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4.ハルト兄様に婚約者が出来ました






 この国、『ブルーローゼス』は平和な国だ。


 国土は大陸の6割を占め、豊富な資源と実りの豊かな大地。

 辺境に山や谷を隔てた小国はいくつも存在するし、民族が違う領地もあったりする。

 それに険しい山々には魔物がいたりもするが、基本的には平和である。


 ここ120年は戦争もない。

 時々王位争いはあるらしいが、水面下のもので内乱にまで発展したことはない。


 つまり。

 国内最大火力なんて言われても、実際することなんて無いんだよね。




 や、良いんだけどね、平和。

 うん、前世日本生まれとしては平和は最大の財産であることはよく知っている。

 正直、戦争なんて言われたら、人を殺せる自信はない。

 って言うか、たぶん無理。


 うん、自衛隊と一緒だ。

 災害救助がメインで、一応ゴジラに備えておけばいいんだ。



 …でも、これって。

 普通にファンタジー王室物?


 私の魔力チート、どこで使ったらいいんでしょう…






 そんな下らないことを考えながら、今日も師匠と一緒に魔術の訓練をしたり、新しい魔術の開発をしたりしていたら、ラインハルト兄様から話があると言われた。


 兄様の頼みなら、どんな辺境だってドラゴン退治だって行きますよ!と、意気込んで兄様の私室をノックする。


 

 …ん?、私室?

 討伐系の命令なら執務室よね、呼ばれるのは。

 そう思いつつ扉をあけると、兄様と一緒に黒髪の美しい巨乳?美人が立っていた。や、確実にCカップくらいありそう……



 ………。

 こ、これは……


「忙しいところすまないねリディア、早めに紹介しておこうと思って」

 と兄様がにっこり微笑む。キラキラオーラが半端ない。


「こちらはグレイシア・ソフィアローズ嬢。ソフィアローズ公爵家の令嬢だ」

 その言葉と共にグレイシア様はスカートのすそをつまむように淑女の礼をとる。


 私もあわてて礼をとろうとしたら、魔術師のローブのままだった。

 何とか見苦しくない程度に頭を下げる。




 ………。


 えーと、基本的に貴族社会では身分が上の者が話しかけない限り、目下の者から声をかけるのは不敬とされる。


 私は庶子だ。相手は公爵令嬢。

 グレイシア様からお言葉がほしいところである。


「あー… リディア、お前から頼む」

 と、ちょっと困った顔の兄様。でも……。

 や、しかしここで二人で固まっていても話が進まない。後で丁重に謝っておこう。




「失礼しました、グレイシア・ソフィアローズ様。リディアルナ・ソレイユと申します」


「こちらこそご無礼をお許しください。グレイシア・ソフィアローズです。この度、ラインハルト殿下とのご婚約が内定いたしました」



 !! やっぱり!そう思ったんだよね! やったね兄様!



 

「おめでとうございます!兄様も17歳、そろそろとは思っておりました。グレイシア様はお幾つでいらっしゃいますか?」

「私は13歳です」


 13歳!ちょっときつめの雰囲気の方なので、もう少し上かと思ったのですが、つり合い的には良いのではないでしょうか?何より優しげな方ですし。


 しかし、兄様。13歳ですか。

 13歳のCカップ(将来有望)美人ですか。

 私の前世の世界では犯罪者ですよ。



 兄は私の目が少し冷たくなったのを感じ取ったのか、あわてて弁解を始める。

 家柄や年齢の件で他に候補がいなかったとか何とか。

 婚約だけで結婚はまだまだ先だとか。



 ……兄様。そういうことはグレイシア様がいないところで言ってください。




「すみません、不束な兄ですが末長くよろしくお願いします」


 ため息をつきながら頭を下げると、グレイシア様からクスクスと可愛らしい笑い声が聞こえてきた。


「本当に、殿下からお聞きした通りの方で驚いています。私こそ、末長くよろしくお願いしますね」

 と全開の笑顔だ。


「はい!本当によろしくお願いします!」



「それと、私のことは呼び捨てで構いませんのよ?リディアルナ様はこの国の王女であらせられるのですから」


 そう言って優しげに微笑んでくださる。……優しい方だ。



「ありがとうございます……。でも私は国王陛下から王家の性を名乗ることを許されておりませんので」

 

 この国の王家の姓は、国名と同じブルーローゼスだ。

 私は亡くなった母様の姓ソレイユを名乗っている。

 この段階で公爵令嬢との身分の差は比べ物にならない。



 書類上のみ、私は王女とされている。


 それはこの国に、他に王女がいないからだ。

 万が一、他国と婚姻関係を結ばないといけないときに王女の一人もいた方が体裁が良い。


 私はそのためだけにここにいる。


 もちろん最近は魔力チートのおかげで少々のことでは国を出されることはないと踏んでいるのだけれど……


 だけどあの国王、油断はできない。





「それでも、殿下の妹姫を呼び捨てになどできませんわ。王族としての扱いをお許しください」


「いえ、それは陛下のご意思に反するので… では、友達、ということでどうですか?私もこんな身の上、年の近い友人など望むべくもありません]



「それは素敵ですわ!ぜひよろしくお願いします」

「私もうれしいです!」




 兄様に婚約者を紹介されたら、なし崩しに友達が出来ました。

 私にとってはとてもうれしいんだけど兄様的にはどうなんでしょう? 今度聞いてみましょう。

 13歳ということは私より1年早く学園に入学されるんだよね…… 

 この国は14歳から18歳までの4年間、希望者には学校に行くことが出来る制度がある。もちろん義務教育ではないが、授業料などは国から補助金が出ており、ただ同然で勉強できる施設もある。

 もちろん貴族や富裕層向きの豪華な学園もある。大体の貴族はここに入学することになる。


 でもなぁ…… あまりいいうわさを聞かないんだよね、この学園。大丈夫かなグレイシア様…







 で。

 兄様がグレイシア様を私に紹介したのは下心万歳だった。


 や、兄様が悪いんじゃないよ?


