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18.ドラゴン捕獲


 今度は鍛冶屋がデスマーチに突入した。

 これは私のせいではない――と思いたい。

 ミスリル坑山の労働者も足りないらしい。魔術塔にもアルバイトのお誘いが来て、若い土魔術師が参加した。

 ---この上オリハルコンまで見つけたなんて言ったらどうなるんだろう。



 ミスリルについてはとりあえずシンプルな、小ぶりのナイフを発注した。腰のベルトの後ろに差しておける護身用だ。

 それだけでは、あのミスリルの石柱は使いきれなかったので、ロディの剣を作ろうとした。

 そうしたら、ロディには魔力が全くないのであまり意味は無いと言われてしまった……

 

 いや。私に不可能はない――はず。

 魔力のない人にも有益なミスリルの剣の使い方を探してみよう。そもそもミスリルは魔法金属と言われるように、石自体が魔力を持っているのだ。なので、持ち手自身の魔力を増強する魔法剣士などに重宝されている。それにミスリルの特徴に軽い、というものもある。スピード特化型のロディには良い武器なのではないだろうか。

 

 とまぁ、若干(?)無理やりロディの剣も作った。


 それでもあまっている。

 さすがにもう剣を作れるほどの量は無い。とすれば、後は魔法石として使用するのだ。ミスリルは虹色に輝く金属。アクセサリーとしても十分使える。そのうちクラリス嬢の分も作らないといけないだろうし、残りは取っておくか……






 そして今日もオリハルコンを目指して馬を走らせる。

 このところずっとお天気がいいのが良いな。

 景色も良いし、春の終わりというか夏の始めと言うか、気候も過ごしやすい。

 朝から走って、午前中に一回休憩。またお昼まで走って、お茶の時間位にもう一度休憩。日が沈むころには帰宅。

 お弁当も休憩の時に食べるお菓子も、城の食事の係りの人が作ってくれる。

 ……私の手料理の出番は無い。


 や、この世界に来てから料理なんてしたことないけどさ。

 RPGの旅だったらここで火を起こして料理じゃん。うん、まぁ、そんな贅沢は言いませんけど。


 そうやって3日ほど走って、だいぶ目標に近くなったと思ったら、何だかミスリルの時みたいに目標がはっきりしなくなった。何だろうこれ。


「お姫、どう?」

「うーん、何だか反応が安定しない…… もう少しのはずなんだけどな」


 もう日が暮れる。今日中には見つかると思ったんだけど。


「探索は明日ゆっくりでも良いだろう。殿下もお疲れであろうし」

「ん、私は大丈夫なんだけどなぁ」

「分かった。疲れてたんだね」

「なんでそうなるの?」


 とにかく、頼りの私の探査魔法がこの調子じゃ今日は終わりだな。

 ---探査魔法、結構広範囲で展開しっぱなしだったから、確かに疲れて入るかも。



「今日はとにかく帰りましょう。お姫」

「あ、うん」


 空間魔法で城の騎士練習場に転移する。


「ふう。」

「お疲れ、お姫」

「この連日の乗馬の負担があるだろう。ゆっくり休んでほしい」

「そうします。シーザー様もお疲れ様です」


 そう言って、ロディが馬を馬屋番に預けてくるのを見ていたら、急に世界が暗くなった。


「………え…?」

「お姫!」

 ええ? あれ、ちょっと待って。

 急に体が重くなり、立っていられなくなる。

 座り込もうとした瞬間、ロディから抱きあげられる。


「お姫、やっぱり疲れてたんだよ。今日はもう休もう」

「あ…… うん。そうかも」


 今日で1週間くらい?馬で移動してたから。

 ああ、やっぱり疲れてたんだ。


 あー、オリハルコンの探査がうまくいかなかったのも魔力の制御が悪かったのかなぁ……

 

「シーザー様」

「どうしたロディ… な、殿下!」

「めまいだと思います。意識はしっかりしてるし、少し疲れたんだと」

「そうか…  殿下、明日はゆっくりお休みください」

「でも。 オリハルコンの探査が、もう少しなのに」

「お姫、城下はミスリル祭りの状態ですよ。オリハルコンはもう少し待った方が良い位かもしれません」

「ロディの言うとおりです。ああ、それで殿下にまた新しい呼び名がついたようですよ」

「呼び名……?」

「シーザー様、今は---」

「え? 何また?」

「お姫、今日は寝よう。帰るよ」

「え?え?」


「今日しっかり寝たら、ゆっくり説明するから。とにかく寝て」

 と、強制的に正妃宮の自室に連れて帰られる。

 ううーー きっとまた中二的な呼び名が…… ゆっくり寝られるか―――!!


