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37.信賞必罰



「賞罰を発表するに当たり、今回の罪人をここに」


 宰相閣下の指示の後、ダリアとリシャールが鎖に繋がれたまま引きだれた。

 一緒にクーデターに参加していたレオダニス兵は代表一名のみ参加だ。

 さすがにぞろぞろ出てきても困るよな。



 引き出されてきたダリアは結構ボロボロだったけど元気だった。

「わたくしにこんなことをして、ただで済むと思っているの?!」

 などと、何を考えているのか分からない事を騒いでいる。


 一方リシャールは諦めたように静かだった。

 ----静かだけど、でも目が--- ダリアを睨んでいる。

 まぁ、その気持ちはちょっと推測はできる。きっとダリアから兄様に負けるな負けるなと言われ続けてきたのだろう。その境遇は同情には値するが……

 まぁ、クーデターはないよねー






 私もダリアとは、昔から確かにいろいろあった。

 マリアとロディを取られたのは最大の惨事だった。あの時私は死にかけた。


 正妃さまのところへ引き取られてからも、正妃さまの目の前で

「このような下賤の娘を側近くに置かれますと、王妃としての品位を疑われますよ」

 など、私だけではなく正妃さままで侮辱された。


 ゴテゴテしたお飾りの好きなあの人は、私のシンプルなドレスや飾りが気に食わないらしく「貧乏くさい」「庶民の感覚であれば、それでも高価なものか」なども言われていた。

 


 魔術を習うようになってからも、

「王族のすることではないな。所詮は下賤の身か」

「王族は自分の身は守らせるものじゃ。自分自身が力を持つなど、婚期を逸するだけじゃ。誰が自分よりも強い嫁を貰うと言うのか」


 あの日(・・・)以来、私は後宮へ行ったことはない。

 なのに何故か時々ダリアとは会う機会があり、そんな言葉を投げつけられたものだ。

 まぁ、王宮主催行事などには側室が出席するものもあるから仕方ないんだろうけど。




 でも、だからって死刑にしてほしいとは思わない。

 自分が何をしてきたのか、それを知ってほしい。自分の罪を自覚してほしい。


 私にしてきたことだけじゃなく、国庫から買った宝石なんかも全てそれは民が一生懸命貯めたお金なんだって知ってほしい。ローゼスの税率は他国と比べても低い方だ。それでも税金を払うために、民は一日に使う薪の量を減らしたり、夕食を一品減らしたりしながらお金をためている。それを知ってもらいたい。

 王族なんてそんなに偉い物ではないと言うことを知ってほしい。



 式典の直前、ダリアに対してどうしたいのかの答えが出たかと兄様に聞かれた。

 その時私はそう答えたのだ。



 王族も庶民もないのだと言うことを知って欲しいと。



 兄様は「処刑でなくともよいのか?」と聞いてくれた。

 私は首を横に振った。

 死んでは何も学ぶことはできません。生きて、自分は特別でも何でもないことを知ってほしいと答えたのだ。

 

 兄様は「考慮する」とだけ答えて下さった。

 兄様的には処刑もありだったのだろう。


 これだけ国を騒がせてくれたわけだし。何しろ罪状は王女誘拐に国家転覆罪だ。

 普通に処刑だよね。



 兄様はどんな結論を出すのかなぁ?


 グレイシア様にも結局相談できなかったし。

 というか、帰ったら兄様がグレイシア様を一人占めしていて連れだせなかったのだ。

 兄様ズルい。




 そんなことをボーっと考えていたら、兄様の話が始まった。


「元国王陛下の側室ダリア。今回の王女誘拐と国家転覆罪の主犯に相違ないか」


「誘拐などしておりませんわ!王女殿下が我が祖国をご覧になりたいとおっしゃるのでお連れしただけのこと―――」

「国家転覆罪の方は?」

「その様なこと、考えた事もございません」

「では、リシャールが主犯であると?」

「その通りでございます、ラインハルト様。わたくしに罪はございません。どうかこの鎖を、枷を取ってくださいませ」


「――――我が妹はそなたの祖国で鎖につながれ枷をかけられていたが、これをどう説明する」

「何かの間違いでございます、姫には---」




「戯言などもう聞きたくはない!!」




 兄様がキレた。

 びっくりだ。

 あの温厚な兄様が。



「貴様がリディアにしてきた数々の暴言・暴力を私が知らないと思ったか!痴れ者が!! リディアが死罪を希望しなかったため温情をかけようかとも思ったが、貴様は自身の罪も理解できぬ愚か者のようだな。死んだ後、何が悪かったのか考えると良い」



