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5.転生者





 兄様の17歳の誕生日の式典はそれはそれは盛大だった。

 今回は婚約披露パーティも兼ねているからだろう。


 この国でも20歳で成人とみなされる。つまり正式に婚儀が行えるのだ。

 兄様は山のようなお見合い写真の中からグレイシア様を選んだ。


 元々ソフィアローズ公爵家令嬢とは面識もあり、兄様にとっても好ましい女性だったようだ。


 兄様が幸せなら私は何も言うことはない。

 出来ることを全力でしよう。



 式典の会場に入る。エスコートはエド兄様だ。

 王族はどうせ会場上座に設置されたテーブルに着かされる。誰をエスコートに選んでもそれまでの距離なのだ。

 


 中央に国王陛下。……以前お顔を伺った時よりもはるかに症状が悪化している。


 皮膚の黄染、眼球黄染まで進んでいる。

 ……国王陛下は肝硬変を患っておられる。

 もしかしたら肝癌かも。

 もうこの王の治世は長くない。


 そのことはハルト兄様と正妃さまにはお伝えしてある。

 肝硬変の原因は、多分100%アルコールだ。正妃さまも殿下方も御酒を控えるようさんざん説得したらしいが、全く無駄であった。

 現在は私がたまに回復魔法をかけて現状維持で引き延ばしているところである。ハルト兄様の成人まで。



 ちなみに私の治癒魔術はある程度なら病気を治すことが出来る。

 それは私が『正常な状態』を知っているからだ。

 肝硬変――細胞自体を修復することはできないが、肝硬変の症状をある程度なら抑える事が出来る。ある程度だけどね。



 ハルト兄様が成人したら速攻で戴冠式だ。国王は引退していただいて、離宮で思う存分酒の溺れていただこう。

 そんな国王陛下の隣には正妃様とハルト兄様、グレイシア様。今回はグレイシア様のお披露目の意味もあるし。その隣がエド兄様と私。あぁ末席は楽でいい。



 陛下の向こう側にはダリア様。第二王子様はご欠席らしい。

 というか、こういう席には出てきたことないんだけどね。

 日本なら立派にひきこもりだ。王族の仕事もしないんだからニートだよね。ハルト兄様の後釜を狙っているのなら、最低限の社交でもさせておけばいいのに。


 ダリア様が何をしたいのかさっぱり分からない。





 で。エド兄様と一緒にさっさと席まで行こうとしたわけなのですが。

 そんな風に軽く考えていたのがまずかったらしい。





 私は今、美しく飾られた庭園で、さらに美しく着飾った令嬢たちに拉致され、囲まれている。


「ラインハルト殿下はなぜあのような、何のとりえもない令嬢を婚約者にしたのでしょう?!」

「私は誰よりもラインハルト殿下をお慕いしていますっ!」


 色とりどりの美しいドレスに身を包んだ令嬢方が、こぶしを握って詰め寄ってくる。怖い。これは怖い。

 師匠との魔術訓練でも感じたことのない恐怖が背筋を這い上がる。



 ……さすがにこれは予想外だ。

 私には嫉妬に狂った令嬢をなだめるスキルなんて持っていない!

 

 干物女をなめるな!


 どうせ痴情のもつれ系の修羅場経験なんて無いですよ!

 私の恋愛偏差値はきっと国内最低レベルだ。これはさっさと元凶に押し付けよう。



 私はとっさに短距離転移魔法陣を展開した。

 これは視界に入る範囲内なら転移可能という優れものだ。もちろん私開発。

 ……こんなことに使うとは夢にも思わなかったけどね。


 しかもこれ、実はまだ実験段階のもので、きっと令嬢たちは何が起こったか分からないはず。


 その混乱を利用し、ラインハルト兄様の目の前に飛ぶ。そして「真実はいつも一つ!」のポーズで告げた。


「兄様、婚約発表をするならするで、過去の女性関係は清算してください!」


 私のこめかみに血管が浮いているのを確認したのか、兄様は無駄に綺麗な顔でため息をついて素直に令嬢たちのところへ行った。グレイシア様を連れて。

 え?ちょっとヤバくないですか?



