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習作

【習作】秋の日

作者: さとう

 太陽の作る影は長くなり、空は天高く雲が棚引いている。また、奥羽は吾妻の山並から冬の匂いを携える冷たい風が吹き付け、外歩く人の鼻をひりつかせ始めた。

 この時季特有の、寂しさを湛えどこまでも青く透き通る空にありし日の想いが甦る。日がな一日と未来を見つめ、大きな希望と少しだけの不安を抱き、万感の空へとこれからの人生に想いを馳せた。

 しかし、今では青春の一言で片付けられてしまうような若き希望はいつからか、探すことも、再び見出すことも諦めてしまった。どこでそうなったのだろうかと考えてみるも、答えに辿り着く前に、記憶が霧散して消えてしまい、ついぞ探し当てられなかった。


 そんなことを繰り返しながら秋の空を眺めているとあっという間に時は流れ、気が付くと、陽の落ちる時間になっていた。窓辺から望む秋の色を深く落とした山々が燃える夕日によって美しく染められている。

 太陽に焼かれた空もまた燦然と燃え上がり、落ち行く太陽と残された夕焼けが空漠たる明日を予感させ、同時に、孤独に色があるならばきっとこんな色なのだろうと、そう思わせる。

 赤々と染まる孤独の時間に浸り、再び過去の岸辺に降り立つと、そこにあったのはさっきは霞となって消えた答えだった。

 記憶の曠野で見たのは昼間にみたのと同じ秋の景色、色、匂い。ああ、そうだ、すべてはそこに留まってしまったのか。そうか、そうだ、重たくのしかかる青春が記憶を、私を、そこにとどまらせてしまった。過去に光がある限り新たな道を進めずにいるのだ。


 辺りに暗い帳が降り始め、消え行く光を見送る胸に去来したのは過ぎ去った日々。そして肥大化した孤独と限りない不安であった。

 褪せることのない想い出が孤立無援の現在に向かって光を放ち、暗い孤独の輪郭を明瞭に浮かび上がらせ惨めな気持ちを引き立てる。何もかもが過去に囚われたまま。

 秋はもう終わりが近い。それはまた、この季節に光を置いてゆくことだ。冬が来れば忘れ、また次の秋に思い出すだろう。

 そして、再び、私は秋の日に過去の光を探し続ける。

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