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30.吐血


 どのくらい泣いたのだろう。

 空がうっすらと明るくなってきている。

 ばーちゃんはまだ私の膝でみーみー鳴いている。


 ああ、何だか目が腫れて、すっごくブスになっていそう……


 ロディ、遅いな。

 やっぱりどうしようもないのかな?





「リディアルナ様!」

 バンッと音がするくらいの勢いで扉が開き、セシル嬢が入ってきた。


「大丈夫ですか? ---ああ、こんなにお泣きになって……目の腫れを治しておきますね」

 そう言って私の目を覆い、回復魔術を使うセシル嬢。

 ホントに成長したなぁ


「今、ラインハルト殿下が陛下とダリア様相手に交戦中です。---でも、陛下は何を言っても聞き入れる様子がなくて……」

「そう…… 初めから、そう言われてきたからね」

「そんなバカことあるわけないです。殿下はブルーローゼスの宝だと、国の重鎮の方々がおっしゃられていたではありませんか。そもそもラインハルト殿下が許すはずがありません」


「…でも、『王女リディアルナ』は政略結婚のために王家に残されたの。それだけのために……」

「だから何だと言うのですか! 殿下も言っていいんです! 好きな方を好きだと言っていいんです!!」

「私には、言ってはいけない事だと……」

「違うんです、殿下だって、誰だって好きな方に好きと言っていいんです!!----言ってください殿下。殿下がお慕いしている方に、言ってください。先ほど、ラインハルト殿下と分かれて別行動にはいられましたから、もうすぐここに来るはずです。-----言ってださいね。絶対ですよ」


 もうすぐここに来る?


 え? 


 何を言うの?



 好きだ、って言う---?



 と、小さくノックの音がした。

「あ、ちょっと待ってて下さいね」

 とセシル嬢がドアを開けに行く。---そこにはソニア嬢がいた。


「---ソニア様?」

 何故ソニア様がここに?

 ここは重要施設で出入りには許可申請が----


「リディアルナ殿下、こんな時になるまで言えずにいたことをお許しください。レオン様を支援して下さって本当に本当にありがとうございました。-------時間がないので、これを」

 と、持っていたバックの中から箱を取り出す。もどかしそうにその箱を開けると、そこにはミスリルの花で創られたブレスレットが入っていた。


「レオン様からです。今は私の方が動きやすいだろうからって、頼まれました。これを身につけておかれてください。栽培用にはちゃんと残してあるので心配されずに」


 ミスリルの花…… と言うことは、最低限を残して全部使って作ってくれたんだ……



「あ、ありがとうございます…… レオン様には薬草園の完成までお手伝いが出来なかったことをお詫び申し上げなければ----」

「何を言われますか、殿下はこの国で薬草園の管理を続けるのですよ。そのために今皆が動いています」

 そう言いながらソニア嬢は私に左手に、ミスリルの花のブレスレットをつけてくれる。


「それともうひとつ」

 そう言って今後はミスリルの短剣を出してきた。


「シーザー様からです。ベルトの後ろになるように付けますね」

 それも、ソニア嬢がドレスの上に不自然に見えないような青を基調にした組み紐で作ったベルトに短剣を固定した。


「決してあきらめないでください。絶対みんなで何とかします」

 ソニア様--- この方はこんなに積極的な人だったろうか?


「それと、魔術塔へは入口の人が通してくれました。今、下はダリア派の人と魔術塔の人が大騒ぎをしています」


 ん? ダリア派と魔術塔が交戦中??



「本当に言うんですよ殿下。絶対に言うんですよ!!」


「-----でも、言ったら、言われた方は困ることになる。他国の正妃になるのが決まっているのに連れて逃げてなんて言えない」

「それでも言うんです!殿下がどう思っているのか、分かったら、出来ることもあるんですから!」

「セシル様----」


 言う? 言えるわけがない。

 言いたい? ------ずっと言いたかった。

 言える? ------それは相手の命を危険にさらすことになる。


 やっぱり、私は言わない。言ってはいけない。


「私は----」








「リディアルナ殿下! 至急王宮においで下さい。陛下が吐血をされました!」

 そう言って入ってきたのはロックウェル魔術師団長。


「え、--吐血? さっきまであんなに元気に大きな声で……」

「それが王宮でラインハルト殿下と怒鳴りあっている時急に……」


「-----私に治療を、と?」


「はい。ラインハルト殿下が、今亡くなられると国家間の盟約は履行されなければならなくなるので、ここは曲げてリディアルナ殿下に治療を、ということでございます」


「------分かり、ました」

「リディアルナ様!」

「大丈夫です。さすがに血を吐いた直後に、治癒魔術師を国外に出したりしないでしょう?」




 何だろうこれは。

 好機なのか? それとも何かの罠?

