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20.ペットを拾ってしましました



 城下は魔法金属でお祭り騒ぎだった。

 元々ミスリル・オリハルコンとも採掘量が少なく、そのそも鉱山を見つけることが困難だった所でのこの騒ぎである。

 城下だけではなく、国中の鍛冶屋を動員しての武器や魔道具作り、それに鉱山労働者の雇用増加で、夏の農繁期だと言うのに出稼ぎに出てくる人が絶えなかった。



 つまり城下町は、かつてない好景気に沸きかえってしまったのである。


 宿屋は足りない、食料は輸送が追いつかない。

 鉱山に雇った土魔術師たちは急遽、道路整備に借り出されインフラの整備に投入された。

 騎士団は、鉱山近辺でテントで寝泊まりしながらの警備を余儀なくされた。

この国の騎士団は警察の役割も持っているので、これは正規の任務ではあるのだがあまりにも急に、それも二か所、貴重な魔法金属の鉱山が見つかった例など無く騎士団長フォーグ・マクミラン伯爵は、正に寝る間もなく働いている。しかも魔法金属発見は両方とも息子が絡んでいるのだ。もう誰に文句を言ったら良いのか分からない状況である。



 そんな状況を説明してくれたのは、目の下に黒々としたクマを作ったハルト兄様だ。

 さすがに申し訳ない気持ちになったので、回復魔術をかけておいた。


 そして、ハルト兄様が何故こんな説明を長々としに来たかと言うと。


 

「しばらく。しばらくでいいから大人しく、城にいてくれ。学園はまぁ最大限の譲歩だ。それ以外には絶対外出するな。頼むから大人しくしてくれ」




 と言うことだった。

 だいぶ堪えているらしい。


「すみません兄様……」


 兄様に迷惑をかけたいわけでは決してない。ないんだけど、見つけちゃったんだから仕方ないと思う。


「謝ることは無いよリディア。おかげでこの国の税収は去年の数倍になるだろう。お前が希望していた薬草園の予算も十分取れる。……ただ、今後鉱山を探しに行く時には私に言ってくれると嬉しいな」


 と、やっぱりキラキラした笑顔で頭をなでてくれる。

 兄様、私に甘すぎですよ……



「ああ、それとあのドラゴンなんだけどね。やっぱり生態が分からないし預かれないと言うんだ。ドラゴンを殺してしまうのは避けたいから、またリディアに深い山にでも行って離してきてもらうことになるかもしれない。とりあえず、どんな昔の資料でもあれば報告するように伝えてはいるが、あまり期待は出来ないだろう」

 

 あ、やっぱり育てた記録も無いんですね。


「分かりました。……兄様、では少しの間だけ、あのドラゴン、私がお世話をしてはいけませんか?」


 現在、私の創った檻の中では結構大人しくしているし、私の手からならお肉も野菜も食べる。不思議なことに馬屋番が上げたエサは食べないのだ。


「ふむ。とりあえずお前の手からは餌を食べると言うから、それでも構わないが…… 危険な行動をとるようならその場で殺してもかまわないから、自分の身を守ること。これが守れるなら城においてもかまわない」

「ありがとう兄様!」


 わぁい、晴れてあのドラゴンは私のペットです!


 前世、犬を飼っていた私は愛玩動物に飢えていたんですよねー

 ちょっと、もふもふではないのが不満と言えば不満ですが、レア度は最高級です!

 頑張ってしつけましょう!






「と言う訳で、まず名前をつけないと」

「本気でドラゴン飼うんですか?」

 と、ロディもさすがに心配そうだ。

 しかし! 冒険者志願の私としては譲れないところである。


「どこまで脱線する気ですの?」

 と、学園帰りに王宮によってくれたグレイシア様。


「えーと、ほら、マスコット的な存在っていても良いじゃないですか」

 どうやらグレイシア様は乙女ゲームにドラゴンはどうしても許せないようだ。


「どこの世界にこんなに大きなマスコットがいるんですか? しかも連れて歩けるわけじゃないし」

「そ、そのうち慣れたら連れて歩ける…… かも…? と、とりあえず名前!」

 話をそらすのも大変だ。

 でも良いじゃないですか。乙女ゲームにドラゴンがいても。


「ドラゴンの名前ですか…… まず捕獲例がないのでどんな名前が一般的かも分からないですね」

「ドラゴンという時点で一般的なはずがないでしょうロディ」

 ロディの必死のフォローにもグレイシア様の鋭い突っ込みが……

 グレイシア様、ドラゴンに恨みでもあるんですか?


「うーん、男の子か女の子かも分からないしなぁ……」

「判別できる人がいませんからね」


「じゃぁ、まぁここはオーソドックスに『バハムート』で」

「お姫の前の世界のドラゴンの名前?」

「まぁそんなところ」

「何のひねりもありませんわね」

「じゃぁグレイシア様、何か案はありますか?」

「----そうですね、やっぱり乙女ゲームですから前世のイケメン様の名前でも借りますか?」

「だって性別分かんないし。私は乙女ゲームよりRPG派だし」


 だってドラゴンに「キム○ク」とか「サク○イ」とか付けるのはさすがに……


「よしもう決定!バハムートのばーちゃんで」


「「ばーちゃん?!」」


 その後二人から反撃されたがもう決定だ。

 ファイナル○ァンタジーの最強の召喚獣で!





