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19.厄介事の回収いろいろ





「リディアは何も心配しなくても良いよ。全部私が何とかするからね」




 私に大甘なハルト兄様は、額に少し汗を光らせながら目の前のオリハルコンの石柱を見てそう言った。

 もちろんドラゴンのことも報告済みである。


 私は知らなかったのだが、大陸の南の方に野生の動物を手なずけることを生業としている種族がいるらしい。

 ドラゴンが、果てして手なずけられるものか分からないが、はるか昔の騎士はドラゴンに騎乗し戦ったという記述があるそうだ。


 ドラゴンの移送は私が行った。

 こんな大きな檻なんて、人の手じゃ運べないしね。


 -----あれ?ちょっと待って?

 よく考えたらドラゴンよりこの檻の方がよっぽどレアじゃない?

 やばい。オーパーツだ。

 ……グレイシア様にばれる前に何とかしなきゃ、怒られるーー


 いやもっと待て。

 こんなものが作れるんなら、私、オリハルコンだって作れたんじゃないの?


 -------------。

 考えなかったことにしよう、うん。




 あー、でもこのドラゴン、よく見たら愛嬌がある顔してる?うん。結構可愛いかも。

 大きさは私の身長の倍くらい。ドラゴンとしてはまだ子供だ。――多分。

 人に慣れたらいいなぁ。 

 食べ物は何食べるんだろう。まさかオリハルコンしか食べないわけじゃないよね。


「大体普通の動物と一緒で良いみたいですね」

 と、ロディがいつの間にか調理場から、解体した骨付きの肉なんかを持ってきていた。


「食べるかな?」

 と、骨付き肉を檻の間から入れてみる。

 すると、ちょっと臭いをかいでから勢いよくかぶりついた。

 

「……お腹すいてたみたいだね」

「ですね。-----檻、ここじゃなくて馬屋の方に持って行ってもらえますか。馬屋番に任せましょう」

「そだね」


 その南の種族に連絡がつくのはいつだろう。

 ……私が飼ったらどうなるかな~

 兄様、私がドラゴン育てるって言ったらなんて言うだろう?

 まぁ、その前に懐くかどうかわからないんだけどね。








「今度は何をやらかしたんですか、脱線王女」

 翌日、普通に学園に行ったら、サロンにグレイシア様からお呼び出しがかかった。


「何をって…… えーと、え―…あ、そう!授業をさぼって花の咲く丘デートイベントをクリアしたんです!」

「-----花の咲く丘にミスリルやオリハルコンやドラゴンが落ちていたと」

「……あー、落ちては、いなかった、かな?」


「は--------っ」

 グレイシア様がまた大きなため息をひとつ。


 今は授業中で、サロンには例によって私とグレイシア様とロディ。

 意外なことにエド兄様は割と真面目に授業に出ている。

 まぁ、エド兄様は今まで騎士団で剣の修行ばっかりしていたので坐学は苦手だったはずだ。

 ハルト兄様任せじゃ駄目だと思ってるのかなぁ?


「一週間以上も授業に来ないと思っていたら、ミスリル鉱山が見つかったとか、今度はオリハルコンーーー ここは、乙女ゲームだと何度言ったら分かるんですか」

「だから、イベント! イベントクリアだよグレイシア様」

「イベントは丘でお弁当を食べて終わりです! 魔法金属の入る余地はありません!」

「でもシーザー様があったらいいなぁって……」


「で、シーザー様の好感度は上がったんですか?」

「好感度、は、上がった。きっと。-----多分緑色の」

「赤い好感度を上げないと、奴隷落ちだと言ったでしょう!」


「それです、グレイシア様! 今の私を奴隷に出来る存在がいると思いますか?私はドラゴンを生け捕りに出来るのですよ?」

「……ゲームの補正を甘く見ないと言っていたでしょう」



「甘く見るつもりはありません。でも、立ち向かいます。私が私でなくなるのは嫌なんです」



「では、このまま誰の好感度も上がらなかったら、私の方から殿下との婚約を破棄すると言ったら?」

「グレイシア様?!」


「私も、貴女が奴隷になるのは我慢できません。修道院へ助けに来て下さいね」

「それは違うと思います!! グレイシア様から、婚約破棄の申し出があってもハルト兄様が了承するはずもないし、ハルト兄様の好感度が赤い色になることはありません」


「-------ではこのまま、現状維持と言うことですか?何もせずに?」

「出来ることはやります。でも、誰かの婚約者を邪魔するとか、断罪イベントとかは違うと思うんです」

「まぁ、事実苛められていませんからね、断罪イベントは起こしようがないでしょう。貴女を苛められる令嬢がいるとも思えませんし。しかも誰のルートにも入っている気配はありませんし……」



「では、これからは奴隷回避に力を入れる感じで行きましょうか。魔術を鍛える方向で」

「まだ攻・略・です!」

「グレイシア様諦め悪いなぁ」

「誰のせいですか、脱線王女」




「あ、そう言えばディーン様が変だったんですよ」

「----? あの方は元々変ではありませんか」

「いやそうじゃなくて、変じゃなくなって来てて変なんです!」

「……まともになってきたと?」

「うーん、まともかと言われればちょっと悩むけど……」

 と、ロディを見る。


「確かに以前とは変わっていました。婚約者様を入れたのが良かったのかもしれませんよ」

「帰りに様子見に行こうか、まだセシル様心配だし」

「ああ、ドラゴンに遭遇した時お怪我をされたとか」

「はい、かなりの重症でした。高度治癒魔術でなければ命も危なかったと思います」

「ドラゴン…… 乙女ゲームにドラゴン……」

 

 グレイシア様、何か許せないものがあるようです。

 良いじゃないですか、乙女ゲームにドラゴンが出たって。





 授業が終わって(と言っても一つも出なかったけど)、ロックウェル邸に先触れを出してからお邪魔することにする。

 まぁ、昨日の今日だからセシル嬢の意識はまだないだろうけど、全身状態のチェックはしておかなければ。




「ごきげんよう、ディーン様。セシル様の様子はいかがでしょうか?」

「リディアルナ殿下、わざわざの見舞いありがとうございます。ちょうどセシルは先ほど目が覚めた所なんです」

「え……? もう目覚められたんですか?」

 私の見立てでは後2日位は意識不明だと思ったのに。---これは、ディーン様の治癒魔術をなめてたかな?


