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8.攻略対象調査結果




 数日後。


 魔術塔にいた私にグレイシア様から会いたいという連絡が来た。もちろん私が断るわけがない。創りかけていた高度治癒魔術の魔法陣を簡単にかたずけて魔法塔を出る。


 この高度治癒魔術、現在使えるのは私だけだったりする。


 なので魔法陣化して魔術師ならだれでも使えるようにするのが現在の私の目標だ。完成すれば手足の欠損くらいのレベルまで治すことは可能になるはず。

 でもやっぱり対象は怪我・外傷なんだよね。病気の治療はなかなか難しい。


 あ、普通の治癒魔術に関しては数年前に魔法陣化に成功して、既に一般に流通しているはずだ。この辺はハルト兄様が全部やってくれた。私は作るだけでいいので楽でいい。

 でもこの治癒魔法陣では、せいぜい骨折レベルしか治せないんだけどね。



 私の治癒魔法は日本の知識の上に成り立っている。人体の構造を細部まで把握していて、その通りに修復するだけなので私にとっては簡単な魔法なのだ。

 しかしこの世界の医療レベルは決して高くはない、それでも周辺諸国に比べれば治癒魔術師がいるだけまし、と言うところだろうか。


 しかし魔術師の数は少ない。なのでゆくゆくは治癒魔術に頼らない「医学」を広めたいなぁ、とは思っているが道は遠そうだ。




 そして。


 ゲームの方は、もちろん?進展はない。

 ……いや、努力はしているんだけどね?してるんだよちゃんと!

 





 とりあえず師匠にご子息の事を聞いてみた。


 師匠はやや渋いお顔をされて、先日のパーティで私に失礼があったことを謝られてしまった。


 ……さすがにダンスに誘って自己紹介なしはマナー違反だよね。


 全然気にしてませんよ~と言う顔で、いろいろ聞いたところによると、ご子息ディーン様は王都の屋敷でひたすら魔術の研究をされているようだ。


 だったら魔術塔に入られたら、共同研究なりと出来るのに。

 と、素朴な疑問を口にすると、師匠はさらに渋い顔をされた。

 ご子息は極度の人見知りらしい。


 ……納得である。

 あの日のダンスも全く視線が合わなかった。


 ……でも、あのパーティに出てきたってことは、社交界に関わる気があるということでは?

 しかもご子息の魔術の研究も気になる。一度会ってみたいところではある。


 そのことを師匠に告げると、さらに、さらに渋いお顔をされた。

 どうにも師匠はご子息を王城に上げたくないらしい。

 ……よくわからない。

 

「……ディーンは…… うーむ、父から言うのは憚られるが……その、引きこもって研究に没頭しているのは確かなのだが……」


 そう言って、その後の言葉が続かない。


「あまり成果が上がっていない……とか?」

 そんな感じで王城に上がるのを躊躇っていらっしゃるのでしょうか?


 魔術塔でも、何年も成果の上がらない研究をされている方も沢山いらっしゃいますのに。

 そもそも研究とは失敗の積み重ね。時間はかかるものです。

 

「いや…… この先は息子自身に言わせよう。近いうちに登城させる」

「はい、分かりました。楽しみにしております」




 以上が魔術師団長を務める師匠との会話の全てである。

 しかしその会話はパーティの翌日。

 そして今日は、あの日から1週間は過ぎている。師匠からの連絡はない。


 あまり希望的観測をするのはやめた方がよさそうだ。






 兄様二人は初めから除外。

 となると、当たり前だが残りは三名なのだ。


 騎士団長ご子息はロディが簡単に調べてくれた。騎士団長の兄弟子だそうだ。


 魔術師団長ご子息が望みが薄いとなると、他の二人に期待するしかないのだが。



 騎士団団長ご子息は、はっきり言って脳筋だった。

 頭蓋骨の中まで筋肉が詰まっているタイプのお方だった。

 や、そう言ったのはロディだよ?



 以下、その時のロディと騎士団長ご子息シーザー様の会話。



「シーザー様は先日の王太子殿下のパーティにはおいでになったんですか?」

「ああ、一応招待があったからな。王家の招待を断るわけにはいかないだろう」

 と、不機嫌を隠そうともしないで言ったらしい。


「俺も護衛で参加はしたんですが、綺麗なご令嬢が沢山いらっしゃったじゃないですか?シーザー様のお好みのご令嬢はいらっしゃらなかったんですか?」

「綺麗な令嬢?俺が生まれてから唯一綺麗だと思ったのは、城下のダイランが打ったというオリハルコンの剣だけだな」

「剣……? が、美しかった……んですか?」

「ああ、あれほど心惹かれたことはない。俺も出世したらあのレベルの剣を使ってみたいものだ」


 ちなみにダイランとは城下町で一番の鍛冶屋だ。

 ついでにオリハルコンは大変貴重な魔法金属で、魔術塔にだって常時あるわけではない。それで剣なんか作ろうと思ったらどれだけお金がかかるか想像もつかない。


「えと、シーザー様も11歳でしたよね。年令上、そろそろ縁談とか来てらっしゃるかと思ったのですが…」

「ああ、来ているみたいだな。興味がないから親父に一任している」

「……一任……」

「ああ。令嬢の相手なんて面倒だろ?」

「……面倒……」

「それよりロディ、この前の敵が三人の場合のコンビネーションもう一回やらないか」



 …………。


 ロディはここで、こいつは駄目だと思ったらしい。

 うん、ロディは頑張ってくれたよ!

