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24.干物がばれた日



 夜、着物を侍女に脱がせてもらって、夜着で畳に座って考えていた。

 

 ---真剣に考えるって、なに?

 考えたらどうにかなるの?

 この乙女ゲームの呪いから(もう呪いだよこうなったら!)開放されるの?


 

 そんなことをぐだぐだ考えていたらハルト兄様の来室が告げられた。

 いつもならこんな時間に来られることは無いのに。


 私は夜着の上に簡単に上着を羽織って兄様に入っていただいた。



「こんな時間にごめんねリディア」

「いいえ、兄様が来てはいけない時間などありませんわ」

「こら。淑女がそんなことを言ってどうする」


 そう言って笑う兄様。優しい笑顔。……でも、ちょっと沈んでいますかね? ギンレイ王子殿下は早速兄様に話を持っていったのでしょうか。

 この世界は一目惚れをしたらその場で求婚とか、普通なのでしょうか??



「リディアにも話したと言っていたから、早めに私からも話しておこうと思ってね」

 ---やっぱり、第一王子のことだ。


「リディア。私はお前には幸せな結婚をしてもらいたい。誰か、他に慕っているものがいるなら遠慮なく兄に言いなさい。カイ殿下のことも、国のためとか、変なことを悩まなくて良いから嫌なら嫌だと言いなさい。とりあえず殿下にはリディアは国から出す気はないと言っておいたが…」


 え?


 え?


 何? 兄様は何を言っているの?


「兄様…… 私は、『王女リディアルナ』は政略結婚のために王家に残されたと聞いております。……私は、兄様と国のために他国へ嫁ぐのだとばかり思っておりました。ブルーローゼスには私しか王女はおりません。外交のカードの一つを無駄にするなど…」


「リディア。…リディアルナ。私はお前を外交のカードなどと思ったことは無いよ。-----そうか。そんなふうに考えていたのか……。それはあのアルコールに頭まで浸った親父殿の考えだ。もう、そんなことは考えなくて良い」

「兄様…… 本当に?」


「兄がお前に嘘をついたことがあるかい? ------お前は自由だよ」


 自由……


「カイ殿下が本当にお好きなら、私は反対はしない。でも出来れば国の貴族あたりにしてくれると、お前と離れ無くて済むのだがね。それに国の貴族なら、お前が望めば私の一言で婚約位簡単にまとめてあげるよ」

「----兄様、そこで権力は使わなくて結構です。 ……でも、本当に……?」


「本当に。……グレイシアからリディアが政略結婚前提で考えていると聞いた時はまさかと思ったんだが。陛下がそう言ったんだな」

「はい。……王家の血の入っていない娘を王女として扱ってやるから感謝して言われた所へ嫁げと」


「そうか――。戻ったら一発殴っておく。もう二度と気にすることは無いからな」

「兄様!兄様穏便に!!」


 そう物騒な言葉を残して、ハルト兄様は帰って行かれた。




 ------自由だよ。




 今更そんなこと言われたって。

 もうどうしたらいいか分からない。



 考え疲れて布団にもぐりこんだ。

 ばーちゃんを抱え込んでも睡魔はやって来てはくれなかった。


 ちなみにばーちゃんはいつも上を向いて寝ている。これを正しいドラゴンの生態として記録しても良い物か……?