「お会いできますでしょうか? 私にできることがあるかもしれませんし」

「光栄です。ぜひお願いいたします。---あの、……殿下ーーー」

「はい、何でしょうか」


「ーーー以前、魔術師団の事務所でお会いした時のことを覚えていらっしゃるだろうか」

「はい。すごい雨の日でしたね」


「その時の貴方のお言葉--- 全て覚えています。今の私があるのはあの日の貴女のおかげです。一言、お礼を言わせていただきたかった。---ありがとうございます。セシルを助けるための治癒魔術を学んだのもあの日の貴女の言葉のおかげです。それ以前に、セシルが私を見てくれていることに気がつけたのも……」


「ディーン様。私の言葉はただのきっかけですわ。実際に努力し、セシル様を助けたのはディーン様です。---ほら、今も私の目を見て話して下さっています。これはセシル様のおかげでしょうか?良い方と御婚約されたこと、心よりお祝い申し上げます。---ではセシル様の御様態を診させていただきますね」


 ほー、びっくり。何だか普通の良い人になっているじゃないですか。いや、普通じゃないな。すごい人だ。きっと魔術塔に入っても上位の研究者になるのではないだろうか。


 ------人は、変わることが出来るんだなぁ。






 ロディと二人でセシル嬢の部屋へ行く。

 さすがにロディはセシル嬢の部屋の前で待機だ。ディーン様が中に入らなかったのでロディも遠慮したらしい。

 セシル嬢はまだベットから起き上がれる状態ではなかった。



「お加減はいかがですか? 目が覚めたと聞いて安心しております」

 さすがにまだ顔色は悪い。でも、目に力がある。これは結構回復は早いかもね。


「-------お助けいただいたと聞いております。ありがとうございました」

「私がつくまで、ディーン様が悪化しないよう治癒魔術を使ってくださっていたからですわ。ディーン様がいらっしゃらなかったら私でも間に合わなかったと思います」

 


 話をしながら治癒魔術を使う。

 えーと、とりあえず貧血を何とかして、脱水と栄養状態の回復もしておこう。

 でも、後はディーン様に任せても大丈夫そうだね。



「では、あまり長居をしても御負担になるでしょうから失礼いたしますね」

 そう言って、席を立とうとした。




「あ、あの…… リディアルナ殿下……は、ディーン様を---」


 視線を合わせず、ちょっとだけ血の気の戻った顔を赤くしている。もしかして、その話をしたくてディーン様を入れなかったのかな?


「ディーン様の婚約者はセシル様ですわ」

「でも--- この婚約は父が決めたのです。父と言うか、魔術師の家系同士のつながりのための、それだけの婚約で---」



「……セシル様。私が半年くらい前にお会いしたディーン様は、話をする時相手の顔を見ることも出来ないお方でした。きっと、ずっと伯爵邸で研究をされていて人と話すのが苦手になってしまわれたのだと思ったのです。

 ……でも、昨日のディーン様は随分とお変りになっておられました。きっと、いつも傍におられる方との会話が楽しいのでしょうね」

 ハッとしたようにセシル嬢が顔を上げる。


「でも--- でもディーン様はいつも殿下の魔法陣を……」

「私を、ではなく私の魔法陣を、でしょう? 私の魔法陣は魔術塔でも一番人気なんですよ」

 そう言って笑う。

 うん、心配しなくても良いんだよ。少なくとも私は貴女とディーン様と応援するからね。絶対。間違いなく。



「殿下--- 今まで、今まで本当に申し訳ありませんでした----」

「え?え、セシル様、何も謝ることなんて」

 むしろ、こっちの方が申し訳なくなるほどの空ぶりばかりだったのに。


「殿下の魔術が素晴らしいことや、ディーン様にあれだけ憧れられている事が羨ましくて……」

「-----それは誰でも持っている思いですわセシル様。謝ることではありません。    -----逆に私はセシル様が羨ましい」

「え……… 殿下?」

「好きな方に好きと言えることは、貴族では貴重なことですわ。良い方と婚約なさって、おめでとうございます。心から、祝福させてください」

「殿下-----、殿下も誰か……」


 私は人差し指を唇の前に持っていく。


「それは、言ってはいけない事ですから」



 言っては、いけない事だから。






 ディーン様に挨拶をして、ロックウェル邸を出る。

 帰りの馬車は、何だか居心地が悪かった。


「お姫? どうしたの?おとなしいね」

「別にいつもにぎやかな訳じゃないでしょ」

「お腹すいた?」

「----まぁ、すいたけど」

 私の関心事は食べ物だけかっ!





 はぁ。 言っては、いけない事。かぁ……








 



 もう良いじゃん、乙女ゲームにこだわらなくってもさ。 

 も、良いと思うんだよね。

 やっぱり干物には無理なんだよ。

 後は、私は奴隷回避のために、最強を目指します。


 ………激しく乙女ゲームから脱線するけどね!



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