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15.ミッション開始!




 この学園の生徒は貴族が主な対象だ。

 それは分かる。

 しかし、……しかしである。

 パーティの数が多すぎる………


 入学式の一週間後に入学の祝賀パーティが開かれる。

 大抵、平民出の学生はこれにつまづく。

 学園にもドレスやお飾りを貸してくれる制度もあるが、あまり質は良くない。


 あー でも、最近の私のドレスはハルト兄様が作ってくれているので正確に値段の把握が出来ていないのだ。

 兄様が介入するまでは使い回しを少し改良しただけでも立派に王女の正装に見えたのに……

 お金をかけるだけがオシャレじゃないんだけどなぁ。


 でもそこはグレイシア様がうまく舵取りをしてくれているようだ。今まで、フリルとレースのわっさわっさしたドレスを着せられそうになったことはない。





 そして今日は、問題の入学祝賀パーティです。

 はい、私も侍女団(ついに侍女隊から侍女団に昇格したようだ)に、キラキラに着飾らせられた。

 今日のドレスは珍しくパールピンクである。こんなどぎつい濃い青い瞳に、こんな可愛い色が合うのでしょううか? 



 ………鏡を見て思った。淡色系も良いんじゃない?

 ねぇ、今までブルー系の衣装しか持ってなかったけど、これは新発見。

 ペンダントに瞳と同じ石を飾れば良い感じです。うわぁうれしい。

 ……干物でもやればできるものですねー あ、やっぱり自分でやってないからダメじゃん。




 それはともかく。

 入学後、はじめてのパーティです。

 学園内のものなので王宮主催のものと比べると、随分と小規模になるはずだけど、貴族の子息令嬢には社交界に慣れてもらおうという意図があるらしいので、どの程度のものになるのかは不明。。

 ……最近の子息令嬢は入学前に社交界デビューすることの方が多いので、意味があるのかどうかは分からないが。


 と、鏡の前でピンクのドレスの自分を眺めていたら、ロディが入ってきた。ロディは騎士の正装だ。  

 ……ずるい。騎士の正装が許されるなら魔術師のローブだって許されてもいいのに。


「お姫、ピンクも似合うね」

 と、笑う。

「あ、ありがと……」

 うーん、妙に気恥ずかしいな。

「パーティとなると人の出入りも多くなるから、離れないように気をつけてね」

「分かった」





 入学後、一週間がたったが、ディーン様もセシル嬢も何の接触も無かった。かえって不気味な気もする。


 レオン様については、正妃さまに確認したところ、やはり婚約は決まっていたそうだ。これで、ソニア嬢も敵になった。


 ラングハイム伯爵令嬢ソニア様。元々ラングハイム伯爵は文官系の家系である。魔術師家系のジャスミン伯爵家との関係は今一つ分からないが、悪役令嬢同士、気があったのだろうか。……嫌な気のあい方だなぁ。



「あらリディアルナ様お可愛らしいですわね、殿下と一緒に城下まで布地を選びに行ったかいがありましたわ」

 と、悪役令嬢筆頭様のご登場である。

「ありがとうございます、グレイシア様。こんな色が私にに会うなんて思ったこともありませんでした」

 そしてサラッと惚気ましたね。デートですか?城下町お忍びデートですか?



「でもハルト兄様にドレスを選ぶセンスがあるなんて思いませんでした」

「殿下はよく令嬢のドレスを褒めていらっしゃいますよ?良し悪しは分かるのではないですか?

 まぁ、そのドレスは私の見立てですけど」

 グレイシア様、それは単に女ったらしなのだと思います…… とは言いませんよ、グレイシア様の前では。





「それはともかくリディアルナ様。今回のパーティが初戦です。気を引き締めてくださいね」

「………初戦?」

「どなたのルートに入るか、の初戦です。もちろん複数の方の好感度を上げることが出来ますので、今日、一人に絞る必要はありませんが、とにかくシーザー様とレオン様は必ず踊ってくださいね」

「………あ、グレイシア様。レオン様はもう婚約者を決定なさったようです。ソニア嬢を」

「関係ありません。攻撃あるのみです」

「グレイシア様ーー!」


「保険をかけてエドガー殿下とも踊っておくとよいですね」

「今日はエド兄様はクラリス嬢のエスコートです。多分離れないと思いますよ」

「………そうですか…… かなり補正が入っているとみていいですね。それとリディアルナ様、今日は悪役令嬢の嫌がらせも入るはずです」

「た、例えばどんな……」

「ゲームでは私がリディアルナ様のドレスに紅茶をこぼします」


「…………私、洗浄魔法使えるから大丈夫です」


「……そもそもそれが変なのですよね…… それに洗浄魔法って……洗濯は侍女がやってくれるでしょう。何故そんな魔法を開発したのですか?」

「………えーと……」

 ダンジョンに潜ることがあったらいいなぁとか。



 ちなみにこの国にダンジョンはない。





「まぁいいです。とにかく今日は気合を入れてくださいね。ロディもよろしく。この脱線王女のエスコートは貴方でしょう?」

 脱線王女?! 何その呼び名!!


