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2.いきなり暗殺未遂でした





「リディア、…リディア?」


 優しい声がする。

 その声にひかれるように目をあけると、金髪美女が私の顔の目の前にいた。


 そうだ。この人が私の命の恩人。

「あ… せーひ、様」


 かすれる声を何とか出してみる。

 かなり話しにくい。

 年齢的な物だけじゃないな。


「ああ良かったリディア… 」

 と言って優しく頬をなでてくれる。


「私… 大丈…夫」

 何とか声を出すが、かすれて上手くいかない。

 しかし、少し眠ったおかげか、この小さな『私』リディアルナの記憶は自分の中に馴染んだようだ。



 もそもそと動こうとすると怒られる。


「まだ動いては駄目よ、傷も深かったけど毒も塗ってあったの。…リディア、助けてくれてありがとう。でもね、もう……こんなことは……」


 そう言って涙ぐむ正妃さま。

 うん、まぁそう言われることは分かってたんだけどね。

 でもそこは、小さな私にも譲れない物があったんですよ。


 結局私は、5歳児には見えないような苦笑しか返せなかった。



「正妃さまがごぶじで良かったです」

「…リディア、何度言ったら分かるの?「母上」ですよ」


 そう言って笑ってくれる。


 本当にお優しい正妃さま。母様が亡くなられて、正妃宮に住むように言われた時も驚いたけど、母上呼びまで許された。しかしこれにはまだ慣れない。……というかなれる日が来るのだろうか。

 私はもう一度苦笑することで返した。

 うん。こんな五歳児いないよね。



 しかしこの熱は毒のせいだったか。

 私のしがみついたナイフには毒が塗ってあったってことか。




 この世界には魔術がある。

 傷は治癒魔術で治る。

 でも毒や病気には効かないんだ。




 その後、治癒魔術師に診察され、吐きそうになるような味の煎じ薬を飲まさた。

 口直しに甘いおやつを要求したら食べ物は明日まで駄目だと水しかもらえなかった。


 解毒剤らしい薬は両手でやっと持てるくらいのマグカップいっぱいある。

 泣きそうだ。

 錠剤を作ろうよ!うう糖衣錠は画期的だったんだなぁ…



「お姫、これ」


 そう言っていつの間にいたのかロディがスプーンを口元に持ってきてくれる。

 何も考えず、ぱくっと口に入れたら優しい甘さが広がった。


「はちみつ。これなら良いって。だからそれ全部飲んで」

「ありがと。がんばる」

「正妃さまも言ってたけど、こんなことしちゃダメだ。泣いてたぞ正妃さま」

「う…うん」


 乳兄弟のロディはいつも優しい。でもこういう時は逆らっちゃいけない。


「正妃さまには護衛はいつも付いてる。叫ぶだけでいいんだ。それと。頼むから俺を連れて行ってくれ」

「―――ごめん」


 ロディは何も言わずにはちみつを差し出してくれる。

 私はそれを頼りに、舌がしびれるような解毒剤と戦わなくてはならなかった。



 ロディは私の乳母マリアの一人息子だ。

 マリアは母様の侍女でもあった。なのでロディと私は乳兄弟で、後宮で一緒に育った。


 いつも一緒にいてくれて、いつも守ってくれる。

 私のことを「お姫」と呼んで一応王族扱いしているようだ。

 …王家の血など流れていない事は承知の上なのに。

 それは母様が亡くなっても、正妃宮に引っ越した後も変わらなかった。






「リディアルナ!!」


 バタン!と、ドアを壊しそうな勢いでこれまたイケメン様が二人入ってきた。

 正妃さまにちょっと似ているキラキラのイケメン様はこの国の王太子、10歳になられたラインハルト殿下だ。

 後ろの国王陛下譲りの赤い髪と深い緑の瞳の将来有望なイケメン君は第三王子エドガー兄様、6歳。


「目が覚めたと聞いた。本当に良かった…」

 と、ギュッと体ごとラインハルト兄様に抱きしめられる。薬のカップはロディが避難させてくれている。いろいろと気がきく人だ。


「にいさま、私は大丈夫です」

 にこっと笑ってそういうと腕の力がさらに強くなった。なぜっ?!