 



 そう思ったけど、一週間も馬に揺られていたダメージはしっかりたまっていた。

 翌日は熱を出して学園にも行かれず、自室でロディに見張られながら寝るしかなかった。


 夕方。

 熱も下がって、明日は登校できるかなーと思っていた時、ロディが夕食を持って入ってきた。

「あ、お姫起きたの?」

「うん、もうそんなに寝られないよ。明日は探査行けるよ」

「その事なんだけどね」

 とベットの隣のテーブルに食事をセッティングしながら言う。


「お姫に一昨日の場所まで送ってもらったら、後はこっちで探そうかって話になっててね」

「え、でも…… 探査の魔法陣がいるんじゃ… 」


「うーん、話そうか迷ったんだけど、ディーン様がね探査の魔法陣、スゴイの持ってるって」

「ああ、なんか探査系の魔術の研究してるって言ってたね」

「で、明日はディーン様が同行してくれることになったんだ」

「そうなんだ……」

「だから明日はお姫、転移だけしたらまたここで寝てるんだよ?」

「え?明日は学校行けるよ?」

「俺が行けないからダメです」

「なにそれ」

 と、二人で笑って。夕食を一緒に食べて。と言っても私はまだ完全ではなかったのか半分も食べられなかったけど、その分もロディが食べちゃって、またベットに潜りこむ。

 あんなに寝て、まだ寝られるのかと思ったけど、結構人間寝られるもんだね。

 気が付いたら朝だった。




 次の朝、しっかり魔術師のローブで騎士団に行くと、ロディとシーザー様、ディーン様と何とセシル嬢も一緒だった。

 

「……ロディ、聞いてないんだけど」

「俺もです」

「どうするの?」

「いや、ここまで来て追い返すわけにも」

「まぁ、そうか、な?」


 セシル嬢はディーン様の馬に乗せてもらうそうだ。


「ロディ、これ持って行って。転移石と、通信石。通信石の方は片方は私が持ってるから、何かあったらすぐ行くよ」

「分かった。……ごめんお姫。ゆっくり寝てられないね」

「それは仕方ないよ」


 そして一応ディーン様に御挨拶。


「ディーン様、申し訳ありません。私がやりかけていたのに、急にこのようなお願いをすることになってしまって」

「殿下の御為になるなら喜んでお手伝いさせていただきたいと、こちらから願い出たのです。どうか御身大事にされてください」

 そう言って私の前に膝をついて騎士の礼をとった。


 ---------!!


 ど、どうしたキモオタ! キモオタが更生した!?!


「あ、ありがとうございます。転移先近辺に反応はあるはずだったのですが、一昨日は私の力不足で特定に至りませんでした。どうかよろしくお願いします」

「おまかせ下さい、銀色の精霊様」


 そう一礼してロディの方へ行った。


 ----------何があった?

 いろいろと何があった?

 そして何、銀色の精霊って!?

 ミスリル祭りの出し物ですか? ええ、もう驚きませんとも。


 私は半分以上自棄になって、転移魔法陣を開いた。



 セシル嬢を見送るのが、ちょっと心配だけど…… あの変な、いやアレが本来の…… いややっぱり変だ。

 とにかく変なディーン様も一緒に、セットで心配だ。


 でもまぁ、ロディとシーザー様も一緒だし。

 任せるしかないね。








 午前中はウトウトとベットでまどろんでいた。

 万が一に備えて、傍にあるローブを羽織ればすぐに出られる格好だ。

 でも午前中は何事もなく過ぎて、まだ見つからないのかなぁ、やっぱり一緒に行けばよかったとか思っていた時。

 ロディに持たせた通信石から緊急警報が鳴った。


 ……どんな緊急なのか、あまり考えたくないな……。





 慌ててローブを羽織って転移石を目指して転移する。

 飛んだ先がどうなっているか分からない。ロディが緊急と言って体調のすぐれない私を呼んだんだ。

 私はイージスの強度を最大まで上げて、どんなところに飛び込んでも対処できるようにした。



「お姫!」

「ロディ!大丈夫?!」

「殿下!?」

「状況は?!」

「それが……」


 それ(・・)は目の前にいた。

 圧倒的存在感。

 

