ぷち魔王編 6 〈終〉
夜明けと同時に私達は出発した。
初日のメンバーだ。プラスばーちゃん。
目的地は例の谷底。
----本当にドラゴンの成体がいたらどうしよう。
ばーちゃんが、同族が良いって言ったらどうしよう。
そう思うけど、あんなに悲しい声で鳴いてるのにほっておけない。
しかし、仮にドラゴンの成体だとして、魔物の大量発生と何の関係があるんだ?
うーん、いろいろと分からないな。
ディーン様には索敵魔術と一緒に、ユニコーンの探査魔術を同時展開してもらうと言う鬼の様な事をしてもらっている。
でもディーン様の探査魔術は誰も敵わない。
-----その最初の目的がストーカーであろうと、オタクであろうと、ここまで一流になれば誰も何も言えない。
確かにオタクと言うのは「一つの事に熱中できる才能」だと聞いたこともある。
大抵の人はいろんなことをやって、結局中途半端だったりするもんね。
森の中を行軍すると、すぐに方向を見失っちゃうので、私の浮遊魔術で全員を運んでいる。
これなら、谷の入口までなら割とすぐ---
「殿下、右へ!」
「はいっ」
ディーン様の索敵魔法で大物を避けて飛んでいるので、あんまりすぐは着けないかな?
「左です!!」
「げっ ワイバーン!」
「邪魔はさせません!」
オールラウンダーなクラリス様がエクスプロージョンの矢を射った。
閃光と爆発。
「うわっ、と。大丈夫?」
かなり揺れたが、さすがに優秀なメンバー。大丈夫だ。
ばーちゃんも私の肩にしがみついている。
うー、私が浮遊魔術を使っている時は遠距離攻撃が限られるな…
さすがに攻撃魔術の二重詠唱は懲りたし。
そう思っていたら何とか谷の入口についた。
浮遊魔術を解いて着地。
大小の岩が、ゴロゴロしてて歩きにくそう---
そう思ったけど騎士団組は何でもないようにひょいひょい前進する。
仕方ないのでセシル様と二人でもう一度浮遊魔術を使った。
でも低空だから、切ってもすぐ着地できる位だけどね。
この谷にも魔物は多かった。
岩トカゲの化け物みたいな大きさの奴とか、ハーピーみたいな頭だけ人間の鳥とか。それにストーンゴーレムが出た!
これって、魔物枠なの? 人造物じゃないの?
ええい、トカゲが多いっ!!
「全員下がって!!」
カマイタチのでっかいのを連発する。
「とりあえず、見えてる分はやったかな?」
「早く通りましょう。こいつらいくらでも出てくる」
急いで、急いで。
奥へ奥へ。
騎士団組も息がきれてきた。
私は魔力はまだ大丈夫だけど、ディーン様が息切れしてる。
私はポケットからミスリルの花のブレスレットをディーン様に渡した。
「これ、使ってください。魔力の塊みたいなものです」
「ああ、レオン様の--- ありがとうございます」
良かった、ディーン様知ってた。
息切れしている言ってもさすが騎士団。
ロディはトカゲを斬っては捨て、斬っては捨て。
エド兄様は大剣だ。一刀両断型。
クラリス様は片手剣を二本持っている。二刀流?
しかも背中に弓を背負って。
何でもできるんだな―
私も負けませんよ。
私の狙いは大物です。グリフィンも3匹首を落しました。
ミノタウルスまで出ました。
もちろんカマイタチの餌食ですけど。
しかしこのラインナップ。
RPGでは中ボスクラスばっかり。
今までゴブリンかオーガだったって?
どう考えても変でしょう。
「ロディ、その先、左だ。巨大な反応がある!!!」
ディーン様の警告にロディが反応する。
横に飛びながら剣を構えている。
私も何時でも援護できる体制だ。
「------お姫、リディア、---ここ、この洞窟---」
「洞窟?」
ロディの所まで行くと、確かに巨大な洞窟。
これって、ばーちゃんの居た、オリハルコンの洞窟に似てる----
「この中だ。反応が一番大きい。----入るかい?」
「ここまで来て入らないと言う選択は無いだろう」
と兄様。
私もそう思います。
「みゅ―――」
え?