 翌日。

 早朝からハルト兄様と騎士団の大半を国に転移させて、後はグレイシア様達と観光--- の予定だったのですが。

 カイ殿下が付いてくると言うのです。


「殿下、申し訳ありませんが、昨日の申し出はお断りさせていただきます。ラインハルト兄上からも同じお返事をさせていただいたと思います」


 と、きっぱりと断ったのだ。


 が。

「お互いをもう少し知れば気が変わるかもしれないではないか?」

 と、同行を主張する。


 グレイシア様に目で助けを求めると、肩をすくめられた。どうやらグレイシア様も言ってくれたらしい。

 仕方なく一日目の観光は一緒に首都、真珠の名所巡りとなった。

 もちろんばーちゃんも一緒だ。私の頭の上が定位置になっている。


 カイ殿下は終始私に話しかけ、馬車を降りるときは手を貸してくれて、ギンレイの特産品などを紹介してくれる。

 話題は豊富で、人柄も良いのだろうと言うことは分かった。



 ---しかし、空気の読める人ではなかったようだ。

 私は昨晩の寝不足から、既にふらふらだったんだ。


 昼食を取るために海辺の料亭まで行くと言われた時にはめまいがした。

 こんな体調でなければ楽しめたのだろうけどなぁ。




「カイ殿下。申し訳ありませんがリディアルナ殿下は城に帰らせていだたきます。馬車を呼んでいただけますか?」

 そう言って、肩を支えてくれたのはロディだ。

 頭の上のばーちゃんも降ろしてくれている。


「リディアルナ殿下、御加減がお悪いのですか?」

「本当に、御顔色が悪いですわ。ロディ頼みましたよ」

 と、助け船を出してくれたのはグレイシア様だ。


「ちょっと寝られなかっただけですわ。休めば大丈夫です」

 と、やっと笑う。


「しかし……」

 と、殿下は私の途中帰城が信じられない、とでも言うように動かない。

 それにじれたのか、ロディは私を抱えあげた。


「レーナ様、この辺りに横になれるところはありませんか?」

「あ…… あまり良いところではありませんが宿屋があります」

「そこに案内を」


 と、レーナ様が宿屋と言うか「旅籠」と言う感じの店に行って事情を話す。

 すぐに部屋に通され、布団を引いてくれた。


 ロディがその蒲団に、ドレスのままの私を降ろす。

「侍女を呼んでくるから、お姫はそのまま寝ててね。今起きたら倒れるよ?」


 そう言って部屋を出た。

 ホントにロディは良く見ていてくれるなぁ。

 あー、でも本気できつい。あんな大人数の転移を二日連続でやって、夜寝られなかったから無理もないと言えば無理もないけど。


 うー このまま寝たらドレスがしわになる―

 

 

 と思ったのが最後の記憶だった。







「……あれ?」

「あ、お姫起きた?」

「み―――」


 と、窓際で外を見ていたロディがこっちを見る。

 ばーちゃんが心配そうにすりすりしている。


「えーと。私どうしたんだっけ?」

 和室で布団の中で寝ている。着ているのは……浴衣??


