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26.薬草園とミスリル

 結論。

 

 やっぱり干物は治らない。




 私は例によって魔術師のローブである。

 良いんだ。ロディがこれで良いって言ってくれてるんだから。






「城下のリディアルナ様の人気は知ってはいましたが、それ程とは誤算でしたね……」

 と、グレイシア様がため息をつく。

 

 何しろ、ちょっと良さそうな服を売ってるお店に行くと「これは○○の時に命の女神様がお召しになったもののアレンジで…… 」と言う売り文句がつく。

 ってことは私は持ってる訳じゃないですか。


 もう、店に変装していくことは諦めて、いつものデザイナーのカーラさんに連絡して、普段着用を何点か作ってもらうようにした。

 ……なるべく青は避けて。


 それにあわせた小物も用意してくれるらしい。最初からこうすれば良かった。

 でもまぁ、城下の様子が見られたのは良かったかな?

 私にとっても好意的だと分かったのは、嬉しい誤算だったなぁ。


 でも、あんなに『命の女神』の名前が通ってるとも思わなかった。こっちは悪い方の誤算。



「でも、殿下のお召しになられるデザインは、必ずと言っていいほど流行になっていますよ」

 と、カーラさんがにこにこしながら言う。


「もうびっくりでしたよー。何だか見たことのあるデザインやお飾りがたくさん……」

「それだけ殿下の人気が高いのです。殿下の治癒魔法陣に助けられた人が多いのでしょうね」


 カーラさんはそう言って来週にはまた来ると言って帰って行った。





「治癒魔法陣…… アレも何とかしないとなぁ」

「高度治癒魔法陣の方ですの? 随分前から悩んでいらっしゃいましたよね」

「うん、……怪我とかなら、今の魔法陣を大きくすればなんとかなるとは思うけど、今度は魔力消費の問題が出るし…… そもそも、作りたいのは病気を治す治癒魔法陣なんだよねー」


 あー…消費魔力?

 ん? 前にディーン様がそんな研究してなかったっけ?

 


「ですが、そもそも治癒魔法は病には効果は無いではありませんか」

「私の治癒魔法は病気も治すんですー」

「まぁ、そうですけど…… そもそも何故リディアルナ様の治癒魔術は病気を治せるのですか?」


 あ、グレイシア様言ってなかったかな?


「ああ、私はもともと看護師じゃないですか。正常な人体の構造を理解しているんですよ。病気も一緒です。ギンレイの第二王女は日本にもある病気で、私は小児科の経験もありましたので病態も分かっていました。なので異常だった部分を正常な状態に戻しただけなんです」


「つまり、異常がどこにあるか分かれば… いえ、正常な状態も知っていなければいけませんね。…難しいものですね」

「ホント、日本はすごいですよ」





 うーん、それに薬草園の方も、そろそろ他の町に増設できるか聞いてこなきゃ。

 あ、シーザー様とも連携しようって話し、そのままだー……


 しばらくギンレイに振り回されていたからなぁ。

 とにかく出来ることからやって行きましょう!








 季節は秋。

 この学園にも長期休暇は存在する。

 ただそれは社交界のシーズンオフにあわせてのお休みになるので、夏休みというものはない。

 社交界のオフシーズンは冬だ。

 領地持ちの貴族が領地に帰る期間は、学園も長い休みに入る。


 で、その前に学年後半が来るのですよ!

 待っていた選択科目です。

 薬草学は取りたいですし、魔法陣の研究も進めたいのですが、これは授業を取るかどうかは悩み中。下手したら私が講義をした方が早い可能性があるので様子見です。

 それに、国内の地理・歴史や産業も把握しておきたいですねー。

 また鉱物資源を探しに行くこともあるかもしれませんし、目星がついたりするかなぁ?