 私じゃきっと話もしてくれなかっただろうね。




 そして三人目。

 宰相閣下ご子息のレオン様、16歳。

 この方はハルト兄様よりも年上なのに、社交界でもお見かけせず、婚約したなどのお話も聞かない。

 宰相閣下は正妃さまの兄君だ。ものすごい優良物件のはずだけど、ご令嬢たちの噂も聞かない謎の人だったりする。

 

 というわけで、情報収集は正妃さまが良いんだろうけど、なかなかその機会がない。

 グレイシア様は本編は学園に入学してからとおっしゃっていたけど、このままだとレオン様は学園に行かないのではないだろうか。

 

 ちなみにハルト兄様も学園には入学されなかった。護衛の問題で。

 学園で学ぶことが無かったというのも大きいけどね。


 エド兄様は来年度のご入学だ。グレイシア様もその予定だと聞いた。

 ……私もスキップで来年入っちゃおうかなぁ。兄様やグレイシア様の護衛もできるし、私だけ再来年入ってもつまんないし。

 

 学園には学力に応じた飛び級(スキップ)制度があるし、寄付金に応じた制度もある。

 ぶっちゃけ、卒業証書はお金で買えるわけだ。

 なのであんまり行く意味は無いかもしれないけど、この学園に通う最大のメリットは人脈作りだ。同年代の貴族がそろって、身分の差を気にせず話せる。

 これは結構メリットがある。大貴族にすり寄ろうとする小物もいるが、普通に生活していたのでは気がつかない『出来る人』を探すこともできるのだ。


 


 そんな事を考えながら歩いていたら、グレイシア様が待つ応接室を通り過ぎかけていた。

 やばいやばい、お待たせしてしまった。


「グレイシア様!お久しぶり… というわけでもないですね、いらっしゃいませ」


「ごきげんよう、リディアルナ様。……ドアは早く閉めた方が良いかもしれませんね」

 うわぁ、しっかり日本式のご挨拶になってしまった。気を引き締めねば。



「改めて。ごきげんようグレイシア様。ようこそいらっしゃいました」

 と淑女の礼をとる。……例によって魔術師のローブなのだが。

 前世は家ではジャージ生活者だった干物な私は、今はローブ一択だ。


「突然の訪問、お許しくださり光栄です」

 と、グレイシア様も一礼。



 そして一緒に笑って、一息ついたところで侍女にお茶を頼んだ。




「今日はどうされたのですかグレイシア様。何かありましたか?」

 やはり一番心配なのはグレイシア様の身の安全だ。

 ダリア様が何をするか分からない。



「私の方は特に何も。戴いたこの守護石はとても強力だと聞いています。大丈夫ですよ」


 確かにあの守護石は自信作だ。質の良い魔法石に例のイージスと名付けた自慢の守護魔法陣を入れ、物理攻撃無効化・魔法攻撃無効化・毒物探知・敵探査の効果がある。

 後は高度治癒魔法の魔法陣化が出来ればそれも入れ込み自動回復機能も付けるつもりだ。

 ふっふっふ、野望は広がる。



「良かったです。ハルト兄様も心配されていたので」

「光栄です。……でもまぁ、それはちょっと置いておいて例の問題です」

 いや、グレイシア様置いておいたら悪いんじゃ……



「……あー…例の………」

「そうです。一週間経ちました。進展は何かありましたか?」

「……えーっと。……」




 背中に汗をかきながら、素直にここ一週間の成果を報告する。




「……ディーン様は登城されるご予定なのですね」

「はい。そう聞いているのですが、その後何のお話もありません」


「……シーザー様は女性に興味がないと」

「ロディの報告では、面倒だと断言したそうです」


「で、レオン様は全く情報がない」

「……すみません……」 



 協力していただいている立場なのに、役立たずはつらい。



「あ、グレイシア様。確認したかったのですが、この際ノーマルエンドで良いのでラストと言うか、ゴールってどうなるんですか? 婚約とか……?両想いとか?」


「ハッピーエンドが婚約パーティだったと思います。ノーマルだと……恋人エンドでしょうか?所詮学園が舞台ですからね」


「ゲーム修正とか、入ると思いますか? ……例えばエド兄様をなんとか誤魔化して一時的に婚約関係なってもらうとか」


「……どうでしょう…… いくらここが薔薇恋の世界とはいえ、現実に私たちはここで生きていますからね」


「その考え方で行くと、私が誰かを無理に攻略しなくてもバットエンドなんて無いんじゃないですか?」


「確かにその可能性もありますが。……試してみるわけにはいかないでしょう」

 ……確かに。


「でもエド様を巻きこむというのも良いかもしれません。修正が入るかどうかのテストにもなりますし」


「……もし修正が入ったら……」

「意地でも誰かを攻略しないとバットエンドがあり得るということですわね」



 もうマジ勘弁して~~













 乙女ゲームの攻略対象って、誰にしようか迷うようなイケメンばっかりって思ってたんだけど。

 ねぇグレイシア様、誰がマシか考えてる段階で乙女ゲームとは離れている気がするんだけど!

 もういっそ、魔王でも湧いて出ないかしら……(涙)



7/23加筆修正

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