「グレイシア様が着替えさせてくれたよ。お姫の体調次第で今日はここに泊っても良いって」

「あ、うん。---大丈夫だと思う。馬車で移動でしょ」

「帰る? グレイシア様は多分、カイ殿下がいたらゆっくり休めないからって心配をしてたんだと思うけど」

「あーー ……ここで泊まりたい気がしてきた。でもここで泊ったら… ロディ何処で寝るの?」

「それは心配しなくて良いから」

「でも、……ロディは私の側を離れないよね。でも一緒に部屋で寝たりしない。それはロディは今晩寝る気がないってことじゃないの?」

「だから心配しなくて良いって。俺、ちゃんと騎士なんだよ。二三日寝なくても大丈夫だよ」

「見張りはばーちゃんに任せて寝ても良いよ?」

「……お姫が寝てる間、ずっと腹を出して寝てたよばーちゃん」


 ばーちゃん……


「とりあえず、城には帰ろう。グレイシア様も心配されているだろうし」

「うん、分かった。……でもお姫」

「カイ殿下にはちゃんと言うよ。……って、ちゃんと言ったつもりだったんだけどなぁ」

「……自分の都合でお姫をひっぱりまわした段階で、俺的にもアウト」

「ロディがそんなこと言うの珍しいね」

「俺だって怒りますよ」



 そんな話をしながら、控えていた侍女に着替えをしてもらって、城に帰った。

 帰ったら真っ先にカイ殿下が現れて、早速帰ってきたことを後悔した。


「リディアルナ殿下、体調のすぐれないときに申し訳ない。明日には挽回させてほしい」

「あの、殿下。明日は少し城で休ませていただきたいと思っているのですが……」

「そんなにお悪いのですか?」

「いえ、疲れがたまってだけですわ。昨日・今日と大人数を転移させましたから」

「……そうですか。では明後日ご機嫌伺いに参りますね」


 そう言って、城の廊下まで手を取ってエスコートしようとするので後ずさったら、ロディが抱えあげてくれた。

「部屋は昨日と同じでよろしいですか?」

 と、傍にいるギンレイ城の侍女に聞く。


「はい、そのままお使いください」

 とのことなので、ロディは私を抱き上げたまま、部屋まで運んでくれた。


「ありがとロディ。……やっぱり帰らない方が良かったかな?」

「多分、帰らなかったら、夜様子を見に来たと思いますよ。同じじゃないかな?」


 ロディが私をベットの上に座らせて、控室にいったん下がる。

 その間にドレスを脱いで部屋着に着替える。それだけでもだいぶ楽だ。


「お姫、ホントに明日はここで寝てる? それとも国に帰る?」

「うーん、もう帰ろうかなぁ…… いろいろ疲れちゃったし。グレイシア様はどうするかな?後から迎えに来ても良いけど」

「それも一緒に話しておこう」


 そう言って部屋付きの侍女にグレイシア様への伝言を頼む。


 グレイシア様は心配してくれていたのかすぐに訪室して下さった。






「リディアルナ様、大丈夫ですか? その、体調でなく殿下の方です」

「えーと。殿下の方は大丈夫じゃないかもです」

 やっぱりグレイシア様が心配していたのは殿下の方だったか。


「リディアルナ様がお優しいのは分かるのですが、気のない殿方にあんなに笑いかけてはいけませんよ。カイ殿下は変な想像をしているのかもしれませんし」

「----変な?」


「そうです。リディアルナ様はブルーローゼスの最大戦力。他国に嫁がせるわけがない、ラインハルト殿下が断るように言っているのだ、とか」

「うう、ありそう……」

「なので、もう口もきかない位の対応で良いと思います」

「それはさすがに失礼なのでは……」

「ではもう、国に帰られますか?」

「私的には、海の幸には未練がありますー」

「海の幸はいつでも食べに来ればいいでしょう。もう転移が使えるのですし。殿下に内緒で、私が案内いたしますから」

「----そうですね。それが一番なのかもしれません……」


 変だなぁ。ちゃんと断ったし、後は国交問題にならない程度の態度しか取っていないはずなのに。



「それと、昨日の夜会で思ったのですが…… リディアルナ様、殿方との恋の駆け引きみたいな事、ものすごく苦手なのでは? あの程度の口説き文句で真っ赤になって……」

「え、だって、あんなこと、言われたことないですし……」


「お姫にそんなことを言うような方を、殿下がお姫に近づけなかったんですよ」

 と、ロディ。

 へ? そんなことがあったの?


「殿下のシスコンにも困ったものですね……  ----リディアルナ様?前世はお若くして亡くなったのですか? あ、いえ看護師をされていたと言っていましたね。御結婚は?お付き合いをされていた方とかはいなかったのですか?」


「あー、旦那も彼氏もいなかったです……」

「でも、恋の十や二十は……」

 十や二十?! グレイシア様何者?!


「や、その、彼氏は学生時代にはいたんですけど、…えーと、私はそれ系って苦手で---」

「…………………あまり聞きたくはありませんが、彼氏いない歴は?」

「就職してから……」

「享年は?」

「35です」




「…………………つまり干物だったと。」




「……………そうともいいますね――……………」

 最早言い訳はいたしません。




「は----------------っ」

「グレイシア様?」

「おかしいとは思っていたのです。攻略が難しいわけではない乙女ゲームでこんなに苦戦するところから」

「すみません……」

「でも、リディアルナ様に関わった攻略対象の方々は良い方向に変化しています。……なので見逃しましてしましましたね」

「良い方向へ?変化?」


「ええ。レオン様は公爵邸を出て、学園に入学され薬草園も順調です。ソニア嬢との仲も上手くいっている様子。シーザー様は夢にまで見たというオリハルコンを手に入れ、しかも魔術塔との連携で我が国の軍備は格段に増強されています。そしてディーン様です。このままヒキニート一直線かと思いきや、まさかの社会復帰。しかもセシル嬢とは相思相愛。----リディアルナ様の介入の成功例ですわ。でも…… 」

「でも……?」


「『良い方向への変化』であって、『恋愛感情の変化』は見られないのですよ!」

「すみません……」



「おそらく前世、看護師をされていた時のコミュニケーション能力の高さでしょうね。本当に皆さま良い方向に変化しています。 ------この干物以外は」

 グレイシア様ひどい!


「その看護師のコミュニケーション能力を恋愛経験による会話術と見間違った私にも責任はあると思います。……既に手遅れかもしれませんが、その干物を治さなければ---」

「干物って治るのでしょうか?」

「治・す・んです」

「ハイ……」



「とにかく、カイ殿下には明日帰る旨、伝えておきますわ。帰ったら女子力増強特訓ですわよ!」

「あー……」


 国内最大戦力に女子力は必要でしょうか


 とにかく、グレイシア様はこぶしを握って出て行った。

 

 国に帰ってからも、試練は続きそうです……



















 やっぱり干物が原因だったのでしょうか……

 それ以外ないとは思ったんだけどね。

 

 や、やっぱり一番の原因は転生先を間違ったことだよ。


 やるか? 魔王召喚!



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