 真っ赤な鱗。

 ルビーよりも赤い目。

 鋭い爪と、まだ小さい翼。

 子供だけどドラゴンだ。

 

 ドラゴン。

 生きた伝説。



 それが目の前にいた。

 素早く周りの状況を確認する。

 シーザー様は無傷。

 ロディも傷は無そうだ。でも随分消耗している。きっとロディはスピード特化型だから囮になってドラゴンの気を散らしたんだ。

 ディーン様はさすがに無傷とは行かなかったようだが左腕に防御創のような爪のあとがある。

 そしてセシル嬢である。ディーン様の傍で倒れて意識はなさそうだ。


「シーザー様、ロディ。アレを相手にどのくらい時間が稼げますか?」

「持って3分」

 とロディ。こう言う時のロディは信頼できる。自分の力と私の力。相手の能力も把握できるからだ。


「剣は全く効かない。魔法も跳ね返す」

「分かりました」



「…3分あれば十分」

 と、セシル嬢の様子を見た。多分爪にひっかけられたか、しっぽに飛ばされたか…

 アバラは二桁折ってるだろう。主要臓器が無事なら何とか----

 私は体内の不具合をサーチしながら、片っぱしから治していく。血管をつなぎ、臓器を修復する。

 でも血液が足りない。

 こればかりは仕方ないけど…… 最後の手段です。滅菌水を作り、塩を規定量入れる。それで生理食塩水を作り循環血液量を補う。

 はっきり言ってめちゃくちゃだ。

 でもこの世界には輸血の概念も無いんだ!


 そして外傷を治して… 一応、おわり。

 死んでいない事を祈るばかりだ。

 


 そして、この時点で3分は経っていた。



 シーザー様とロディは大きなけがこそない物の満身創痍だ。

 もう頼れない。


「ディーン様、攻撃魔法は?」

「水属性なら上位まで」

「では狙いは目です。私は一気に片をつけます、でも少し準備に時間がかかります。お願いします」

「っ分かりました」



 ディーン様が上級水魔法の水を弾丸のように高速で射出する魔法でドラゴンをけん制している。

 目をかばう仕草がある。 

 結構知能があるのか。


 その間に私はドラゴンの上に大きな重力球を作りだした。

 私は浮遊魔法で飛ぶことが出来る。逆に、重力を強くして押しつぶすこともできるのだ。


「行きます!」


 一気に魔力を開放する。

 ドラゴンはキューとかミューそんな感じの叫び声をあげて地面に張り付いた。


 その間にドラゴンの周りに土魔法で檻を作り出す。かなり太い檻。

 イメージは東京湾の掘削に使われたというタングステン・ベリリウム合金。さすがにドラゴンでも日本の最先端技術の檻は壊せないでしょう。


 重力魔法を切って、動けるようになったドラゴンは檻に向かって体当たりを繰り返す。

 でもさすが日本産金属、簡単には壊れない。


「ロディ、シーザー様も大丈夫ですか?」

「ああ、俺たちはたいした怪我はしていない。ディーン殿を頼む」

「はい。…ディーン様手を…」

 と、左手の怪我を治そうとしたら


「いえっ 大丈夫です!そんな申し訳ない!!」

「あー とりあえず傷だけ治しませんか?」

 と、やや無理やり手首をつかんで普通に治す。傷自体は結構浅かったようだ。ただ泥まみれで汚い。ついでに水魔法で創周囲をざぶざぶ洗っておいた。体内に破傷風菌などの物騒な感染がないかもチェックする。よし、オールクリア。


「はい、終わりです。援護、助かりました、ありがとうございます」

「とんでもありません。殿下がおいでにならなかったら、セシルはーーー」

 と、視線をセシル嬢に向ける。まだ意識は無い。まぁあれだけ出血してればね。セシル嬢の方も感染のチェックや血圧・脈拍などに大きな異常がないか確認する。脈は速いが、これは貧血だろう。輸血をしない限り寝て治すしかない。



