11.騎士団長ご子息攻略
「お姫、シーザー様が明日の午後なら空いてるって」
ロディがそう報告してくれたのは、レオン様とのお茶会の翌日だった。
「え?ホント?……何だか私……と言うか令嬢には会ってくれないかと思ってたよ」
「そうでもないみたい。国内最大火力には興味ありそうだったよ」
「……やっぱり令嬢には興味ないじゃん」
ま、いいんだけどね、会えればそれで。
「でも急だね。ロディ、そんなに急いてくれたの?」
「いや、明日って言ったのはシーザー様の方。たまたま非番だったんじゃないかな?」
……早いのはいいんだけど、グレイシア様に相談できないなぁ。
私一人で何とかなるか? ……いや、何とかしなきゃいけないでしょう。目標は好感度上げ!
「ところでロディ、シーザー様になんて言って誘ったの?」
「ん?普通に王女殿下が会いたがってるって言ったよ?」
「……それってなんか不自然じゃない?」
「うーん、それもそうかな? お姫、団長とも面識ないよね?」
「社交界で挨拶したことくらいはあるって感じかな」
「……じゃぁ、俺から噂を聞いて、会いたくなった、で良い?」
「うん。良いけどどんな噂を聞いたことにすればいいの?」
「俺の兄弟子で、剣の腕がすごい……とか?」
じゃ、それで行きましょう。
何しろ、唯一美しいと思ったのが剣だったと言うお人ですし、剣の腕を褒められていやなはずはない。
「実際強いの?」
「実際、むちゃくちゃ強い。俺でも三回に一回しか勝てない」
それはすごい。
ロディが強いのは知っている。何度か実践でも見ている。……ダリア様のさし向けた暗殺者との。
真面目な話、兄様の暗殺に派遣される人が弱いはずはないのだ。
いくら初撃はイージスがはじくと言っても、そこからは暗殺者対護衛(または私)との戦いになる。そしてロディはほとんど時間をかけずに暗殺者をかたずけて来たのだ。
この年で。因みに今は私もロディも12歳。……この年齢に相手は油断するのかな?
しかしシーザー様も今13歳のはず。それでロディが三回に一回しか勝てないなんて…… 確かに会ってみたくなるな。
「それはすごいね。あ、もしよかったらロディと模擬戦とかやってみてくれるかなぁ。私いつもロディが戦ってるの見てるだけじゃん、援護とか出来ないかなぁと思ってたんだよね。騎士同士の模擬戦とか見せてもらえたら何か思いつくかも」
「多分大丈夫だと思うけど…… お姫、目的忘れないでね?」
はっ!そうでした。
「大丈夫だよ、忘れるわけないじゃん」
にっこり。
………こんなときに大丈夫って言うから私の信用が下がるんだろうなぁ……
今日もよいお天気。
絶好の騎士団見学日和~ ……じゃないんでしたね。さっさとゲーム終わらせて研究の日々に戻りたい……
ロディと一緒に騎士団の練習場に行くと、すでにシーザー様は待っておられました。騎士の甲冑と大剣を持っています。
「お久しぶりでございます、シーザー様。今日は私のわがままを聞いてくださって感謝しております」
と淑女の礼をとる。……例によって魔術師のローブだが。
たしか以前、どこかのパーティで挨拶だけはしていたはずだ。
「いや、私の方こそお会いしたかった。あなたの魔術は素晴らしいと噂を聞いている」
「ありがとうございます。確かに大規模魔術は得意ですがさすがにここでお見せするわけには……」
騎士団の訓練場にはもちろん対魔結界は張っていない。
「いや、御本人に一度お会いしたかっただけだ。大規模魔術は戦場で御披露いただこう」
「まぁ、では兄様にどこかと戦争をしていただかなければ」
そう言って二人で笑った。この人面白い!
そんな話をしている間にロディも甲冑を着こんできた。
うわ― 何だか雰囲気違う。
……ちょっとカッコイイ。
「楽しそうですね」
「ええ、兄様に私の大規模魔術を披露する戦場を用意していただこうなんて話になっていたんですよ」
「それは大変だ」
とロディも笑う。
「さて、お姫。模擬戦が見たいんだよね。シーザー様お願いしてよろしいですか?」
「いつでもかまわん」
と、二人で練習場の中央へ歩いていく。
……結構離れる。そんなに遠くまで行くの?私の希望はアリーナ席だよ?
と、そんなことを考えていたらロディがシーザー様にきりかかった。ロディは片手剣と楯を持っている。シーザー様は両手で持つ大剣だ。
切りかかったロディの剣をシーザー様が大剣で受けた。……ところまでは見えた。
駄目だこれは。
ぜんっぜん見えないわ。速すぎ。私の動体視力じゃ追いつきません。何このチート。騎士ってこれで普通なの?それとも二人が異常なの?
