3.魔術が使えるようになりました
12歳になった。
あの暗殺未遂事件以来大きな動きはない。
警備の強化も原因だろうが、多分私が正妃さまやラインハルト兄様について回っていることも大きいだろう。
暗殺未遂事件の後、私がベットから出られるまで一月を要した。
傷の治りが遅いのは毒のせいだということ。
ずっとロディに付いてもらいながら、あの苦い薬と戦い、少しずつ動けるようになっていった。
左肩から胸にかけて大きな傷が残ったが些細なことだ。
だけどこのことで、この世界の治癒魔術は外傷以外には致命的に弱いことがはっきり分かった。
毒がある程度で治癒が阻害されるのだ。
この程度の治癒魔術があるせいで医学が発達していないのだとすれば、これは何とかしないといけないレベルだと思う。
そして、治癒魔術師の許可が下りて、まず私が最初にしたことが城の魔術師団長を訪ねることだった。
この世界には魔術がある。
しかしそれは14歳から入学する学園で基礎から教えられ、魔力の高い者は魔術師団等にスカウトされたりするが、その数はとても少ない。
戦闘レベルにまで至らんない者は、魔道具の製作など職に困ることはない。
しかしそこまでの魔力をもつものすらわずかだった。
ちなみに魔物も存在する。
しかしRPGにように町の近くに出没するようなものではなく、北海道にいるヒグマのような出現頻度で、出現すればすぐに国の騎士団が討伐に向かうのでこの国には冒険者と言う職業はなかった。
それを知った時のショックは、おやつのケーキも食べられない程で、ロディや兄様達に盛大に心配されるほどだった…。
で、魔術師団である。
この国では子供が小さい頃から魔法を使うと、魔力のコントロールが出来ず暴発する事例があったため14歳から、という規制が出来たらしい。
だけど私は、魔術が使えるなら正妃さまや兄様を守れる。
そう思い魔術師団長を訪ねた。
魔術師団長はダール・ウェルロック伯爵。
訓練は厳しいが、公平で身分にかかわりない実力主義者と聞く。
私が初めて会った時はその冷たい目に背筋が凍った気がした。
この時私は5歳。規定外もいいところである。
しかしこの魔術師団長は、無理を承知の上の相談にニヤ、と笑ったのだ
私が身分をかざして乗り込んできた身の程知らずに思えたのだろうか。
「まず試験をしてやる」
魔術師団長はそう言って訓練場に私を連れてきた。もちろんロディも一緒だ。
魔術の有無の判定は簡単な魔術を使ってみるところから始まる。
ちょっとした火を出したり、手の中から水がこぼれたり。
それでも『才能あり』と判断される。
たいていは合わせた手の中が淡く光るぐらいらしい。
「ここが訓練場だ。周りには対魔結界が張ってある。姫さんが少々暴走しても被害はない。姫さんの身はお前が守るんだろう?」
とロディを挑発するように見る。
私はちょっと腹が立った。私のことを言われるのは良い。
何といっても中身は35歳。スル―スキルも上級者だ。
でもロディは違う。第一に何より私を大事にしてくれている。
「もちろん、私はロディが守ってくれるので何の心配もしておりませんわ。でも私に「ぼうはつ」などぜったいにないです」
と口元だけで笑う。目は強い光で視線は離さない。
少々怯むかと思ったがさすが5歳児には怯んだりしないか。少なくとも顔には何の感情も出さなかった。
種明かしをすれば、私は一カ月の療養生活という名の監禁生活中に魔術に関する本を読みまくったのだ。
魔術というものは、まずイメージが大切らしい。
逆に、イメージさえできればどんな事でもできるらしい。
これってかなりチートじゃない?
イメージは詳細なほど威力は大きい。
ふっふっふ、最近のRPGのリアルなエフェクトを見慣れた私は無敵じゃないだろうか。
いや、さすがにそんな大きな魔法をいきなりぶっ放すわけにはいかないけどね。やりませんよ、絶対。
具体例をあげると例えば水魔法。コップ一杯に水を入れる。簡単な様で意外と難しいらしい。
その水がどこから来るのかイメージしなければならないからだ。
慣れると近くの水場から持ってくるイメージが出来たり、水場そのものをイメージできるようになる。
しかし私は違う。空気中に水分が湿度として存在することを知っている。それを集めるだけだ。
私は、おこる現象の理論がある程度分かる。
火の魔法なら、酸素を空気中から分離させて圧縮して流し込めば爆発だって起こせる。
ちなみに部屋の中でこっそり実験もしてみた。
簡単にコップは水であふれた。
私には魔力がある。
しかもかなりのレベルだと思うんだ。
しかし、なんでステータスがみられないんだ?
