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25.女子力向上作戦


 翌日。

 カイ殿下に帰国の旨お伝えすると、御本人が飛んできた。


「リディアルナ殿下、帰国されると言うのは本当ですか?!」

「はい、こちらで臥せっていても御迷惑でしょうし、兄様も心配なさるので一度帰ろうかと思っております」

「お国ではしっかり療養は出来るのだろうか。たくさん研究をなさっていると聞きます。帰って無理をなされるのでは? 城にいるのが気づまりなら海の方に離宮もある、そちらで休まれても」


「殿下。私の国は私の体調が少しでも悪かったら部屋から出してもらえないほどの過保護な兄や護衛がおります。御心配ありがとうございます。大丈夫ですので一番ゆっくりできるところへ帰ろうと思うのです」

「そうですか--- 大変残念ですが仕方ありませんね。今度またゆっくりお越しください」

「ええ、そうさせていただきます。珍しい物や綺麗なものがたくさんございましたから」

 ただ、グレイシア様と一緒に観光するけど殿下は呼ばないからねー。

 と、心の中だけで付け加えて、ブルーローゼス一行は帰り仕度に入った。

 お昼までお世話になって帰る予定である。


 私はまだ完全に復調しておらず、ギリギリまでベットの住人だ。

 大規模転移があんなに魔力を使うものだとは---

 本気でステータスが見たい。消費MPの表示も必要だ。あ、HPもいるよね。


 

 今回の転移は10人程度なので全然大丈夫だ。

 しかし。今後軍隊の転移を、とか言われたらどのくらいまでなら出来るのかテストしておかないといけないな。


「お姫、昼食が来たよ。食べられる?」

 そう言ってロディがトレイに持ってきたのは、何とたまご粥だった。

 うーんお腹が悪い訳じゃないんだけど、でもありがたく頂く。


 久しぶりのお粥は、胃に染みいるほどにおいしかった。



 帰りの人員は私達とグレイシア様と母君。侍女が数人。護衛が数人。

 それに午前中にロディに買ってきてもらったお米と醤油・味噌その他調味料や反物。反物はロディの好みに一任した。どんなの買ってきてくれたかな? でもこれはアイテムボックスに入っているので重さは無い。


 昼過ぎにメンバーがそろったので、国王陛下に御挨拶をして帰国する。

「こんなに急いで帰らなくても、もっとゆっくりできるところもあるのだが」

 と、陛下。ゆっくり出来る所はあるかも知れませんがお宅のご子息が…… 等言えるはずもなく、抵当に理由をつけて帰る。ただ第二王女が離れなくて困った。


「めがみさま、もっとぎんれいにいてください! すてきなばしょがたくさんあります!」

 と足元にしがみ付かれる。

 これには困っていると、王妃殿下が上手く離して下さった。


 やれやれ。

 では帰りますか。


 

 中庭で、さあ転移するぞ、と言う時にカイ殿下の「私は諦めません!!」という叫びが轟いた。


 ……お願いですから諦めてください。






 転移先はブルーローゼス城内の中庭だ。

 すぐに帰国の報がハルト兄様に伝えられたようで、たいそう心配されてしまった。


「そうか……転移も人数を考えなければいけないな。とにかくリディア。少しゆっくり休め。無理をさせすぎたな、申し訳ない」

「そんなことはありません兄様。自分の魔力量の限界値を測れなかった私のせいです。でも、お言葉に甘えて休ませていただきますね。---何だかいろいろ疲れてしまって」

 と、自室へ帰る。ベットに入るまでロディがついていてくれた。


「じゃぁお姫、ゆくり休んでね。俺ちょっとラインハルト殿下と話してくる」

 と、ばーちゃんまで連れて行く。確かにあの仔、たまにお腹の上に乗ったり顔の上で寝ていたりするからな。

 しかしロディ、兄様に何話すんですか?物騒な話はやめてくださいね。


 あぁ、でもさすがにちょっと疲れた---








 目が覚めたら朝だった。 

 アレ? 昨日の午後帰ってきて、そのままちょっと仮眠しただけのつもりだったんだけどな。

 ---やっぱりそれだけダメージがあったということか。

 大規模転移は気をつけないとな。


「あ、おはようお姫。朝食出来てるよ。起きられる?」

「おはよロディ。大丈夫行くよ」

 

