〈40.41.それぞれの人生 めでたしめでたし〉 ロディ
正式に俺とお姫が婚約発表をした後も、生活自体はあまり変わらない。
お姫は相変わらず、セシル様と魔術塔に籠って魔法陣を創っている。
ディーン様の病気の原因の探査魔法陣が意外に早くできたとかで、お姫たちは徹夜の勢いで次々と病に対する魔法陣を書いている。
最初は夜は寝かせるようにしていたけど、今は元気になって来たので好きなようにしてもらって、食事の世話や顔色のチェック位にしている。
と言うのも俺の方も少し忙しくなってきているのだ。
シーザー様から、正式にダイランに弟子入りしたいんだと相談された。
シーザー様のマクミラン伯爵家はシーザー様しか男子はいない。
後継ぎが鍛冶屋になりたいと言ったら、騎士団長は何て言うだろう。
しかも伯爵家の後継ぎの問題も出てくる。
だけど俺はシーザー様がどれだけ鍛冶職が好きなのか知っている。
趣味の範囲に収めておくことは出来なかったのだろう。
「それでな。親父には俺から言う。ロディには次期騎士団長を頼みたいんだ」
シーザー様はとんでもないことを言い出した。
「シーザー様。騎士団長はまだまだ現役ですし、最悪シーザー様の子供がマクミラン家の跡取りになって騎士団長を務めると言うこともありだと思いますよ」
「しかし、そうすると俺の婚約者は貴族の令嬢になる。鍛冶屋の妻になると分かっていて婚約する令嬢などいないだろう」
「------それは、探してみない事には何とも--- それに、マクミラン家は法衣貴族ですし伯爵家の年金で少なくとも贅沢はしなければシーザー様が鍛冶屋になっても生活に困ることは無いのでは?」
「うむ… そんな物好きな令嬢がいればの話だけどなぁ――」
と言うことで俺はグレイシア様に相談することにした。
確か彼女はシーザー様の婚約者を知っていたはずだ。
「シーザー様の婚約者ですか?コレッタ・イルルージュ伯爵令嬢でしたけど… 鍛冶屋に弟子入りされるとか---」
「そうなんですよ。それで俺が相談されて……」
「こうなっては初めの予定通り… って予定通りにいった例の方が少ない気もしますが、予定通りと言う訳にはいかないでしょうね…」
「どうしたらいいと思います?」
「---物語の設定のコレッタ様と何とか接触することはできませんでしょうか? ディーン様達の例を見ていると、可能性がない訳ではないと思います」
「接触ですか---- やっぱり夜会とかになりますよね……」
「いえ、コレッタ嬢はまだ9歳位だったはずです。夜会よりも騎士団の見学と言う形にして、騎士団の剣を作っている人だと紹介してはどうでしょう?」
「初めから鍛冶屋で紹介するのですか?」
「騎士と思っていたら鍛冶屋だったと言うよりはマシではないかと---」
「---そうですね…」
9歳かぁ。
もう結構しっかりしているよな。
騎士団のアルベルト様はどう思うだろうか。妹が鍛冶屋になったシーザー様と恋仲になったら。
しかし、こんな話をアルベルト様に相談する訳にはいかない。
どうしたらいいか---
答えの出ないまま数日が経ったある日。
俺はシーザー様の鍛冶屋の工房に行って見た。何か用事があった訳でも話があった訳でもない。
店の裏通りにある工房に顔を出すと、既に顔見知りになった鍛冶屋のおやっさんが挨拶してくれる。ここは気のいい人ばっかりだ。
シーザー様がほれ込むのも分かるなぁ。
そう思って中へ入っていくと、変わらず元気に剣を打っているいるシーザー様がいた。と言うか、シーザー様「も」いた。
-----隣の女の子は?
多分9歳位なんじゃないだろうか。
そこまですごいのかグレイシア様!
