22.東の隣国へ
バタバタと出発準備を始める。
今回は、『ブルーローゼス王女の訪問』と言う肩書がつくので大層面倒くさい。
でも、5歳の子がつらい思いをしているのに王女の体面とか気にしてる場合じゃないんじゃない?
アイテムポケットに魔法陣用のインクとか紙とか魔石とかをどんどん放り込む。
うん。私的にはこれで準備完了。
現時刻、午後2時。うーん、中途半端だなぁ。
私の周りにはマリアをはじめとした侍女団がドレスはこれがいいとか、髪飾りはどうするとかいろいろ言っているが、私は医療行為をしに行くのだ。何故ドレスがいる??
「お姫、準備は?」
と、騎士の正装をしたロディが入ってきた。
「私の方は終わりなんだけど……」
「ああ、『お支度』の方だね。――だけどお姫、この前みたいに俺とお姫だけで行けるだけ行って、転移でも良いんじゃない?」
「あ! そうしましょう! マリア、準備はゆっくりでいいわ。荷物は転移魔法陣で帰ってきたときに持って行くから。出来るだけ早く出発した方が、向こうの第二王女様、間に合わないなんてことになったら大変だし」
「ああ、その方法がございましたね。ではすぐに出発して、また夜にはお帰りになると言うことでよろしいですか?」
「うん。そうする。グレイシア様にもそう伝えてくれないかな?ソフィアローズ邸に早馬を出して」
「じゃぁお姫、馬を用意しておくね……え?」
部屋を出ていこうとしたロディをばーちゃんが上着の裾を咥えて止めている。
「ばーちゃん? ごめんね、忙しいんだ。ばーちゃんも連れて行くから……」
「みゅ――!!みゅー!」
一生懸命ロディを咥えて、私の方に来る。
「どうしたのばーちゃん、急がないといけない用事ができた、の――?」
ぽんっっと、ばーちゃんが元のサイズに戻った。
部屋の中なので、狭そうに首をすくめている。
「ばーちゃん?」
そしてロディを咥えて自分の背中に乗せる。
「ばーちゃん、連れて行ってくれるの?」
「みゅ!」
「私とロディ、二人が乗るんだよ?大丈夫なの?」
「みゅ!!」
「ロディ…… どうしよう」
「うーん、いざとなったら転移で帰れるし、この際ばーちゃんに頑張ってもらってみようか」
と言うことで、この国始まって以来のドラゴンによる他国訪問となった。
ハルト兄様は頭を抱えたが、第二王女の命がかかっている。早いに越したことは無い。
「分かった…… 通信石で事情は話しておく。ロディ、これを持っていけ」
とハルト兄様は自分の剣をロディに渡す。
「王家の紋章が入っている。私の名代だと言うことは証明できるはずだ。それとリディア。せめて王女と分かる格好で行け。そのままじゃドラゴンに乗った怪しい魔道師だ」
兄様ひどい!!
と言う訳で、夜会用ドレスとまでは行かないけど、それなりにひらひらした恰好をさせられてしまいました。でもドラゴンに乗るので、そのドレスの上に厚手のコート?マント?を着ます。ロディも正装の上にマントまでつけていつもとちょっと違う雰囲気。
------ちょっとカッコイイです。
とにかく。
すぐに飛び立って、第二王女の容体を見てから、転移で一度帰ってきてグレイシア様やその他の荷物を取りに帰るという方向に決まった。転移なのでグレイシア様のお母様も里帰りが出来ますね。
とにかく急いでロディが待機している騎士団まで行きます。
騎士団の前には、ばーちゃんに即席の鞍がつけられていました。
「こんなのがあったの?」
「いや、大きめの馬用のをちょっと改良しただけ。俺もドラゴンに乗るなんて初めてだから、お姫、落ちたら風魔法で助けてよね」
「それはもちろん」
と、いつものようにロディの後ろに乗ろうとしたら止められた。
「お姫、今日は前に乗って。クッション置いてあるでしょ」
……ホントだ。
あ、それに今日はドレスだから跨がれないんだ。
ロディの前に横座りになって乗る。
うーん、なんだか新鮮。
「ロディ、気をつけて行って来い」
と、騎士団長様。
「「行ってきます」」
と、言った瞬間、風魔法が包んだのが分かった。
「うっわ…… すごい早さだ。もしかして今日中につくかな?」
「着きそうだね…… 羽根で飛んでるんじゃなくて、風魔法で飛んでる。だからこんなに揺れないんだ」
ブルーローゼスの首都、オンディーナがみるみる小さくなっていく。
街道沿いに東へ。
街道が山を迂回するところは、山を越えて。
これって高度どのくらい出てるんだろう。少なくとも前世で乗ったことがあるドクターヘリよりは確実に高い。
しかも、もうすっごい早さ。
「ばーちゃん、すごいね。ありがとね」
と首筋をなでると、
「み――」
と、嬉しそうに鳴いた。
「この調子だと、ラインハルト殿下の連絡より速かったりしませんかね……」
「うん。……私もちょっと心配」
この通信石はあまり性能が良くない。しかも1セット使用が原則で、他の通信石とは連絡できないと言うホットライン的な感じだ。出来の悪いトランシーバーと言ったところだろうか。前世のスマホに慣れた私には使いにくくて仕方ない。もう少し余裕が出来たら通信用の魔道具を作ろう。せめてガラケーレベルの。
「---でもまぁ、王家の紋章が入った剣、持ってきて良かったね」
「お姫も怪しい魔術師の恰好じゃなくて良かったですね」
「どこが怪しいのか、ちょっと話し合いましょうか」
……ロディまでそう思ってるのなら、もうちょっとマシな格好しようかな……
ちょっと、しょんぼり。
自分の今着ているドレスを引っ張ったりして、考えているとロディが叫ぶように行った。
「見えた!!」
「へ?」
「ギンレイの首都、シンジュだ。ばーちゃん王宮を目指してくれ」
ブルーローゼスの首都オンディーナを出たのは、3時を過ぎて、4時近かった。まだ夕日が残っている。多分7時前くらい?
