たまには休暇を 〈ロディ〉
結婚後半年がたった。
俺たちは、変わりなく――― いや、少しずつ変わりながら生活している。
まず、グレイシア様が御懐妊なさった。
その時の陛下はもう踊り出しそなほど喜んで、今は少しでも時間があると正妃宮の方へ行って様子を見て行かれる。グレイシア様はつわりがひどいらしい。
俺の母は、「あんなもの時期がくればすっきり治るもんだ」と平然としているので、そう言うものなんだろう。
だけど俺もお姫があんな風にきつそうにしていたら、仕事にならないかもしれない。
幸いと言うか、お姫にはまだ懐妊の兆しは無いということ。
お姫は幼少期の栄養状態の悪い時期の影響が残ったのか、同年代の子たちよりも発育が悪いようだ。
俺は、お姫が密かに胸が小さいことを気にしているのは知っている。
でも俺にしてみたら、何を気にしているんだと言いたい。お姫の魅力は胸の大きさなんかじゃないのに。
俺の方は次期騎士団長で、現近衛騎士団長なんて言う御大層な肩書を貰ってしまった。
まぁつまり王族の方々の一番近くにいるのが俺なのでそうなったのではないかと踏んでいる。
-----何しろ俺の家――と言うと怒られそうだな。俺の屋敷は後宮の裏の敷地に建っているからだ。しかもわざわざ正門に回るのを面倒だと言ったお姫が簡単に土魔法で扉をつけてしまった。
セキュリティはどうするんだと思ったら、お姫と俺、グレイシア様と陛下、正妃さましか通れない様に「設定」していると言うから驚きだ。
俺のお姫は時々(?)信じられないことをやらかす。
---それも楽しんでいる俺もたいがいだが。
そんなある日。
ラインハルト陛下から俺達二人に呼び出しがかかった。
「リディア、困ったことになった」
陛下の第一声はそんな言葉だった。
急に不安になって、お姫の顔を見るとお姫も俺を見ていた。
何となく手を握ってやる。
「いや、そんなに物騒な話ではない。----ただ、西の修道院がいい加減ダリアの扱いに困っていて何とかしてほしいと言ってきたのだ」
あ、そんなことか。
じゃないな。もし王都に戻されるなら大変だ。絶対お姫に接触させなようにしないと。
「兄様、援助を増額していましたよね」
「そうなんだ。それで何とかしてもらおうと思っていたが、甘かったらしい。着るモノ、食べるモノ全てに文句を言い、魔石取りには決して行かない。規律を乱す。修道女を苛める…… 他にも詳細に亘ってダアリのやらかしたことが書いてある。これは修道院長の嫌がらせかと思う量だ。どうやら本気で困っているらしい。まぁ、良く5年も我慢してくれたものだとも思うが、------そこでリディア。魔道具で何とかでしそうなことを以前言っていなかったか?」
お姫は少し考えるようにしてから、
「少し時間をください。作れるとは思うんですが、ちょっと実験して出来るのを確認します」
「分かった。長くかかりそうか?」
「いえ、二三日で大丈夫だと」
「そうか。ならば出来あがったら二人で紅竜で届けてくれるか。アレが一番早いだろう。それに二人とも、結婚の休暇以来まとまった休みを取っていないではないか。しばらく二人でゆっくりしてくると良い。西は北部は砂漠だが、南部の方は海の美しいリゾート地だ」
「え、兄様良いんですか?」
「良いも何も、修道院へ行くのは勅命だ。帰りに少し紅竜で行く分の浮いた時間を過ごしてこい。まともにあの修道院へ行こうと思ったら片道でも2週間くらいかかるからな」
「そんなに遠かったんですか?!」
うーん、お姫のコロコロ変わる表情が可愛い…
「じゃ2週間お休み……」
「ああ、ゆっくりしてこい」
「へ?2週間?!」
「なんだお前たち夫婦は…… とにかくリディアの魔道具が出来次第2週間の休暇だ。騎士団長には私から言っておく。以上だ」
礼を取って執務室を退出する。
そう言えば俺達って陛下と会う時いつも執務室だよなー
有力貴族と会う時でも謁見の間を使うのに。
お姫はきっと謁見の間の存在を知らないんじゃないだろうか。
相変わらずだな陛下。
王宮の廊下を歩きながら、お姫は何か考え込んでいる。
こう言う時は新しい魔道具について詳細を考え込んでいるのだ。
このままほっておくと、間違いなく壁とかにぶつかる。ぶつかるのが壁なら良いが階段だったら大変だ。今日は魔術塔まで送った方が良いだろう。