自室でひそかに「ステータスオープン」とか呟いてみた自分が痛い。
魔術が無詠唱でよかった。
さぁ、気を取り直して。ここで魔術師団長にひと泡吹かせてやりましょうか。
私は訓練場の中央に進む。背後にはぴったりとロディが付いてくる。
ちょっと考える。
火魔法は危なそうだ。
水魔法は濡れるのが嫌だ。
土魔法も… 埃っぽいのはなぁ。
じゃぁ風かな? 光魔法や闇魔法を使ったら大騒ぎになりそうだし。
というわけで、私は自分を中心に風を集める。風は気圧を調節するだけだ。
通常旗が揺れる程度で十分なのだが、私の風魔法はその程度では収まらない。
自分の周囲に竜巻を作り出す。もう外周の魔術師団長も見えない。
…あ、こりゃやりすぎかな?しかも結局埃まみれになってしまった。
訓練場の魔術結界を壊してしまっては大変なので、そこそこの竜巻を作った段階で集めた風を一瞬で消しさる。
立っているのは私と、私を抱きかかえるようにしているロディだけだった。
「確かに… 魔術の才があることは認める。…しかし子供に暴発の危険があることは事実なのだ」
魔術師団長はうめくように声を上げた。
しかし私はあきらめるわけにはいかない。正妃さまたちの命がかかっているんだ。
それを一生懸命説明すると、『魔力を抑える魔道具』の存在を教えてくれた。
それを身に着けていれば暴走は7割方抑えられるということ。
7割って低くない?とも思ったがそれで魔術の訓練が出来るなら安いもんだ。
実際、少し抑えないとやりすぎちゃうと思うし。
そんなわけで私は弱冠5歳にして魔術師団長の弟子入りすることが許された。
ちなみにロディは魔術の才は全くないらしく、私が魔法の練習をしている時は騎士団にしごかれることになった。
なるようになった感じかな。
あ、きちんと魔力抑制魔道具は買いに行きました。
というか、買ってもらいました。ラインハルト兄様に。
だって高いんですよ!宝石かと思うくらい高い!!
思わずゼロの数を数えちゃいました。
実際は『魔法石』と言う宝石よりも希少な石に、さらに魔道具技師が抑制の魔法陣を入れるらしいのでこの値段になるとか。
……暴発の恐れのある年齢の子に、魔法を教えない理由はこれですね。
値段に目がくらんで何を選んだらいいかぐるぐるしている間に、ロディがさっさと決めて買ってしまいました。ハルト兄様には話はすんでいるということでした。
ロディが選んでくれたのは、私の瞳の色と同じ濃いブルーの魔法石のネックレスでした。
私はやっぱりひどく残った傷跡が気になっていて、胸の開いたドレスは着られないと思っていたんです。
ネックレスだったらドレスの下に隠せますから、私が抑制魔道具を身につけているなんてばれる事はありませんね。ロディの心遣いに感謝です。
そして。そのお高い魔道具のおかげか、私の実力か、暴発などは起こすことなく着々と私の魔力は大きくなっていった。
そしてこの7年で私は国内の最大火力と呼ばれるまでになった。
魔術塔にある訓練場の対魔結界を2回壊した時点で、練習場の使用を禁止されたのは痛い思い出だ。
あれから私は転移の魔術で、誰もいない荒野まで行かなければ攻撃魔術の練習はさせてもらえなくなった。その都合上、転移魔術も上級者クラスだ。
コントロールも今では完璧だ。
対魔結界を壊した頃は、まだ細かいコントロールが出来なかったのと、何処までできるかな―と言う好奇心に負けたからだ。
――――代償は大きかった。師匠のケチ。
あ、弟子入りを許されてから、私は魔術師団長を師匠と呼んでいます。
それに私は攻撃魔術だけでなく、防御や治癒魔法も習った。
でも治癒魔法に関しては前世看護師の私にはイメージ化なんて楽勝!
生きてさえいれば治せない怪我なんてありません!
魔法陣の製作にもかかわりました。
というか率先して作成しました。正妃さまたちの護衛に必要だったから。
現在は私が作成した魔法陣入りの魔宝石のアクセサリーを常に身につけていただいています。
王都の城壁にも使用されているという自信作だ。
それに気配察知とか、逆に気配を消す術とかも作ったり、前世の知識を生かした生活魔術なんかも考案したりしました。
魔石一つで井戸の水を汲まなくてよくなったし、常夜灯なんか作ってみました。
でもコスト面で実用化には至っていないんですよねー。
うーん、魔石が高いです。
あ、魔石と魔宝石は値段も効力も桁違いです。
石炭とダイヤモンド位違う。
その魔石も高いんだよね。
しかし冷蔵庫は割高にもかかわらず画期的に売れました。
このまま王女やめても食べるのに困ることはないだろう。
その私が常時正妃さまや兄様達の気配を追って警護している。
ダリア様にとってこれほどやりにくいことはないと思います。
今までで暗殺2回。毒殺一回を未然に阻止してます。
私が警護する限り、手は出させませんよ、ダリア様。
私はダリア様には、かなりの借りがある。
出来ればまとめて帰してさし上げたいと思っているのですが。
さぁどうされますか?
ねぇ。これって魔力チートじゃない?やったね、ちゃんとチート貰ってたんじゃん。
…でもやっぱり方向性違うよね?
7/23加筆修正