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32.レオダニスへ


 馬車の中は、お世辞にも快適とは言えなかった。

 大型の馬車のはずなのに、ひどく揺れる。


 ----これだけの石を積んでいれば当たり前かもしれないが。

 私はその石の上に、足枷をつけられ、その足枷から伸びた鎖が石に固定されている。


 白い石が数珠つなぎになったロープは外された。

 でも、下にひいてある白い石のせいでか、全く体に力が入らない。

 腕をあげる事も出来ないから、ばーちゃんを撫でてあげることさえできない。


 しかもこの吸魔石とやら、ばーちゃんにも影響しているみたいで何時もより動きが悪い。

 私のように身動きが取れないわけではないが。

 

 

 私を乗せた馬車は、私とばーちゃんだけを運んでいる。

 ダリア妃は前の馬車で優雅に御帰国だ。


 レオダニスまでは、普通ならば馬車で3日ほどの距離だ。

 でもこの季節。

 峠はもう雪が積もっていることだろう。

 わざわざ雪をかきながら進む?

 だったら何時になったらたどり着くか分からない。


 私はこの、揺れの酷さと寒さ、吸魔石の影響でもう限界だ。

 なにしろ私は新年のパーティドレスのままだ。

 

 王都を出たのは昨日の昼。

 今はもうすぐ夜明けくらいの時間だが、既に息をするのがやっとな感じ。

 昨夜、侍女と思われる人がパンとスープを持ってきたが、とても食べられる状態ではなかった。

 ----水も飲めないとなると、本気でやばい。


「みゅー…」

 ばーちゃんが石の上を這うように側に来て、私を温めるようにすり寄ってくれる。

「あり、がと ばーちゃん… 隅の方の 石の、少ないところ へ 行ってて。 ね。」

「みゅー」

 何時もは言うことを素直に聞いてくれるのに、今回は譲れないとばかりに私にすり寄る。

 ばーちゃんがいる所だけが暖かい----


 

 馬車は急いでいるのか夜間も休憩を取らなかった。通る街で馬を変えるだけで、かなり急いでいるようだった。

 いくら急いでも、どうせ雪に阻まれるのに------

 

 どう考えても違和感があった。


 でもその違和感も、馬車の揺れの吐き気に邪魔されて上手く考えることが出来ない。



 そうしているうちに、また日が昇り朝になった。

 馬車が止まり、たくさんの人の声が聞こえてくる。


 -----どこかの町?

 

 いえ、レオダニスの国境付近に大きな町は無かった。

 

 それから、馬車はゆっくり進み建物の中に入ったのが分かった。

 何処だろうここは。

 不思議に思っていると、昨日食べ物を持ってきた侍女が顔を出した。


「----まだ生きているね。死んだら元も子もない。ここで少し休むから馬車酔いが収まったら食べるんだよ」

「ここは--- 一体---?」

「国境の砦だよ。死なれたら困るからしばらくここで休むんだ。あんたが回復すれば出発できるからさっさと食べておくれ」


 侍女はそれだけ言って、やはりパンとスープを置いて行った。


「国境の、砦-----」

 確か兄様が…… 武器や食料を運びこんでるって言ってた…

 -----ここで、追手を食い止めるつもりなんだ。

 初めから、私を力ずくで連れて来て、ここでブルーローゼス軍をたたく----



「ばーちゃん…… 飛べる?」

「みゅ!」

 ばーちゃんは強くうなずいて元の姿に戻ろうとした。


「待って待って、違うの。私は行けない--- 足を切り落としたりしない限り行けないの。でもね、この状況を兄様に伝えないといけない。手紙を持って、飛んでほしいの。兄様のところへ」