「今日からお前はバハムートだよ」

 と言って、今日のご飯をあげた時だった。

 ドラゴンの鱗が、いや体全体が銀色にふわっと光った。……ような気がした。


 -----?


「ばーちゃん?」

「きゅーー」

 

 !!


「バハムートさん?」

「きゅうーー!」


「分かったみたいですね」

 と、後ろから見ていたロディ。

「だねぇ。頭いいとは思ったけど、これ程とは……」


「えと、ご飯食べる?」

「みーー」


「喜んでるんですかね」

「そんな感じだね」


 いやビックリ。




 実は、ドラゴンを連れて帰った翌日、学園に登校した後、ドラゴンがいっさいご飯を食べなくなったんだよね。

 でも私が上げると食べる。ロディの手からも食べる。シーザー様も大丈夫だった。ディーン様はセシル嬢につきっきりらしく試してはいない。

 とにかく、この三人の誰かがいないと、このドラゴン、飢えちゃうみたい。

 なので、私とロディは学園には登校せずドラゴンと戯れています。

 これが結構可愛いんだ。


 しかも犬よりはるかに頭は良い。

 私は前世、ゴールデンレトリバーを飼っていた。大人しい、優しい仔で室内飼いをしていたおかげか、人の言葉もほとんど理解していた。

 このドラゴンは、あの仔よりも人の言葉が分かっている。


 犬とか猫とか飼ってる人は分かると思うんだけど、コミュニケーションって言葉じゃないんだよね。わんこの鳴き声のちょっとした変化や表情で何を言っているか飼い主には分かる。


 ……このドラゴン、爬虫類の分際でうちのわんこよりも知能が高いとは……

 ん? ドラゴンって爬虫類なの??





 しかし。

 それから先も驚きの連続だった。

 日に日に、こちらからの言葉のリアクションが増えてくる。

 遊んでと『お手』をしてくる。

 もう、こちらの言うことは、100%理解している感じだ。ちなみに『おかわり』も教えた。---ら、グレイシア様から怒られた。


 

 それに。なんと魔法?が使えたのだ。


 私とロディがご飯をあげて、しばらく遊んでやってから城へ帰る時、後追い(帰るなと言って鳴くのだ)して鳴いていたのだが。

 私達についてこようと、檻を壊そうとしたのか口から火を吹いた。

 私の檻は成体のドラゴンでも破られたりはしないだろうけど、驚いた。

 多分本人(本竜?)も手加減したのだろう、下草に焦げ目もつかなかった。


 しかもこのドラゴン、捕獲のときには火は吹かなかった。

 明らかに人に対して、配慮している。


 

 いやもうびっくり。


「本当に賢いんですね」

「そうだよねー もうちょっと体が小さかったら城に入れられるのに……」

「いや、さすがにそれは無理……」

 とロディが言った時だった。



 何と体がどんどん小さくなっていった。




「「えええっっっ」」


 サッカーボールくらいの大きさになって、また「みゅー」と鳴く。

 檻越しに恐る恐る抱き上げてみる。

 意外と軽い。

 あ、風魔法を纏ってるんだ。


「ロディ、これどうしよう」

「………さすがに正妃宮に連れて帰るわけには……」

「だよねぇ」

 さすがの兄様も許さないだろう……か?


 

 抱き上げたばーちゃんは透き通った赤い目でじーーーーっと私を見る。



 あ、これダメなやつだ。


 私は前世、捨て犬を同じようなシチュエーションで拾ってしまった前科があった。



「ロディ…… 私今日からここで寝る」

「お姫?!」

「この状況で目があったら、昔からもうダメで……」

「いやダメなのはお姫でしょう、何処の世界にドラゴンの檻で寝る王女がいるんですか!」

「ロディまでグレイシア様みたいなことを言う……」

「全然違います! 俺が言ってるのは常識です!」


 もう、ドラゴンが小型化したりしているんだから、常識を問うなんて今更な気がするし。


「うーん…… じゃぁ、ばーちゃんを正妃宮に連れて行っていいか聞いてみようかな……」

 と、私は檻の一部を崩していく。

 元の世界の最強金属が私の手の中にさらさらと落ちていく。


「お姫……」

「おいで。大丈夫だよ」

「みー」


 ばーちゃんはふわふわと飛ぶ、と言うか浮いて私の手の中におさまった。

 ……仔犬、よりは大きいな。

 ピカチ○ウくらい?

 可愛い。





 そしてハルト兄様は私と同類でした。

 ばーちゃんと目があってから数十秒石と化して、がっくりと肩を落としながら許可をくれました。

 このつぶらな目には、敵いませんよねー。


 正妃さまは最初はびっくりされたけど、すぐに慣れて下さった。

 とりあえず、問題なく正妃宮で暮らせそうです。


 あ、学校。

 連れて行ったらさすがにやばいかなー。

 グレイシア様には確実に怒られそう……













 ドラゴンゲットだぜー!

 このまま、脱・乙女ゲーム出来ないかなー

 実力行使でRPGに持って行ったりできないかな―

 絶対私にはその方が合ってるよね。

 そもそも、ドラゴンの好感度上げたって関係ないのよね、ゲーム的には。(しかも性別不明)

 あーあ。



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