 ダリア妃は何を考えている? いや、ダリア妃だって国王が吐血するなんて分からなかったはず。

 

 ……きっと、肝硬変からの食道静脈瘤の破裂だろうな。

 このまま何もしなけれな数時間も持たない。

 ……その方が良いんじゃないの?-------



 いやいや待て待て!


 患者がいる

 やることは一つ。

 それは何時だってどこだって変わらない、私の生き方。




「参ります! 陛下は何処に」

「---------王宮の執務室でございます」

 ロックウェル伯爵が、長い間私に魔術を教えれくれた師匠が私を見る。



「殿下…… これを。今の殿下ならば使いこなせるはずです。私の知る最強の攻撃呪文でございます」

 そう言ってメモを私に渡してくれた。


「できれば早く読んで覚えてしまってください。メモは焼くように。だれでも使える呪文ではありません」

「分かりました。----最後までありがとうございます師匠」

「何を言っているのですか殿下。まだまだ殿下の魔術は魔力の無駄が多く練度も足りません。収束率も悪くすぐに集中を切らす。帰ったらしごき直しますから、覚悟をするように」

「---------はい。はい、師匠」


 5歳という規格外のわたしに、何度も魔術の練習に付き合ってくれた優しい人。

 私の師匠。

 ありがとうございます。

 必ず戻るので、また…… …だけど、しごくのはちょっと優しめにお願いします。


 手元に渡されたメモを見る。

 二行ほどの文字の羅列。

 ただ、それには恐ろしいほどの魔力を感じる。

 -----確かに、最強の攻撃呪文だ。しかしこれ、多分無差別広範囲。とんでもな―

 それをしっかりと覚えて、手の中で灰にする。


 

 そうしているうちに王宮の執務室についた。ばーちゃんは大人しく私の頭の上にいる。

 たくさんの人がいるが、私が付いた途端人垣が割れる。


「リディア!」

 ハルト兄様。何か、我慢をしているような、悔しそうなお顔をされている。私が来たことを喜んでいるような責めているような。


王女さま(・・・・)は、このような時のために居られるのでしたよね」

 ---この女狐。


 床に倒れた国王は、絨毯に多量の血液を嘔吐したようだが、まだ意識もあり、吐き気も続いている。ま、そうだよね。

 兄様は国王を起こそうとしているが、ダリア妃は優雅にソファに座って動きもしない。


「兄様。変わります」

 私はそれだけ言って。国王を床に寝かせた。

 


 体中を一応見てみる。

 肝臓は、半分以上が癌化している。癌化していない部分も肝硬変でほとんど機能していない。

 そして肝臓だけだった癌が転移している。---胆嚢・十二指腸、膵頭部も多分これ、浸潤だ。


 腹水で腹部はパンパンに張っている。

 そして。思った通り食道静脈瘤の破裂があった。

 とりあえずこれだけは治しておく。消化管に入ってしまった血も消しておく。

 これで血を吐くことはもうない。-----しばらくは。


「ハルト兄様、出血は止めました。でも元々の肝臓の病の方が思わしくありません。このままではまたいつ血を吐くか分かりません」


「そうか。-----肝臓の病の方は治せないのか?」

「以前も言ったことがあると思うのですが、お酒をやめれば治療の手段はあります」


「だ、そうだ、陛下。酒をやめて、ここでリディアの治療を受けるか、あと数日でも酒を浴びるように飲んでさっさと死ぬかどちらからしい」


「治療は3月までに終わるのか?」

「いいえ。おそらく数年はかかると思ってください。放置していたので以前見せていただ時よりも格段に悪化しております」

「ふん、レオダニスに行きたくない言い訳か? 少し血を吐いただけで数年の治療だと?ふざけるな!!お前の3月の婚儀はもう決定事項だと言っておろう! 時間稼ぎも対外にせい!」


