後日 二人の世界のために
「……五分遅刻ね。時間にルーズだと、大事なときに必ず困ることになるわ」
時計を見ながら、彼女は慌てて走ってきた彼に釘を刺す。
そんな彼女の言葉に、彼は少し不機嫌そうに弁解する。
「仕方ないだろ。道が混んでいて、バスが遅れたんだから……」
自分のせいではない。
むしろ自分も被害者といってもいい。それが彼の主張だ。
「そんな不測の事態があるからこそ、早め早めに行動しないといけないのよ。あなたはいつもそう、物事の認識が甘すぎるわ」
彼女のお説教はまだ続いている。
「ハイハイ、これからは気をつけますよ」
「ハイは一回!」
あれから、一週間が過ぎた。
あの夢も、もう遙か遠くに消えた気さえしてくる。
街には相変わらず人が溢れ、ただただ平凡な日常だけが過ぎていく。
あの日以来、二人は毎日、あの公園で待ち合わせている。
別に何をするわけでもない。
彼女はまだ、彼を赦すことができていない。
彼の罪は彼女自身の罪でもある。
だからこそ、彼女は彼を赦すことができないのだ。
彼も、彼女の意志を汲み、それ以上はなにも言わない。
赦すとも、赦してくれとも言うことは出来まい。
言葉にしてしまえば、それは消えて無くなってしまう。
だからこそ、ただ二人で、なんの関係もない、たわいない話をする。
「そういえば、今日は土曜日ね。毎日ここで座っているだけというのも味気ないし、今日はどこかへ行ってみましょうか?」
「そうだな……、とりあえず、北の方へ行ってみようか」
「そうね、じゃあ早速、車を取りに行きましょう」
「……電車にしない?車の運転はあまり自信ないんだよ……」
「あの時は平気で運転してたくせに?」
「あれは、誰もいなかったからだよ。ほとんど車の運転もしないし、どうも他の車がいるとなぁ……」
「何事も慣れよ、慣れ」
「それなら、君も早く免許を取れよ」
「うるさいわね。私だってこの夏から自動車学校に行くんだから」
二人でいるとき、彼らは他の人間の存在を認識している。
もう一人の人間との話。
こんな簡単なことも、あの世界では出来なかった。
だが今は、互いが互いを認めるために、互いを必要としているのだ。
一人の世界で出会った、もう一人の人物。
一人の世界を、いつか二人の世界にするために。
「まあ、こんな人生も、ありかもしれないな……」
満たされなかった人生と、今のこの瞬間。
少し前を行く彼女の背中を見て、彼はそうつぶやいた。




