぁ理不尽……




 ◆





「……と、言うわけなんですよ……」

 しょんぼりとエド兄様の婚約の経過をグレイシア様に報告する。

 


 ハルト兄様に会いに、と言う名目でほぼ週一でグレイシア様は登城して相談にのってくれていた。


 今日はお天気が良いのでテラスでのお茶会である。


 一応、ロディが護衛という名の見張りをしてくれている。お茶を淹れてくれたのもロディだ。悲しい事に私が淹れるお茶よりもはるかにおいしい。


「……それは仕方ありませんね。でも補正が入ると分かっただけでも収穫です」

「……ですね。……だけど、これでバットエンドもあり得ることも判明してしまいました」


「……お姫、だから」

「あ、うん。分かってるよロディ。がんばるよ」

 そう笑って見せるけど、ロディはまだ何か言いたそうだ。


「……でもリディアルナ様。攻略対象には皆さま婚約者が設定されていたはずです。婚約者が決まったからと言って諦めていたらバッドエンド一直線ですよ?」


「……! そ、そうでした…… え、えーでも婚約者がいる男性に、…………む、無理です!!」

「リディアルナ様、しっかり!」





「お姫、まだ婚約者の決定していない攻略対象?もいるよ」


「ほんと!?」

 そうだ、ロディには情報収集をお願いしていたんだ。


「騎士団長の所のシーザー様は、この前言った通り本人に婚約に対するこだわりはない。

 で、団長殿にそれとなく聞いてみたんだけど、候補は何家か上がっているらしいけど本人があの状態のため決めあぐねている感じ。一度、お姫がシーザー様に会ってみてもいいかも」


「そっか…… 決まっていない人を早い者勝ちな感じで……」


「えーと、参考までにリディアルナ様。シーザー様は、コレッタ・イルルージュ伯爵令嬢と言う騎士団の若者の妹と婚約するはずです」


「あ、アルベルト様の妹姫です。確か今8歳くらいじゃなかったかな……?」

 8歳…… 犯罪者ですねシーザー様!



「リディアルナ様。8歳の婚約は貴族社会では普通のことですからね」

 と、私の考えを読んだかのように突っ込みを入れるグレイシア様。何だか私は考えが顔に出るんでしょうか?


「そ、そうですね。シーザー様と早いうちにお会いしようと思います。ロディ、いつも無理を言って申し訳ないんですが、二人で会える場を作ってもらえますか?」

「それは簡単だと思う。後で日程の調整をしよう」



 ロディはにこっと笑って、「じゃ次」と報告書のようなものを取り出した。




「で、次に魔樹師団長のご子息ディーン様。お姫の作った『ステルス』を使って潜入してみたんだ。王都郊外にある伯爵家に籠っているのは確認した。ただ何をしているのか、今一つ分からなかったんだ」


「それは高度な魔術の研究をされていたということ?」


「………いや…… 確かに研究対象はお姫の作った守護魔法陣みたいだった。はっきりは分からない。だけどそれを分解して…… 眺めているんだ」


「…………眺めるのはその部分の研究をしていたのでは?」


 分からない部分の魔法陣は、崩していくしか理解する方法はない。それを説明すると、ロディは眉間にしわを寄せて話を再開した。



「……頬ずりしたり、舐めまわしてた」



「いや――――!!」

「……マニア…… いえ、オタクですわね、たちの悪い方の」

 グレイシア様、冷静ですね……


 

「さらに卓上には、どうやって手に入れたのかお姫の絵姿があった」

「それどしたの?! まさかそのままにして帰ってこなかったでしょうねロディ」

「今頃はリディアルナたんはぁはぁ、とかやってるかもしれませんわね……」


「いや―――――――――――――――――!!!!」

 絵姿の回収は不可能だったそうだ。いくらステルスを使用中でも対象に接近しすぎるとさすがにばれる。

 どうしよう!キモオタだ!!


 私でテーブルに頭を抱え込んでいる時に、ご丁寧にグレイシア様はロディに『おたく』の概念を説明していた。


「お姫、会いに行く時は必ず俺を連れて行ってね。絶対だよ!」

「うん、私も一人で行きたくない……と言うか、行きたくない……」

「考えようによってはリディアルナ様、すでに好感値が高いのかもしれませんよ、諦めないでください!」



 とりあえず、訪問はロディと一緒に近いうちにということになった。もう時間との勝負だ」


「えっと、余談かもしれませんがディーン様の婚約者はセシル・ジャスミン伯爵令嬢。ディーン様と同じ12歳。婚約は入学してからだったと思います。

 悪役令嬢筆頭の私の取り巻きをやるはずです。……これだけ世界が崩れているのでこの情報もどの程度あてになるかはわかりませんが」 

 そうグレイシア様は笑う。


 

 そうですよね~、これだけ主人公の補佐をする悪役令嬢はいないでしょうね。

 感謝してます、グレイシア様!




