17.花の咲く丘へピクニックデート・・・か?
さて、薬草園の方はひと段落ついた。
段取りだけ付ければ、私にできることって無いのよね。やっぱり私が近づくと著明に薬草に元気がなくなる。萎れてくる…… 地味にへこむ。
出来ないものは仕方ない。
他に出来ることをしましょう!
ということで。
シーザー様と約束していた魔法金属の鉱山さがしです。
いえ!違います。シーザー様との好感度上げです。
このブルーローゼスは国土が広いため、あまり入念に鉱山を探した記録が無かったんですよね。まぁそんなに一生懸命探さなくても、元々豊かな土地ですし。
なので、魔法塔にあったほんの小さなかけらですけど、ミスリルと、オリハルコンを借りてきました。
これで、魔力の限界まで探索範囲を広げて移動すれば、何か引っかかってくるんじゃないかなぁ。
と思ったので早速出発です。
が。ここで一つ問題発生。
私は馬に乗れません。
いっそ浮遊魔術で飛んで行っても良いんですが、探査範囲が狭くなってしまうかもしれません。
……と言う訳で、ロディの後ろに乗せてもらうことにしました。
「お姫、俺の後ろで良いの?」
と、ロディがあまり見ないような困った顔で聞いてきます。
「ロディ以外の誰の後ろに乗るのよ?」
……ロディに婚約者でも出来たら、ちゃんと遠慮するよ。だから、それまでは乗せてね。ごめんね、わがまま王女で。
揺れる馬の上で、しっかりとロディにしがみついた。
-----グレイシア様。グレイシア様、攻略対象の変更を希望したいです。
そのグレイシア様からは馬車にしろと散々言われたのですが、やっぱり馬での移動です。機動力が全然違うじゃないですか。まぁそれに……うん。ちょっとだけ特典付き。
事と次第によっては、国土全部を回らないといけないかもしれないし。
私の空間転移は、私が一度行ったところにしか繋げないのです。
なので馬で行くだけ行って、帰りは馬ごと空間転移。次の日は前日行ったところまで空間転移で行って、日が沈むまで走る。そんなことを初めて4日目。
「お姫、大丈夫? そろそろ休憩しようか」
「ううん、まだ平気。行けるところまで行こう。もうすぐ峠があるんでしょ?視界の広いところなら探査もしやすいかも知れないし」
そこで、お昼のお弁当の予定もあるのだ。筋肉痛で泣きそうだけどね。
ふっふっふ、ミッションのお花の咲く丘デートだ!
-------だいぶ違うかもしれなけど。 うん、細かいことは気にしない。
目的地の峠、大きな木の木陰でお弁当にする。ああ、お水がおいしい。
「大丈夫ですか殿下。今日もかなり走りましたね」
「大丈夫ですよ。でも結構、反応って出ないものですね」
「そりゃぁ探してるのが魔法金属だからなぁ」
と、お弁当を広げながら、ロディが気楽に言う。
「見つからないって思うの?」
「や、反対。お姫なら簡単に見つけちゃいそう」
「何それ」
そう言って三人で笑った。
「魔法金属ってそんなにスゴイの?」
「すごいってーーー お姫、知らないで探してたの?」
「や、魔術塔での活用方法がすごいのは知ってる。それで作った魔道具が桁違いなのも知ってる。でも剣作って、そんなに違いが出るのかな?ミスリルだったらかえって強度は落ちるんじゃない?」
「いや、ミスリルは軽いがしなやかで強い。そして魔法を良く通すんだ。魔法剣士なら咽から手が出る程だろう」
「そうなんだ…… よし、気合入れて探すぞーー! ……………あ。 」
突然、探査地図に反応がありました!
「シーザー様!反応です、ミスリルの反応です!!」
すぐに一緒に方向を確認する。
現在地は王都を離れ海のある西側に向けて走っていた。王都から馬で4日。反応点は森の中、山脈の麓のあたり。今はまだ昼前だ。行けない距離じゃない。
「行きましょうシーザー様」
「しかし殿下、森の中の行軍になる」
「私の火力をお忘れですか?何が出ても問題ありません。なんなら森ごと焼き払いましょうか」
「いや、そこまでしなくても大丈夫だ。ロディ、いいのか?」
「こうなったら言っても、お姫が聞かないでしょう」
む。なんでそこでロディがそんな顔をするんですか。私の実力を一番知ってるのはロディなのに。
まぁ、とにかく行くことになったので、行けるところまででも行ってみましょう。
私は索敵魔法を張り巡らす。
----大きな敵はいない。イノシシとか、オオカミ? 魔物はいない。大丈夫だ。
森の中でもロディの馬さばきは落ちなかった。
ロディの腕が良いのか、馬が優秀なのか。
シーザー様も速度が落ちた感じは無い。騎士ってすごいね。いくら能力重視の世界って言ったって、ロディは13歳、シーザー様は14歳。先が楽しみである。
「あれ?ロディ達って13歳だよね?なのに正騎士なんだよね?」
あれ?今頃気がついたけどそんな子供が正騎士なの?
