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ぷち魔王編 1








「「「魔王が出た?!」」」



「と、言う報告が上がっていると言うだけだ。喜ぶなリディア」

「よ、喜んでなんていません、よ?」



 場所は例によって国王ラインハルト兄様の執務室。

 そこに私とロディ、そして第一子であるリーンハルトくんを抱いたグレイシア様が集まっていた。


「で、兄様何処に出たんですか?」

「-----あまり言いたくはないが…… 南部のデーメル地方、デーア伯爵領の森の中と言う話だ。初めは森に入る猟師達が、恐ろしいモノがいると言い始めたらしい。デーア伯が騎士団を調査に向かわせたがはっきりしないと言うことだ。ただ、上空を飛ぶ巨大な影を見たとか、地の底から呻くような声がするなどの報告が近隣の村などから上がっているらしい」



「でも陛下、それでは別に魔王と決まった訳ではないのでは?」

 と、ロディが至極まっとうな意見を出す。



「その通りなのだが--- 当のデーア伯が、アレは魔王に違いないとおびえていると言うのだ。どうやら声を聞いたらしい。それで王都の騎士団に調査を依頼したいと」


「兄様、兄様私行きます!魔王に会いに行きます!!」

 いたじゃん魔王!


「だから魔王などと言うのは、妄言なのだと言う証拠を取りに行くだけだ。誰もその魔王とやらを見た訳でもないし、当然、魔王を自称する者が現れた訳でもない」



「つまり騎士団で、森の探索に行って、魔王なんていなかったと言う報告を領主さまにすればいいんですね」

「ああ、そうなるな。もちろん何か領民に害をなすような魔物がいれば討伐の対象になる」

「分かりました。すぐに騎士団を編成して---」

「ねぇロディ、ばーちゃんでさっさと行ってこようよ」

 そうすれば騎士団を動かすなんて面倒なことしなくても効率はいいと思うけどな。

 


「それも考えたのだが--- リディア。お前が行って、調査だけで済むか?調査だけにすると言うなら許可をするが---」

「兄様。騎士団を何人投入するのか分かりませんが、私一人でどの位の戦力になるか分かって言ってますか? 魔物程度なら百でも二百でも負けませんけど」

「ロディ、どうする?」

 そう言って兄様はロディを見る。

 ロディは私を見てため息をついた。


 -----何だか呆れられた。



「お姫が諦めるとは思えません。ただ、メンバーの選別をして、少数精鋭で行きたいと思います」

「と言うと?」

「まず、探査と言うならディーン様は外せないかと」

「なるほど。ロディとリディア、ディーンか---剣士が欲しいな。エドガーでも連れてくか。クラリス嬢にもついて行ってもらえばリディアの身の回りも頼めるだろう」



「ではそのように」

 ロディが礼をとって退室する。



「リディア、繰り返すが無茶はするなよ」

 やや諦めたような兄様の言葉に私も言い返します。

「もうそこまで無茶はしませんよー」



「分かりませんわよ、リディアルナ様は魔王を心待ちにされていましたから」

 グレイシアがそう言って笑う。

「グレイシア様、そんな昔の話を持ち出さなくったって……」


「ねーリーンハルト。おねーちゃんはそんな無茶しないもんねー」

 とグレイシアの抱いている生後半年の王家の第一子の頬をつつく。

「リーンハルト、お姉ちゃんのまねをしたらいけませんよ」

「あ、グレイシア様ひどい」


 二人でリーンハルト---ハルト兄様とグレイシア様の第一王子だ。兄様に似て金色の髪をした愛らしい子で、瞳の色はまだ薄いグレーだが、子供の瞳の色は変化すると言うのでまだ分からない。前の世界でも白人の子は瞳の色は小さい頃は分からないって言ってたもんね。