 結構元気じゃん。もういいや、ほっておこう。



「--------そう、ですか。では国王陛下。私はここでお暇いたします。もう二度とお会いすることは無いでしょう。今まで育ててくださりありがとうございました」


「何を--- 両国の婚儀には出席してやる。ありがたく思え」

「いいえ陛下。陛下のお命はその時まで持ちません。ここでお別れです。----では失礼します」

「待て!」


「もう、今の時点でやれる事は私にはございませんが?」

「-----本当に、---わしは死ぬのか」

「このままなら。おそらく数週間から持って2カ月ほどだと推測します。今もきっと腹部は激しい痛みがあると思いますが---」

「痛い。痛いのだ---- だから酒は---」

「痛みを紛らわせるためにお酒を?」

「他に何がある?!」


 あるんだな、この国にも。麻薬ってものが。

 でもこれは私が「医学」を教えた人にしか使わせないつもりだ。

 だからここで公表は出来ない。


「……私が治療をするのなら、方法はあります。ですが私以外の者に取り扱える物ではありませんので、薬の名前を言うことは控えさせていただきます」

「----言え!!」

「それは、ここで数年私の治療を受けると言うことでしょうか?」

「お前は3月に嫁ぐのだ! それまでに誰かその薬を扱える物を育てよ!」

「……その薬はあくまでも痛み止めです。私の治癒魔術がなければ、いずれその薬も効かなくなるので、同じことです。兄様----」


「国王陛下、ここにレオニダスとの婚儀による同盟関係の解消の書類があります。ここにサインをして、婚儀の話が白紙になればリディアは陛下の痛みを癒すことが出来ましょう」


「--------ラインハルトォ!!」





「陛下もラインハルト殿下も、今日は興奮しておいでのご様子、陛下は血をお吐きになって、体調も十分ではない。ここは明日また話しあってはどうかの?」

 と、ダリア妃が国王をなだめてる。まぁあんまり興奮するとまた血を吐くかもね。


 でも何を考えている?

 ここで時間を稼いで、出来ることがあるのか?


「リディアルナ、薬はあるのか。今ここにあるのか?!」

 国王が黄染されている目で睨むように言う。うん。これ、夜中に見たらホラーだ。



「いえ、まず薬草を探すところから始めないといけませんので時間はかかります。-----治療を、受けるのですね?」


「痛みを何とかするのが先だ! 話はそれから聞く!!」


 ふー 私がいなきゃ、治らないって言ってるのにー



「とりあえずの痛みでしたら----」

 と、脊椎麻酔の要領で横隔膜下の神経を軽く麻痺させてみる。

「下半身の感覚を鈍くすることで痛みを和らげています。御自分で立ったりされませんように」


「おお、おお!痛みが引いて行くぞ!!」


「効果は3-4時間くらいかと。考える時間位は出来るでしょう」

 と、ハルト兄様を見る。

 兄様はうなずいた。


「では陛下。婚儀の白紙撤回の書類の作成をお願いいたします。リディアルナはその間に薬草を探してくるでしょう」




「-----婚儀は----」

 陛下がうめくように言う。

「婚儀は行いますわよ、ラインハルト殿下。変更はありません」

「ダリア?!」




「陛下、お約束下さったではありませんか。我が兄に王位を取らせて下さると」

「しかし-----」

「陛下はあの小娘に騙されているのですわ。数か月先の陛下のお身体のことなど、誰もわかるはずがないではありませんか。陛下はお元気で、両国親善のための婚儀に出席されますわ」


「治癒魔術師でもない貴女に何が分かりますか? 陛下、私を他国へ出すと言うことはお命を縮めるだけだと御理解下さい」


「わ、----わしは----」

「陛下。書類の作成を」





「-----陛下もいろいろとお考えのご様子。ここは陛下おひとりにして差し上げて、ゆっくり考えていただくのが良いのでは?」


 ---確かに、混乱しているようには見える。

 ハルト兄様も焦っていて、書類の作成を急がせているのも一因だ。

 ここはいったん引くのがベストか?


 ---------しかし。ダリア妃の言葉に誘導されている。それだけが気になる。


「では皆さま、一旦退室を。陛下にはゆっくりお考えの時間を」


 その言葉に、一人、また一人と退室する。

 最後はハルト兄様とダリア妃。


「その様に怖い顔をされなくても私も退出いたしますわ」

 そうダリア妃は艶然と笑って部屋を出た。


「陛下---- 父上。良くお考えください」

 と退室するハルト兄様と一緒に私も退室した。







 は----------------。緊張したけど、何だか白紙撤回できそう??