そう思って少し後ろを歩いていると、ふと気がついたようにお姫が振り返った。
「あれ、ロディ。騎士団はこっちじゃないよね?」
そうですね。騎士団詰め所は随分前に通り過ぎました。
その間二回壁にぶつかりそうな貴女の向きを変えたけど、気がつかなかったんですね。
「魔術塔まで送りますよ。---それにしてもお姫、ダリアを何とかするような魔道具が作れるんですか?」
「ふふふー 私に不可能は無い!」
そう言って変なステップを踏みながら魔術塔を上がっていくお姫。
この一抹の不安は何だろう――――
さすが陛下は仕事が早い。
俺の二週間の休みは既に決定事項だった。
しかも明日から。
いくらお姫でもそんな聞いたこともないような魔道具が一晩で出来るわけが… と思ったがホントに翌日にはできていた。
見たところ普通のネックレスのようだ。
「お姫これは?」
「隷属の首輪と言ってね、こっちのペンダントと対になってるんだけど、このペンダントをしている人の命令は絶対聞くと言う優れもの!」
と、ばーちゃんが時々やる、胸を張る様な得意げなポーズをするお姫。可愛い。
「ロディ試してみる?」
「え?俺がこの首飾りするんですか?!」
「だって笑ったじゃん。信じてないんでしょうー」
「そんなことないですよ」
「でも試す」
そう言って俺に乗りあがってくるお姫。
可愛いだけだからダメだって。
「これがですか?」
触ってみるとネックレスの様なチェーンの感触しかしない。イージスのネックレスと変わらない気がする。
「で、このペンダントを持っている人の命令には逆らえないんだな」
と、得意げに言うが、この人が俺の嫌がる命令が出来るとも思えない。
「じゃ何か命令してみてください」
「うん! じゃぁね…… うーん、えーと、『自分の好きな人に。---キスしてください』」
何その俺得命令。
じゃ、遠慮なく!
〈5分経過〉
「成功みたいですね、この首輪」
「そこまでしろなんて言ってない!!」
結婚後、半年も経つのにまだ慣れない、涙目のお姫が可愛い。
貴女は俺をどうしたいんですか。
「せっかく成功しましたし、早めに修道院へ届けましょうか」
「そーだね。何しろ5年もがんばってくれたんだし……」
お姫、まだ顔が赤いですよ。
まだ昼には十分時間がある。
ばーちゃんなら一気に飛べるだろう。
その後は3人でリゾートだ。
----リゾート地の人たちがばーちゃんを見て驚かないと良いなぁ……
例によって荷物はお姫の空間魔術のポシェット?に入れて、簡単に出発できる。
ばーちゃんには既に専用に鞍を作った。
もちろんお姫と二人乗りようだ。
王都はすでに秋の気配がしている。
色の変わり始めた葉を風で巻き上げて、ばーちゃんは飛び立った。
--------西へ。
「すごいねロディ、山の方はもう紅葉が綺麗だ!」
「ホントですね。---もうそろそろ王都も寒くなるかなぁ」
「うーん、リゾートって泳げるのかなぁ……張り切って水着持ってきちゃった」
「泳げるみたいですよ。南部は暖流が近くまで流れていて、冬は海の方が温かいらしいですよ」
「へー 冬も行ってみたいな―」
「また休みが貰えると良いですね」
「兄様におねだりしよう!」
うん、それは確実でしょうけど…… 陛下、絶対断れないだろうからちょっと気の毒なので適度なところで止めに入ろう。
ばーちゃんはこの半年で少し大きくなった。
飛行距離も速度も速くなってる。
王都から、二時間半。
もう海が見えてきた。
「ばーちゃん、北だ!」
海沿いに北に行けば、例の修道院があるはず……
その後20分位飛んだだろうか。
砂漠の向こうに断崖が見えてきた。
きっとあの麓に「砂漠の淵」と言われる修道院があるのだろう。
「ばーちゃん高度を下げて」
近くまで行くといくつかの建物が見えてきた。
どれも砂に埋もれかけて、ここに本当に人が住んでいるのか不安になる。
ざざーっと砂を押しのけるようにばーちゃんが着地した。
それと同時に数人の修道士と思われる人が出てくる。
「修道院長様は居られますでしょうか、私はリディアルナ・スノーラインと申します」
「お姫、こう言う時はリディアルナ・ブルーローゼスの名を使って良いって言われてるでしょう?」