「グレイシア、体調はどうだ?もう大丈夫か?」

「ええ、陛下。御心配ありがとうございます」


 グレイシア様は何だか、リーンハルトくんを産んでから体調を崩すことが多くなった。

 少しの事でも熱を出したりする。もちろん私が異常があれば即座に直すんだけど---


「リーンハルトは乳母に預けて、少し休むと良い。真面目なのはお前の美点だが身体を大事にすることも忘れないでくれ」

「はい陛下。---ではそうさせていただきますね」

 そう言ってグレイシア様は退室する。


 -----何だか心配だなぁ。



「リディア。----グレイシアには何か病があるのか?」

「いいえ、兄様--- 少なくとも今の段階では私に分かる病はありません… すみません役に立てずに」

「いや。お前に分からぬ病であればもう、仕方ないのであろうな」

「でも兄様、ただ単に王子殿下をお産みになって、身体の調子が戻らないだけかもそれません。もう少し様子を見ても良いのではないかと思っております」

「そうか。----分かった。そうしよう。お前がついていてくれるのは心強い。頼むぞ」

「はい。私にとってもグレイシア様は大切な方。少しの異常も見逃さないようにいたします」

「ああ、頼む」


 そう言って柔らかく微笑む兄様。

 でもやっぱり心配そう。

 そうだよね……

 何か、元気が出るような物って無いかなぁ。





 そんなことを考えながら、ロディと調査に向かう準備をする。

 まず私とロディでばーちゃんに乗って最寄りの町まで飛ぶ。

 そこから転移で、一回帰ってきて、ロディの選抜したメンバーを連れてもう一回転移。

 後は--- どうするんだろう。


 魔王がいてくれたら。倒して終わりなんだけどな。


 「いない」っていう証明は大変なんだ。


 元の世界にも幽霊はいないって証明できた人はいなかった。

 まぁ、ホントにいたのかもしれないけど。


 私の装備は、魔術師のローブだけど、これは改良品。

 何とミスリルを線維化することにシーザー様が成功したのだ。

 鍛冶屋じゃなかったのか。

 金属に関してなら何でもするのか。


 そのミスリルの繊維を織りあげて作ったローブに、レオン様のミスリルの花を留め金に使っている。

 つまりこのローブは、常に魔力を纏っているので、魔法防御力が桁外れに強い。しかも元が金属だから物理防御も強いのだ。もちろんかなりのお値段である。しかし、シーザー様はロディに是非もらってくれと言って持ってきた。多分、騎士団長を押し付けた事を申し訳なく思っているのだろう。

 でもこのローブはミスリルなので虹色に光って綺麗なのですが、目立つのですよ。ものすごく。

 最初は喜んで着ていた私も、あまりの目立ちっぷりに、普段には着ないようにしてしまいました。

 でも今度は相手は魔王(かもしれない)!。装備はそろえねば。








「お姫、準備できた?」

 と、騎士団の制服を着たロディが帰ってきました。

「おかえり― メンバー揃った?」

「あー うん、まぁ一応…」


 ? 何だろう、何かあったのかな。


「ディーン様、行けなかった?」

「いや、ディーン様は二つ返事でOKしてくれたよ。-----ただ、セシル様まで来るって…」

「えええっ セシル様、お子様がまだ2歳?じゃなかったっけ?」

「うんそう。アデリナ様は乳母に預けるんだって」

「--------何処までもぶれないんだあの人は」

「ぶれないね、本当に」

 そう言って苦笑するロディ。



「ロディもぶれないよね?」

「それはもちろん」

 私が笑いながら聞くと、ロディのキスが降ってくる---- こんなに幸せでいいのかなぁ。



 結局、メンバーはディーン様、セシル様、エド兄様とクラリス嬢の6人になった。


 ロディの準備が良いなら待つ必要はない。

 早く出発して、とりあえず領主のデーア伯爵に話が聞ければいいんだけど。

 そのための騎士団の制服だろうし。


 ばーちゃんの準備も終わっている。

 ばーちゃんはまた大きくなった。もう、私なんか浮遊魔術を使わないと背中に乗れない。

 ロディとかひょいっと飛び乗るんだけどね。


「ばーちゃん、またよろしくね」

「きゅー―」

 この可愛い鳴き声は変わらないねー。


 ふわっと風魔法が私達を包み、一気に上昇する。

 スピードも格段に上がっている。

 ばーちゃん。


 ばーちゃんも森に帰りたいとか思うのかな。

 今はまだ小型化して私と一緒に寝てくれるけど、何時か森に帰っちゃうのかな?

 こんなに大きくなって、立派になって。


「お姫?」

「あ、うん。ばーちゃんが立派になったなぁって」

「ああ、そうですね。もう子供ではないでしょうね。竜種は長命ですが子供の時が長い訳ではないようですし」

「そんな記録あったの?」

「正式な記録じゃなくて、おとぎ話のレベルですけどね」

「そっかぁ。ばーちゃんはもうすぐ大人なんだねー」

「寂しいんですか?」

「んー まぁちょっと?」

「お姫にももうすぐ子供もできますよ」

「ロディ!」


 飛行中にそういう会話は危ないと思うな。

 ……でも私も、子供、出来ても良いと思うんだけど、なかなかだなぁ。

 ロディも早く子供欲しいみたいだし……




 そんなことを考えてると、すぐに南の平原に入った。

 ばーちゃん早い!

