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〈38.39 戴冠~信賞必罰〉 ロディ






 今日、ローゼス軍はオンディーナに向かって凱旋する。

 第二王子との間で、陛下との話が大方ついたらしい。


 しかし俺は帰れない。



 お姫が熱を出したのだ。



 俺のシャツのせいではないらしい。

 セシル嬢の(真面目な)話では、魔力不足に体がついて行かなかったのだろうと。

 まだ休養が必要だと言うことだ。


 この人は知識は、お姫の一番弟子を名乗るだけあって十二分にあるのだが、言ってることがホントかどうか怪しい。

 結局、何処までが本当か分からないのだ。




 それはともかく。

 ローゼス軍が帰国する。


 当然ダリアも一緒に連行される。

 第一王子の方はレオダニスが処分することになったらしい。

 正直甘いと思う。

 第一王子の方もオンディーナに連行してさらし首でも良いのに。


 仕方なく連行されるダリアの所へ行ってみると、後ろ手に縛られているだけで馬車での連行だと言うのだ。

 甘い。

 甘すぎる。


 お姫はこの国に連れてこられた時は荷馬車だった。


 そのことを連行する兵士に伝えると、ボロボロの荷馬車を持ってきた。

 ついでにお姫は夜会用の寒さを防げる服装ではなかったことを伝えると、下女のお仕着せに着替えさせられた。

 最後に鎖につないで猿轡をして終わりだ。

 まぁ、死にはしないだろう。


「少なくともオンディーナまではお姫がどんな事をされたのか知るんだな」


 俺は自分にこんな冷たい声が出たのかと思う位、冷たい声でそう言ってお姫のいる宿に戻った。

 あの時のお姫の青い顔、冷たい身体---

 この程度で許されると思うな。







 お姫のいる宿は、第二王子がこれでもかと言うほどの騎士団を配置している。

 ありがたいのはお姫に侍女をつけてくれたことだ。

 これで俺は、自分の理性とこれ以上戦わなくて済んだ



 お姫は数日は熱と疲れで動けなかったが次第に元気にはなってきた。

 なってきたはず、だが---


 何だか考え込んでいる?

 悩んでる?


 やっぱりこの宿から出られないし、気づまりなのかな?

 でもまだ食事も十分食べられないし、歩いてもよろけるし---


 だけど、やっぱり自分の部屋の方が良いのかもしれないな。

 食事もやっぱりローゼスの物とは味付けも違うし。



 俺が帰国を提案すると、お姫はとても喜んだ。

 やっぱりいろいろ気づまりだったのか、それとも単にローゼスが恋しかったか---

 どちらにしても良かった。











 帰国時。

 ばーちゃんは、お姫にとても気を使って飛んでくれた。

 俺だけが乗ると、結構荒っぽい飛び方をすることもあるんだが、ほとんど揺れを感じることもなく、風魔法で俺たちを包んで、空を飛んでいるにもかかわらず風を感じることがなかった。

 俺はちょっとばーちゃんを見直した。

 そうだよな、お前もお姫が大好きなんだもんな。



 そして、帰るとローゼスはお祭り騒ぎだった。

 まぁ、お姫を無事に取り返しての凱旋だ。

 お祭りにならない方がおかしいよな。



 と、そこまでは良かった。

 しかし、陛下に会ってお姫の状況を説明した後、正装に着替えて来いと言われてしまった。これから陛下の戴冠式らしい。


 あれ、堅苦しいから嫌いなんだけどな。

 でも騎士団みんなで正装して整列する姿は、国民に人気があるのは知っている。

 仕方ない。

 俺も一応騎士団員だ。

 この地位がないとお姫の側にいられない。



 戴冠式の間、騎士団は壁際に整列して動けない。

 お姫がドレスに着替えて、セシル様と一緒に入ってきた。

 でもまだ辛いのか、隅の方に椅子を置いてもらって座ってる。

 無理しなくても良いのに――




 戴冠式は無事に終わり、バルコニーでの民衆への顔見せも無事に終わった。


 この国はこれからどんどん豊かになる。

 きっと今日陛下を見た民衆はそう思っただろう。その位陛下は御立派だった。









 その後で、今回のレオダニス戦の賞罰が発表される。


 -----ダリアの。

 あの女の罰が決まる。


 甘い罰なんか絶対許さない。



 そう思って見ていたら、結局「砂漠の淵」と言われる修道院へ幽閉されることになった。

 

 ダリアが殺される方がましだと言っていたから、これでいいのか---?