「みゅ――――」
洞窟の中に向かってばーちゃんが鳴いてる。
やっぱり--- やっぱり同族?
「行こう」
ロディが先頭で中に入る。
暗い。
光魔法で奥まで照らす---- 深い。
最奥は見えない。
ひたすら歩く。
洞窟の中にいは魔物はいなかった。
時々光魔法を追加しながら30分も歩いただろうか。
初めは、岩かと思った。
でもそれは動いていた。
呼吸をするように、少しずつ確実に動いている。
大きさは---どのくらいあるだろう?
体育館くらいもあるだろうか。
こんな巨大なモノ、倒せるのか?
「みゅ――――」
ばーちゃんの声に反応するように、巨大なモノは身動きした。
そしてゆっくりと首をもたげる----
ドラゴン。
その成体。
これ程とは------
「みゅ―――― みゅ――」
『その人族はあなたの主なのね』
声がした。
-----優しい声。
『驚かないで、小さな紅竜の子の主よ』
頭の中に、声がする。
みんなきょろきょろしてるから、みんなにも聞こえているんだ。
「あなたが、話しているんですね」
思い切って話しかける。
話が通じない感じは無い。
ばーちゃんが敵意を見せていない。
『そうですよ、紅竜の主』
「みゅ――――」
『心配しなくても良いですよ。私は人を攻撃はしません。私にも遥か昔、主がいました』
「あなたは---- ここで、何を---?」
『---ここで、私の子を、卵を温めていたのです---』
「じゃぁ、ばーちゃんみたいなドラゴンの子が!」
もしかしてばーちゃんにお友達が!
『でも、この子が孵った時のためにと食べ物を狩りに行った間に、卵が、大切な卵が----』
そう言ってドラゴンは尻尾の中にある卵を見せてくれた。
「ひびが……」
『この卵を狙って様々な魔物がやってきます。ほとんどは私の敵ではないのですが、その、狩りに行ったわずかな間にこんなことに---』
「みゅ―――――」
『優しい子ですね、でも、----そんなことは無理でしょう」
? ばーちゃん??
『その紅竜の子は貴女が卵を治してくれると言っているのです。貴女は人の治癒魔術師なのですね』
「あ、はいそうです」
「みゅっ、みゅ―――」
『試してみてくれと--- 人の魔力では例え卵でも竜族を癒すことはできません。紅竜の子、ありがとう。気持ちだけでも嬉しいわ』
魔力の、問題?
「ねぇロディ。帰り道、私の意識が無くっても大丈夫?」
「俺にお姫を、リディアを無事に連れて帰らないっていう選択肢は無いよ」
「多分また、ぶっ倒れるかもだけど、って言うか絶対倒れるけど、後よろしく---ディーン様、さっきのミスリルの花を」
返してもらったミスリルの花のブレスレットをつけ、ローブの留め金にしている花も握る。
『紅竜の主よ、その心だけで十分です。人の力では無理なのです』
「ドラゴンさん--- 主がいたのなら名前があるのかな?私はちょっと普通の人ではないのです。試させて下さい」
『優しい人の子--- 私は水竜---この山脈の水の流れを司る者』
卵を見る。ひびは入っているけど、完全に割れてはいない。
でも中の生命反応は弱くなっている。
このままじゃ-----
「水竜様----多分治癒魔術を使ったら、卵は孵ると思いますが、時期的には大丈夫ですか?」
『----分かるのですか? そうです、もう孵る頃なのですが---』
「分かりました------行きます!!」
両手にこれ以上ない程魔力を溜めて、それを治癒魔術にして卵に使う。
正直卵の治療をすることになるとは思いもしなかった。
でも---- やると言ったらやるんだ。
自分の魔力を使い切りそうになるのが分かる。
すかさずミスリルの魔力に切り替える------- 光が、桁違いに大きな光が卵を包む。
あのメテオの時のように、ブレスレットの虹色がひとつずつ消えていく。
まだだ。
まだ行ける。
卵のひびが大きくなる-----孵る!