「でも私はロディの奥さんだもん」
ちょっとムッとする顔も可愛いとか思っている俺は末期でしょうか。
ああもう、リゾート地でお姫を遊ばせてあげられないかもしれない。
しばらくすると、細いけど眼光の鋭いしっかりした雰囲気の老婦人が出てきた。
「私が修道院長のダニエラと申します。失礼ながら王女殿下であらせられますのでしょうか?」
「もう、王女ではありませんわ。一公爵夫人です。国王陛下より、こちらからお願いしたダリア・レオダニスの扱いに困っていらっしゃるとお聞きして、魔術塔の代表として参りました」
「おお… では、命の女神様で間違いないのですね。どうぞこちらへ」
そう言って案内してくれる… が、お姫は動かない。
「お姫?」
「こんな辺境の、しかも修道院長様にまで命の女神とか言われた----」
こだわるなぁ
「もう諦めようよ、国中は元より大陸中に広がってるし、その名前」
「ううう…」
その後、修道院長に隷属の首輪の説明をして、実際にダリアを連れてきてもらうことになった。
首輪をつける時は男手があった方が良いかもしれないし、お姫の魔法があった方が良いかもしれない。
「妾をどうする気じゃ! やっと殺す気になったか、この無礼者共!!」
奥からダリアの罵声が聞こえる。
「結構元気ね」
「元気そうですね」
そして、扉を開けて入ってきたダリアは――― 鬼のような目でお姫を見た。
俺はとっさにお姫を後ろにかばう。
何も出来ない囚人だと分かっていてさえ、咄嗟に体が動いてしまうほどの殺気だった。
「このようなところまで何をしに来た!所詮下賤の身、妾の無様な姿を笑いに来たか!」
「罪人ダリア。修道院に入って学ぶことは無かったのか。他の修道女の方々の迷惑になっていることは陛下も御存知の事、その件でわざわざ騎士団へ修道院長様をお助けするよう命が下った。ダリア、これを」
そう言って隷属の首輪をその少しだけ細くなった首につける。
見た目はネックレスだからか、ダリアは大人しくしていた。
「陛下が、これを妾に?陛下はお元気なのか?」
あーそう思ったのか。
「陛下とはラインハルト陛下の事です。現在この王国はラインハルト陛下が統治なさっておいでです。---前国王陛下におかれては、正妃様の献身的な看護とリディアルナ様の治癒魔術で小康状態を保っておいでです。以前のように御酒を嗜んだりはされておりませんが、正妃さま―――現皇太后さまと共に小旅行においでになるなど、お元気でいらっしゃいますよ」
「な――― 何故今更正妃が出てくる?!」
「変われるのですよ。人は--- それで、その首輪の効果なのですが――― お姫、説明します?」
「あ、うん。罪人ダリア、その首輪は陛下よりの命令で作成しました。修道院長様の命令に逆らう事が出来なくなるというものです。その首輪は自分では絶対にはずせません。外せるのは修道院長様だけです。修道院長様これを―――」
そう言ってお姫はペンダントを渡す。
「それを首にかけておいてください。修道院長様がご不在の時は代理の方にそのペンダントを。そのペンダントを持つ人の言うことを絶対に聞くようにしたのですが…… この人が相手じゃどうだろう?聞くかな?」
「試してみたらどうですか?」
「そうですね。---修道院長様何か―――」
「ではダリア。当番通りの仕事をしなさい」
「い、いやじゃ!妾が掃除など出来るわけがないであろう!!」
そう叫びながらも、ダリアは掃除を始めている。
「「「「ダリアさんが掃除を!!!」」」」
周りの修道女の人たちの感嘆の声が胸に痛い。
とんだ迷惑を掛けてしまったようだ。
「あ、ありがとうございます、公爵閣下、並びに命の女神さま!」
「いえ、元々は王宮で処理しなければならない問題だったのをこちらにお願いしたのですし…」
と、お姫は申し訳なさそうに言う。
「そんなことはございません。この罪人ダリアは恐ろしくも姫様をかどわかしたと言うではありませんか!その様な罪人を処刑せずその罪を自覚せよとは何と情け深きお言葉。その罪を自覚させるべきは、今度は修道院の仕事でございます。このような形でお助けいただいて本当に申し訳ありません。ありがとうございました」
「あ、や、ホントすみません……」