「そして最後に宰相閣下ご子息のレオン様」

 ロディの報告は続く。



「宰相閣下の御自宅は城下と言っても、王城に近い位置にある豪邸だった。さすが正妃さまの御実家だよね。

 で、申し訳ないんだけどあんまり広くってレオン様御自身を見つけることが出来なかったんだ……ごめん」


「しょうがないよ、ロディ一人に頼んじゃって私の方がごめんなさいです」

「でも、宰相閣下邸の庭は誰の趣味なのか薬草が沢山植えられてた。多分お姫が見たらしばらく泊まり込みたいって言いだすくらいのレベルの」


「へ?」

 薬草?が、そんなにたくさん……


「不思議ですわね。薬草の栽培はまだ確立されていないはず…… そんなにたくさん、人工的に植えることなど出来ないはずですが……」


 と、グレイシア様。その通り、薬草の人工栽培に成功したって話は聞いたことがない。

 もしそれが本当なら大発見だ。


 ……でもそれを何で宰相閣下が隠してるのかが分からない……???



「そして一応予備知識です。レオン様の婚約者はソニア・ラングハイム伯爵令嬢。12歳。この方も婚約は入学してからだと思います」


「グレイシア様、レオン様について何かご存知ですか?」

「……内気な人見知りなタイプの方だという位しか……」


「いえ、ありがとうございます。……それで、グレイシア様。このままだとレオン様は学園に入学されないのではないかと思っているのですがどうなのでしょう?」

「確かに入学年齢は過ぎておいでですが、リディアルナ様と過ごすために入学されたのではなかったでしょうか?」


「……それは、私が入学前に会わないといけないということですね……」

 プレッシャーがすごい。


「お姫なら、薬草の話からでも入学は進められるんじゃない?」


「うん、そうだね。……本人に会えれば」

 ここが一番問題だ。

 何しろエンカウント率がものすごく低いお人なのだ。多分私が城に居ては会えないだろう。


「正妃さまに相談するしかないかなぁ……」


「私に何か相談ですか?リディア」




 何故にここで正妃さま登場?!

 ………………三人で石になった瞬間だった。




 ◆





「お久しぶりでございます、正妃さま。お会いできて光栄です」

 と、石化がとけたグレイシア様が立ち上がり礼をとる。


 ロディはすかさず席を立って正妃さまにお茶を入れる。



「ああ、そんなに堅苦しいのは止めてね。私は正妃宮で暮らしているみんなは家族だと思っていますからね」


「光栄です。ありがとうございます」

 グレイシア様が少し涙ぐんでいる。うんうん、正妃さまは心の底から優しいんだ。


「それで今日は何の集まりですか?とても楽しそうに見えたのでちょっと出てきてしましました。リディアはグレイシア嬢と仲良くやっていけそうですね」


 そう言ってニコニコ笑う。心配してくれてたみたいだ。


「はい、本当のお姉さまのようにお慕いしております」

「それは良かったこと。ハルトは本当に良いお嬢さんを選びましたね」

 ちょっと赤くなるグレイシア様。可愛い。




「あ、実は正妃さま、御実家のクリステル公爵家について、話題に上がっていたので正妃さまのお名前がでたのです」

 と、グレイシア様。さすが、攻めどころは逃がしませんね。それとも照れ隠しですか?


 ……クリステル公爵家、という単語が出た時ほんの少し正妃さまの表情が硬くなったのだ。

 何かあるのは確実だ。


「何故クリステル家の話題が?」

「はい、来年度から私やエドガー殿下は学園に入学する、という話をしていたのですが、ラインハルト様は入学されなかったんですよね」


「ええ、さすがに警備の問題が大きくて…… でもリディアがこの守護石を作ってくれてから、随分気が楽になりましたよ」

「そう言っていただけると光栄です。今、自動回復魔法も入れようと研究中なんですよ」


「リディアは本当に研究熱心ですね」

 と、頭をなでられた。うわーうわーー!……なんか照れる……



「確かクリステル家の御令息もラインハルト様と同年代ではなかったかと思っていたのですが、入学のお話を聞かないですね、という話になっていたんです」


 照れていると、テーブルの下でグレイシア様の蹴りが飛んできた。

 ………グレイシア様………



「そうですか…… レオンはラインハルトより一つ年下ですが、入学はしないでしょう」

「……でも正妃さま…… レオン様はクリステル家の御嫡男。社交界でもお見かけいたしませんし。宰相職を継ぐとなればそれなりに人脈も必要に……」



 正妃さまは少し沈んだ表情をなされた。



「レオンはおそらく宰相職を継ぐ気はないのでしょう。今のうちにふさわしい者を探し、教育しなければなりませんね」

「え?それは一体……?」


「リディア、あなたが魔術塔に籠っているように、レオンにもやりたいことがあるようです。私も直接レオンと話をしましたが、理由は納得のいくものでした。なので学園のことも社交のこともやりたいようにやらせています」