ロディがいる。
だから大丈夫。
私は安心して意識がなくなるまで治癒魔術を使った。
「---------あれ?」
私はまだ洞窟の中で、ロディの腕の中にいた。
「良かったお姫、水竜様が魔力を少し分けてくれたんだ」
「え?じゃ、あの後すぐ?」
「うん。5分も寝てないよ」
「そっか--- 良かった。って卵は?!」
「うん。無事に孵ったよ」
ロディの視線の先には、まだ小さな小さなドラゴンがいた。
「綺麗…… 鱗が透き通っているみたい」
『紅竜の主よ、心から感謝します。おかげで我が子が---』
小さなドラゴンはまだ鳴けないのか「みっ みっ!」と何とか声を出そうとしている。
そのそばにばーちゃんがついていて、小さな水竜を舐めてる。
可愛い。
可愛い。
『紅竜の主よ、名を教えてもらえましょうか』
「はい、私はリディアルナ・スノーラインと申します」
『ではリディアルナ---- 何か望みはありますか。礼をしたいと思います。我が子の命を、人の子が救ってくれるとは---』
「あ、じゃぁこの子が大きくなったらばーちゃん、この紅竜のお友達になってあげて下さい」
『-----リディアルナ、名のある武器もある。財宝も---』
「えーと、私は別に… あ、教えてもらっていいですか。ばーちゃんはもしかしたら水竜様のように話せるようになるのですか?」
『ええ、まだ幾年かは掛るでしょうが』
「では---- ばーちゃんに、このままここに居たいか、---私と帰ってくれるか、聞いて下さい」
「みゅっ?!み――――――!!!」
『リディアルナ、おかしなことを言うから紅竜の子が驚いています。主の側以上の居場所は無いでしょう』
「そう、なんですね…---良かったぁばーちゃん……」
「みゅ―――」
『財宝で無いなら、不老不死の薬もあります。何か望みは---』
「----薬!?」
『薬が望みか。不老不死の物で良いですか?』
「いえもっと普通の、えっと、出来れば万能薬の様な---」
『ではその卵の殻を持って行くと良い。我が子の入ったままの卵を食べた魔物が強大な力が手に入るため、魔物に狙われていましたが、殻だけなら魔物が狙うこともない。しかし人には優れた薬になるでしょう』
「これを--- 砕いて飲むんですか?」
『そうです。方法は何でもいい。それを飲めば癒えない病は無いでしょう』
「これ、これ貰っても良いですか!」
『ええ、持って行くと良い。-----もっと良い物もあるのですけどね。リディアルナ、では何か私で役に立つことがあれが何時でも訪ねて下さい』
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」
「あ、リディアルナ様目が覚めました?」
とセシル様とディーン様が、さっき外で切り刻んだトカゲを浮遊魔術で山ほど持ってきた。
何故に??
『それだけあれば十分でしょう。これ程人に助けられたのは主以来です---また、人の世界と関わるのも良いかもしれない---』
ああ、食料ですね。
それを取りに行って、卵を狙われたんですもんね。
ってことは、ファーレルの街の上空を飛んで行ったという巨大な影はこの竜ですか。
私は卵の殻をいそいそとアイテムポケットにしまう。
これでグレイシア様も大丈夫だ。
「外の魔物は… 卵が無くなったのは分かるんですかね?」
『ああ、きっともうそれぞれ元居た所へ帰るでしょう---- きっと里の人族を襲ったのでしょうね』
「あ、でも被害は無かったです。----人には」
森はだいぶ爆発しましたが---
『リディアルナ、私の魔力を分けたとはいえ、私の魔力は人には強すぎる。ゆっくりと身体を休めた方が良いでしょう』
「はい。ありがとうございます」
「じゃ、帰ろうか。リディア---」
「う、うん」
立ち上がる私を支えてくれる。
何時も優しいよねロディ。
『また来ると良い―――― 我が子も友が欲しいでしょう。もしかすると相性も良いかもしれないし』
「相性?」
『その紅竜は雌だ。我が子は雄だな』
ばーちゃんの彼氏候補!!