「そんなこと言うんなら、グレイシア様だって脱線悪役令嬢じゃないですか……」

「あら、脱線しなくても良いんですけど、私」

「ごめんなさい―――――!!!」

 私がグレイシア様にかなう訳がありませんね。






 パーティは思ったよりずっと盛大だった。普通の貴族家主催のパーティより豪華じゃないだろうか。


 さすが貴族が通う学校だけあるよねー。

 私はロディにエスコートしてもらって会場に入る。


 既にエド兄様がクラリス嬢を連れて御満悦のようだが、クラリス嬢は騎士の正装だ。……アレで踊るんだろうか……

 クラリス嬢…… なかなか面白い方です。


 見回すとハルト兄様もグレイシア様をエスコートしておいでです。グレイシア様はシャンパンゴールドのサテンをふんだんに使った豪華な装いです。

 さすがは未来の王妃様。そこいら辺の令嬢にはかなうはずもありませんね。

 


 警戒対象のディーン様はまだおいでで無い様子。

 レオン様はソニア嬢をエスコートしておいでです。婚約したというのは本当なのでしょう。

 ………しかもなんだか良い雰囲気じゃないですか? グレイシア様は攻撃あるのみって言ってたけど、幸せそうなカップルの間になんて入れないよ……


 シーザー様もいらっしゃっていた。エスコートは適当に女性騎士団から選んで連れ出したらしい。こちらも二人とも騎士の正装である。


 ………この二人、社交界を何だと思っているのでしょうか?



 さて。ここでは多分校長のお話が入るところなのだろうが、今日は王太子殿下が御立席されている。どっちが挨拶するのかな―と見ていると、当然のように兄様が壇上に登った。

 兄様の話しは短くて助かる。「楽しんでほしい」と言うような挨拶のあと、ダンスの曲が流れ始めた。



「お姫、踊る?」

「そうだね、最初は踊らないと」


 王族が踊り始めないと、他の貴族は踊りにくいらしい。

 なので最初の一曲は何が何でも踊らないといけない…… と思っていたのですが、エド兄様は既に飲食コーナーです。

 クラリス嬢はシーザー様のお連れの女性騎士さんと歓談中。……何やってるんだ鈍感大王。

 ハルト兄様はグレイシア様と華麗にステップを踏んでいます。ぶれない安定感ですね。



 ロディも、ダンスすごく上手。運動神経いいからなぁ。騎士って何気に万能だよね。

「ロディ、良くこの短期間にここまでうまくなったね?」

「……師匠が良かったからでしょうか………」

 ちょっとロディが遠い目をする。あぁ、グレイシア様か。……容赦ないもんなぁあの人。


 一曲目が終わり、離れる人たちも多い。

「お姫、どうする?」

「んー、もう一曲踊ろうか。周りの様子も見たいし」

「分かった」


 そう言ってもう一曲おどる。ハルト兄様はまだグレイシア様と踊ってる。ディーン様はセシル嬢と離れてるようだ。レオン様も別の令嬢と踊っている。

 シーザー様は…… 食べてますね。エド兄様と一緒に。何しに来たんですかあなたたちは。クラリス嬢たちが騎士の正装で来たのは、これを予想していたんですね。

 ……さすが、的確な判断です。我が国の騎士団はいろいろと優秀ですね。……一部残念な方もいますが……

 


 さて。

 いつまでもロディと踊っているわけにはいかないんだよね。グレイシア様からの今日のミッションはレオン様・シーザー様と踊ること。悪役令嬢に紅茶をかけられること。

 ……これはミッションに入っているのでしょうか?

 

 あ、紅茶をかけられた後のリアクションを聞いてなかった! 洗浄魔法かけて、はい終わりで良いのかな?それとも泣きながら会場を出ないといけないとか……

 


 うん、無いな。


 いいやもう、どうせ脱線王女だし。リアクションは好きにやろう。



 二曲目が終わり、ロディと別行動になる。別行動とはいってもロディはさりげなく側にいてくれる予定。


 早速レオン様を見つけた。

「レオン様、このような場所では初めて会いますね」

 と、にっこり笑って見せる。


「本当ですね。……私は貴方に出会わなかったら社交界に出ようなんて思いませんでしたから…… ステップに自信がないのですが一曲踊りませんか?」

「ええ、喜んで」


 ……背中に視線を感じる。おそらくソニア嬢だろう。でも攻撃あるのみだそうなんです。


「レオン様の研究についてこれそうな教授はおりましたでしょうか?」

「ああ、薬草学の教授は面白い人らしい。一度会いたいと思っている」

「それは良かったです。この学園内にも薬草園が作れればいいですわね。……本来ならあのような民のための研究は学び舎でこそ行われるもの、……でもレオン様の研究をまとめることが出来れば国も補助が出るのではないでしょうか? 

