13.反省会
とりあえず、とりあえずだけど一通り攻略対象には、お会いできた。
何かしらのフラグは立ったと思いたい……が。
……何のフラグが立ったのかは追求したくはない。
少なくとも恋愛フラグは立っていないだろう。
この時点で乙女ゲームが私にとってどれだけ無理ゲーか分かるというものである。
……自慢にはならないね。
と言う訳で、いつも通りの対策会議である。
本日の参加者は私とロディ、グレイシア様と何とハルト兄様である。
兄様が何故……?
このメンバーなので王宮のサロンで集合だ。
今日のロディはすっかりくつろいで、また私達にお茶を淹れてくれている。
前回はよっぽど警戒していたんだろうなぁ……
「それでリディアルナ様、ディーン様の攻略は……可能そうでしたか?」
言いにくそうにグレイし様は遠慮がちに声をかけてくださった。
「無理です」
きっぱり。
「俺も無理だと思います。と言うか、お姫を近付けたくありません」
「ロディ、詳しく話せ」
ロディ先日のディーン様の様子をハルト兄様に報告する。グレイシア様もしっかりと聞いておられる。
無理だって、もう。
「……ロックウェル卿に言って廃嫡させるか……」
兄様、穏便にお願いします。
「確かにディーン様には弟君がおられましたわね。……それも一案かもしれません」
グレイシア様?!
「しかしグレイシア様、弟君は確か4歳ではなかったかと……」
うん、攻略対象外だね。子守りのスキルが上がるかな?
「もうディーン様攻略は諦めました。他のお二人の攻略に全力を尽くしたいと思います」
「でも、リディアルナ様。可能性は残しておいた方が奴隷落ちの確率は下がるのでは?」
「……それはそうかもしれませんが……」
それでもアレは無理だ。
「……グレイシア、最悪、一時婚約を破棄させてもらってもよいだろうか。リディアを私の婚約者にすればよいのだろう?」
「……兄様…… 社交界が大混乱になります。それに、似たことはやってみたのです。エド兄様の名目上婚約者にしていただこうとハルト兄様に協力をいただいていたら……」
「そうか。クラリス嬢に一目惚れをしたのだったな。……しかし、あまり上手くはいっていないようだが」
「おそらく本来、もっと時間をかけて距離を詰めていくはずだったのだと思います。それを私達の浅慮な計画でエドガー殿下が……」
「いや、それはむしろ良かったと思っている。通常のアレがあそこまでの行動力と積極性を見せたことはない。物語の力が加わったと言われた方が納得できる」
あ、エド兄様の恋愛偏差値が低いって思ってたの私だけじゃなかったんだ。
「しかしそれでは、これからどうすればいいのだ。私は例え一時でもリディアが鎖につながれるなど許すわけにはいかない」
「だ、大丈夫だよ兄様。鎖なんて私、余裕で切れるよ。空間転移で帰ってくるし」
「……しかし物語のリディアは、場合によっては鎖に繋がれるのだろう?」
「確かに私の知る物語ではそうなのですが、物語のリディアルナ様に魔力は無かったはずなのです」
「「「え?」」」
「魔力が無いので、当然魔術も使えませんし、魔術塔にも籠らず、魔法陣の開発なんて全く話に出てきませんでした。
と言うかむしろ、授業を抜け出して殿方と城下を散策したり、花の咲く丘にピクニックに行ったり…… 勉強とか研究とは無縁だったと思います。しかも、殿下方にドレスや宝石などおねだり三昧でしたね」
「お姫がドレスのおねだり!?」
「リディアが…… 魔術が使えない世界? しかも性格は全くの別人ではないか。リディア、ドレスでも宝石でもいくらでも買ってやる。もっと着飾れ」
「兄様、私が着飾るの苦手なの知ってるじゃないですか……」
はい、私は今日も魔術師のローブです。
「ここまで大きく物語から外れると、もはやどんな修正がかけられるか分かりません」
ですよねー。そうはいっても干物は治らないんだから仕方ないじゃん。
「せめて、攻略対象の好感度が分かればいいのですか……」
「グレイシア様、ゲームの方は好感度って分かるシステムがあったのですか?」
「ええ、画面切り替えで好感度のゲージが出たはずです」
「………好感度のゲージ………」
私は侍女に言って、私室の紙と魔石の粉の入ったインクを持ってこさせた。
そして10分ほどかけて一枚の魔法陣を書いた。
「……これで…… 好感度って測れないかな?」
「お姫、それは……?」
「対象を私に絞って、対象に向いている感情を表示してくれる魔法陣…… のはず」
「ふむ…… どうやって使うんだ?」
と兄様。
「兄様の髪を一本この中においてください」
兄様は金色の髪をふわっと置いてくれた。
と、次の瞬間魔法陣全体が淡い優しいピンク色に輝いた。
「成功…… かな?」
「これはどういう意味なんだ?」
「兄様が私を優しい気持ちで思ってくれているってことでしょうか?」