私は当初の目的だった『援護に入る』と言う案を早々に却下した。
「お二人ともー もう良いですよー戻ってくださーい」
ちょっと遠いので、聞こえるかな?と思ったけどちゃんと聞こえたみたい。二人とも剣を下げて戻ってくれた。
「お姫見えた?結構速いでしょ?」
……シーザー様がいなかったら殴っているところである。
「速いどころじゃありませんでした。何をされているのかさっぱりわかりませんでした。しかもあんなに遠くで」
ちょっとがっかり……
「す、すまなかったリディアルナ殿下。近いところにおられると剣が飛んでくることもあるのだ」
「剣が……飛んでくる?」
「相手の剣を弾き飛ばすんですよ。……そっか、見えなかったですか…… じゃぁ近くで基本的な型でもご覧になりますか?」
「それも良いですがちょっときかせて下さい。お二人の動きは、はっきり言って見たことも無いほど速かったんです。それは騎士団では普通のことなのでしょうか?」
「あー 普通、ではない、かな?」
「ロディ謙遜してどうする。殿下、貴女の護衛は騎士団内でも速さは随一です。先ほどのような模擬戦で俺と同レベルで戦えるのは彼だけです」
「……普通の騎士の皆さんはあれほどの速さはないのですね……」
さすがロディです。そしてシーザー様もすごいんですね!
「魔術の研究がちょっと行き詰っていて、何か騎士団の皆様の役に立つものが開発できればとも考えていたのですが……」
「役に立つもの…… と言えば武器だろうが……」
「武器の強化……ですか?」
「鋼の剣では限界があるな。騎士にも魔力を持つ者もいる。その者だけでも魔法金属の剣があれば強化になるのだがなかなか予算も無いしな」
高いですからね、魔法金属……
ん? 魔法金属…… もしかして、探査の広範囲魔法で鉱山探せばいいんじゃね?
「お姫、何か思いついたの?」
「んー 何か思いついたかも……?」
「さすがだ、王家の守護神殿。これだけの会話で……?」
「……シーザー様。神の名を冠する呼び名は不敬に当たりますのでおやめ下さい……」
睨んだりしてない。さすがに思いとどまったよ?
でも兄様、周知徹底が足りていませんよーー!!
「それと、もう一つ気になったのですが」
そして話題は、無理やり変える。
「ロディは片手剣。シーザー様は両手で持つ大剣。一長一短あるのでしょうが、盾が無いのは不安ではありませんか?」
「ああ、それぞれの戦い方の特性で武器は選ぶんだ。私は力でごり押しするのが得意……と言うか、速度ではこいつにかなわないので攻撃力に特化している」
……攻撃力特化……
「その大剣を持たせてもらってもいいでしょうか?」
「……その、止めておいた方が」
「お姫、無理です。駄目です。絶対持てません」
何その全否定。
「そんなに重いのですか……」
「重さで攻撃力をつけているんですよ」
重さで……
「この剣はシーザー様の私物ですか?」
「いや、騎士団所有の模擬戦用のものだ。刃はつぶしてある」
あ、ホントだ。
「じゃ、ちょっと実験してみてもいいですか?」
と、ポーチに持ってた魔法陣作成用の万年筆でシーザー様の持っている剣の刃先に重力魔法陣(範囲小)を書いてみる。
「持ってみてください」
書いたのは刃先なので、持ち手に影響はないはず。
「……何を書かれたのか…… 特に変わらないが」
「それをロディに打ち込んでみてください。ロディは盾で受けて」
「うんまぁ、いつもやってることだけど」
シーザー様がロディの盾に向かって剣を振りおろす。
ガンッッと、大きな音を立ててロディの盾が真っ二つに割れた。
「痛った……」
「ごめん!ロディごめん!!」
慌てて回復魔法をかける。
「いいよ、大丈夫だよお姫。ちょっとびっくりしただけ」
「ごめん、ホントにごめんね」
私はしつこいほど回復魔法をかけた。
「で、今のは何だったんだ?」
と、シーザー様も驚いている。
「大剣は重さが攻撃力になるということだったので、ちょっと刃先を重くしてみました」
「……特に重くもバランスが変わった感じも無いが」
「イージスと一緒です。敵に当たった時に発動します。これで攻撃力を上げることは出来ると思うんですが……今日のは魔石入りのインクで書いただけです。洗えば落ちちゃいます。彫り込むとなると今度は硬度の問題が出てくるかと…… なかなか難しいですね」
「いや発想は素晴らしい…… そうだな、奇襲でなければ戦場に行く時に書くとか…… 後はインクの方を工夫するか……」
「なるほど、インクの改良ですね」
油性ペン作ればいいんだ、これ。いや、スクロールの転写でも良いかも。
「いろいろ出来そうです!ありがとうございますシーザー様!」
「いや、いろいろ楽しみにしている。こちらこそありがとう」
と、シーザー様が右手を差し出した。
……握手?
私もそろそろと右手を出してみる。
ギュッと握られた。やっぱり握手か。
……シーザー様、それは騎士同士のあいさつでは…… 淑女の手を握るのはマナー違反ですよ。
「有意義な午後をありがとう。いつでも時間を作るのでまた話すことは出来るだろうか」
「もちろんですシーザー様。今日いただいたアイデアの成果があったら報告に参りますね」
「楽しみにしている」
そう言って颯爽と訓練場を後にされた。さわやかな笑顔と共に。
「お姫、握手されてましたね」
「うん」
「お姫、騎士と思われたんですかね?」
「や、騎士ではないと思いたい」
「少なくとも令嬢に対する態度ではないですね」
「令嬢扱いではなかったな」
「……今日の作戦は成功ですか失敗ですか?」
「……………とりあえず次に会う口実が出来たということで………」
「……………………そうですね」
ロディのため息は重かった。
友情エンドなら確実に取れそうです。ええ、親友にでもなれるかもしれません。
と言うか戦友でしょうか。
………この人と恋人エンドとか………
ないわー
7/23加筆修正