「殿下、その位に…」

 見かねたのかロディが声をかけてくれる。


「あ、ああ… リディアルナ…痛みは大丈夫かい?手は動くか?」

 と、無駄にキラキラした笑顔を向けられて、一通りあちこち確認される。

 この兄様、なぜかものすごいシスコンである。

 多分、ここに来た時の状況が酷かったから心配を掛けてしまったのも原因のひとつだろうけど。

 そして多分無意識の女ったらしだ。絶対。



 その後、エド兄様に頭をポンポン、となでられた?

「大丈夫、大丈夫。リディアは丈夫だもんな」

 と、わははっ、と笑う。



 ……乙女に対して何だか失礼じゃないですか?エド兄様。ハルト兄様との性格の差がすごい。エド兄様に女性問題は起きないであろう。絶対。


「リディアルナ、無理しないで安静にね」

 という言葉を最後に兄様方は側近に引きずられるように退室していった。

 忙しい中、無理に時間を作って来てくれたのだろう。本当に、私には過ぎた良い家族だ。


 ラインハルト兄様は輝く金色の髪、新緑の色の瞳をした、絵に描いたような王子様だ。

 まだ10歳にして近衛兵と一緒に剣を交え、政治にも参画し始めているという文武両道の天才型だ。

 さぞ国王陛下は安心だろう。早めに婚約者を決めておくことを強くお勧めする。

 

 第三王子のエドガー兄様は1歳上の6歳。今はロディと一緒に騎士団で剣を習っている。

 ここまでなら、平和な感じの王室ファンタジーで済むのだが、なかなかそうはいかないらしい。




 問題の、ダリア様である。





 現王陛下が隣国の王女を迎えることになった。

 しかしそれは正妃さまとご成婚してから数年後のこと。今更正妃の交代などできるはずがない。

 正妃さまはこの国の宰相クリステル公爵家の令嬢だ。

 この辺りがダリア様のお気に召さなかったようだ。陛下にあることないこと吹き込んだり、嫌がらせなども日常茶飯事。



 そもそも隣国の王女って言っても、レオニダス王国はこの国とは桁違いの小国である。


 いや、だからこそ。と言うべきか。リシャール殿下がラインハルト兄様の半年後に生まれたこともあり、正妃さまへの憎悪は増すばかりだった。

 正妃宮への警備を増強し、ラインハルト兄様は護衛なしには歩けない不自由な状況が続いている。



 そして今回の正妃さまの暗殺未遂だ。



 今回の犯人は絶対ダリア様だ。


 城内みんなそう思ってる。探せば証拠なんてすぐ出てくるのだろう。

 許されるなら私が某小学生探偵の真似事だってして見せるのに。

 ううー、あの小学生探偵が好き勝手できるのは身分制度のない日本だからだ。私にはどうしようもない。



 私がぐるぐる考えながら、マグカップの解毒剤を飲み干すと、最後の一口に多めのはちみつが口の中に入ってくる。


「えらいえらい」


 そう言って私の口の中にスプーンを突っ込んだ乳兄弟はその髪の色と一緒のお日様みたいに笑った。


「飲んだら寝ろ。元気にならないと何にもできないぞ」


 まるで私が何を考えているか分かったように言うロディ。

 確かにその通りなので頷いて横になった。

 

 この小さな体には、少しの間起きていることすら負担になっていたようですぐにまぶたが下りてくる。

 ロディが寝具を整えてくれるのが分かったが、もう目を開けていられなかった。










 ――――――どう考えても方向性が変なんだけど?気のせい??



7/23加筆修正

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