「お姫、この方たちはきちんとダリアを更生させようと努力してくださっています。謝るのではなく―――」
「あ、うん、そうよね。修道院長様、並びに皆さま方、本当にありがとうございます。ダリアの事で困ったことがありましたら何時でも王宮へ連絡をお願いしますね」
そう言ってにっこり笑った笑顔に修道院の皆様方ほっこり。
お姫の笑顔がほっこりするのは分かりますが、これは俺のですよ。
「ではお姫。そろそろお暇しましょうか?」
「そうだね、あんまり長居しても…」
「下賤の娘!!これを何とかせい! 妾をこのままにしていくつもりか!!」
廊下を雑巾がけしたダリアが叫ぶように言う。
余裕だな。この状況でお姫の事を下賤と呼べるなんて。
「修道院長様、罰が生ぬるいようですね。罪人風情が公爵夫人を下賤呼ばわりとは」
「そうかもしれません。---ではダリア。水の魔石を掘りに行きなさい。小石程度では家に入れませんからね」
「おのれ----!!!」
「ロディ……」
「俺のお姫を侮辱したにしては、寛大な処置だと思いますけど。-----では本当に失礼します」
「あ、ホントにダリアがすみません」
「いえ、姫様のこのペンダントがあればきっと何とかなりますわ。陛下にもお礼を」
「はい、伝えておきます」
お姫がそう言って、修道院を後にした。
外に行くとばーちゃんが砂に潜って遊んでいる。 全身砂まみれだ。
「ばーちゃん……」
そりゃぁ遊ぶなとは言わなかったけど……
「いじゃんロディ、このまま海まで行こうよ!」
「そうですね」
と二人でばーちゃんに乗って、今度は海に沿って南下する。
次第に海が。青からコバルトブルーになってきた。
30分も飛んだだろうか。
小さな島がたくさん見える。
その大陸側大きな街が見えた。
アレがリゾート地、ハイゼ領ハイゼ。
一応領主に挨拶に行きたいところだが、砂まみれなんだよね。
「あ、まかせてー」
と、お姫は嬉しそうに「洗浄の魔術」を披露してくれた。
-----そんな便利な魔術があるなら、さっきばーちゃんに掛けてくれたらよかったんじゃ…
まぁ、ここは何も言うまい。
ハイゼ領、領主はアードリアン・ハイゼ。落ち着いた雰囲気の老人だ。
俺たちのあいさつにも動じた様子も何もなく、「ゆっくりして行きなさい」と言っただけだった。
過剰歓迎が多かったので、帰って新鮮だし好感が持てる。
しかしその後、案内されたのが、一つの無人島を借りきったプライベートビーチ付きの水上コテージだった。
「すごい… 水の上に家を建てるなんて---」
「元の世界ではね、結構あったんだ。---その、新婚旅行なんかで… 行くような所」
「じゃ、ちょうど良かったですね」
そう言うと真っ赤になるお姫が可愛い。
時間的にお昼だったからか、コテージには豪華な昼食が用意されていた。
二人で遠慮なく御馳走になる。
「王都の料理より、少し辛いですね?」
「前の世界でも暑いところの国は辛い料理が出た記憶があるなぁ。そんな植物があるのかもね」
そんな何でもない話をして、食べたあと二人でダブルベットに横になって。
もちろん俺はお姫を抱き込んだら、暑いと逃げられてしまった。
ちょっと休んだら海で泳ぐ。
何とばーちゃんも泳げた。
火竜なのに。もしかして違うのか?
水の透明度がすごい。
少し先で泳いでいるお姫の表情まで見える。
-------見ているのが俺だけで良かった! と言う水着まではっきりと。
領主さまありがとうございます!
この水着姿のお姫を他人には見せられない。
海に来たいと言い出したら、絶対にここに連れてこよう。
お姫はオレンジを基調にした南国の花のデザインのビキニだ。
ビキニなんだ。
もう一回言うとビキニだ。
布が小さいんじゃないのか?
そんな水着、ホントに普通に売ってるのか?
いろいろ言いたいことはあるが、ここにいるのは俺だけだ。
俺は可愛いお姫の水着を思う存分楽しんだ。
「あ――良く泳いだ---気持ち良かったね」
「ああ、ほんとに。---でもお姫、背中真っ赤だよ?痛くない?」
「あ、ホントだ、触ると痛い!」
「治癒魔法かけときなよ」
「うん、そうだね…」
「どしたのお姫?」
「このローション、背中に塗って?」
そう言って、冷却用のローションを手渡される。
俺得なだけな感じがしますが良いんでしょうか?魔術は?
