ぷち魔王編 4
王都に帰ってハルト兄様に報告すると、大騒ぎになった。
やっぱりそれ程の魔物なのか、グリフォン。
騎士団長や師匠まで出て来て、会議になっている。
でもなぁ。
あそこに大人数は入らないぞ?
とりあえずハルト兄様には前回のメンバーが最善だったと思うと言うことを伝え、とりあえず声のした谷を調べてみたらどうかと提案しておく。
後はどうするかは兄様次第だ。
でも騎士団投入となったらちょっと面倒かなぁ。
フォローに回りきる自信は無い。
あ、でも魔術塔との連携が出来ていれば何とかなるかな?
何しろ魔術塔にはエクスプロージョンのストックがまだ山のようにある。
まぁ、グリフォン対策はハルト兄様に任せて、セシル様を捕まえてクラリス様対策です。
エド兄様をどうけしかけたらいいのか、この恋愛偏差値の低い私に分かるはずがありません。
セシル様は今も魔術塔では私の研究室にいます。
「本当にどうしたらいいですかねー」
「どうもこうもエド殿下が頑張らない事には……」
「5年以上も先に進めないヘタレ大王に、何をアドバイスしたら良いやら」
「何って… もう結婚の話しかないでしょう。式は何時にするかとか。エド殿下はもう屋敷を持っていらっしゃいましたよね。そこにお招きして----もちろんリディアルナ様も同席するんですよ。---ここをクラリス様が使いやすいように改装しようと思うんだけど、どうしようかと聞いてみるとか…」
うーん。
何だかどれもヘタレ大王には難しそうだなぁ。
「あの、クラリス様の固い態度は何とかならないものかな?」
多分、あんな感じだからエド兄様引いちゃうんだ。
引くと言うか、踏み込めないと言うか……
「軍人家系だって言ってましたから、彼女にはアレが普通なのかもしれませんけどね」
「うーん、もうちょっと何か柔らかい態度にならないかなぁ……」
「ああ、そう言えばエド殿下はクラリス様の事を『クラリス』って呼びますけどクラリス様の方は『殿下』ですよね。アレを『エドガー様』に変えてみてもらいましょうか」
「そんなので雰囲気変わるかな?」
「モノは試しですよ。それと殿下。殿下もいつまでロディに『お姫』なんて呼ばせているんですか?!」
「あー 何だかロディに名前で呼ばれると照れちゃって…」
「ほら、名前一つで変わるじゃないですか。殿下もロディに名前で呼んでもらうんですよ!」
と、とばっちりが来た…
「ど、努力します…」
セシル様の所を出て、廊下を歩く。
エド兄様はまだ会議中だなきっと。
一度屋敷に戻るかなぁ…
片手剣用の魔法陣の案を考えなきゃ…
あ、リーンハルトくんの顔を見てからにしましょう!
もー可愛いんだもんなー
通いなれた正妃宮だけど、今はきちんと護衛兵にグレイシア様に入室の許可を取ってもらう。
グレイシア様は普通に入って来て良いって言ってくれるんだけどね。
やっぱり新婚家庭だし、小さな子供のいる家って行くのに気を使うよね。
護衛兵さんは入室許可は取って来てくれたけど、グレイシア様はお休み中だと言う。
----グレイシア様。
とりあえず宮に入ると乳母のアメリアさんがリーンハルトくんを抱っこしていた。
にこにこ笑って可愛い---!
「アメリアさん、グレイシア様は大丈夫でしょうか?」
昨日の様子が気になってちょっと顔が見たいな…
「それが--- 今日は気分がすぐれないと朝からお見えになっていないのです」
「え…? ハルト兄様は知ってるの?」
「朝、御報告はしました」
「ちょっと会っていいかな?」
「おやすみかと思いますが、リディアルナ様なら構わないと思います」
ええ、私以外の誰がグレイシア様を診るんですか。
部屋に入ると、グレイシア様はやはりお休みだった。
なるべく静かに側による。
顔色が良くない。
リーンハルトくんを産んでから、何だかずっとこんな感じだ。
私は実は産科が苦手なんだ。
救急外来でも、妊婦さんは産科の病棟が診てくれてたから。
貧血はあると思う。
でもそれだけじゃない…
「ああ、リディアルナ様……」
「起こしてしまってすみませんグレイシア様。----お加減はどうでしょうか」
「何だか、目眩がしてしまって… 今日はリーンハルトをあずけっ放しですわ」
「具合が悪い時は仕方ありませんよ---- グレイシア様、鉄剤の薬草は煎じて飲まれていますか?」
「ええ、レオン様の言う通りに」
「他の症状は?」
「----何だか、いつまでもだるくて、手足の先が冷たいのです。それに脈がびっくりするほど遅い事が…」
------え、それって----甲状腺?
