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〈閑話〉 ラインハルト

ちょっと番外編です。






 私はブルーローゼス王国の王太子ラインハルト・ブルーローゼス。


 父である国王が政務に出てこなくなって久しいので、この数カ月、国はすべて私が動かしている。

 父が病を得ているということは治癒魔術師である妹から聞いている。それもお命すら危ないということだ。

 原因は御酒であるというのだが、父が酒をやめる気配はない。

 自分も、そして正妃である母も諦めている状況だ。

 どうも側室のダリア妃が酒を勧めている。故意か偶然か。おそらくは前者であろう。


 この側室に、私や母は何度も命を狙われれてきた。

 暗殺者が差し向けられたり、食事に毒を盛られたり。母上への献上品の指輪に毒が塗られていたこともあった。

 しかし、国王の寵愛を理由に手が出せない。

 幼かった私がどれだけ悔しかったか。




 それがある日を境に一変する。


 可愛い可愛い妹が、魔術を覚えたのだ。

 当時5歳。

 そんなバカなと思ったが、大人でもできないような攻撃魔術を見せてくれた。

 

 そして何より突出していたのが、治癒魔術だ。

 病を治す治癒魔術など聞いたことがない。


 

 それを平然と行うだけでなく、また通常の治癒魔術の魔法陣化に成功した。この時8歳。

 その前年に索敵・毒感知・防御・迎撃と言う聞いたことも無いような高性能の守護魔法陣を作り、私や母に手渡してきた。

 7歳の子供の創る、拙い字で書かれた魔法陣。

 それがこれ程の威力を持つと誰が思うだろう。

 この魔法陣を身につけるようになってからは、格段に安全性が増した。

 矢が飛んできてもはじいてくれる。毒物があれば鈍い光を放って知らせてくれる。魔法も術者へ跳ね返す。とんでもない性能だ。


 初めは普通の魔石に守護魔法陣を書いて渡してくれたのだが、効果があまりに素晴らしいので母の分だけでも、と試しに魔宝石に守護魔法陣を入れてもらった。

 それはアクセサリーとしても美しく、ただの魔石よりも威力が格段に高かった。

 

 その後、妹はおそるおそるという感じで、あと二つ魔宝石が欲しいと言ってきた。妹の初めてのおねだりだった。私は張り切って美しい物を厳選し妹に送った。そうしたらその二つの魔宝石は守護魔法陣が入れられ、私とエドガーに渡された。

 妹よ、元々私達の為の魔宝石ならおねだりとは言わないんだよ。兄は盛大に落胆したんだ。どうしたらお前を喜ばせることが出来るのだろう。



 妹が「イージス」と名付けたその守護魔法陣は、その後城下町の防壁にも施され高く評価されている。その特許料だけでもひと財産が妹名義であるのだが、妹はそれを知らない。嫁入の時に持たせるつもりだ。

 

 しかし本人は、城の外での騒ぎなど全く意に介さないようで、いつも魔術塔に籠って新しい魔法陣の研究をしている。

 普通の令嬢のようにドレスや宝石をねだったことは無い。

 それだけでなく、一度着たドレスをリメイクして再利用しているというのだ。

 確かに王女の正装として立派なものだ。しかし、我が王家は妹のドレス代が出せないような小国ではない。

 どうやら本当に着飾るのが苦手のようだ。

 城にいる時は、ほとんど魔術師のローブで過ごしている。

 あのローブももう少し何とかならないものか……

 今度妹が懇意にしているデザイナーに王女の着るにふさわしいローブを発注してみようか。

 一がばちかの、嫌な予感はするが、試してみても良いかもしれない。


 まぁ、何にしても。少し変わってはいるが、可愛い可愛い妹に変わりは無いのだ。







 しかし。




 私に婚約者が出来てしばらくたった頃、二人がとんでもないことを言い出した。

 いわく、前世でこの世界のことを物語として見てきたというのだ。


 私の婚約者は、心根の優しい美しい女性だ。 

 冗談や戯言で私を煩わせることなど考えられない。


 しかも、その物語では可愛い可愛い妹は、最後は奴隷に落とされることもあると言うのだ。

 これが黙って見ていられるわけがない。

 