「ふむ……」
「じゃ、グレイシア様を対象にしてみましょう」
また私が魔法陣を書く。兄様が髪を置く。
今度は美しい赤に全体が輝いた。
……………しまった。盛大に惚気られた。
何となく意味が分かったらしいお二人の顔も赤い。
……リア充なんて爆発すればいいんだ……
「と、まぁこんな感じです。……ロディ、申し訳ないんだけどまた三人のところ回って髪の毛を回収して来てもらえるかな?」
「分かった」
とすぐに出て行った。ロディのスピードならそんなに時間はかからないと思う。
その間、次の秋の収穫祭の夜のパーティの話になり、結局兄様がドレスとお飾りを作ってくれることになってしまった。兄様、私、レースもフリルも苦手なんですからね! お飾りも重たい物は嫌いなんです。ゴテゴテ系は最悪です。
「大丈夫だリディア。グレイシアにも相談するから」
「入学後もドレスを着なければならない事もありますし、持っていた方が良いですよ。王女殿下が毎回同じドレスと言う訳にもいかないでしょうし」
「同じで良いんだけどなぁ…… あ、待って兄様。私より婚約者様にまず贈り物を……」
「安心しろリディア。兄に抜かりはない」
………それ既に注文済みと言うことですか。………爆発しろっ
「お待たせ」
と、ロディが返ってきたのは、皆で昼食を食べ終えたところだった。
「ありがとうロディ。お疲れ様」
そう言って侍女に昼食の追加をお願いする。魔法陣はすでに作成済みだ。
「とりあえずロディ、ご飯食べて。それから始めましょう」
「や、先に結果がみたい。昼は後でもいいや」
そう言うので、じゃぁさっさと始めましょうか。
最初に宰相閣下ご子息レオン様。
………髪を落とすとわりと濃いピンクと言うか薄い赤と言うか…… その色が魔法陣の半分くらいを埋めた。
「これ、感情とその思いの強さまで出るんですね、さすがですリディアルナ様」
「これって割と良い感じじゃないですか?」
「うむ……レオンか。注意しておこう」
「兄様、好感度上げてるんですからね。邪魔しないでくださいね」
次に騎士団長ご子息シーザー様。
………全体を若草色の緑が覆った。
「………これは?」
「これは友情エンドのバックの画面の色ですね」
「あ、やっぱり友情なんだ……」
「お姫と握手してましたもんね……」
握手をした、と言うところに兄様が反応したが、これ以上邪魔をすると追い出されかねない事を察したのか黙っていた。兄様が伺ってるのはグレイシア様のご機嫌である。兄様……分かりやすいよ。
最後に魔術師団長ご子息シーザー様。
………全体を黒っぽい紫が覆った。
「「「「……………………」」」」
「……ヤンデレエンド……」
「え?!そんなエンドもあるんですか?!」
「「それは一体?」」
「主人公を好きなあまり、心が病んでしまう、という意味でヤンデレと言うのですが…… 対象の触れたもの・関係のあるものを片っ端から手に入れようとしたり、最終的には対象を監禁しようとしたりもするような状況のことです。……この物語にそんなエンドは無かったはずですが……」
「廃嫡だ!近衛を出せ、捕縛せよ!」
「兄様待って待って!!これ以上物語を脱線させないで!」
「一番脱線しているお前が何を言う!」
「私が脱線したのは私のせいじゃないよー」
「殿下、落ち着いてください。グレイシア様対処法は無いんですか?」
「…………そうですね、もうディーン様ルートは諦めると言うのであれば、少し早いですが、婚約者を入れますか……」
「なるほど…… そうすればリディアへの執着も薄れるのか。さすがだなグレイシア。で、あてはあるのか?」
「物語ではジャスミン伯爵のセシル嬢が設定されていたはずです」
「うむ、早速話を持っていこう」
と兄様は颯爽とサロンを出て行かれた。
「上手くいくかなぁ……」
と、黒紫に汚染された魔法陣を見る。
「……何もしないよりは……」
「とにかくお姫は油断しないようにね。魔術師団長はきっとご子息のお姫への執着を知っていたんだろうなぁ。それで昨日あんなに警戒してたんだ」
「一年早く入学することにして良かったですわね」
「うん、いろいろと大正解だったね」
「じゃ、ロディお昼食べちゃいなよ。そしたらダンスの練習しよ」
にっこり。
「ひどいお姫!城下の端まで行ってきたのにこの仕打ち」
「あら、ロディ。ダンスとマナーは必須ですわよ。リディアルナ様がダンスのお相手をされるのなら、私が殿方のステップをお教えしますわ」
「良かったね、ロディ。グレイシア様のステップはとっても軽やかで素敵なんだ」
「はい、あの………… ヨロシクオネガイシマス」
着々と入学の準備は進む。
『入学の』準備はホントに何の問題も無かった。
問題はこれからである。
私が授業を抜け出してデート? 花畑でピクニック?マジそんなイベントをクリアしないといけないの?
ないわー
7/23加筆修正