「傷は治しましたが出血がひどかったので… 数日は目を覚まさないと思います。どうされますか?このまま王宮の治癒魔術師に任せるのが最善かと思いますが」

「----いえ、自分も殿下ほどではありませんが治癒魔術は使えます。このまま連れて帰ります」

「分かりました。---シーザー様、それでよろしいでしょうか?」

「ディーン殿が良いのなら構わないだろう」


 それ方ロディとシーザー様二人にも回復魔法をかける。

「怪我とかしてない?」

「大丈夫だよ」

「………………ほんとに?」

「俺はお姫より、よっぽど信用はあるはずだけどね」

「何気にひどくない?」



「それはともかく殿下。あのドラゴンはどうされるおつもりか聞いても良いだろうか」

「え―…と、どうされるおつもりでしょうーーー?」

「何か考えがあって捕まえたんじゃないんですか?」

「だって剣も魔法も効かないって言ってたから、とりあえず動けないようにするしかないかなって」

「---そういう理由で捕まったドラゴンは世界でこいつだけかもしれんな」

「シーザー様も何気にひどくないですか?」

 

 ドラゴンは檻の中で暴れているけど、檻が壊れる様子は無い。

 ま、しばらくほっておいても良いだろう。


「とにかくセシル嬢を運びましょう」

 と、転移魔法陣を展開する。

 行先はまずディーン様のロックウェル邸だ。

 セシル嬢を抱いたディーン様が魔法陣の中に消えた。


 --------ホントに何か悪い物でも食べたんじゃないだろうか。


「セシル嬢は大丈夫かな?」

「ロディ… セシル嬢は大丈夫だよ。怪我は全部治したし。後はディーン様の回復魔法の腕次第かな?私も見に行くし大丈夫。 ---だけど、なんでセシル嬢が一緒に来たのかな?」

「うん、多分お姫が一緒に行くと思ったんじゃないかな?朝、そんな会話してたから」

「しかしロディ。殿下の代わりをお願いしたのではないのか?」

「そのはずだったんだけどなぁ」

 つまり、何か誤解した?? まぁいいや、意識が戻ったら話してみよう。どっちにしろ一度しっかり話さないといけなかったんだし。


「ところでロディ。ディーン様はどうしたのかな?半年前と随分雰囲気が変わっていたよね」

「俺も驚きました。話しかけた時は別人に声をかけたかと思ったくらいで」

「ディーン殿は入学の数か月前から学園に予備入学という形で勉強されていたそうだぞ。飛び級(スキップ)で入学するために」

 

 ロディと顔を見合わせる。

「それってーーー」

「良くなってるのか、悪化してるのか……」

「いやいや、あの態度は改善でしょう。きっと更生したんだよ」

「うんまぁ、そうかもしれないけど。……油断はしないでねお姫」

「わかった」


 と、和やかに会話している間にもドラゴンがうるさい。

「……ホントにこれ、どうしようか」

「少なくともこの数百年、生きているドラゴンの捕獲歴なんて無いはずだぞ」


「うーん、厄介事はハルト兄様行きで!」


 と、にこやかに厄介事はかたずけた。

 残るはオリハルコンである。



「あ、この前よりずっと反応がはっきりしてる」

「やっぱりお姫、疲れてたんじゃないの?」

「うーん、多分、こいつの鱗ってオリハルコンじゃないのかな?」

「あり得るな。オリハルコンは美しい赤だと聞いたことがある」

「じゃぁ、こいつが飛びまわっていたから反応が分かりにくかった?」

「そんな感じじゃないかなぁ」


 そんな話をしながら反応の出た岩場に到着。

 そこは、大きな洞窟だった。洞窟の入り口にも赤い鉱石が落ちている。


「つまり………」

「これを喰ってたわけだなあいつは」

「とすると、この中はオリハルコンの山がある訳か」

「じゃちょっと取ってくるよ。見本がいるだろう」

 と、ロディが洞窟の中に走っていく。中が見やすいように大きな光魔法を放っておくまで見通せるようにした。洞窟の奥は深く、奥になるほど赤が強くなっているようだ。


「シーザー様。剣、何本作るんですか?鎧まで作ってもおつりが来ますね」

「そんなにいるか! こんな鉱山どうするんだ」


「じゃぁやっぱり厄介事はハルト兄様に!」



 しばらく待っていると、ロディが両手に抱えきれないほどのオリハルコンの石柱を持ってきた。

「これでも小さそうなのにしたんだけどな」


 うん。早く兄様に押し付けよう。









 ドラゴンを捕まえましたー!

 RPGならテイムとか出来るのになぁ。

 しかもミスリルにオリハルコン…… RPG夢の装備が乙女ゲームでは厄介事。

 理不尽が過ぎませんかぁーー!


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