「シーザー様」
「おおロディ!、今日はどうしたんだ?」
「どうしたじゃないですよ。この子はどうしたんですか?」
「ああ、この近所に住んでるらしい。こうやって剣が出来るのが面白いと言って良く見に来るんだ」
「-----名前を聞きましたか?」
「いや、別にそこまで親しくしている訳ではないからな。俺は剣を打つのに忙しいし」
「ぜひ名前を聞いてください。もしかして、騎士団のアルベルト様の妹姫かもしれません」
「まさか!伯爵令嬢がこんな所にいるものか!」
「いいえ、魔術塔に籠ったきり不健康極まりない生活をしている王女がいる位です。鍛冶屋に伯爵令嬢がいてもおかしくありません」
「お前……陛下が聞いたら激怒するぞ」
「大丈夫です。陛下は最早そのくらいでは驚きませんから」
「----分かった。名前を聞いておく」
「イルルージュ令嬢だったら、婚約まで持って行くんですよ!鍛冶に興味のある令嬢なんてさすがに珍しいでしょうから」
「-----まぁ、その辺は成り行きか---」
「セシル様に言わせると、恋愛は攻めた方が勝ちらしいです」
「----覚えておこう」
-------どうなってるんだ?
ホントにグレイシア様の言うとおりに話が運ぶのか?
とりあえず俺は様子を見ることにした。
その間にも、騎士団長はすでにシーザー様を諦めているようで、俺に騎士団長候補としていろいろと教えてくれている。と言うか、しごかれている。
しかも、王族の方々の一番近い所にいるのだからと、近衛騎士団にまで入ってしまった。
この国の騎士団の組織は、騎士団長をトップに、近衛騎士団、第一騎士団、第二… と続く。
俺は第一騎士団と近衛を兼任だ。
何だか俺は変わらないのに周りがどんどん変わっている。
確かにこれは落ち着かない。
こう言う時はお姫の所へ行こう。
魔術塔ではお姫が相変わらず魔法陣と格闘していた。
何だかその姿を見ているだけで和む。
「お姫」
「あ、ロディ!」
そう言って、振り返ると花が咲くように笑うお姫。
今日はどこまで魔法陣が進んだとか、セシル様がディーン様の所へ行ったきり帰って来ないとか何でもない、いつもの話をしてくれる。
そんなお姫が可愛くて、ふわっと抱きしめる。
「え?え?ロディ、どうしたの?」
「何でもないですよ。ただお姫が可愛いな―と」
そう言って笑ってみせると、お姫はすぐに真っ赤になる。
これも治らないなぁ。
可愛いから良いけど。
そんなふうに日々が過ぎていく。
シーザー様は何と、鍛冶屋に遊びに来ていた女の子、コレッタ嬢と婚約まで持ち込んだと言うのだ。
コレッタ嬢も、結構面白い令嬢なんだろうな……
俺の方は本格的に騎士団長にしごかれている。
日々へとへとになるまで剣を振るう。
身体を動かすのは嫌いじゃない。
しかし、騎士団長となるとそれだけでは済まなくなる。
シーザー様の復帰を心からお願いしたいが、きっと無理だろうな。
しかも俺の騎士団長昇任は陛下も承諾済みの話らしい。
きっと、お姫のために稼げと言うことか。
ならば頑張るしかないだろうな。
そうやって、穏やかな日が流れて行って。
何と明日、セシル様はディーン様と結婚式を上げる。
卒業式の翌日だ。
さすがに攻めるなセシル様。
卒業式の後、ディーン様の所にシーザー様とレオン様と一緒に会いに行ったら、何だかやつれている。
明日結婚式を控えた花婿の顔じゃないんじゃないか?