 国内のあちこちで薬草園が作られれば研究も進むでしょうし、薬草も安価で提供できるかもしれませんね」

「ああ、本当にその通りだ殿下。……国の予算が、このようなことに使われるなら……」


「ハルト兄様や宰相閣下も後押しして下さると思いますよ?お手伝いできることは何でもおっしゃってください。早く発表できるよう論文を作りましょう」

「そうですね。そうすれば…… きっとあとは早い。………予算編成、国の方針……か」

「宰相閣下の裁量の部分も大きいところですわね」

「…………………」



 研究は、弟子を作って任せることは出来るんだよ。でも宰相は、なかなかなれるものではない。現宰相子息の貴方を除いては。……貴方が宰相になれば、研究分野に予算が回せるんだよ。



 そんな話をしている間に曲が終わる。

 ……貴方が宰相になるなら、話は早いんですよーと言うことは伝わったかな?




 次はひたすらフード-コーナーにいらっしゃるシーザー様。



「ご機嫌ようシーザー様。パーティですのに踊りませんの?」

「む、殿下…… 騎士にとってダンスはあまり縁のない物で……」

「では教えて差し上げますわ。将来、お好きな方が出来た時にエスコート出来なくては困りますよ?」


 そう言って笑うと、シーザー様は「そんなことがあるのか?」と呟きながらも付いてきて下さった。


「ステップは分かりますか?」

「何となくなら」

「相手の足を踏まなければ上出来ですよ」

「そんなものなのか……」

 実際、シーザー様のダンスは、ステップこそ型どおりではなかったが踊りにくいとは思わなかった。

 この人もいい加減ハイスペックだな。

 


「そう言えばシーザー様。私、ミスリルやオリハルコンの探査魔法陣を作ってみたんです。

 もしお時間が出来れば、一緒に探索に出ることは出来ますか?私はそんなに遠出は出来ないので王都郊外になりますが……」

「なに?! その探査で鉱山が見つかれば……」

「ええ、この前お話し下さった剣を作ったりも出来るかもしれませんわね。……でも探査範囲は私の周囲10Km位が限界なので、役に立つかどうかもわかりませんが」

「いや、やってみよう。王都郊外にも人の入らない山がたくさんある。可能性はあるだろう」


「ありがとうございます。……シーザー様はミスリルやオリハルコンの原石は見たらわかるのでしょうか?」

「分かる。いや、子供のころ町の鍛冶屋に通っていた時期もあってな。……それほど剣が好きだったのだ。鉱山の反応があったら、判定は任せてくれ。小さな原石も見逃さない」

「それは頼りになりますわ。よろしくおねがいします」



 ふっふっふ。郊外デートのフラグ、立ったぞー!



 また曲が変わる。

 いい加減疲れた。しかしエド兄様とも踊らなければ。



「エド兄様、いつまで食べていらっしゃるんですか? いい加減踊りますわよ。そして次はクラリス様を誘うんですよ」

「ん?クラリスは今日は踊る気はないって言ってたぞ」

「それは騎士様の正装だからでしょう。エド兄様も騎士の正装なので構わないのでは? そして、クラリス様と踊ったら、他の令嬢とも踊るんですよ。エド兄様が全然踊らなかったらハルト兄様ばっかりに令嬢が押し掛けて大変じゃないですか」

「そうか、ハルト兄さんに迷惑だったか」

 ……令嬢に囲まれることが迷惑かどうかの確認はまだしてないけどね。



 曲が終わる。エド兄様はクラリス嬢のところに言って誘っているようだ。

 あ、逃げられた!


 ………………。ごめん兄様。



 私もつかれた……。

 でもまだミッションは残っています。

 紅茶をかけられに行かなくてはいけません。

 ……これって必須のミッションなんでしょうか……



 とりあえずドリンクのコーナーに行くと、何とセシル嬢とソニア嬢が一緒にいるではありませんか。それに何とビックリ、グレイシア様までいらっしゃいます。

 これは、ゲーム通りグレイシア様が紅茶をかけるのでしょうか??


「グレイシア様、こちらにいらっしゃったんですね」

「ええ、少し踊り疲れたので休憩に」

「私もです」


「リディアルナ殿下、殿方を手玉にとって面白いですか?」

 と、セシル嬢。


 おっと、来ましたか?


「手玉にとってなど…… クラスの面識のある方々の挨拶に踊っただけですわ」

 話しをしていると、後ろにロディが立ったのが分かった。


 あー、今から紅茶をかけられなきゃいけないので、ちょっと何処か行っててくれないかな?



「セシル様でしたわね。何かお気に触ることをしたでしょうか?」


 そう言った瞬間、彼女はキッとこっちを向いて手にしていた紅茶を私に向かってかけた……はずである。


 しかし、紅茶は常時展開しているイージスの表面を濡らし、絨毯をすこし汚しただけだった。


 ………しまった…… イージス切っておくの忘れてたよ。

 私はさっと絨毯の染みを消して

「せっかくですので、皆さまも楽しみましょうね」


 と、ロディの手をとってダンスの輪に入って行った。



「お姫、あれでよかったの?」

「………良くなかったと思います………」

















 悪役令嬢に苛められるのって、意外と難しいよ?

 イージスの常時展開も考えものだなぁ……

 暗殺者向けの守護結界を、令嬢の意地悪くらいで突破できるわけないじゃん。


 ………難易度高けーわ。


7/23加筆修正

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