「じゃぁ、痛かったら言ってね」
そう言ってローションを手にとって、なるべくそっと背中に塗っていく。
お姫は時々「痛いっ」とか「気持ちいいー」とかいいながら、結構な時間ローションを縫っていた。
「ありがとう、ロディも日焼けしたでしょ?」
「や、俺は日頃から焼けているんで」
ちょっと赤くなったかな?と言う位だ。
「えー、そうなんだ…」
---何でそんなに残念そうなんだろう。
「ローション、塗りたかったんですか?」
と聞くと頷く。
可愛い可愛い可愛い。
俺は背中を向けた。
「好きなだけどうぞ」
「うんっ」
そう言ってお姫は俺の背中に、何がそんなに嬉しいのかローションを塗り始めた。
------塗られ始めてから気がついた。
これ、何の拷問ですか?
「お姫、もう良いです。俺そんなに焼けてないし」
「えーもうー」
と、ちょっと不満気味の御様子。
でも、この後やりたいこともあるので勘弁して下さい。
「ねぇお姫? 結婚式する前、俺が言ったの覚えてる?」
「結婚式の前…? あ、あの二人きりで-----」
「うん、あたり。今日しても良い?」
「え、うん…… 良いけど私、何にも用意してない……」
「ここのね、ホテルの方で結婚式やってるんだって。衣装も借りられると思うよ。お姫、衣装選びたかったんでしょう」
「あ…うん」
ちょっと強引だったかな?とも思ったけど、俺的にはやっぱりあんな騒がしいパレードじゃなくて、きちんとお姫に伝えたかったんだ。
お姫も結構うれしそうに何度もドレスを出してきて、色はどれが良いとか形がどうとか。
俺としてはお姫が綺麗だから、何を着ても同じに見える---と言ったら怒られるんだろうな。
ディーン様が確か、それをやってセシル様の鉄拳を貰ったらしい。
男同士だって情報交換位するのだ。
ドレスを選びながら、お姫がぽつっと言った。
「ねぇロディ……? ロディって、何時から私を好きだったの?」
「何時って…… 」
難問だ。俺はきっと物心ついた時からお姫が好きだった。
「わかんない?」
「うーん、ずっと好きだったですけどね。---あぁでも、お姫がグレイシア様に言われて攻略対象と婚約がどうのって言ってた時があったでしょう?---- あの時、俺が攻略対象だったらすぐにでも立候補したのにって思いました」
「----立候補、してくれた?」
「もちろんです。-----お姫の手伝いをしているのが苦しかったですよ」
「………私も、何でロディが攻略対象に入ってないんだろうって、悲しかった……」
お姫。
お姫。
ホントに俺をどうしたいんですか。
時間をかけて、お姫は一枚のドレスを出してきた。
それは純白の、裾の大きく広がった、でもお姫の細いウエストはキュッと絞ってあって、お姫のスタイルの良さを引き立てているようだった。何て----綺麗な。
「綺麗ですお姫」
そう言っただけで真っ赤になるお姫。
ホントに、今日は理性を試される日だ。
その純白のドレスを着たお姫を連れて、ちょうど夕日が出ていたので、景色の綺麗なテラスに出る。
そしてお姫の手を取って、左手の薬指にミスリル製のシンプルなリングをはめた。
「ロディ----これって」
「グレイシア様に聞きました。お姫の元の世界では結婚の証に指輪を贈るのだと」
きっと今頃陛下も同じことをやっているに違いない。
「ロディ、これって私だけじゃダメなんだよ。ロディも---」
「はい、これを俺につけてくれますか?」
と同じデザインのリングを渡す。 お姫は指先を震わせながら俺に指輪をつけてくれた。
その姿があんまりにも可愛いのでキュッと抱きしめる。
「俺の命のある限り、お姫を愛してます。絶対に----」
「------っわたしっも---- あ、愛して--------」
その後は泣き声で言葉にならなかった。
結局、ドレスのままのお姫をコテージに抱いて帰り、朝まで寝かせてやれず、今お姫は爆睡中だ。
俺は幸せな気分に揺られながら、ドレスを返しに行き、もう数日コテージを借りるよう手続きをする。
こんな休みは次はいつ取れるか分からない。
しっかりとお姫を堪能させてもらおう。
休みは後10日位。
ここだけにいるのも、もったいないかもしれない。
お姫が起きたら相談してみよう。
……今日は動けないかもしれないが。
リクエストしてくださった、新婚の甘々&ロディ視点の「恋を自覚した瞬間」でした。
リクエストありがとうございます!