3時間かからなかったの?
「ばーちゃんスゴイ……」
「本当に。――これ程とはね」
ギンレイ王宮の上空をばーちゃんが旋回する。
……下は大騒ぎだ。
ハルト兄様の連絡は間に合わなかったようだ。
「ばーちゃん、もう少し高度を下げて」
と、ロディ。
ばーちゃんはその通りに少しずつ高度を下げる。
「我々はブルーローゼスより第二王女殿下の治療に参った! 王にお目通り願いたい!!」
そう言って、ハルト兄様の剣を紋章が見えるように持ち手を上にして掲げる。
声は私の風魔法で拡声している。
「私はブルーローゼス王女、治癒魔術師リディアルナです!第二王女様の治療に参りました!!」
えーと、私は特に王家を示すものを持ってはいない。
これは派手に魔術でも見せましょうか?
でも下の様子はだんだん落ち着いてきている。
と、王宮からちょっと変わった衣装を着た人---多分国王?が、出てきた。何ですか侍ですか?
「リディアルナ殿下であらせられるか?!」
「はい!リディアルナです! このドラゴンは私達をここまで乗せてきてくれました。降りても大丈夫ですか?」
「ああ、広場の方に降りられよ」
その言葉通りに、広場にばーちゃんを降ろす。
「ばーちゃん、お疲れ様。ホントにありがとうね」
「みゅ――」
何だか得意げなのが可愛い。
「リディアルナ殿下!」
「ギンレイ国王陛下であらせられますでしょうか? ブルーローゼス、ラインハルト王太子殿下の命によりギンレイ第二王女殿下の治療を承りました」
そう言って淑女の礼をとる。ふっふっふ、今日はドレスだ。
「こんなに早く来て下さるとは思ってもおりませんでした。お迎えの不備をお許しください」
「陛下。第二王女様はお辛い状況が続いていると聞きました。形式など構わないでくださいませ。御無礼でなければ、すぐにでも私を第二王女殿下のところに」
「リディアルナ殿下--- 申し訳ない。歓迎も何もせずに」
「不要です! 早く案内を!」
「ではこちらに」
……これは、はっきり言って私はものすごく無礼者だった。
でも、5歳の子の命がかかってるんだよー
元救急看護師としては譲れないところだね!
しかも、更に無礼にも国王に案内させてるし。
うん、でも気にしない。娘が大事だから私に、と言うか兄様に連絡したんだろうし。
しかしこの国。めっちゃ和風。
王宮が平安時代の紫宸殿?とかあんな感じ。
それでグレイシア様はあんなに見事な黒髪なのかな?