私が普通に宮廷魔術師なので当たり前に思ってたけど、私はチート持ちで一応王女だ。
「今頃そんなこと言ってるの、お姫」
「俺やロディは特化型だからな」
そう言えば模擬戦を見せてもらったときに、ロディはスピード特化でシーザー様は攻撃力特化と聞いた気がする。
「そう言う特化型――一部でも飛びぬけて優秀なものは早いうちに正騎士として確保しておくのだ。今最年少は7歳の回避力特化がいたな」
「俺はお姫の護衛の関係で騎士爵が必要だったって言うのもあるけどね」
「ふーん、そんな制度があったんだ」
そんな話をしながら、気楽に森を進む。ホントはこんなに簡単に進めるものじゃなさそうなんだけど、二人とも優秀だよね。
昼をだいぶ過ぎたくらいで反応のあった地点についた。思ったよりずっと早い。
地図に記しをつけて、後続部隊が分かりやすいようにする。
よく見ると、その場所はほとんどが岩場で、所々に不思議な花が生えている。
------この花、虹色だ。
これは…… レオン様を連れて来ないといけないですね。
「私も見たことのない草です。---とにかく普通の場所ではないのでしょう。殿下、この草のある場所を避けて地中の岩を持ってくることは出来ますか」
「簡単です」
私は、とりあえず地下5m、10m、50m、100mと、各種岩の塊を掘り出してみた。
----------これが、ミスリル。
地下100mの分には、私でもわかるくらい純度の高そうな、虹色の石が石柱になっていた。
「でんか!!!すごいですよこれは!!!」
「ホントにミスリルですね…… 4日でこれだけのミスリル鉱山発見とか、本職が泣くかもしれません」
「ま、まぁ運が良かったということで」
シーザー様はミスリルの石柱にしがみついて泣いている。
……そうか、そんなに憧れだったか。
これは意地でもオリハルコンを見つけないとなぁ
その後、何とかシーザー様をなだめ、地下5m分から鑑定してもらった。そうすると、5mの地点の岩からもミスリルのかけらが含まれているということだ。
うわぁ、ミスリルの露天掘り鉱山ですか。聞いたことないわ。
とにかく、今日取り出した岩をアイテムポケット(例の刺繍と飾り石のいっぱい付いたやつですよ)に入れ込んで帰宅することになった。ミスリルの石柱は、記念にシーザー様に差し上げようと思ったのだが断られた。その代りオリハルコンが見つかったら一番に剣を打つことを約束して。
で、そのミスリルの石柱はなぜか私用の短剣を作ると言うのだ。ロディとシーザー様と相談して意見の一致を見たとか。
ミスリルは魔法を纏いやすい。確かに私向きの短剣は出来るかもしれないけど…… 私は短剣なんて使えないんだけどな。
まぁ、せっかく学校に行ってることだし基礎くらいならっておきましょうか。
そして、城まで一気に帰ってハルト兄様に得意げに報告した---ら、大騒ぎになった。
うん、まぁ、そうかもね。
高いもんねミスリル。そうポンポン見つからないよね普通。
でも見つけちゃったしー。
その日のうちに騎士団が鉱山の見張りに出立。
翌日には鉱山技師が集められることになった。
相変わらず仕事早いなー兄様。
例のミスリルの石柱は私が貰っていいことになった。
これだけの石柱のある鉱山など、過去なかったらしく埋蔵量も期待できるとか。
そして。
ミスリル鉱山に咲いていた花。
アレを騎士団が入るより先に確保しなければなりません。
速攻学園のレオン様とユーリア教授を連れて行って鑑定してもらったら、何とお二人とも見たことがないということ。
ミスリルの入っている土地に咲いた花だもんな~
レオン様の指示で周りの土ごと運ぶことになった。ミスリルの近くで花が咲いたと言うことは、薬草とは逆で魔力が必要なのかもしれない。
既存の薬草園とは離れた位置に土ごと移動させて、後はお任せするしかないかな?