訳を聞いていると、どうも新居選びから始まって、家具などの細かいこと、結婚式の衣装などセシル様主体で選んだと。そこまでは良いのだが、ディーン様も研究以外は、わりとどうでもいい系の人だ。セシル様の婚儀の衣装を「どれでも同じじゃないのか」と言ってしまったらしい。
確かにセシル様ならどんな衣装でも着こなせそうだが、それがまずいと言うのだ。
「いいか、女性の婚儀の衣装は慎重に慎重を重ねて、本人が意見を求めてきたら誠心誠意意見を言うんだ!決してどれでも一緒などと言ってはいけない!!」
ディーン様は疲れた顔で断言した。
俺たち三人は、心に刻み込むようにうなずいた。
しかし、翌日は心配した程ディーン様は疲れている様子もなく、セシル様は文句なく美しかった。
お姫はセシル様からブーケを貰って嬉しそうだった。
そして。
俺たちの結婚式が決まったのは卒業後二年。
グレイシア様の成人を待っていた陛下と一緒に行われることになった。
俺は陛下から言われたことを忠実に実行している。
お姫の暴走を防ぐのだ。
お姫は城下の町中に家を借りるつもりだったらしい。
自分はお金を持っていないからと言って。
お姫、俺一応侯爵で、騎士団やってるんですけど。
しかも次期騎士団長らしいんですけど。
さすがにお姫を城下に住まわせる程、甲斐性がない訳ではないんですよ。しかも、お姫の財産に関しては陛下から聞いている。
守護魔法陣イージスやステルスを国が買い取った形にして、お姫にはひと財産あるのだ。それに魔法金属発見の報奨金もあると言う。
これって、俺も働かなくても良い位…… と言うか多分辺境伯になって開拓民の募集とか出来るレベルの財産だよね。
しかし、俺もお姫も贅沢を好む性格ではない。
きっとこのまま、アイテムボックスの肥やしになりそうだな。
新居にしても陛下が準備してくれるっていうし。
新居の方は母さんが先に行って準備をしてくれているそうだ。
俺たちは結婚式を挙げて帰るだけ。
------なんか、人任せで自分の結婚式って気がしないなぁ。
そう思ったから、お姫に言ってみた。
何時でもいいから二人っきりで結婚式しませんかって。
びっくりして目を見開いたお姫は、我慢できない程可愛くて----
触れるだけの、キスをした。
すぐに赤くなるお姫。
可愛い可愛い俺だけのお姫。
あと二日の我慢------
結婚式の後は正妃宮はグレイシア様の宮となるため、改装すると言うことで俺は早々に客間に追い出された。
---新居も出来ていると言うのに、何故客間?
しかも二日前にはお姫も追い出されていた。
ここでお姫が改装中の正妃宮に突入しないようにするのも俺の役目なんだろうな。
暇そうなお姫につきあって、一緒に正妃宮の前の廊下に座り込む。
あーでもこれ、この距離ヤバい。
自然と顔が近づく---と思ったら陛下に邪魔された。
後一日の我慢だ---!
結婚式の日。
やっぱりお姫は綺麗だった。
ドレスはグレイシア様とお揃いだった。ブーケの色が違うだけで随分印象が変わる。
今日は慣れた騎士の正装じゃなくて、初めて着る公爵の正装だった。お姫との結婚と同時に公爵に陞爵したのだ。
動きにくい感じは無いけど、帯剣していないのは心もとない気がする。
これでは何かあった時にお姫を守れない。
俺は公爵かもしれないけど、それ以前に護衛騎士なのに。
式は陛下たちの後だ。
俺の所に陛下にエスコートされてお姫が向かってくる。
もうお姫の目がうるんでいる。
俺の所に来た時はもう、頬に涙の跡がついていた。
しかもガチガチに緊張している。
「大丈夫だから」
そう声をかけるとお姫から力が抜けるのが分かる。
そのまま誓いのキス----
これ以上舞いあがったら大変だから、触れるだけのキス。
それだけでもお姫は真っ赤になっていた。
その後、パレード・パーティと続く。
お姫はさすがに体力的にきついんじゃないだろうか。
パレードはばーちゃんの希望で陛下たちの後ろをばーちゃんに乗って歩いたりしたし。
しかも、パーティではひっきりなしにダンスに誘われている。
これは予定より早めに挨拶して帰った方が良いかな。
パーティの最後の挨拶は俺がすることになっていた。
俺が挨拶を始めるとお姫が慌てて隣に立ってくれる。
俺はお姫の手を握って挨拶した。
この人は俺の物ですよ。
そして最後のびっくりは新居っだった。
さすが陛下。
ここまでしますか。
後宮跡地に建てられた俺たちの屋敷は、たいそう立派なものだった。
おそらく後宮の庭園を活用したのであろう庭には薔薇が咲き、屋敷の方は全て新しく作られていて、以前の後宮のイメージは無い。
一通り見て回る頃になると、入浴を終えたお姫が入って来た。
俺もシャワーは済ませてある。
お姫は真っ赤になりながらも目をうるませて、俺の事を好きだと言ってくれる。
お姫。
お姫。
-------愛してます------