長い廊下を進み、多分王家の人たちが住んでいると思われる一角に入る。
ロディはしっかりと小型化したばーちゃんを抱えてついてきてくれている。
うん、ばーちゃんを見て、あんまりびっくりしないでくれて助かったよ。
「ユーリ、リノは---」
「陛下、---そのお方たちは……」
おーーー着物だ! さすがに十二単ではなかったけど着物だぁ。
「ブルーローゼスのリディアルナ殿下だ。----ドラゴンに乗って来られた。恐ろしい早さだ」
「王妃殿下ですね、ブルーローゼスの王女リディアルナです。早速ですが王女殿下を診せていただけますでしょうか」
「ありがとうございます、こんなに急いでおいで頂いて…… 何の準備も出来ていない事をお許しください」
「王女殿下のお命がかかっていると伺いました。何の準備も必要ありませんわ」
扉を開けて、王女の私室と思われる部屋に入る。
中では、布団で(布団だよ布団!)眠っている小さな女の子。この子が第二王女。
そっと近づくと、荒い息をして目を閉じている。
顔中に発疹。額に触れるととても熱い。----39.6℃ってところだな。ちなみに私の手は体温を±0.2℃の誤差で測れるのが自慢だった。看護師やってるときはものすごく役立つスキルだったんだけどこの世界に来て役に立ったのは初めてだ。
「姫様? 分かりますか?」
問いかけると、薄く眼が開いた。意識はある。
うん、目が真っ赤に充血している。唇も赤い。手足の浮腫もある。
「少し口が開けられますか?」
と言うと、そおっと小さな口を開けてくれた。
舌には特徴的な赤み。
体の中をサーチすると、案の定、冠動脈(心臓に栄養を送る大事な血管)に瘤が出来てる。
うん。がっつり川崎病じゃん。
「王妃殿下、発熱はいつからですか?」
「もう15日になります」
おっと、連絡が遅いよ。でも、私にはこの病気なら治せる。
「姫様、もう眠っていていいですよ。次に目が覚めた時には治っていますからね」
「え……? わたし… なおるのですか…?」
と、小さな姫様が小さくつぶやく。
「はい、治りますよ。でももう少し寝ていてくださいね。起きたらご飯をたくさん食べて、たくさん眠るんです」
「はい、わかりました…」
そう言って目を閉じる小さな姫様。
「ほ、本当に--- 治療が---」
「はい。始めますね」
川崎病は全身の血管の炎症が主な病態だ。
その炎症を抑え込む。そして出来てしまった冠動脈の瘤なんかは綺麗に治しておく。
念のため全身の血管に瘤が残っていないかサーチ。ついでに変な感染がかぶっていないかもサーチ。
うん。もう大丈夫。
あぁ―なんて便利。前の世界でこの魔術があったら良かったのになぁ---。
時間にして5分ほど、治癒魔術の光を体のあちこちにかざして終わりだ。
「治りましたよ」
と、にっこりほほ笑むと国王夫妻は驚きのあまりか言葉も出なかった。
それからが大変だった。
歓迎の宴をするとか、城下をパレードするとか大騒ぎになりそうだったので、ちょっと時間が遅かったけど転移で一回帰ることにした。
ものすごく引きとめられたが、ハルト兄様に上手く行ったことを報告しないととか、王家の紋章の入った剣を返さないといけないとか、グレイシア様と母君を迎えに行かないといけないとか、荷物も何も持ってきていないとか、いろいろ言ってとりあえず脱出した。また後日挨拶に来ることを約束して。
帰る言い訳が一番大変だった。
「ただ今戻りましたー」
と、いきなり正妃宮に転移。思った通りみんなで夕食を食べていたところだった。
「リディア? ---貴女ギンレイに行ったのでは?」
「はい正妃さま。第二王女殿下の治療が無事に終わったので報告に帰ってきました」
「なに? ------もうギンレイまで行ってきたというのか?」
とハルト兄様。
「ばーちゃんがすっごく早かったんです。ギンレイまで3時間くらいでしたよ?」
「はぁ…… そうか。それで王女殿下は無事に治ったのだな」
「はい。体力が戻るまで少しかかるかもしれませんが、後は食べて寝れば治ります」
「……本当に、規格外だな。その治癒魔術は」
「……はい。これが魔法陣化できればどんなにいいかと思うのですが……」
「まぁ、焦る必要はないだろう…… しかし……」
「ハルト兄様?何か……?」
ハルト兄様は少し笑って「心配するな」とだけ言った。
「---------兄様ーーー」
------私は兄様に心配をかけているんだ。
多分、この治癒魔術のせいで。
もしかして、こんな病気治療の依頼はたくさん来ているのかもしれない。今回はグレイシア様のお母様の実家だったから私のところまで話が来ただけで。
でも。
だったらどうしたらいいんだろう……
「リディア? 心配はいらないと言っただろう。お前はいつも通り、気にせず過ごしなさい。どうしてもお前の手が必要な時は、今回のようにきちんと話すから」
「---はい兄様。でも、もっと私、いろんな国を回ってもかまわないです。ばーちゃんがこんなに早いこともわかったし、国内だっていろんな都市を回って……」
「リディア…。リディア。それではお前がいないと何もできない事になる。
今、薬草園を作っているのだろう? 誰か一人に依存するシステムは欠陥品なんだ。お前がいなくても回るシステムを作って行かなくてはいけない。お前が他人の運命まで背負わなくても良いんだ。それはこの国が、この国の民が、自分たちで背負わなくてはいけないものなんだ」
「-----兄様-----」
「今日は疲れただろう。食べたらもう寝なさい」
「……はい……」
そうだよね。
誰か一人に依存したシステムなんか、脆い物を作っちゃいけない。
頑張るのなら薬草園や魔法陣の方だ。
第二王女様を治した嬉しさと、いつもいつもこんなことは出来ない難しさで、その日はなかなか眠れなかった。
ちなみにばーちゃんは一緒のベットで寝ています。
ばーちゃんは長い距離を飛んで疲れたのか、ドラゴンにあるまじき姿で、お腹を上にして寝ていました。
ばーちゃん、野生って言葉知ってる??
いろいろと、難しいなぁ。
ん? でも乙女ゲームのはずだよね、この世界。
なんで私はこんなことで悩むのでしょうか?
ホントに、脱・乙女ゲームしたの??
だったら悩む甲斐もあるんだけどなぁ。