 あー…死罪になっちゃった。

 でも殺しちゃったら、ホントに救われないよね。






「恐れながら陛下」

 隣にいたグレイシア様が発言を求めた。頷いて返す兄様。

 そうですか、もう視線だけで会話が出来うレベルなんですね。


「元側妃ダリア。リディアルナ殿下のことを下賤の娘と呼んでいたそうですが本当のことですか?」

「恐れながら、王妃殿下、わたくしはそのような呼び方はしておりません」


「後宮の料理人を来れに」

 グレイシア様が呼んだのは、昔マリアが居なかった時少しの間食事をくれた人だった。


「貴方のところに幼い頃の殿下が食事を貰いに来たことに間違いないですね」

「はい。間違いありません」

「何日くらいでしたか?」

「5日か一週間ほどと記憶しております」

「その後は?」

「-----ダリア様の侍女が、今後殿下に―――下賤の娘に食事を差し上げたらこの仕事を辞めさせると------」

「よくわかりました。ありがとう、下がってください。…ダリア。何か言うことは?」


「誤解です、誤解ですわ、誰かが私に罠を----」

「罠は貴女の方が得意分野でしょう。

 貴女には知ってもらわないといけない事がたくさんあるように思います。人に貴賎はないのですよ。貴族・王族が崇められるのは、それだけの責任を背負っているから。でも貴女にはその覚悟もない。

 ―――陛下、恐れながら申し上げます。この者の死罪はしばらく待っていただけますでしょうか。この者には自分が何をしたのか、何をしてきたのか自覚してもらわなければなりません」



 さ、さすがグレイシア様---



「ではどうする? この者が居る限りリディアが危険にさらされると言うなら処刑するよりないが」


「この国の西のはずれ、砂漠の淵の修道院はいかがでしょうか。あそこは戒律も厳しく、何よりあそこに出入りするのは食糧などを定期的に送る輸送船だけ。海と砂漠に阻まれ脱走は不可能でしょう。それにドレスや宝石などにいくら血税を使ったかしれませんが、あそこの修道院は砂漠のオアシス中から取れる水の魔石で収入を得ています。そこで働かせれば幾ばくかでも国庫に返せるのではないでしょうか」


「------今後のことを考えると、どちらが良いか悩むところではあるが----- リディアルナ、希望はあるか?」


「え?私ですか?-----では、本人にお聞きします。罪人ダリア。数日後に死罪となるか、修道院で神に祈りをささげながら、砂漠で土を掘りわずかずつでも国庫にお金を返すか。どちらを選びますか?」



「--------殺せ!その様な労働が妾に出来るはずがなかろう!!殺すがよい!!!」





「では兄様。修道院で」

 にっこり。






 この位の復讐は許されるだろう。



「では罪人ダリアを西の修道院へ。そこから逃げだせば死罪とする。---これで判決となす! 次にリシャール。国家転覆罪の主犯だとお前の母は言っているがどうか」



「おそれながら、今回の件。全ては母の計画でございます」

「リシャール----っ!!!」


「罪人を黙らせろ」


 兄様の言葉で騎士団がダリアに猿轡をかませる。

 でもまだ、もがもが言ってるけど。



「母は、私が幼い頃よりラインハルト殿下---当時の殿下に負けることを許しませんでした。何かあるたびにラインハルト殿下はあれが出来る、これもできた。なのにお前は--- とその繰り返しでした。レオダニスへ留学させてもらえて一時的に自由にはなったのですが、急に呼び出されたかと思えばライナー殿下より兵を連れて行けと言われ--- 正直、こんなずさんな計画が成功するとも思えませんでしたがそれでも良かった。死罪になるとしても母の呪縛から解放される----」



「何故そこまで愚かだと思っている母に従った?」



「それ以外の選択肢は私には無かった。この国では、母は孤立しており、相談できる人もおらず--- 義理の妹が殺されそうになっているのも知っていたのに何も出来なかった。いえ、しようともしなかった ---そのうちに何もかもがどうでもよくなりました。何をしても最終的には母の人形なのです、私は」