「リディア、-----すまない」

「え?兄様が何故謝られるのですか?兄様はずっと私のために陛下を止めてくださっていたではありませんか」

「----お前に、自由にするように言ったばかりだったのにな」

「いいえ。兄様の言葉のおかげでいろいろ考えることが出来ましたわ」



「……誰か、慕っている者がいたか?」

「----------はい、あの、多分----」



「分かった。-----必ず兄がその者とお前が添えるよう手配しよう」

「兄様。 相手のお方がどう考えているのかも分かりませんのに」

「関係ないな」

「兄様!?」





 二人で歩いて正妃宮まで帰る。

「しかしリディア。本当にその様な薬草があるのか?」

「ありますよ。レオン様の管理している物の中にありました。クリステル邸にあったか、学園の薬草園かは覚えていないのですが…」

「そうか。レオンなら分かるのか?」

「薬草の名は分かると思いんます。でも使用方法は私の前世の知識ですので、レオン様では使用は無理です。あ、グレイシア様でも無理だと思います。私が前世医療や薬に関わっていたから出来ることなので」



「そうか…… とりあえずレオンに連絡して、その草を取り寄せておいてくれ。いざとなったらその薬を目の前にちらつかせてでも白紙撤回させてやる」

「兄様…… でも、その薬草は摘んでから乾燥させたりしないといけないので手間がかかるのです。早めに手配しますね--- あ、今魔術塔にソニア様がいらっしゃっているのです。ソニア様ならレオン様が今どこにいるか御存じかも」

「では魔術塔に行くか」

「そうですね、それが一番早いですね---兄様はどうします?」

「もう一度くそ親父のところへ行く。そしてあの女狐がいない時に書類を書かせる。私は一度戻るが---その前に一度正妃宮に行こう」

「…はい、構いませんが」

「お前の護衛が必要だ。決して一人になるな」

「分かりました」



 正妃宮には正妃さまやエド兄様がいらっしゃった。クラリス嬢もいる。


「ラインハルト--- 陛下は…」

 と、正妃さまが心配そうに言う。


「リディアの魔術で一応今は安定していますが、予断はできません。婚儀の件はリディアの治療と引き換えの形に持っていけそうなので、このまま押します」

「そうですか---- リディア、辛い思いをさせますね。貴女を決してレオダニスになど嫁がせませんからね」

「正妃さま---」

 なんて、ありがたいお言葉だろう。

 私にはもったいない程の----


「エドガー、リディアが一度魔術塔に行かねばならん、その間の護衛を任せていいか」

「ああ、……しかしそうするとここの守りが手薄になるが」

「騎士団員が6名詰めております。少しの間なら、大丈夫です。それとも私が殿下を魔術塔までお送りいたしましょうか」

 と、クラリス嬢。


「----いや、俺が行こう。ここを頼む」

「すみませんエド兄様」

「こんな時くらい甘えとけ」

 と、頭をポンポンとたたかれる。


 こんな時じゃなくても甘えてますけどね。










 

 そしてエド兄様と一緒に魔術塔に向かっている時だった。




「リディアルナ様、行かれるのは魔術塔ではなく私の部屋ですわ」

 と、正面にダリア妃が暗い目をして笑っていた。

 え?何故ダリア妃がこんなところにいるの??


 兄様が前に出て、私をかばうようにしてくれる。



「リディアルナ様、来ないと後悔いたしますよ」

「どういう意味ですか?」


「いつも一緒にいる、貴女の護衛は何処へ行ったのでしょうね」

「!?!」


 嘘…… ロディがまさか----



「これを見せたら、大人しくついてきてくれましたわよ?」

 と、その手に持っているのは私のいつも着ているローブだ。


「ロディをどうした-----!」

「わたくしの部屋で待っておられるだけですわ。リディアルナ様、貴女一人を」


「兄様、私行ってくる。城内なら、私が負けるはずないもん」

「しかし---お前を一人で行かせられん」

「-----殿下は妹姫様の護衛などどうなってもよいと…?」

「----------!!」



「ではどうぞ。命の女神サマ?」



 そう言って、後宮への道を示す。

 エド兄様はすごい顔で睨んでいるが、まるで意に介さないと言うように私にだけ来いと言う。


 ここへ行けと言うことか。


 後宮。

 私にとって最大のトラウマ。

 でも。


「兄様は正妃宮の方をお願いします」


 ロディに何かあったとは思いにくい。

 でも。


 私はダリア妃の後を着いて行くことにした。

 他に、選択肢は無かった。











 待て待て待て-----!

 乙女ゲームはどこに行った?!

 

 ダリアが魔王だったのか?

 倒していい?? 思いっきり攻撃魔法使って良い?


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[良い点] 最悪くたばった愚王を主人公さんチートでアンデット化して支配下に置けば解決(๑╹ω╹๑)
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