 ……でも正直ちょっと拍子抜けである。


 私が見たハルト兄様はいつも女性に囲まれていた。いやな顔一つせずに。キラキラしたオーラをまきちらしながら。


 でも、それを喜んでいたのかどうか、確認したことはない。



 ……そうだよな~ こんな優良物件、ご令嬢たちが見逃すはずはないもんな… ちょっと言い過ぎたかなぁ……


 私がちょっと兄様に同情のまなざしを向けると、庭園にはご令嬢たちの死屍累々たる有様が広がっていた。




「に、兄様…… いったい何を……」

「ああ、ちょっとご令嬢たちの目の前で、私がどんなに彼女を愛しているか見てもらっただけだよ」

 と、楽しげにのたまった。

 グレイシア様のお顔は真っ赤である。

 ……何をした、このエロ魔人!






 と、兄様を睨んだタイミングで会場内にダンスの音楽が流れ始めた。


 兄様がグレイシア様の手をとって踊りだす。絵になるカップルだなぁ。

 グレイシア様も黒髪を結いあげサイドを少し流して金色のバラの形の髪飾りをちりばめてある。ドレスは落ち着いたローズピンク。黒髪は何色でも似合うからうらやましい…


 

 対して私は、誤魔化しようのないド・銀髪。濃い青の瞳。

 ドレスもお飾りも色が限られるんです…


 今日は空色のハイウエストの切り返しのあるドレス。ところどころに瞳と同じ青の花飾りが可愛らしい。髪飾りもネックレスも空色だ。…私は青系のものしか似合わないんだろうか…


 しかし今日のエスコートはドレスの色なんて気にも留めないエド兄様。その鈍感力が今日はナイスですよ!



 

 私もダンスに誘われて、お相手を変えながら数曲踊った後、少し疲れたので壁際においてある飲み物のコーナーに行く。


 



「し… 失礼ですがリディアルナ殿下で、あらせられますか?」

 

 いきなり後ろから声をかけてきた紫の髪の男性。

 年は私より少し上だろうか? こういった社交の場ではあまりお見かけしない方だ。


「はい、リディアルナですが、何か……?」


「ぜひ次の曲をご一緒に」

 と私の手をとる。


 ……何だか手が震えてる?

 しかもダンスに誘うのに相手の顔を視ないってどうなのでしょう。



 こういう時、断るのはマナー違反だというルールが悔しい。

 仕方なく私は一曲、この見知らぬ男と踊る羽目になった。



 ……誘ったからには自己紹介くらいしようよ。


 しかも一回も視線合わせないし。

 ダンスのステップも足を踏まれないようにするのがやっとだ。

 パーティに慣れておられないんだろうなあ。

 この場に居るからにはそれなりの家の貴族なのだろうけど…… 

 セキュリティの厳しい王家のパーティじゃなかったら不審者で騎士団へ突き出されるぞ?

 あーあ、やっぱりこう言う華やかな場所は苦手だ。





 さらに疲れて、今度こそ!と思いドリンクコーナーへ。

 すると、今度はなんとグレイシア様がいらっしゃった。



「少し疲れましたね?」

 とふわりと優しく微笑む。


「そうですね…… 私はいつも魔術塔に籠ってばかりですのですので体力がありませんから」


 そう苦笑しながら返すと、グレイシア様は私のことをじ------っと見てきた。





「場所を、変えましょうか」

 グレイシア様はそう言って、私を庭園の方へと誘った。


 バラがこれでもかと咲き誇っている。我が国の国花、青いバラも多く栽培されている。

 ちょうど私のドレスのような空色のバラもある。


 そのバラの間を歩いていると、騎士服を着たロディがいた。



「お姫、休憩?」

「うん、ちょっとね。疲れちゃった」

「お疲れ」

そう言ってそのまま私達についてくる。


「グレイシア様だけだから、大丈夫だよ?」

「……お姫の大丈夫は信用するなとラインハルト殿下から十重言われております」



 ……兄様……



「良いですか?グレイシア様。ロディは私の乳兄弟なんです」


「……リディアルナ様が良いのでしたら…」

 とちょっと困ったお顔をされた。




 ……何か内密なお話かな?