「みゅ――…」

 ばーちゃんはものすごく不本意そうだ。

 しかしさすがに自分の足を切り落す度胸は無い。


 あー… ミスリルの短剣があったな。アレでこの鎖、切れないかな。

 あ、でもここで逃げだしても、足枷が付いていたら魔術は使えない。

 足枷をつけたままでは、ばーちゃんが飛ぶ時の風魔法にも影響してしまう。

 かと言って自力で王都まで帰ることは不可能だ。

 やっぱり手紙を書いて、兄様に迎えに来てもらおう。


 私は何時も持っているアイテムポケットの中からインクと紙を取り出し、簡単に今の状況を書いた。

 それと、ロディの無事を確かめてほしいことも。

 これだけの作業で息が切れて、また動けなくなる。


「ばーちゃん、お願い。兄様を、ここま、で 連れてきて---」

 そう言ってばーちゃんの足に手紙をくくりつける。


「みゅ―… …みゅ!」

 ばーちゃんは私の手をペロッと舐めて、それから窓を見て、そこから一気に王都へ向けて飛んだ。


「ごめんね… 頑張ってねばーちゃん----」


 

 私はそこまでで限界だった。

 また石の床に倒れ込む。

 視界が暗くなる----- その前に水だけでも飲まなきゃ----


 手を伸ばして、水の入った瓶をとる。

 何度かに分けてコップ一杯ほどをやっと飲んだ。

 でも、そこまでだった。










「起きな! 起きなって!」

 

 乱暴に揺すられて目が覚めた。

 とはいえ、体が動くわけじゃない。

 状況は変わらない。


「あんたが回復しないと出発できないって言っただろう。全然食べていないじゃないか」


「身体が--- もう、 動かな、い」

「食べていないからだろう」

「この、石のせい--- 身体の魔力を--- 吸い取られてる…」

「食事も出来ないのかい?」

「手も、動かない--- さっき、やっと水だけ飲んで---」

「さっき? その瓶の水を足したのは昨日だよ。それからずっと寝てたのかい」

「あー、寝ていた、訳では----」


 侍女はしばらく考えているようだった。

 あー、また視界が暗くなってきた。

 やばいかもー


 侍女が何か言いながら離れていったのは分かったけど、後はもう-----






 次に目が覚めたのは、粗末だったがベットの上だった。

 ここは----?


 身体に力が入る。

 とりあえず水を飲む。

 あー 美味しい。


 周りを見ると、どうやら砦の兵士の私室の様な作りだった。

 さすがにあの馬車のままじゃ回復はしないと思ったのかな?

 足枷はついている。その先の吸魔石も一緒だ。

 試してみたが、やっぱり魔術は使えない。

 でも、下に吸魔石を敷きつめられたりしなければ、身体は動かせるんだ。


 今はいつなんだろう。

 何日くらいたった?


 良く分からないけど、枕元に置いてあったパンをかじってみる。


 うん。固い。 

 

 でもまぁ、食べられないほどじゃない。

 何しろ小さい頃、当のダリア妃に鍛えられたので、固いパンくらい余裕で食べるぞ。


 ばーちゃんは無事に兄様の所にたどり着いたかなぁ----



「おや、目が覚めたね」

「あー お世話になります?」

 って言うのも変だな。誘拐犯の一味だぞ。


「あんたが回復しないとどうしようもなかったからね。パンは食べたのかい?もう固かったろう」

「まぁ、でも食べられない程では---」

「ふぅん、変わったお姫様だねぇ。まだ食べられそうかい?」

「いえ、今さっきのパンを食べたのでまだ---」

「そうかい。だったらもう少ししたらみんなの夕食の時間になるからその時にまた持ってくるよ」

「あのー もう昼も夜も分からないんですが、今はここにきてから何日たってるんですか?」

「ああ、3日目だね。昨日あんたをここに移したんだ。そしたら少し顔色が良くなってきたから。明日には出発できるかねぇ」

 

 明日?!