花は見るのは好きだけど、詳しいわけじゃない。
-----でも何だか、ふしぎな花。これホントに花?虹色に輝く花びらは…… 石っぽいともいえる。
いやいや、好奇心で触って枯らしてはいけません。我慢我慢。
……でも何だろうか、何処かで見たような……
いろいろあったが、次の日には調子に乗って、今度は南方面へ馬を走らせていた。
こうなったらね、意地でもオリハルコンを探さないとね。
もう、馬上のロディの背中にも慣れてきた。
筋肉痛も日に日に良い。
あぁ、こうやって旅が出来たら楽しいだろうなぁ。
私、役に立つ黒魔道師ーーじゃないや、賢者だよ。白魔法も黒魔法も使えるよ。
だから一緒に行こうよ。
魔王だってきっと倒せるから。
だから---- 行こうよ。行く先はどこでもいい。ついて行くよ。一緒に、行こうよ。----一緒に。
って、いくら願ったって、仕方ないんだけどね。
駄目だなぁ、私は私でやっていくって決めたのに。
こんなに考える時間があるのが悪いんだ。
思いっきり探査範囲を広げちゃおうかな?
----人の入れそうに無いところに見つけちゃったらどうしよう。
まぁいいや。
ぐだぐだ考えるのは私には合わない。
「--------------!!」
思いっきり探査魔法を周囲に放つ。
馬がびっくりしたように揺れるが二人とも平気そうだ。
鳥が群れで飛び立つ。
風が-------
「------見つけた」
今度はかなり遠い。
「は? 見つけた? 何を?」
「お姫、何処?」
何を、は無いんじゃないでしょうか。探し物が見つかったんですよ。
「多分オリハルコンです。良かったですねシーザー様」
とにっこり笑う。
シーザー様は喜ぶというより、ただ驚いていた。
-----まぁ、昨日ミスリル見つけたばっかりだったしね。
「でも今度は遠いんだ」
馬を下りて地図を広げる。
「うーん、ここからだと馬で3日ってところかな?山を迂回しないといけない」
「そっか、じゃぁ行こうか。確認しなきゃね」
そう言ってまたロディの後ろに乗ろうとしたらシーザー様に止められた。
「殿下、殿下の魔法の正確性は証明されている。後は騎士団で確認に行こう。姫君が馬に3日も揺られることは無い」
「でも、シーザー様。地下の鉱石を取り出すのに私の魔法があった方が便利なのでは? 私はこの旅ともいえない旅ですが気にいっていますよ」
「しかし……」
「シーザー様、お姫の体調は悪くないですよ。むしろ城にいるより楽しそうだ。このまま行きましょう」
ロディ---
「ロディがそう言うなら……」
と、シーザー様は納得いかないご様子だったが、そのまま移動は再開した。
「ところで殿下、武器の強化の方はどうだろうか」
「あ、試しにスクロールを作っているところです。ただ、ロディの使うような片手剣にはあった方が良いのかとか、いっそ矢に爆裂魔法を仕込もうかとか案だけはいろいろと」
「頼もしいな。魔術塔との定例会議などがあれば良いかもしれないな」
「ああ、良いですね。突然行くと何だかお邪魔をしてしまいそうで…」
「それに、うちの隊の者の案なのだが、イージスを騎士一人一人の鎧に施すことは可能なのだろうか」
「うーん、それもスクロールなら可能だと思います。刻印にしちゃうと…… あ、鉱山が見つかったら鍛冶屋さんに行かなきゃですよね。その時にでも相談してみましょうか?刻印となると魔術塔では無理だと思うんですよ」
「なるほど、そうしよう」
そのまま、その日は走れるだけ走って城に帰った。
何だか疲れた。
おもに精神面で。
旅に出る-----
自由に。
そんな夢を、見た。
隣にはロディがいた。
何だか、その夢を悲しいと思った。
ミッションは順調にクリアしているんだけど。好感度が上がってる気がしないなぁ。
もう、シーザー様は確実に友情エンドだよね?
となると私は確実に奴隷落ちなのでしょうか?
ふっ 今の私を奴隷扱いできるほどの魔術師がいるもんか。
私はこのまま、ハルト兄様の剣として生きるのだ。