 やっぱり朝ご飯はみんなで食べないとね。

 例によってばーちゃんを頭の上に乗せてダイニングに入る。



「おはようリディア。もう大丈夫なの?」

 と正妃さま。

「リディア、本当に無理はやめてくれよ。……それと、後で少し話がある」

「はい、ハルト兄様。……銀嶺の件ですか?」

「まぁそうだな。とりあえず食事をしてしまえ」


 うーん、カイ殿下のことだろうなぁ。外交問題にならないと良いけど。


「お姫、今日は学園は?」

「んー もう一日休む。何だかまだ眠い……」

「リディア、本当に大丈夫なのですか?」

「あ、魔力の使いすぎですよ。ちょっと回復に時間がかかっているだけで。ご飯もおいしいし元気です」

 うん。ホントに正妃宮のみんなは過保護だよね。

 カイ殿下の誤解は何処から来ているのだろう??


 ちなみにばーちゃんは私の隣で、料理人さんが作ってくれた?お肉や野菜が洗面器サイズの食器に盛られているのをわしわし食べている。料理人さんは『自分のご飯をくれる人』と認識したようだ。良かったよかった。




 そして、朝食が終わると、それぞれ行くところに行くのだが、ハルト兄様に呼ばれた私とロディはテーブルに残っていた。


「カイ殿下には苦労させられたようだなリディア」

 そう言うハルト兄様の顔は優しい。

「悪気があってのことではなかったのですが…… ちょっと思い込みの激しい方のようですね」

「そのようだ。ロディから話は聞いた。グレイシアからもな。しかしどうやら私はお前を過保護に育て過ぎたらしい。グレイシアに怒られたよ」

 ……何を言ったんですかグレイシア様。


「それでリディア。お前は婚約者は自分で決めたいと思うか、それとも兄がよさそうな者を選ぶ方が良いか?グレイシアがリディアは令息との会話に慣れておらず、それとなく断る、とか好意をさりげなく見せると言ったことが出来ていないと言われた」

「……すみません兄様、不出来な妹で……」

「何を言うのだ。慣れていないということは好ましい点の一つだ。不出来でなどあるものか」


 うぅ… 急にそんなこと言われてもわかんないよ。


「今現在、慕っている者がいるならどんな者でも良いから言いなさい。そうでないなら、とりあえずの婚約者を設定するか…… 今後もカイ殿下の様な勘違い者が出てくる可能性もあるからな。それからグレイシアから令息のあしらい方を習っておけ。---グレイシアが張り切っていた」

「ハルト兄様----」


 私の頭をぽんぽん、と撫でてハルト兄様は公務に出て行かれた。









「ねぇロディ。……ギンレイで兄様に言われたの。私、政略結婚はしなくて良いんだって。私が好きになった人と婚約していいんだって。------私は。---自由なんだって」


 もう、テーブルの紅茶も冷めた頃、やっと私はそれだけ言った。


「---おめでとうございます。やっと、あの国王の呪縛が解けたんですね」

「おめでたいの…… かな?」

「それはそうでしょう。お姫は好きでも無い人に嫁ぎたかったんですか?」

「---そうじゃないけど。でも、ずっとそうなるんだって思ってて」

「じゃぁこれから、いっぱい考えてください。この先の一生、誰と一緒にいたいのか」


「この先の一生……」

「そうですよ。一生お姫を幸せにしてくれる人を探すんです」

「でも… 乙女ゲームの呪縛が」

「もう、攻略対象の皆さま婚約者様達と幸せにお過ごしですよ。お姫は奴隷落ちしないよう努力するんじゃなかったんですか?」

「-----うん、そう。私が、最強に。なるの。」

「例え最強にならなくても、俺やラインハルト殿下が必ず助けますよ。心配しないで、好きな人を探してください」

「ロディ……」

「ゆっくり、考えれば良いんです。とりあえず今日はゆっくり休んでくださいね」



 そう言って座っていた椅子を引いてくれて、部屋までエスコートしてくれる。



 ねぇロディ。 

 どうしよう。


 この先、一生一緒にいたい人。

 そう言われた時、今見えてるお日様色の髪しか思い浮かばなかったんだけど。



 ああぁ 知恵熱が出そう。

 この問題は私の手に余る。


 なんて、グズグズ考えていたら、早速グレイシア様がいらっしゃった。



「殿下から許可はもらいました!、リディアルナ様、特訓ですよ!」

 と、それはそれは楽しそうに言った。

 グレイシア様、私ちょっと知恵熱が……



「リディアルナ様。とにかく殿方に慣れることから始めましょう。ロディと二人で城下町にデートに行っていらっしゃい。ただしリディアルナ様はお支度に侍女の手を借りてはいけません。御自分で御衣裳を考えて選んでください。ロディに好かれそうな衣装を、です。良いですか?」