 とりあえず、薬草学です。レオン様に久しぶりに会いに行きましょう。

 ハルト兄様がそれぞれの貴族領に薬草園を作れる場所の確保をしておくように言ってくださっているので、薬草園の方の人材さえそろえば、すぐにでも計画は始動できるのですが。


 薬草園の近くまで行って、頭の上にいるばーちゃんを降ろします。

「ばーちゃん、レオン様を呼んできてくれる?」

「みゅ!」


 元気に返事をして薬草園の、イージスの壁の中に飛んでいくばーちゃん。

 なぜかばーちゃんの魔力は、薬草には無害だったのです。

 ホントに、人の魔力だけがダメみたいで…… うーむ、落ち込む。

 

「リディアルナ殿下!」

 しばらく待つと、ばーちゃんと一緒にレオン様が出てこられた。

「お久しぶりですレオン様。なんだかずいぶんお会いしていない気がいたしますね」


「本当に。殿下はギンレイまで王女殿下の御病気を治しに行っていたと聞きました。大変でしたね」

「いえ、王女殿下の治療は全く大変ではなかったです」

 ええ、大変だったのはその兄の方です。


「それはそうと、薬草園の方はどうでしょうか? 用地の準備まではさせていただいているのですが」

「本当ですか?! それはすごい…… 薬草の方は生育は順調です。品種改良の方はまだ誰でも近づける所までは行っていないのですが…。でも栽培だけなら任せられるメンバーが増えています。王都の近くからでも栽培を始めましょうか」

「楽しみですね」

 うーん、嬉しい。これでポーションは随分安価に提供できるはずだ。





「それと殿下。いくつか報告と、相談したいことがあるのだが時間は大丈夫だろうか?」

「はい、大丈夫です。今日はロディは騎士団の方の仕事があるとかで、迎えに来るまで学園から出ない様に言われていて……」

 ひどいよねー。馬車に乗れば普通に帰れるのに。


「はは、何時もながら殿下の護衛騎士は過保護ですね」

「ですよねー」


 そう言って笑いながら、薬草園の近くの建物に入る。……こんな建物あったかな?

「これは最近、薬草園で働く人たちのために建ててもらったんです。お茶くらいは出せますよ」

「あ、そんなお構いなく。お茶よりもレオン様のお話の方が楽しみです」

「そう言われるとプレッシャーですね」



 その建物は食堂の様な作りの大部屋と、後は個室がいくつかあるようだった。

「ユーリア教授の研究室もこっちに移したんですよ」

「え……? アレを?」

 確かものすごく、ものすっごく散らかっていたはずだ。

「ええ、あれを」

 と、レオン様はクスクス笑いながら話す。

 ---表情、変わったなぁ。


「私もここに研究室を貰ったんです。私の部屋は片付いていますよ?どうぞ」

 そう言って、一室に案内された。確かに片付いている。






「まず、まだ論文には出来ていないのですが、薬草が何故傷を治すのか、と言う殿下の疑問に答えが出そうです。」

 レオン様は、自らお茶を入れてくださって、そんな爆弾発言をされた。



「え? ほ、ホントですか?!」

「はい。魔力のない人達を選別するために、薬草園の入口に魔力探知の水晶球を設置したのがきっかけだったのですが、ある時作業中の者が誤ってその魔力探知球に、薬草を摘んだ手で触れた時に魔力の反応があったのです」


「---その方は、魔力は持っていない方なのですよね?」

「はい。それは間違いありません。なので、もしかしてと思って薬草をすり潰して探知球にかけてみたのです。---そうしたら、はっきりと強い魔力の反応が出ました」


「-----すご…い…、そんなことが」


「なので、事後承諾で申し訳ないのですが、殿下の治癒魔法陣を薬草で書いてみたのです。いつもの魔石入りのインクではなく」

「そ、それで―――?」

「同じように作用しました。薬草は魔法陣のインクの代わりには十分なります」

「すごいですレオン様! 魔石入りのインクがいらなくなるのですね! それだけでどんなにコストカットになるか! それに薬草をポーションに精製しなくても治癒が可能に……  これでますます民に医療の恩恵が----」



