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7.国王陛下は最低でした






 結果だけ言おう。

 


 ……惨敗だった。

 



 そもそも、私に団長子息とか宰相子息とか、そんな優良物件(ターゲット)に手が出せるわけがなかったのだ。

 ハルト兄様の婚約に令嬢方が触発されたのか、私はターゲットに近づくことさえできなかった。


 ターゲットの周囲には人垣ができていたのだ。着飾ったご令嬢方で本人が見えないほどに。



 私が干物女だったことは、大きなマイナスポイントだ。こんな時に使えるスキルなんて持っていない。

 しかも私の恋愛偏差値は地を這うくらいの低値だ。

 いきなり敵のレベルが高すぎる!!

  


 それに。

 ……私は自分で思っている以上に、自分の出生にコンプレックスを持っていることを思い知った。

 

 ご令嬢を押しのけてターゲットに話しかけるなど、自分の出生を思うと出来なかったのだ。

 ……いや、出生のことを勇気の出せない理由にしてしまったのだ。



 こんなに自分がへたれだとは……。応援してくださったグレイシア様に申し訳ない……。





 とぼとぼと、王族席に戻るとエド兄様が「どうした?これ美味いぞ」とガッツリした肉をさし出して下さった。

 それを丁重にお断りして、テーブルにある空いた皿の枚数にちょっと驚く。


 兄様、ずっと食べてたんですね? ダンス、ほとんど断りましたね?ご令嬢方の視線がスゴイですよ。


 それに兄様、はしくれとは言え淑女がパーティでお肉にかぶりつくなんて出来るわけがないでしょう……


 そう言えば、エド兄様も「攻略対象」とやらに入っていましたね?

 この鈍感大王を攻略できる令嬢がいるのでしょうか? 少なくとも私には無理ですね、確実に。

 あ――あ。







 憂鬱な気分で飲み物に手を出した時、突然目の前に国王陛下がいらっしゃった。


 珍しい。


 私なんて視界にないのかと思っていたのですが。

 あわてて立ち上がり、礼をとろうとするといきなりお声がかかった。


「リーゼの娘か……。美しくなったものだな」

 と、突然に顎を上げさせられる。


「……!」

 後ろに体を引くが、病人の割に力が強い。


「魔術の方もなかなかの腕だとか…… お前を王宮に残した甲斐があったものだな。お前ならどこの国でも高く買うだろう」



 ………――――!!



 そういう目的だって、知っていた! 知っていたけれども!!


 私が他国に嫁ぐのはハルト兄様のためであって、あんたのためじゃない!!




「父上!! 今日は御酒が過ぎておられるようですね。侍従!陛下をお休みできる所へお連れしろ」


 ハルト兄様が陛下の手を私から離して、すぐに侍従たちに指示を出してくれた。


 ……兄様…… どこかのご令嬢とダンスをしていらっしゃったと思うのですが、後ろに目でも付いているのですか?




「ロディ!リディアを頼む」


 と、私を席から立たせロディに渡す。

 この時、はじめて私は自分が震えていることに気がついた。


「お姫、休憩室でいい?それとも正妃宮へ帰る?」

「あ…… えと」

「お姫、顔色が悪い。ごめんね、部屋に帰ろう」


 そう言ってひょいっと私を抱え上げた。ここここれは、俗に言うお姫様だっこでは……

 悪いと言われた顔色が赤くなっているのではないかと心配になる。


「ロディ、だ、大丈夫だから」

「だ・か・ら、お姫の大丈夫は信用してないの!」

 ひどい……


 でも、あのまま国王陛下のいる空間にいることは耐えられなかった。

 さすがハルト兄様。

 いつもありがとうねロディ……





 正妃宮の自室までロディと帰る。震えは広間を出たら次第に収まっていった。


 もちろん、廊下の途中でお姫様だっこは下してもらいましたよ!あんな羞恥プレイはメンタル削られます。

 それでなくとも今日の私のHP(体力)はギリギリなのに。



「ありがと、ロディ」

「礼を言われることはしてないよ」

 と、優しく笑う。


 しかしあの国王。もう二度と回復魔法なんて掛けてやるものか。気持ち悪い!!