「では、お前は自由があったならば何がしたいのだ?」



「考えたこともないので--- 今は何ともお答えできません。それにもう、死罪は覚悟しております」



「良い覚悟だ----と言いたい所だが、お前にも学ばなければならない事が多そうだ。母とは別の修道院を考えてやる。そこで己のしたこと、やりたいことの答えを探せ。―――グレイシア、適切な修道院はないか」


「そうですわね… ゆっくりと御自分を見つめ直すと言うのであれば王都近くに教会本部管轄の貴族が入れる修道院がございますわ」


「では教会側と相談するとしよう。------誰か異存のある者はないか!」


 場内からは誰ひとり反対の声は無かった。

 これで二人の処遇は決まった。



 処遇の決まった二人は、騎士団により牢に戻される。

 ダリアはまだモゴモゴ言っていたが、もうどうしようもないだろう。





 そして気の毒な一般参加のレオダニス兵。代表者は隊長さんだと言うことだ。


「お前たちの中で我が国に個人的な恨みを持って参加した者があるのか?」

 兄様がそう聞くと、思いっきり首を横に振った。


「おそれながら陛下に申し上げます。私達はライナー殿下の近衛兵の一部隊でございました。今回、ライナー殿下の命にてリシャール殿下と主にブルーローゼスへ赴きリシャール殿下の命に従えと、それだけしか聞いておりませんでした」


 隊長さんは気の毒な程青くなっている。


「私達に貴国への叛意は全くありません。どうか、死罪となるなら隊長を務めました私だけに----」


「----ライナーはものの分からぬバカ者だな。このような義に厚い者を捨て駒にするとは--- 隊長職のお前、名を何という」

「は、私はダニエル・リットと申します」


「ではリット。私に仕える気はないか?」

「-------私が、でございますか?ほ、他の者は……」

「ふむ、すべて無罪という訳にはいかないか。では我が国は最近魔法金属の鉱山が発見され人手が不足しいる。そこで規定の年数を働けば後は自由にすると良い。全員だ。リット、その時にその気があれば私を訪ねよ。詳細は宰相に任せる。異論のある者はないか----- では以上だ」


 リットさんは涙ぐみながら退場して行った。

 さすが兄様です。














「では、今回の戦にて功績のあった者の発表に入ります」

 と、宰相閣下が話を続ける。



「まず、もっとも功績のあった、ロディ・スノーライン。王女の救出・ドラゴンによる斥候での作戦決定への貢献、レオダニス王宮より逃走する罪人ダリアの身柄の確保。これらの功績により大変異例ながら、陛下の御意向もあり侯爵への陞爵(しょうしゃく)を行うものとする。ロディ・スノーライン!」

「はっ!」


 正装のロディが兄様の前に行って膝をつく。



「此度の活躍、見事であった。これからも頼む」

「---我が身の全てをかけて」




 ロディが侯爵---

 しかも、正装のロディと兄様、何だかカッコイイです……

 ああぁ見に来て良かった。

 



「次にディーン・ロックウェル。魔法陣にて殿下の居場所を正確に探しあて、さらに索敵用の魔法陣でクーデターを未然に防ぐことに成功した。敵地では婚約者殿と共に多数のけが人の治療にあたり、我が軍の死者をゼロに抑えた。これらの功績を持って、婚約者殿と婚姻ののちに侯爵へ陞爵するものとする。」


 ディーン様?!

 -----私の居場所を正確に把握って-----

 やっぱりアレか。

 例のストーカー魔法陣か?!


 まぁいいか。これからはセシル様が手綱を握ってくれるだろう。


「そして次に----









 どんどん功績のあった人たちの名前があげられてる。

 シーザー様もオリハルコンの剣の攻撃力アップで御褒美があった。

 鍛冶屋になってしまったらどうするんですか。



 驚いたのは例のエクスプロージョンの矢で魔術塔が褒められてしまった。

 過激派が頭に乗ったらどうするんだ兄様!