 あきらめないダリア様が悪いんだけどね。準備ってものがあるからね、ほんとにいろいろあるからね。

 もう少し早めに紹介してくれてもいいと思うのよーー!



 兄様はキラキラした笑顔で、「ごめんね、頼んだよ?」とにっこり笑って去って行った。

 うーー、そう言われたら断れないし!


 ……絶対兄様、あのキラキラ笑顔の使い方間違ってると思う……



 

 そして現在、私の眼の下には黒々としたクマが生息中である。

 今までの私の護衛対象が正妃さまと兄様二人から、もう一人増えるのだ。

 グレイシア様を現在の城内の守護魔法陣の中に組み込む。これだけで一カ月以上かかる作業である。


 ちなみにこの守護魔法陣。開発者は私なので逃げることが出来ないのだ。


 魔法陣を入れ込んだ魔宝石も用意した。グレイシア様の瞳と同じきれいな緑色だ。気に入ってくれるといいんだけど。




 しかも。





 グレイシア様を紹介されたのは兄様の15歳の誕生祝いのパーティの10日前だった。







 魔術塔はデスマーチに突入した。


 睡眠時間は限界まで削られ、パーティが行われる広間を中心に、守護魔法陣の書き換えを行うのである。

 城内全部の守護魔法陣を書き換える時間はさすがになかったので、グレイシア様が行かれる可能性の少ない場所に関してはスクロールを転写していく。


 これは、普通の紙に魔石の粉を混ぜたインクで書かれた魔法陣を、魔術を使って壁や床に転写するのだ。ただこれには欠点があって、時間経過でだんだんと消えていく。なのできちんと刻印しないといけないんだけど…



 時間がない!!

 10日なんてあんまりだ!!



 元々魔術塔は、そこまでブラック企業ではなかったはずだ。(ん?企業?)

 長い平和のおかげで魔術師そのものが減っているし、攻撃魔術の研究をしてる人なんていない。

 既存の攻撃魔術や補助魔術は使える人は多いんだけど、何しろ使うところ無いし。

 大抵は生活魔道具の研究をのんびりやってる感じだ。


 平和ボケってこんな感じの事を言うんだろうなぁ。

 日本の自衛隊はガッツリ活動してたぞ。災害救助メインだったけど。




 しかし現在、ブラック企業も真っ青な状況である。

 ストレスのあまり、時々訳の分からない事をぶつぶつと呟き続ける奴や、困るのがあたりかまわず攻撃魔法をぶっ放す奴もいた。

 私だってぶっぱなしたいわ!


 しかしそのストレスはロディがさりげなく差し入れてくれるお茶や甘味に癒されているので他人の攻撃魔法くらい相殺するだけのは余裕がある。

 ロディがいなかったら私、使い物にならないね。


 何時間も魔法陣にかかりっきりになっていたら、口の中にスプーンを突っ込まれた。

 いつかのはちみつの味だ。


「もう二日も食べてないですよ?」


 優しい口調だが目は笑っていない。…怖い。私は逆らわずにはちみつをなめることにした。








 いよいよ兄様の誕生祝いのパーティの日。

 魔術塔は死屍累々であるが、私にはまだ大仕事が残っている。

 私はパーティの参加者なのだ。この状況でダンスとか踊れるのか……?



 これから入浴して全身をマッサージしてもらって(これをしないとクマがとれない)ドレスの着付けに髪を何とかしなきゃ……

 うーん、そもそもドレス、着られるのがあるかなぁ。


 私にはドレスを買う趣味はない。

 王家の義務で出るパーティで恥ずかしくない格好であればそれでいい。

 しかも派手なのは生理的に受け付けない。フリルもレースも過剰なのはお断りだ。

 こんなところは、前世の干物女根性が染みついている。



 いつもは専属のデザイナーが私がいろいろ言わなくても揃えてくれるから任せっぱなしだった。

 今回はそのデザイナーさんにすら連絡もしていない。

 仕方ない、昔のを引っ張り出すか…。

 でも最近私、身長伸びてるしなぁ…。



 そう思って衣裳部屋に入ると、後ろから乳母のマリアの声がかかった。

「リディアルナ様、ドレスでしたらお仕立てが済んでおります。お早く着替えてくださいませね」


 …さすが、生まれた時から私を見ているマリア!抜かりはないのね!


 

 私は観念して目を爛々とさせた侍女隊にすべてを任せた。



 常日頃、私は魔術塔で魔術師のローブで過ごしていることが多い。

 マリアはそれを「嘆かわしい」といつも言っていた。

 

 それなのでこんなに堂々と着飾る機会は逃したくないというところなのだろう。


 ……この時点で私に逆らう気力は残っておりません。

 好きにしてください……











 …ねぇ、王室ファンタジーにしても、なんだか立場が変じゃない?

 普通、王室が召喚したなら勇者とか神子じゃないの??

 そもそも私の希望はRPGであって王室ファンタジーじゃない~!



7/23加筆修正

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