 お姫がいいなら良いのか。



 次はリシャール殿下だった。

 実は俺はこの人、見たことがない。あれだけ同じ後宮にいたのに。 

 なのではっきり言ってどうでもいい。

 でも、あの母親の人形だったという点は同情できるかもしれない。


 そう思ったら陛下もかなりの恩情判決だった。


 クーデターに参加した兵には、陛下はさらにお優しかった。

 自分の配下にならないかとまで言っておられた。


 こんな人だからみんなついて行くんだろうな。





 





 そして、今度は功績のある者への賞与の発表だ。

 俺はお姫についていただけだから、これもいつも関係無い。

 でも俺はお姫が守れればそれでいいのだ。


 と、思っていたのに。



「まず、もっとも功績のあった、ロディ・スノーライン。王女の救出・ドラゴンによる斥候での作戦決定への貢献、レオダニス王宮より逃走する罪人ダリアの身柄の確保。これらの功績により大変異例ながら、陛下の御意向もあり侯爵への陞爵(しょうしゃく)を行うものとする。ロディ・スノーライン!」


 宰相閣下の声が信じられなかった。耳を疑った。


「はっ?!」


 と、情けない返事をして、おそるおそる陛下の前に出る。

 これで良いはず、だよな。

 そう思いながら陛下の前に膝をつく。



「此度の活躍、見事であった。これからも頼む」

「---我が身の全てをかけて」


 声が裏返りそうだ。

 何でみんなこんなこと平気でやってるんだろう。

 しかもさっき、宰相閣下、変なこと言ってなかったか?



 そんなことを考えていたが、式はどんどん進む。

 俺の次はディーン様だった。

 あのストーカー魔法陣が表彰されてしまった。その上、セシル様と婚儀の後陞爵(しょうしゃく)と言うこと。

 うん。あの衛生部隊で誰が一番活躍したか知ってるんだな陛下。



 しかもシーザー様、剣の刻印の件で賞与ですか。

 鍛冶屋になったらどうするんですか、騎士団長。





 式も終わり、周りもバラけだした頃、陛下に名前を呼ばれた。

 すると、陛下の後ろにお姫がいた。グレイシア様やセシル様も一緒だ。

 でもお姫の顔がやけに赤い---? さっきまで顔色悪い位だったのに。

 



「ロディ、侯爵だ。侯爵になった。妹に、そして私に言うことはないか-----?」




 え?


 さっきの宰相閣下の言葉は聞き間違いじゃなくて----?

 俺が、侯爵?

 本当に?


 そして、陛下に、お姫に言うことって---。

 言って、良いってことですか。

 俺が言いたいって知ってたってことですか?




「うむ。言う順番は私は後でも良いぞ」


「陛下------」



 これは、陛下公認ってことか?

 言っていいのか?

 こんなにいきなり------





「------お姫?」



 お姫を見る。

 顔が真っ赤だ。

 可愛い----


 本当に侯爵になったのなら。

 本当に言っていいのなら。



 そう思ってお姫の肩に手を掛ける。




「待って------!」



 え?

 ダメ出し?!

 俺じゃダメ?!



「私に言わせて----- 」


 

 お姫が、何を、言わせてって---?







「―――――――ロディ、私を、お嫁さんにして下さい!!」







 ----------お姫。

 お姫。

 俺の大事な大事なお姫。

 俺の命より大切なお姫。





「もちろんです。俺からも言わせて下さい。お姫。一生俺と一緒にいて?」





 俺の言葉にお姫は何度もうなずいて、ぽろぽろと泣きだした。

 俺は堪らなくなってお姫を抱きしめる。





「ここに国王ラインハルトの名において王女リディアルナとロディ・スノーライン侯爵の婚約を発表するものとする!」





 高らかに陛下の声が広間に響いた。


 本当に俺が、お姫の-----









 信じられない思い出腕の中を見ると、お姫は泣いたまま今度は青い顔をして気を失っていた。

 しまった。

 まだ体調が戻っていないのに帰って来たんだ!