「グレイシア様、なんですかそれは?!」

「干物治療の一環です。リディアルナ様、自宅ではジャージ一択ではなかったのではないですか?」

「--------------ソウデス」

「今は魔術師のローブ、一択ですよね。」

「--------------ハイ」


「まず、オシャレから始めましょう。今日は特別に侍女に助言をもらうことは許可します。今日町に行って、どんな服が流行っているのかとか、ロディの好みがどんな感じなのかとか調べて、次に生かすのです」

「…それで女子力って上がるんですか?」

「少なくともローブ一択生活よりは格段に進歩すると思います。さ、衣装を選んで来て下さい」

 そう言われた私は、すごすごと衣裳部屋に入っていく。




「---それから、ロディ。これは殿下から渡された軍資金です。これでリディアルナ様を好みの女性に飾ってきてください」

「グレイシア様…… あの、なんで俺なんですか?? それこそシーザー様なら攻略の足しにはなるんじゃ……」

「リディアルナ様が一緒にいて、リラックスのできる人が良いと思ったのです。段々と難易度は上げていきますので、今日は『服を買うこと』『それに合わせたアクセサリーを選ぶ』『オシャレなお店でランチ』、このくらいはクリアして来て下さいね」



「グレイシア様、本気ですか……?」

「ではロディ。リディアルナ様が将来変な男に引っかかっても良いと?」

「や、それはダメです。でもラインハルト殿下がその辺は選別すると思いますけど……」

「殿下は『本人が選んだ人と幸せになってほしい』とおっしゃっています。もちろん本人が全然ダメダメだったら殿下にお願いするしかないでしょうけど」

「乙女ゲームとやらの方は……?」

「それは干物が治らない事には先に進めません」


 そして干物について説明するグレイシア様。


 衣裳部屋って言ったって、扉一枚なんだから全部聞こえますよ。

 ええ、どーせ干物ですよっ



 でもロディとデートかぁ………


 ん?


 何だかちょっと楽しみな感じ?

 ロディ、どんな服の女性が好みなんだろう。

 ……ずっと私と一緒にいるから、ロディこそ好きな人なんて見つける暇ないじゃない。


 私は、何をどう考えたらいいか分からないまま侍女の助言に従ってベージュのワンピース…?に薄いブルーのストールを巻く。髪は…… このままのストレートだと目立ってしょうがないよね。色を変える?つけ毛?

 アクセサリーだって、つけるのはあんまり好きじゃない。でもロディはどうなんだろう。


 ……私は、ロディのこと、こんなに知らない。ロディはいつも見ていてくれるのに。


 結局アクセサリーはつけなかった。ロディもゴテゴテしている女性を好きだとは思わなかったから。

 服は、今日はもう仕方ない。現地で好みはリサーチするんだ。髪は結局つけ毛にした。銀に近いけど金髪に見えるはず。これはロディの好みと言うより変装重視だ。ばれたら何だか大変な気がする。



「ロディ、ごめん今日はこれで良いかな?」

「お姫は何を着てても綺麗ですよ」

「へ?!」

「グレイシア様からの指令で。思ったことは正直に言うようにと」

「正直は嬉しいけどさっきのは違うんじゃ……」

「違いませんよ。 じゃ、行きましょうか。---でも、疲れたり気分が悪いようならすぐ言ってくださいね。本当なら寝ているはずだったんですから。城下のコースもあまり歩かないように工夫します」


「……何だかロディ任せで、私の干物は治らないんじゃないかしら……」

「お姫、『干物』が何かは聞きましたけど。それはそれで良いんじゃないですか?人の命を助けていて、婚期を逃したってことですよね?」

 それは間違いではない。うーん、しかし微妙にダメージがあるな……


「もちろん城下の商店の娘などは綺麗な方が看板娘などと呼ばれて良いかもしれませんが。お姫の価値は見た目でも服でも飾りでもないでしょう?」

「……ロディ、そんな優しいこと言ってたらグレイシア様に怒られるよ?」

「俺は良いんです。俺が一緒にいる限りお姫は、変な男に引っかかったりしないですから」

「-----変なの」

 と、ちょっと笑う。


「じゃ、行きましょうか」

 そう言ってロディが手を出す。私は遅れないようその手を掴んだ。




 実は城下町にお忍びで行くのは初めてだったりする。

 郊外なんかは結構行ってるんだけどね。何しろこの銀髪が目立って目立って。

 なので結構うれしい。

 ふと、ロディの方を見たらにっこり笑っていた。

「どうしたの?」

「や、お姫が嬉しそうだったから」

 ……なんでわかるかな?