「人払いが必要ですか?」

「いえ、リディアルナ様がよろしいのでしたらかまいません」


 なら大丈夫だ。ロディに隠し事なんてない。





 グレイシア様はバラ園を抜けて東屋に入られた。



「先ほどの魔術師団長のご子息とは何かお話を?」

 え?師匠の息子さんのだったんですか? お話って?



「……師匠のとは存じ上げませんでした……。話しと言っても特に何も。名前の確認をされただけです」


 そう言うとグレイシア様は盛大にため息をついた。



「リディアルナ様。ご子息のお名前は伺いましたでしょうね?」

「……いいえ…」


「家族構成は?」

「や、そこまで親しいわけではなく… 単にダンスに誘われただけで…」




「……本当に、気づいてないのですか?」


 グレイシア様はまっすぐに私の目を見て、私の肩に両手をおいて逃げられないようにして話す。


「気付くって… 何を…」

 ……え?? いったい私、何かしましたでしょうか?



 唯一の心当たりは前世のこと。

 でも前世の心当たりがあったって、師匠の息子の名前なんて分かるはずがない。


「は―――――――っ」

 グ、グレイシア様?、幸せが逃げますよ?


「ほんとに知らないのね?!」


「だから何をですか?師匠のご子息とは初対面です。初対面なのにいろいろ聞きだすなんて、淑女のマナーに反します」



 何が何だか分からない。

 私はこの優しい、将来の義姉に失望されることをしてしまったのだろうか。




 グレイシア様はちょっとロディに視線をやってから、しっかりと言った。






「単刀直入に言います。私も転生者です」






 ………はぁっ?!




「え?……て、転生者……」


 まさか…… グレイシア様が? って言うか、そんなにたくさんいるの?!



「まさか、気付かれないと思っていたわけではないでしょう?」



「……そ…そのまさかです……」

 思わず小声になる。そもそも転生者が他にいるなんて思わないし!



 ちらりとロディを見ると、訳が分からない、という顔をしながらも口を挟まずに見守ってくれている。……帰ったら初めから話さないといけないな。



「王都城壁の守護魔法陣、開発はリディアルナ様であることは聞いております。いただいたこの守護石も」


「はい、その通りです……」

 魔法陣の開発は得意ですが、日本の技術なんて入る隙はないですけど……



「その魔法陣は『イージス』と命名されたと聞きました」




 そこか――――!!




「姿や気配を消す術式の名前は『ステルス』だと」

 ……もはや返す言葉もございません。



「極めつけは冷蔵庫ですわね」


「……おっしゃる通りです……」

 私が認めると、グレイシア様はにっこりと笑った。



「転生者なんて自分だけだと思われたのですね?」


「ソウデス」

 ……穴があったら入りたいです。


「私もまだ、リディアルナ様しか確認してはいないのですが、ここに二人いる以上気をつけるに越したことはないでしょうね」


「……そう思います」

 その気になればオーバーテクノロジーを導入することも可能だしね。



「という前提でお話を進めるんですがリディアルナ様、ゲームとかはされる方でしたか?」

「……はい、大好きでした」


「では、『薔薇の王国、薔薇色の恋』と言う、いわゆる乙女ゲームのことは?」


 

 ……おとめげーむ……



「あ、私はRPGばっかりで……」

「なるほど…… では通称『薔薇恋』のことは全くご存じないのですね?」

「はい、まったく」


 グレイシア様は額に手を当ててしばらく考え込むように難しいお顔をされた。





「ここはその、乙女ゲームの世界なのです」









 …………え――――――――――っ?!?














 乙女ゲーム……

 ねぇ、乙女ゲームって、乙女ゲームだよねぇ……

 冒険者もチートも、何の関係もないの??


 って言うか、干物女に乙女ゲームって、何の罰ゲームよぉぉぉ!!



7/23加筆修正

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― 新着の感想 ―
[一言] 干物とか関係なく 美人なら問題ない(キリリ) 楽しく読ませてもらってます! ありがとうございます!
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