 それにしてもロディが侯爵---

 侯爵。



 もう。

 身分がどうのって、言われなくて済むんだ------


「殿下、殿下、ロディさんがやりましたよ!侯爵ですよ。もう十分王女の結婚相手になれるんですよ!!」

「あ、---うん。」

「言うんですよね、もう、言っていいんですよね」


「セシル様だって---婚儀の後は侯爵だって言ってたじゃないですか。内助の功ですね」

「ええ、殿下。当たり前です!惚れた相手を出世させてこそ、大事にして頂けるってものじゃないですか」

「ディーン様はもうセシル様なしでは生きて行かれませんね」


「殿下もそうするんですよ! ロディさんにきちんと言って、大事にしてもらうんですよ!」

「もう十分大事にしてもらってるけどね」

「惚気ですか?私相手に惚気るんですか?良いんですか?私も惚気ちゃいますよ」

「いやいやいや、結構です」


 

「何をばかなこと言ってるんですか」

「あ、グレイシア様。あれ?兄様のところじゃ……?」


「ロディが陞爵したのですから、わざわざ抜けてきたのですわ。良いですかリディアルナ様。プロポーズは女性からでも良いんですからね」

「グレイシア様まで!」


「グレイシア様、いっそここにロディを連れて来られませんか?」

「良いですね。あ、いえ待ってて下さい。それより、この干物を連れていきましょう」

「え?え?グレイシア様何考えてるんですか---!」

「何って干物の治療に決まってるじゃないですか」



 や、この戦勝祝賀ムードの中、干物治療とはどんな関係が---




 と思っていたら、兄様の隣にいるロディのところに連れて行かれてしまった。

 当然兄様は今も玉座に坐しておられる。

 その隣だ。


「ああ、リディア。調度良いところに--- ああ、グレイシアか。いつもすまないな」

「いいえ陛下。私も心配でしたもの」



「リディア。整えてやると言っただろう」

「え…あ、はい---」

「どうする?私が言ってやろうか」


 え?

 え?

 兄様、ここで?!


「あ、後でゆっくり---」

「いや、せっかく身分がどうのという輩が居なくなるのだ。聞いたぞ、レオダニスのアシスからも求婚されたと言うではないか。しっかりお前には婚約者が居るのだと言うことを公表しておく必要がある。せっかく国の貴族がほとんど揃っているのだ。機会は逃すな---―ロディ!」




「え?え?兄様、本当に----」


「どうしたんですかお姫、顔真っ赤ですよ? 陛下?」


「ロディ、侯爵だ。侯爵になった。妹に、そして私に言うことはないか-----?」

「陛下-----? ラインハルト陛下------」


「うむ。言う順番は私は後でも良いぞ」

「陛下------」





 え?

 

 え?

 

 ロディ、何言う気!?

 

 まさか

 

 --------まさか。





「リディアルナ様。リディアルナ様から言っても良いんですよ!」

「殿下頑張れ!超頑張れ!早い者勝ちです!」


 



 いつの間にか、会場は静まり返っていた。



 こ、この場で言うのか?

 言えるのか?




「------お姫」





 ロディが真剣な顔で私を見る。


 あ、かっこいい。


 じゃない!

 

 ロディの手が両肩に掛る。


 近い!

 ロディ近い近い!!




「待って------!」




 ロディの肩を押して近づいてくるのを止めた。

 言うんだ。

 私が言うんだ。

 

 



「私に言わせて----- 」





 ロディがちょっとびっくりした顔してる。

 言わなきゃ。言うんだ!









「―――――――ロディ、私を、お嫁さんにして下さい!!」








「もちろんです。俺からも言わせて下さい。お姫。一生俺と一緒にいて?」




 私はものすごい勢いで首を振った。

 それと一緒に何でか涙が出てきた。





 ロディ。

 ロディ。


 これからずっと一緒にいられる。

 もう、政略結婚におびえなくても良い。

 一生、側に-----






「ここに国王ラインハルトの名において王女リディアルナとロディ・スノーライン侯爵の婚約を発表するものとする!」


 高らかに兄様の声が広間に響いた。


 ああ、終わった---- そう思ったら今までの疲れが一気に出て目の前が暗くなる。

 でももう終わった。 それだけ安心できる。

 

 私はロディの腕の中で心置きなく意識を手放した。
















 祝!干物完治!!



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