「何時も眠い感じがありますか?」
「ええ、そんな感じです」
「むくみは--- ありますね…」
「私の病気は何でしょうか?」
「確定ではありませんが、甲状腺機能低下症の可能性があります」
「リディアルナ様は治せますか?」
「----------まだ何とも。甲状腺機能低下には原因がいくつもあるのです」
「私は安心ですね、日本の医療知識を持った治癒魔術師が側にいるんなんて」
「---原因の特定を急ぎます。もう少し頑張っていて下さいね」
「ええ、ありがとうございます」
確か産後に発症する橋本病とかあったな…
でも橋本病だったら手も足も出ないぞ。
甲状腺自体には腫瘍などの異物は無かった。
原因の精査って---
どうする?
どうしたらいい?
ディーン様の病巣探査の魔法陣では貧血の方が強く出ていたから、まだそんなにひどい状態ではないずだ。
うぅ、グリフォンどころじゃない!
日本なら甲状腺ホルモンの補充をすればいいだけだけど---
私に何が出来る?
甲状腺ホルモンが--- 作れる?
いやそれは無理だ。一時的に作れても意味は無い。
甲状腺自体が変性しているのだったらどうしようもない。
-------どうしようも、ない??
そんなバカな。
この私が、どうしようもないなんて。
グレイシア様が大変なのに。
日本なら薬一つでコントロールできる病気なのに---!
-----薬の事ならレオン様だな。
ダメもとで相談してみようかな…
「ああ、リディア。調度良かった。グリフォンの森へ騎士団を送ることになったんだが、どうも第三では荷が重いらしい。申し訳ないが第一騎士団を現地まで転移で送ってもらえるか。魔力の方はどうだ?」
------ハルト兄様-----
「分かりました。転移は何時ですか?」
「昼前には。向こうで陣を張ってしばらく魔物対策だ。ロディは借りていくから、お前はしばらくう正妃宮にいると良い」
「------そう、ですね」
正直、今グレイシア様に顔を見るのは辛いかもしれない。
「兄様。私もグリフォンの方へ行っても良いですか。気になることもあるのです」
「それは構わないが--- リディア? どうした?」
「----騎士団の方が心配なのと、夜の鳴き声が気にかかるのですよ」
「ああ、お前は声に聞こえるらしいな。ロディもエドも音だと言っていたが」
「ちょっといろいろ気になるので---」
「ああ、好きにしなさい。---ただ無理はしないこと。少しは自重すること」
「-----ハイ」
やっぱりやりすぎましたね。
でも魔術塔が出るなら結果は一緒だと思うんだけどな。
昼前までまだ時間がある。
とりあえずレオン様の所へ行ってみよう!
レオン様は今薬草園の管理者で全国の薬草の流通や治療院への供給を一手にされている忙しい方だ。
でも私が来た事を告げると、すぐに会ってくださった。
「お久しぶりですね殿下--- いえもう、殿下では無いのですね。リディアルナ様」
「レオン様こそ、御立派になられて」
もう、堂々たる公爵閣下だ。
現代日本なら厚生労働省の大臣と言うところか。
「突然お邪魔してしまい申し訳ありません、実は相談があって---」
「リディアルナ様なら何時でも歓迎ですよ。---どうされたのですか?」
「----実はグレイシア様の事なのです」
「グレイシア様--- 鉄分の多い薬草は処方したばかりですが、他に何か?」
「ええ、-----甲状腺と言う、首のところにある臓器の機能が落ちているようなのです」
「-----それは----」
「レオン様、そんな症例を聞いたことがありますでしょうか?」
「申し訳ない、リディアルナ様。首にそんな機能があることすら---」
「そうですよね。---以前の世界の知識なのですが、その機能が落ちると身体全体の機能が落ち始めるのです」
「-----そんなことが」
「レオン様が御存知ないなら、きっとこの世界では分かる人はいないでしょう。お騒がせして申し訳ありませんでした」
「いえ、私こそ役に立てずに--- ああ、そう言えばリディアルナ様グリフォンが出たと言う話は本当ですか?」
「耳が早いですね、本当です」
「では、もしかしたらユニコーンが見つかったら捕らえて下さい。ユニコーンの角は万病に効くと言われています」
「本当ですか!?」
「はい。この世界には万病に効くと言われている物はいくつかあるのですが、ユニコーンの角やエリクサー、ドラゴンの卵などがあります。ユニコーンがいれば---」
「分かりました。ありがとうございます!」
よかった、相談に来て。
さすがレオン様だ。
グレイシア様----
何とかしなきゃ。
何とか------!
城に帰ったら、既に騎士団の準備は整っていた。
さすが第一騎士団。
ローゼスの最強部隊。
それにやっぱり爆裂魔法の矢を持った魔術塔の連中がついて行くらしい。
アレを使うんなら、私がエクスプロージョン撃ったって一緒じゃないですか。
「リディア、準備は良いか」
「はい。----では行きます」
私は飛んだ。
グリフォンの森。
もしかしてユニコーンがいるかもしれない森へ-----