「あ、あの、ここから目的地まではどのくらい---?」

「あんたがばてなければ3日かねぇ」

「み、三日--- 無理です、さすがに無理です!」

「そうは言ってもねぇ」

「せめて、馬車の石を無くしてください。そうしたら3日頑張ります」

「それはえらいお人に聞いてみないと……」

「あの状態だったら、三日は持ちません!」

「じゃぁ言うだけは言ってみようかね。雪の中で行軍を止められちゃかなわないからねぇ」


 侍女はそう言って出て行った。


 -----三日後には、レオダニス------


 ダリア妃はこんな誘拐まがいのことをして、一体どうするつもりなんだろう。

 いくら私がレオダニスの王妃になったって、ブルーローゼスとの関係は一気に悪化するのは目に見えているはず。

 悪化どころじゃない。

 最悪戦争だ。

 そうすると私は人質か----

 冗談じゃない。人質なんてまっぴらです。


 でもこの吸魔石の足枷をどうする?

 このままじゃ魔術は使えない。

 使おうとする度に吸い取られていく。


 ん?

 

 使おうとする度に?

 --------イージスみたいに敵に接触した時に発動する?


 だったら、魔法を二つ、重ねてみたら?

 -----でもまぁ、それは最終手段だな。どれだけ消耗するか分からない。



 そんなことを考えていたら、侍女が夕食を持ってきた。

「食べられそうかい?」

「そうですね、全部は無理かもしれませんが」

「なるべく食べておくんだよ」


 そう言って部屋を出た。

 パンと温かいスープに、果物と砂糖菓子が付いている。

 -----砦にこんなものが?

 そんなはずない。

 あの侍女、悪い人じゃないんだなぁ……


 もそもそと、侍女の心づくしをいただいていると何だか外が騒がしくなってきた。

 夕食時に騒ぐなんてマナーが悪いなぁ。


 デザートのお菓子につられて、結局全部食べられた。

 やっぱりあの白い石がなければ何とかなるんだ。


 

 ばたん!!

 と 勢いよく扉が開いて侍女が駆け込んできた。


「あ、御馳走さまでした。お菓子ありがとうございます」

「お菓子どころじゃないよ!すぐに出発だ。あんたの国が軍を出したんだ。-----戦争になるよ」

 

 

 ------はいぃっ?!





 私以外には吸魔石は軽いものらしく、侍女は軽々と足枷につけられた吸魔石を持って、私の手を引いて走る。

 行く先は例の馬車だ。


「あ、あの、石は----」

「相談している暇がなかったんだよ。端に寄せてやるから頑張んな!」

 

 そう言って侍女は馬車の床に敷き詰められた石を隅の方に寄せて、私を木の床に座らせた。


「ちょっと待ってな」


 また、バタバタと砦の中に入ってクッションと膝かけを持ってきてくれる。

 確かにこれなら、だいぶ快適だ。


「これなら三日頑張れるかい?」

「ありがとうございます、何とかなりそうです。----あの侍女さんは?」

「私はダリア様のお世話が仕事なんだ。前の馬車に乗ってるよ。何かあったら呼びな。私はザーラって言うんだ」

「ありがとうございます、私はリディアルナです」




 バタバタと出発の準備がされていた。

 その中、何とダリア妃がやって来たのだ。

 せっかくザーラさんが用意してくれたクッションとか見つかっちゃう---


「やっと起きられるようになったようじゃな」

「吸魔石の量が問題みたいですね。ここに来た時の状態ならまた動けなくなりますよ。---私が死んだら困るのではないのですか?」

「確かに兄上との婚儀までは生きていてもらわねば困るな。ではそのままの状態で行くとしようか---- その後は、どうなろうと兄上は気になさらないだろうがな」


「公式の場に正妃不在で構わないと?」

「死んだことにすれば良かろう」


 何でもない事のように言うダリア妃。

 やばい。

 ホントに婚儀が終わったら殺される。

 ----でももしかしたら殺された方がマシかもしれん。


「まぁ、当分は殺さぬ。安心するが良い。王太子殿下が大層ご立腹でな。ブルーローゼスは出征が決まった様じゃ。当分は人質だな」

「それは嫌です」

「王女サマの意見は聞いておらぬよ。それに人質の期間も、そう長くは無い。安心されよ」

「------それは、どういう----」


「まぁ、王女サマはレオダニスの正妃になる方。言うても構わぬじゃろう。今、王女サマを取り返しに王太子殿下が烈火のごとく出陣してくる。

 ------その間に、王都オンディーナを落とすのじゃ。我が子リシャールがな」

「リシャール…… 殿下?」


「そうじゃ、ラインハルトよりも半年だけ遅く生まれただけだと言うに、当たり前のように王太子の候補にも挙げられなかった我が子リシャール。妾は涙をのんでリシャールをレオダニスに留学させておったのじゃ。帝王学を学ぶためにの。そして此度、大事な妹姫を取り返すべく王都を空けた間抜けな王太子に代わって、リシャールが王になるのじゃ。幸いガイナス国王も殺す必要もなさそうじゃしな」