『しかしまだ何十年も先の事。リディアルナの寿命はそこまで持たないでしょう---- 不老不死の薬が必要なら何時でも来ると良い』
「や、不老不死はいいです。人の命は限られているのだと。人は何時か死ぬのだと。それが真実なのは知っています」
『--------…そうか』
「卵の殻、ありがとうございました! また来ます」
そして私達はドラゴンの巣を後にした。
騎士団の天幕に帰ると、急に魔物がいなくなったと騒ぎになっていた。
ロディとエド兄様がいろいろ説明していたけど、私はやっぱりちょっときつくて、早々に天幕の布団にもぐりこんだ。
ばーちゃんを抱き込んで眠る。
「ばーちゃん、彼氏さんになるかもだって」
私はそこまでは生きられない。
でもそれで良い。
それが人に生まれた運命だ。
それを捻じ曲げたいとまでは思わない。
でも、ごめんねばーちゃん。
残される方が辛いのだと知っている。
ごめんねばーちゃん。
きっとあの水竜様も、主である人を亡くしたのだろう。
だからあんなに不老不死の薬を勧めたんだ。
ごめんね。
でも私はばーちゃんが、一人ぼっちにならなくていいって分かっただけで十分だ。
来て良かった。
良かったねばーちゃん------
翌日、騎士団は天幕を片づけて撤収する。
てことは、また転移ですか。
疲れてるんですよー
どうしようかな。
まだエド兄様の件が片付いてないんだよな。
魔力が無理って言って、もう少しここにいるか?
そう思っていたら。
何と。
あのヘタレ大王が、私達の目の前で顔を真っ赤にしながら「婚儀は何時にするか?」と聞いていた!!
クラリス様はびっくりした顔をされて、その後少し下を向いて顔を赤らめて「父と相談します」と答えていた。
どうしたんだヘタレ大王!!
帰りに聞いてみたら、「確かに寿命があるうちにやれることはしないとな」と言うことだった。
やっぱり人には不老不死は必要ないんですよ水竜様。
「で、結局魔王はその水竜だったと言うことか」
報告に行ったらハルト兄様は若干呆れたようにそう言った。
「リディア。知らないようだから言っておくが、竜が見つかったのは本当に数百年も昔の事だ。おとぎ話だ。伝説だ。何でお前の周りにはそうぽんぽん出てくるんだ---」
何でここでお説教されなきゃいけないんだろうか。
私は今回そんなに無茶はしてないと思うんだけどな。
と言う訳で、これで買収しましょう。
アイテムボックスから卵の殻を出す。
「大体お前は---- それは何だ?」
「水竜様の卵のからです。粉にして飲むと万病に効くそうです」
「------では、グレイシアは------」
「はい。これで治ります」
「リディアルナ!!」
久しぶりにハルト兄様に思いっきり抱きしめられました。
一応卵の殻は、レオン様の所に持って行って、成分とか分かれば調べてもらって、グレイシア様にはレオン様から処方してもらった。
それを飲んで翌日には、嘘のようにグレイシア様は元気になった。
----ファンタジーだ。
エド兄様はその後、ブランシュフルール男爵に長い間待たせたことをお詫びし、三か月後には婚儀を上げられるようにするということだった。
やればできるじゃないですか。
ばーちゃんは時々、南の方の空を見上げる事がある。
やっぱり同族は恋しいんだろうな。
………あそこの森、開拓したら兄様領地にくれるかな?
ゼイレの村だって随分貧しかった。
いろんな事整備出来たらいいなぁ。
そしたら頻繁にばーちゃん一人でだって遊びに行ける。
私の子供の代になったら領地を考えてくれるって言ってたの、あそこにしてもらおう。
ちょこちょこ行って開拓するんだ。
「お姫――リディア?」
「まだ慣れない?」
「そう簡単にはね」
「でも呼んで? 名前を---」
呼んで。
不死の命はいらないけど、ロディと一緒には生きたい。一緒に死にたい。
だから呼んで。
その声を聞いていたいから。