 そして街道沿いにいくつかの街を通過して、伯爵領の城下町の側に降りる。

 さすがに、王都近くの街じゃないとばーちゃんは見た人を驚かしちゃうから。


 ロディが城門の所に行って、王都から調査に来た事や領主さまに会いたい事を説明する。

 しかし何だかもめている様だ。

 ロディの騎士団の制服が分からないのだろうか。


「ロディ?」

 心配になってばーちゃんから降りて城門に行ってみる。


「うーん、何だかばーちゃんを怖がっちゃっているみたいで……」

 ---そっかー 王都近辺ではもう有名だけど、この辺は来た事無いもんね。

「でもどうしよう…ばーちゃん、今更小型化してもらってもダメだよね…」

「ダメもとで小型化してもらいますか。小さければ案外怖くないかもしれません」

 うーんどうだろう。


「ばーちゃん、小さくなっておいでー」


 そう声をかけると

「みー」

 と、喜んで私の腕の中におさまる。

 可愛い可愛い。


 そして。

 うん。城門の兵士さん硬直。

 まぁ、びっくりするよね最初は。





 今のはなんだとか、いろいろ言われたけど結局騎士団の制服と、公爵家の家紋の威力はここでも有効だった。

 そのおかげで日暮れまでに何とか領主様に会えることになった。


 ここの領主さまはアロイス・デーア伯爵。私達より少し年上のまだ若い領主さまだ。




「このような辺境へようこそおいで下さいました、王女殿下、騎士団長補佐殿」

「あ、あの私はすでに王女ではありません。今日は夫の調査に魔術師として同行しております」

「よろしくおねがいします。ロディ・スノーラインです」

 と、ロディと領主さまが握手。



「早速ですが、状況をお聞かせ願いますか。----魔王が出たと聞いたのですが」

 そうロディが切り出すと、領主さまは顔を青くしたようだった。そんなに怖い目に会ったんだろうか。



「最初は最寄りの村の猟師が言い始めたのです。-----森の中に得体のしれないモノがいると。私は最初、魔物の一種と思い騎士団を派遣しました。しかし、その騎士団は数匹の魔物を退治して、それだけで帰って来たのです。他には何もいなかったと言って」



「見たのは村人だけなのですか?」


「いえ、その後--- ああ、最寄りの村と言うのがゼイルと言うのですが、そのゼイルの近くのファーレルの街の上空に巨大なモノが飛んでいるのを見たと言う証言が多数寄せられたのです。その後もゼイルの村では地の底からうめき声がするとか、魔物の数が増えたとかの声が増えて、私は再度騎士団を派遣しました。---二度目は私も同行したのです」



 へー。この人結構いい人なのかな?きちんと民の声を聞いて、騎士団を動かして、自分の目でも確かめる。 

 この人が王都に援助を求めたのなら、ちょっと気を引き締めないといけないかな。




「私が森には行った時には、確かに魔物が多いと感じました。元々そんなに魔物の多い森ではないのです。しかも----やはり地の底からとしか思えないうめき声と言うか---」

「領主さま、姿の確認は、その空を飛んでいた巨大なモノとしか分からないのですね」

「ええ、それ以外の目撃緒言はありません。結局二回目の騎士団派遣でも成果はありませんでした。しかし、村人達は魔王だと恐れているのです。なので、大変申し訳ないながら王都の方へ助力をお願いいたしました」



「良く分かりました。今日は一旦城へ帰りますが明日には調査に入ります。詳しい地図はありますか?---それとその、街と村の責任者の方でも誰でもいいのですが、話を聞きたいので明日行く事を伝えて貰えますか」


「分かりました。地図はすぐに用意いたします。----今晩はこちらにお泊りでは?」

「ああ、妻が転移術者なのです。明日はもう少しメンバーを揃えてくるので一旦帰ります」

「そうでしたか--- ああ、殿下は命の女神様でしたね、これは失礼いたしました」

「いいえお気になさらず」

 私はちょっと気にしてほしい。あれから何年たつんだ。人の噂は75日じゃなかったのか。




 その後地図を貰って、一旦帰宅。


「ねぇロディ--- 何だと思う?」

「全く分かりません。ヒントがヒントになっているのかさえ分かりません」

「だよねぇ」


 その地の底のうめき声って何だ?

 それと空を飛ぶ巨大なモノって一緒なの?

 魔物が増えたって--- それがホントなら一大事じゃないの?



「とりあえず俺は陛下とディーン様達に報告してきます。お姫はもう休んでて。明日は結構転移が大変だと思うよ」

「あ、そうだね… でも6人位なら…」

「あそこの領主が騎士団を連れて行けとか言い出さないと良いんだけどね」

「-----それは勘弁してほしいなぁ」


 ギンレイに騎士団を転移させてぶっ倒れた黒歴史がよみがえる。


「じゃ、先に寝てるね。ごめんロディ」

「気にしないで。おやすみお姫」



 ロディを見送って、先にお風呂に入ってベットに入る。

 ホントに何だろう。


 マジに魔王だったら?

 私は魔王に勝てる?



 -----いや。

 何が相手でも勝つんだ。

 兄様の国を守るんだ。



 全ては、明日。







や、そんなシリアスじゃないです。すいません…

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