〈37.戦後処理〉 ロディ
セシル様にやっと普通(?)のドレスを着せてもらって、本当に安心した。心臓に悪い。
しかしまだ天幕まで入る勇気がなくて、入口に剣を抱いて据わっている。
さっき、お姫が起きた時用に水とコップを置いておいた。
ここにいればお姫が目が覚めたら気がつけるだろう。
今は俺の大事なお姫でいてくれるけど、いつ他の貴族や他国の王族に取られてしまうか分からないのに。
そんな時、きっとこの気持ちは邪魔になる。
俺の大事な大事なお姫。
幸せな結婚が出来るまでは、俺が守るから。
カイ殿下はお姫のために2日であんな大軍を率いて参戦してくれた。
あの人の気持ちも本物のだろう。
レオダニスのように無理やりさらったりと言う手口でなく、お姫が望んだ婚儀なら、俺は―――?
どちらにしてもこの国にはいないかもしれないな。
この国にはお姫との思い出が多すぎる。
さすがにちょっとキツイんだろうな。
あー。
何処かに爵位が落ちてないかなぁ。
しかし、本当にレオダニスは許せない。
お姫はもう少し遅かったらこの世にいなかったかもしれない。
こんなこと考えたくないけど、あの時シーザー様が趣味に走った鍛冶道具を持っていなかったらどうなっていたか-----
しかもお姫を枷につなぐって、鎖につなぐって-----
あの第一王子、捕まえて、良かった。
掃討戦で、あっさり殺されていたりしたらこの怒りのやり場に困る。
あんな奴。処刑の上さらし首でもまだ足りない。
ダリアもだ。
あの女は殺すだけじゃ生ぬるい。
そんなバカなことを考えていた時
天幕の中でお姫の気配が動いた。
ああ、目が覚めたんだ。
俺は一度、しっかりと深呼吸をする。
平常心平常心。
お姫をさっき接収した宿まで連れて行かないと。
それにいくら室温管理の魔道具を置いたって言っても、やっぱり天幕と宿で違うだろうし。
よし。
頑張れ俺!
「お姫起きた?」
何でもない様に言って中に入る。
平常心平常心。
宿に移ることを伝えると、お姫は王宮を更地にしたことを何だかとても悪いことをしたかのように謝っている。
お姫。
優しいお姫。
あいつら、お姫を鎖につないだんだよ。
命を奪うような枷につないだんだよ?
しかも陛下の前で、お姫をあれだけ大事にしている陛下の前で、無理矢理お姫の婚儀なんて。
本当にさらし首でも生易しい。
王宮だけじゃなく、王都ごと更地にしたっていい位だ。
------でもその時は、お姫の服を置いている店だけは、残して下さいね。
何時ものお姫らしくない、飾りの多いドレスを着たお姫は---- なんだか少し色っぽいと言うか----
この国のドレス、胸元空きすぎだろう!!
セシル様--- 貴女はどれだけ俺の理性を試すんですか?!
俺の葛藤など微塵も分かってくれない俺のお姫は、まだ青い顔で自分で歩くなどと言う。
無理ですって。
でもその前に上着着て下さい。
そのまま抱き上げたら、胸元が----!!
何とか、俺的にも寒さ的にも大丈夫な姿になってくれたので、抱き上げて代理政府に接収している宿に向かおうと天幕を出ると、隣の天幕の陰からセシル様が「やれ!」とばかりに拳を振っている。
貴女は俺に何をさせたいんですか!
俺は顔が赤くならないことを祈りながら歩くしかなかった。
その、代理政府に向かう途中。
お姫がイージスのペンダントの事を言い出した。
その内容が問題だ。
何とお姫は、俺に抱きしめられたと思って嬉しかったと言うのだ。
嬉しかったと、言ってくれたのだ。
あー、もう俺思い残すことないかも…
「お姫------ それは、間違いじゃないですよ」
そう答えると、今度はお姫が驚いた顔をしている。
驚いて目を見開いて俺を見た後、さっと下を向いてしまった。
ちょっと残念。
お姫、俺、イージスを渡した時、ホントに本気で抱きしめたかったんだ。
でも、許されないと思ったから。
イージスを言い訳にして----
その後、代理政府のラインハルト陛下の所にお姫を届ける。
そこにレオダニスの第二王子が側室様と一緒に待っている。
こんな時、俺は基本護衛だ。
会話には加わらない。
しかしお姫、ダリアと第一王子以外罪は問わないとは、優しすぎじゃないですか?