「……そうでしたか……」




 多分それは薬草の研究なんだろう。正妃さまはお優しい方だ。万人のためになる薬草の研究をするのだと言えば宰相職などにこだわりはしないのだろう。


 ……しかし…… それでは会う機会が全くなくなってしまう。



「グレイシア嬢、学園で文官にふさわしい才能のあるものがいればどんどんスカウトしてくださいね。運が良ければ宰相にまでなれそうな子もいるかもしれません」

「は、はい正妃さま」



「あ、正妃様。学園についてなのですが、私も来年度に入学してもいいでしょうか? そうすればエド兄様やグレイシア様の護衛もできますし……」

「一年早く入学するのですか?」


「はい。……研究の時間は減ってしまいますが、魔術塔に籠っていては出てこないアイデアなどもあるかもしれませんし」

「なるほど…… ハルトと相談してみましょう。……ハルトは反対はしないでしょうけどね」


 そう言って笑う。そりゃー大事な大事な婚約者に国内最大火力の護衛がつくんだ。断るはずがない。




「それに…… 魔術塔に籠っていてはアイデアはでない…… そう言うこともありますか」

「いえ、出ない訳ではないのですが、やっぱり偏ってしまいますね」


「……そうですか…… ……リディア、その、もしよかったら一度レオンに会ってもらうことは出来ますか?」

「え…… レオン様に……?」



 これは、俗に言う渡りに船と言うやつでは……



「ええ。レオンの研究も行き詰っているようなのです。同じ研究者同士、ヒントになるものがあるかもしれません」

「はい、私はいつでもかまいませんが……」


「ではレオンの方に話してみましょう。ちょっと人見知りですが良い子なのでよろしくお願いしますね」

「はい…… あ、その時にロディやグレイシア様も同席させてもらって構いませんか?」


「聞いておきます。大丈夫だと思いますよ」

「ありがとうございます、私の方こそよろしくお願いいたします。……そころでレオン様は何の研究を?」



「……ここだけの話にして下さいね。薬草の研究をしています」

「薬草…… 難しい魔法薬などはまだ私では作ることは出来ないと思いますが……」


「いえ、高度な薬草の研究をしているのではありません。普通のポーションの材料になる、普通の薬草です」

「はい……?」


「治癒魔道師の数の少ないことはリディアの方がよく知っているでしょう? なのにポーションの値段も決して安くはない。レオンはこの状況を何とかしたいのだそうです」



 ………それって………



「正妃さま!是非レオン様にあわせて下さい!私も治癒魔道師に頼らない治療方法を探しているのです! 

 今、治癒魔法を魔法陣化して魔力のある人ならだれでも高度治癒魔法を使えるように出来ないか研究しているのですがなかなか難しくて……」

「まぁうれしい。レオンもきっと喜ぶわ。……でもリディア、『母上』を忘れていますよ」

「…………ははうえ……」



 そう言って『母上』は席をお立ちになった。

 いろいろとお忙しいのだろう。







「……棚からぼた餅ですわね」

「渡りに船と思いました」

「とにかくいろいろ良かったですね」

 とロディがお茶のお代わりを入れてくれる。


「そうだよね、学園の件もレオン様の件も何とかなりそう。……あ、ロディ、ロディも来年からの入学でいいよね」

「え、俺も?学園?!」

「えー 何?私一人で行かせる気だったの?」

「や、あの学園護衛や侍女侍従は同行許可ですよ!俺はお姫の護衛です!」

「護衛はよろしくね。でも生徒入学は譲らないから」


 にっこり。


「お姫!お姫の言うことは何でも聞くけど、これはちょっと無茶が過ぎるんじゃ……」

「ハルト兄様は良いって言った」


 にっこり。


「…………分かりました……」


 ロディは、肺の空気をすべて出し切るようなため息をついた後言った。

 ふっふっふ~ ロディに勝つのは珍しいのでちょっと上機嫌。


「ロディは学園で習うような事は大体できるでしょ?大丈夫よ。あ。入学の準備はハルト兄様が全部してくれるそうだから」


 にっこり。


 学園で習うのはこの国の歴史や文化、各貴族家の領地や特産品などの地理。算術の他に魔術・剣術・武術・領地経営・外国語など選択式に幅広く学ぶことが出来る。行っておいて損はない。


「お姫…… 俺にマナーやダンスの知識があると思っているんですか……?」

「あ、そんな教科もあったっけ? じゃ特訓だね。来年の4月だもん、まだまだ余裕余裕」


 にっこり


 ちなみに今はまだ夏真っ盛りである。

 ロディは「はーーーーーーーーーー」と思いため息を吐いた。







「仲がいいのですね?」

 と、グレイシア様が優しいお顔で言われる。


「生まれた時から一緒ですからね~」

「……俺は可憐なお姫様に仕えているはずだったんだけどなぁ……」

「何か言ったかしら?」



 そんないつもの漫才をグレイシア様は優しそうな、でもどこか悲しそうなお顔で見ていらっしゃった。

 その表情が、なぜかとても気になった。

















 レアキャラゲット~~!

 何だかスムーズに進んでませんか?

 


7/23加筆修正

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