 しかし私は、妹をもう妹としか見ることは出来ない。

 エドガーも同じであろう。

 しかし……


 私は妹には、妹が愛した人と結ばれてほしいと願っている。


 国王は、何処かの隣国に嫁に出す気満々だったがそんなことをさせるわけがない。

 

 しかも妹は、昔の小さな妹ではないのだ。

 今や我が国の最大火力と呼ばれ、命の女神・王家の守護神の異名を持つこの国最強の魔術師。


 どこの誰が自国の最大戦力を他国へ渡すと言うのか。



 もちろん、そんなことが出来なくても私の意思が変わることは無いが。




 しかし最近。

 その最愛の妹が持ってくる厄介事が増えてきた。


 まず初めは薬草だった。

 人工栽培が不可能と言われた薬草を、学園内で栽培するから補助金がほしいと言いだした。

 そんなことが可能ならもちろん是非も無い。


 次はその薬草園が軌道に乗ったら全国に薬草園を作りたいと言う。

 これも人材さえ確保できれば、財政的には可能だろう。



 その次はミスリル鉱山だった。

 さすがにこれは驚いた。

 新しいミスリル鉱山などこの数百年、見つかったという話など聞いたことがない。

 諸外国も同様だ。

 そもそも、探す術がないのだ。

 国中を掘って回るわけには行くわけがない。

 それを4日で見つけてきたなどと……

 規格外にもほどがある。

 さすがにこれだけのことが出来ると諸外国にばれたら、妹の安全が確保できない可能性がある。

 十二分に気をつけねば。




 そう思っていた矢先。


 今度はオリハルコンの石柱を持って帰ってきた。




 ………ドラゴンと一緒に。






 この時の私の驚きを分かってくれる者がいるだろうか。

 正に、空いた口がふさがらない状態だ。

 

 オリハルコン?!

 ミスリルの騒ぎが全く収まらないこの時期にオリハルコン!!

 しかもドラゴンを生け捕りにしたなど……

 

 妹よ、兄は一生分の驚きを使い果たしたよ。



 それでも可愛い妹は、「ごめんなさい……」と、深い海の色の瞳で見つめてくる。

 ---------兄はその瞳で見られたら、許すしか出来ないんだよ。



 ミスリルやオリハルコンの鉱山が領内にあった貴族が収益をよこせと言ってきたり、いろいろ面倒は多いが、兄はお前が笑ってくれるなら何でもない。

 

 大体、鉱山に近い町は空前の好景気だ。

 鉱山の収益など当てにしなくても、人も物も集まってくるだろう。

 発見・採掘・警備まで国がやるのだ。

 そもそも、領内の探査を怠ったのが悪いのだ。自分で見つけたわけでもないのに、今更収益をよこせなどと片腹痛いと、追い返した。






 その次に会った妹は、その銀糸の髪の上に珍妙な生き物を乗せていた。


「兄様、この仔を正妃宮で飼っても良いですか?」

 と、上目使いで見てくる。


 じーーーーっと私を見る夜空色の瞳と、珍妙な生き物のルビーの様な深い赤の瞳。

 私に逆らえるわけがない。


 しかもその珍妙な生き物は、例のドラゴンが小型化したと言うから更に驚いた。

 古い古い言い伝えにはドラゴンに乗って戦った騎士がいると言う。

 このまま人に慣れてくれれば、そんなことも可能かもしれない。

 ロディと騎士団長の子息には慣れていると言うから、不可能ではないだろう。


 本当にこの妹には驚かされてばかりだ。


 最近の兄の仕事は、君のフォローばかりだよ。

 でもそれは私にとって幸せなことだ。


 そして、国にとって、民にとって益になることだ。



 兄はこの次は、お前が何をしでかしてくれるか、楽しみになってきているよ。


 だけど、最後には必ず幸せになっておくれ。

 奴隷落ちなど許さない。


 何があっても助けるから。

 何があっても。助けるから。










 ただ、妹よ。

 ドラゴンは神聖な生き物なんだ。

 お前の命名のセンスが、いまひとつよくわからないが、ドラゴンに「ばーちゃん」と言う名はどうだろうか。

 

 兄は将来生まれてくるはずの、お前の子供が少し心配だよ。




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