まぁ、戦後賠償なんかは陛下がうまくやるでしょうけど。
しかし、戦時に国王が逃げたとか、有り得るのか?
本当に国王だったのかそいつは。
---まぁ、国王がそんなだったから内戦になりかけるまで王太子を決めなかったりしてたんだろうな。
第二王子はちょっと見た所、まともそうじゃないか。
まぁ、いくら正妃の子の第一王子だからって、アレは無いよなぁ…
そんな話をしていたら、扉が開いてカイ殿下が当の国王の首根っこを引きずって現れた。
-----さすがに、ちょっとその扱いはどうでしょうか。
きっとカイ殿下も怒っているんだ。
お姫の状態の詳細はきっと陛下が説明しているはずだし。
しかし。
それとこれとは別問題です。
お姫はまだ自分で立つことも出来ないのに、食事に誘うとはどんな了見だ。
カイ殿下には申し訳ないとは思うが、俺の優先順位は不動なんです。
お姫もきつかったらしく、大人ししく抱き上げられる。
そしてローゼス軍で接収した宿のベットにお姫を降ろすと、ホッとしたのか身体の力を抜いてぐったりとクッションに身体を預ける。
そんなにきつかったのなら、途中で抜けても良かったのに。
お姫に大丈夫かと問うと、寝れば治るとか言いだす。
確かに睡眠は大事だが、人間他にも大事なものがあるんですよ。
食事を勧めて、抱き上げた時随分軽くなったと伝えたら--- どうやらそれがまずかったらしい。
自分は太っているのかとか、訳の分からない事を言い出す。
そんなわけないでしょう。
必死でお姫が重い訳がない事を説明してると、何とセシル様が食事を運んでくださった。
-------何をたくらんでいる?
「ロディさん、なるべく消化のよさそうな物を作ってもらったので、良く冷まして食べさせてあげてくださいね」
と、にこやかに去って行った。
-----つまり、俺が、お姫に食べさせろと。
ついでにセシル様は、ばーちゃんを置いて行った。
セシル様は最近お姫と一緒にいることが多いからか、ばーちゃんが結構なついている。
ばーちゃんを撫でているお姫を見てなごんでいると、目の前の食事の存在を思い出した。
確かにこれを食べさせなければいけない。
「お姫、ばーちゃんとじゃれるのは後にして食べちゃいましょう。はい」
平常心平常心。
平常心平常心。
ひたすら、剣の型を頭の中で復習しながらお姫に食べさせる。
お姫は、少なめに盛られた食事の三分の一も食べられなかった。
これはこれで心配だ。
やはり睡眠を優先させるべきか。
そう思い、食事をかたずけセシル様に夜着をお願いする。
これがこの日俺の最大の失敗だった。
お姫の部屋から大きな声がしたので、びっくりして部屋に入ると---
お姫はまだドレスのままで。
その手に持っているのは----
下着、ですか?
それとも、考えたくないのですが、娼館の女性が着ていると言う------
しかも。
しかもお姫が、俺にこう言うのが好きかと聞いてくる。
お姫。
はっきり言っていいなら、こんなのを好きな女性が着ていたら、嫌だという男はいないと思います。
しかし俺は逃げた。
こんなこと正直に言えるか。
結局お姫はまた俺のシャツで寝ることになった。
今日はもしかしたら人生で一番疲れる日だったかもしれない。
いろんな意味で。
ああ、早くオンディーナに帰りたい。
別名:ロディのヘタレ日記