 馬車は一軒の衣料品の店の前についた。

 ロディが迎えの時間と場所を伝えている。

 そして素早く、私があまり人に見られない様に店に入れた。


「いらっしゃいませ、お嬢様はこちらの店は初めてでいらっしゃいますかな?」

「ああ、初めてだ。彼女にあう服はなかなか無くてね」

 ロディが平然と答えてる。すごい。私の彼氏役だ。


「お嬢様はどのような物をお求めですか?」

「あ、え…と。ロディ、どんなのが似合うかな?」

「ほっほっほ、仲がおよろしいですな」


「最近のはやりで、彼女に似合いそうなものを何点か選んでみてくれるか?」

 ロディがそう言うと、待っていたのかというくらいの速さで侍女が数点の服を持って来た。わりと簡素なワンピースから、貴族の昼間のお茶会くらいなら行けそうなドレスまである。


「あの、こんなドレスは町では着ることがあるのですか?」

 こんなわさわさを、普通の町娘は着ないだろうと思うのだが……


「ああ、これは城の王女殿下が隣国の王女様を助けに行った時に来ていたものに似せて作ったものでございます。町で着るのにはあまり適しませんが、良い方と夜に出かける時などに人気があります」


「「---------」」


「ロディ、好みは?」

「俺、お姫の普通のかっこが良い」

「じゃ帰ろっか」


 とりあえずその店を出て、次はアクセサリーを見なければならなかったのだが。


「これ、この前の夜会でお姫がつけてた髪飾りですよね」

「うんそう。ハルト兄様が買ってくれたんだ」

 そんなことをひそひそ話していたら、店主が出てきた。


「これはお目が高い! この髪飾りは、かの命の女神様がお付けになられていた一品です……」


 と、まだ長々しゃべりそうだったので速攻で脱出した。



「ロディ。もうお茶飲んで帰ろう……」

「そうですね」

 そのまま少しだけ歩いて、予約してあった軽食・喫茶のお店に入る。

 二階に通され、下の街並みが見えるようになっている。薄いカーテンがかかっているので外からは見えない仕組みになっているらしい。


「なるほど、ここからならみんながどんなかっこをしてるか分かるんだ」

「そうですね。 ---お姫何か食べられそうですか?」

「ん―― イチゴのケーキ」

「お昼それだけですか?」

「それと紅茶。アッサムが良い」

「はいはい。」


 ロディが注文をしている間、私は下を歩いている同年代と思われる女の子がどのような服装をしてるか必死で見ていた。


 そして、気がつく。


 -----アレは、春の初めのパーティで使った髪留めだ。

 あ、アレも…… 夏の初めに作ったばかりの花飾り。

 あれはギンレイに行った時に着たミスリル色の生地だ。街でも着られるように裾を短くしているんだ。

 全体にブルー系統の服が多い? ---私が、青ばっかり着ているから?


 髪も…… 銀色に染めてるの? わざわざ?



「ロディ…… 私……」

「ね、お姫の普通のかっこで良いでしょ」




「-------でもこれじゃ、私の女子力って上がらないんじゃないの?」






 町の人から、すごく良く思ってもらっていることは良く分かって、じんわりうれしかったけど。

 グレイシア様は予想が外れて、がっくりと肩を落とされていた。


 ……これは私のせいじゃないと思うな。

 しかもロディの好み、分かんなかったし……

 

 ちゃんと言ってほしいよね。

 そしたら、そしたら、ちょっとくらい好みに近い姿をすることもあるかも知れないのに。















 ん? あれ?

 ちょっと何だか乙女ゲームっぽくなってきたんじゃないですか!

 最強を目指すって決めた途端にこの展開って嫌がらせ?


 ちょっと女神様!顔貸してっ!



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