 とにかくお姫を横にしないと。


「ロディ、すぐに正妃宮にリディアルナ様を!」

 と言うグレイシア様の指示で、正妃宮に運んだ。

 正妃宮では俺の母が待機してくれていて、安心して任せられる。


 母は、一通りお姫を寝られるように整えると、俺の所にやってきた。




「なぁ、母さん。俺、侯爵なんだって」



「はぁ?」




 俺の母は正直な人だ。

 正直で実直で、俺に厳しくお姫に甘い人だ。



「何でお前が侯爵なんてことになるんだい? 知ってるのかい? 侯爵ってのは貴族様の中でも上級の階級だよ。アレは血筋でなるもんで、お前とは縁がないもんだ」


「うん、俺もそう思ってたんだけど--- 今日な。陛下の戴冠式だったじゃん。ついでに戦争での御褒美の発表もあったんだ。俺の仕事はお姫を守ることだろ。今回の戦争ってお姫を取り返す戦争だったから--- 俺がお姫を取り返したからって、ショウシャクしてくれるって---」


「そんなバカな---」




「本当ですよマリア」

「正妃さま」


 俺と母は慌てて礼を取る。


「おやロディ。貴方はもう貴族ですよ。マリア、貴方ももう私に対して礼を取る必要はなくなりました。ロディは侯爵に陞爵(しょうしゃく)して、リディアと婚儀を行います。----と言っても成人を待つか、そこまで待たなくとも今直ぐと言う訳にはいかないでしょうけど」


「ひ、姫様と婚儀----?!」

 

 母さんは振り返ると、俺に思いっきり拳を落した。


「-----か、母さん一体----?!」


「お前姫様に何をしたんだい?!」

「マリア?! ロディは何も----」


 正妃さまと、その後グレイシア様グレイシア様が入ってくださって母さんはやっと納得したようだった。



「お前、根性入れて姫様を幸せにするんだよ! 泣かせでもしたら承知しないからね!!」


 ええもう泣かせる気もないけど、万が一そんなことになったら俺は母さんの鉄拳を貰う前に陛下に死罪にされますから。









 その日の夜。

 俺は母さんと二人で陛下に挨拶に行った。




「ラインハルト陛下、俺は誠心誠意お姫を大事にします。なのでお姫を俺に下さい!」




 一世一代の覚悟でそう言った。

 ダメだったら首を差し出す覚悟だ。



「------どんな大国の正妃になるより、リディアはお前と一緒にいたいらしい。いろいろと、変わったところのある妹だ。それはお前もよく知っているだろう。そんなお前が、一番リディアを幸せに出来ると思ったからの陞爵だ。---リディアを頼む」


「陛下-----」



「ああ、婚儀やその他全ては私が用意する。お前はいつも通りリディアの護衛を頼む」

「あ、はいそれはもちろん…… でも全部任せてしまうのも申し訳---」

「構わん。グレイシアも張りきっているし--- リディアに手を出させると二度手間になる。お前の役目はリディアのストッパーだ。暴走しないようしっかり手綱を取れ」

「へ、陛下----」


「二度と、あんな危ない魔術を使わせるな。----いいな」

「はっ!」



「それとマリア。今までリディアに仕えてくれた事、心から感謝する。マリアも今後は侯爵の母としての待遇を約束する。ロディ達の新居が出来るまでは正妃宮の一室を使ってもらうことになるが、侍女の仕事は引き継いでくれ」

「-----おそれながら国王陛下。もし私の仕事に不備があるのでなければ、姫様のお世話は引き続き私にさせていただくことはできませんでしょうか----」


「不備があったことなど無い。しかし----」


「お願いでございます」

 母さんは深く深く頭を下げる。


 ------母さん。


「----では、引き続きよろしく頼む。リディアもマリアが一緒である方が安心であろう…… マリアにも何か褒美をと思ったのだがな」


「息子と姫様の婚儀など、私には思いもしない褒美でございます。陛下の寛大なお心に感謝するばかりでございます---」


「私に何か、願いがあればいつでも言うが良い。マリア。お前は私の大切な妹の母。私の義理の母と言うところだ。決しておろそかにはせぬ」


「有難いお言葉にございます----」


 母さんは泣いていた。

 母さんが泣いているのは初めて見たかもしれない。







 陛下に退室のあいさつをして、正妃宮に戻る。

 まだ母さんはぐすぐす言っている。


「母さん、もう侍女の仕事しなくていいって言ってくれたじゃん。腰が痛いって言ってただろう?」

「何を言うんだい。私以外に姫様のお世話が出来ると思っているのかい?」


 確かに。

 お姫は基本パーティやお茶会は嫌いだ。

 着飾るのも嫌いだ。

 それを母さんがお姫の好みギリギリの線での上品で、華美にならない程度の豪華なドレスを選んでくる。

 これを他の侍女がマスターするのには時間がかかるだろう。



「お前もしっかり姫様をお守りするんだよ」

「分かってるよ」







 リシャール殿下の話を聞いた後だったからだろうか。

 俺は自分の母親が自慢できる親であることを誇りに思った。






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