「-----クーデター………?」

「ただの王位争いじゃ。どこの国でもあろう。そなたの兄が間抜けだっただけじゃ。さ、早うこの砦を出るぞ。そしてこの砦でそなたの兄を迎え撃つのじゃ」


「ブルーローゼス軍は負けたりしません」


「そうなれば、そなたの出番じゃな王女サマ」


 言うだけ言ってダリア妃は馬車に乗り込んだ。

 悔しい、悔しいーーーー!!!


 どうする?

 考えろ。

 兄様の軍はこっちに向かっている。

 ---ああ、私がばーちゃんに手紙なんて持たせたからだ。




 私が後悔の海に沈みこんでいる間にダリア一行は出発した。

 あぁまた馬車酔いが……

 

 と、思った瞬間後方で爆音がした。

 

 兄様の軍が着いたんだ-------

 もう少しあそこで粘れば良かった……?

 や、そしたら一緒に爆撃をされた??


 にーさま。

 人質の居場所の確認はしたんですか?




 ちょっと自分の兄に不信感をつのらせている時、二度目の爆音がした。

 最初のものより大きい。そして立て続けに爆発音が鳴り響く。

 

 ----って、なにこの爆音。

 魔術塔にはこんな攻撃魔法をつかう人なんて、そんなにいないはず------ あ。


 そう言えば、ミスリルの矢に爆裂魔法を仕込んでいる人がいましたね。

 アレですか。

 爆裂魔法ですか。


 別名、エクスプロージョン。


 もちろん私も出来ます。----足の輪っかがなければ。

 過激だなー アレ使ったんだ。

 じゃぁ砦はもう落ちるかも知れないな。

 少なくとも時間の問題だろう。

 あのエクスプロージョン、山ほど作ってたもんね。


 そんなことを考えているうちに、砦が崩れるがれきの音が響いた。


 ----やっぱり早いな。

 そもそもハルト兄様は戦上手だ。戦術も戦略も非の打ちどころがない。

 ……今はちょっと逆上しているかもしれないけどさー


 馬車はもう、すっごいスピードを出している。

 さすがにローゼス軍に追いつかれることは無いか----?


 そう思って空を見た。


 ばーちゃん。

 ばーちゃんが飛んでる。

 乗っているのは----- もちろんロディだ。




「ロディ----」


 ああ、吸魔石のせいで大きな声も出ない。

 でも、この隊列が見えないはずはない。

 きっと見つけてくれる------



 そう思ったのに。


 レオダニス軍はばーちゃんに向けて、投石器の様なもので吸魔石を打ち出した。

 さすがに避けようとするばーちゃん。

 

 あ、ロディ落ちちゃう---!

 もういいよ、いったん引いて!


 それでもばーちゃんは投石器の合間を縫って隊列に近づこうとしてくれている。

 ああ、投石器の数が多い。

 押されている。


 危ないよ、もう引いて----!



「お姫--------!!!」


 ロディ……

 ロディ-----!

 

「お姫、待ってて!必ず行くから!!」


 見えるかどうかわからない。

 でも私はしっかり頷いた。






 その日、砦は異例の速さで壊滅したが、私を連れた隊列にローゼス軍が追いつくことは無かった。















 会えたのに、会えたのに----!

 帰れないのかな?

 もう、レオダニスに着いちゃう。

 着いたら婚儀? え? 本気??

 マジ結婚式ですか-----?!

 グレイシア様!! R18は無いんですよね!!


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