 余談ではあるが、回復魔法はあくまでも外傷の治癒を目的としたもので、病気や体力そのものの低下には効果がない…とされてきた。

 

 多分それは病気そのものの病態が解明されていないせいだと思う。なので病態の分かる私には病気に対する「治癒魔法」が使えるのだ。それでも限界はあるけどね。

 

 薬草から作るポーションには体力を回復したりできるものもあるし、伝説級の回復薬、エリクサーなんかは病気自体を治癒したりするものもあるらしい。現物は見たこともないけど。




「ふう……」

 自室に戻りロディの淹れてくれたお茶を一口飲んで、やっと落ち着いた。


「あんまり気にするなよ」

「うん、そうする。……それよりロディ…… この後仕事入ってる?」


「俺の仕事はお姫の護衛だけ。お姫が戻らないならここにいるよ」

 そう言って私のお日様はにっこり笑ってくれる。

 

「そっか。……さっきのこと、グレイシア様のお話を説明しないとって思ってたんだ」

「……確かに気にはなるけど…… お姫が言いにくいことなら無理には聞かないよ?」

「ううん、……ロディには、知っていてほしいんだ」

 ……きっとフォローしてほしいことも出てくるだろうし、味方がいるのは心強い。

 それに、誤解はされたくない、と思う。






「私はね、リディアルナとして生まれる前。前世の記憶があるの」 







 この国にも宗教はある。この世界を作ったと言われる一神教だ。「神様」と呼ばれるのはこの存在だけなので名前はない。

 そして、この宗教にも輪廻転生に似た考え方はあるので「前世」と言う概念は分かるはずだ。


 しかし。ゲームなんてどうやって説明したらいいんだ……

 しかも乙女ゲーム……

 つくづく日本人の想像力の凄まじさを痛感する。


 

「お姫はその前世でグレイシア様と一緒だったの?」

「一緒だったわけではないんだけど、一緒の世界にいたみたい。多分、世界ってすごくたくさんあるんだと思う」


「……グレイシア様はこの世界の未来まで知ってるみたいだったね?」

「うん、……この世界をモデルにした?……そんな感じの物語みたいなものかな?そんなのがあったの」


「お姫が主役だって言ってた」

「らしいね。私は知らなかったんだ、この物語」

「……殿下方やご子息方の攻略とか、奴隷落ちとか……」

 

 ああぁ、説明したくないっ!でも説明しなきゃ話しは進まない!


「……グレイシア様が言ってた方々の誰かをね、私が…… ……その、好きになって、婚約者に、して、もらわないと……、最悪奴隷落ちもあり得る……らしい…?」

 ええ、ハーレムエンドなんて目指しません。



 

「そんなバカな!!」

「うん、そう、思うよね……」


 ロディはテーブルの上の自分の手を強く握り込み、正面から私の目を視る。


「なんでそんな……」

 うん、私もそう思うよ。


 こう言う場合って、転生先は悪役令嬢なんじゃないのかなぁ…… 私だったらその方がマシだったかも……

 

 

「とにかく、お姫を奴隷落ちになんてさせない。その物語なんか関係なくラインハルト殿下とかが絶対何とかしてくれる」


「うん、……何とか、しなきゃね」

 ゲームから派手に外れたら、修正とか入るんだろうか。それも謎だ。


「エドガー殿下とかにお願いして一時的に婚約者にしてもらったりできないの?」

「……あの国王陛下がいるうちは無理かな?」


「じゃぁ騎士団長ご子息のシーザー様は?俺、一緒に剣習ってるから面識あるし。騎士団長様にも可愛がってもらってるからお姫の縁談くらい何とかなるかも」



 ……う。

 ロディからの縁談の斡旋は思ったよりキツイ。精神的に。


 

「魔術師団長も私直接面識あるし、……なんとか、してみるよ。きっと大丈夫」

 と、笑ってみせる。

 うん、根拠はないけどね。全然。


「……『大丈夫』?」

 ロディの目がとたんに鋭くなった。マズイ。この場合私の日ごろの行いが一番まずいんだろうけど。



「……ちゃんと、相談する。ロディには困ったことがあったら助けてってちゃんと言う」

「……絶対?」

「絶対!」


 そう言うと、少しだけ雰囲気が緩んだ。


 

「グレイシア様が言ってたご子息方の詳しい事、調べてくるよ。出来るだけ協力する」

「……うん、ありがと」





 ……………胸が、痛い……?

 ……何だかむしろ、奴隷落ちでも良いような気になってしまったのは、私が自棄になっているんでしょうか?













 うーー、何とかなりそうな気はするんだけど、これって何だか違う気がしない?

 乙女ゲームって攻略対象を好きになるのよね?!

 なんか、何だか違いませんかグレイシア様!!


7/23加筆修正

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