「それだけではありません。薬草に魔力がある。そこまでは良いとして、ではなぜそれを精製したポーションは傷を治すのでしょう?」

「え…… そ、うですよね。魔力だけじゃダメですし……、精製の段階で治癒の方向へ魔力が変化する…?」

「それが、薬草をすり潰したものを傷にかけても、わずかですが効果があったのです」

「------まさかーーー」

「どうやら、薬草自体に治癒に特化した魔力があるようなのです」

「あ、……何だか信じられません。そんなことが---」

「火の魔石で火が付くように、薬草には治癒の特性があるのかもしれません。----まだ、実験段階ですが」

「すごい…… すごいですレオン様!」

 何度も自分で試したのだろう。公爵子息の腕には傷がたくさんついていた。爪の間は土で汚れている。

 それだけで泣きたくなる。



「驚くのはまだ早いですよ殿下」

 そう言って笑うレオン様は、公爵邸で自信無さ気に庭師の恰好をしていた人物と同じとは思えなかった。




「ミスリル鉱山に咲いていた花、覚えていらっしゃいますよね」

「ええそれはもう。美しいミスリルの色でしたね」

「アレ、花じゃ無かったんですよ」

「え?!」

 レオン様は私の反応を面白がるように見て、部屋にある引き出しの中から小さな箱を取り出した。


「開けてみてください」

 と言われるので、そっと開けてみる。

 中には、あの時見た虹色の花が指輪につけられていた。


「レオン様---- これは…?」

「この花は、まぁ花じゃなかったのですが便宜上そう呼びますね。とにかくその花は、ミスリルの魔力で育ち、その花自体が、ミスリルの中の魔力を吸い取って咲いた… 純粋にミスリルの魔力の塊のようなものです」

「---------そ、そんなことが……」

「葉の方で何度か実験してみたのですが、それを身につけていると、魔術が使えました。魔力を使い果たすとただの銀色の石に戻ります」

「石に?」

「はい。どうやらそれは本当にミスリルらしいんです。それで今度は魔術師に頼んで、銀色になった葉に魔力を込めてもらいました。そうしたらまた虹色に輝いたんです」

「それではこれは--- 魔力をためておくことが出来ると」

 マジか?! 充電器じゃん。



「はい、その通りです。殿下には花の部分を使っていただこうと思って指輪に加工してみました。違うのがお好みなら……」

「いえ、これで良いです!これがいいです!! ------レオン様、なんてすばらしい……」

「何を言われますか。これらはすべて殿下のお力添えのおかげです。そのミスリルの花はまだありますので必要な時はいつでもおっしゃってくださいね。あ、それとその花の栽培計画も出ているのです。ミスリル鉱山が軌道に乗ったらミスリルをいただくことは可能でしょうか?」

「大丈夫だと思います。埋蔵量はかなり期待できると言うことでしたし」


 何これ、すごい。すごい、すごい。

 なんだか感動で泣きそうだよ。




「まぁ、ミスリルの花の方は気長にやるとして、薬草園の方ですよね。近々ユーリア教授と現地を見に行かせていただいてよろしいでしょうか」

「もちろんです。薬草園は私が関わっているので、魔術塔で管理することになります。都合のいい日をお知らせください。私が行ければいいのですが、そうでなくても誰か魔術塔の者を同行させます」

「よろしくおねがいします。-----こんなに早く、こんなに大規模に薬草園の話が進んだのは殿下のおかげです。本当に感謝の言葉もない----」

「何度も言いますが、レオン様のお力ですわ。私一人がどんなに頑張ったって、こんなことは出来はしない---」


「私の方も何度でも言わせてもらおう。本当に感謝している」

「レオン様……」


 

 その後、二人で固く握手をして研究室を出た。




 薬草に治癒の魔力があった。


 ミスリルの花は、実は石で魔力をためることが出来る。




 こんなことが、こんな短期間に分かるなんて、レオン様天才ですか。

 ああ、話を聞きに来て良かった。

 

 研究は確実に進んでいる。

 嬉しい。嬉しい。嬉しい。


 

 この世界に、医療を広めるのだ。

 そう願ったのは何時だったか----


 私もレオン様に負けられない。高度治癒魔法陣、頑張るぞー!

 









「お姫、何かいい事あったの?」

「分かる?」

「顔がでれでれ。分かりやす過ぎ」

「む。 でも今日は良いもん。ロディにも帰ったらゆっくり話すね。素敵なことがあったんだよ」





 --------とってもね、素敵なことがあったんだよ。















 ……あ、でも今回も握手でしたね。友情エンド一直線ですね。

 まず、色恋の話は一切してないじゃん。もう全然ダメダメですね。

 も、いいんです。干物ですから。


 でも、魔力充電?機ゲットです!

 魔王でも何でもかかってこーい!!



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