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軋轢魔法少女イリーガル・ストライプ  作者: 井土側安藤
嘯きのディスコード
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陸――代行

 パッと見世界は平和である。

 街中を人々が闊歩し、人気の店には何人もの人が列を作って順番を待っている。

 こんなに平和に見えるのに、それでも世界は平和じゃなかった。


『昨日、赤野部(あかのべ)鎮目(しずめ)町の鎮目小学校で火事がありました。奇跡的に死傷者はおらず、児童数人が重い火傷で病院に運ばれている模様です――』


 ニュースキャスターが重い表情でそう告げている。

 これもまた、軋轢魔法の影響か、それとも人為的に起こされた軋轢魔法によるものだろう。

 ニュースの内容によれば、以前から何軒も同じ事件が起きているらしい。それでも今まで死者がゼロ人だという事を聞いて内心ホッとした。


「行こう、リョウナ」

「うん……」


 洋に促され、電気屋の道路沿いにあるテレビコーナーの前を立ち去る。

 もしかしたら自分の軋轢魔法がそうさせてしまったのかもしれない。私の心の中にはそんな考えが渦巻いていた。自然と手が震える。


「安心しろ。軋轢魔法にも種類はある。小学校での火事が軋轢魔法によるものなら、それは火を司る軋轢魔法だ。お前は違うだろ」

「多分……」


 少なくとも、私が原因で起きた今までの『破壊』で、火が起きた事は一度もない。


「もうすぐ着くから、大丈夫だ」

「私もいますから、安心してください」


 洋とセブンの優しい言葉が逆に辛い。

 自分も人間だ、人間が外を出歩いて何が悪い。そう自分に言い聞かせる。

 たとえパンドラ=セブンの能力によって影響が最小限に抑えられているとは言え、それでも私は周りの人間が自分を忌避の目で見ている様で怖かった。

 押し潰されそうな無言の中、数十分歩いた。


「ここだ、俺の行き付け、もとい隠れ家の銭湯」


 煙突からは絶えず蒸気が立ち上っている。『憩のユ』と書かれた看板を掲げる、昔懐かしの銭湯の様な雰囲気の建物だった。

 洋とセブンに続いて中に入ると、風呂場からほのかなシャンプーの香りが漂ってくる。

 入ってすぐの所に男湯と女湯に分かれていて、その二つを隔てる様に、間にカウンターが設置されていた。気前のよさそうなおっちゃんがカウンターの内側の椅子に座っている。

 と、こちらに気付いたのかそのおっちゃんが洋に向かって声をかける。


「おう、坊主とセブン、今日はえらく早いな。まだ五時前だぞ? っと、その初見のお嬢ちゃんは……そうか、話しで聴いた子か?」

「そうです。色々あって風呂に入らないとなんで」

「そうか……」


 そのおっちゃんはしばらく無精髭の生えている顎に手を当て考え事をした後、しわがれ声で言った。


「お嬢ちゃん」

「は、はい」

「今日は特別に無料だ。好きに使っていけ。どうせ今はだれもいないし」

「い、いんですか!?」

「気前がいいんだよ、見た目通りにな」

「おうよ。その通りオレは気前がいいんだ。よろしくなお嬢ちゃん。ここはキミを歓迎できる場所だ」


 優しい声でそう言った。

 意味を理解し、辛くもまた、嬉しかった。


「ああ勿論坊主は金払えよ」

「分かってますって」


 小銭を幾つかそのおっちゃんに渡し、リョウナを促す。


「じゃあセブン、リョウナを頼んだぞ」

「そ、そう言われても……どうすれば?」

「あー、そうか。そういやそうだったな……じゃあどうするか、俺も一緒に入る、か」


 何やら話がおかしな方向に向かっている気がするのだがこれは一種の気のせいというヤツなのだろうかそうかそうなのか。


「いやいやいや、何でそうなってるの」

「お前一人で風呂に入れるのか?」

「は、入れるわよ! それは流石に馬鹿にし過ぎだと思うんだけど!? セブンちゃんもいるしさ!」


 いやぁ、それがなぁと何かを言い渋る洋。


「危険だ。やはり一人で入るのは危険だと思うんだ。ああ、正直なところ不安だろ? 実を言うとセブンもこの銭湯に来るのは初めてでな、手際よく風呂に入る為にはいつも来ている俺が側で指示すべきだと思うんだが」

「ぬぬぬ……言われてみればそんな気もしないでもない気が……」


 しかしながら先ほどの洋の言動から鑑みるにこの一連の言葉は女の子の裸が見たいだけなのではないだろうかと思う訳だ。いや、絶対そうだ。だが、洋の言う通り正直言って銭湯とか行った事ないのでどうすればいいのか分からない。しかも、誰も「適当でいいよ」の一言を言わないせいで洋の言葉を否定したくてもしきれないのだ。


「ま、まあ、別に指示くらいならされてやっても……いいかな、なんて」

「懸命な判断だ。よし、セブン、入るぞ」

「は、はい……」


 どうやらおっちゃんはこれに関してはスルーらしい。何故だろうか?

 ともかく、私とセブンは洋に促され『女湯』ののれんをくぐろうとした……その時だった。


「 お待ちなさい!! その必要はありません!! 」


 夏の暑い陽気の中で凛と響く風鈴の音色の如く、透き通った声がこだました。

 全員がその方向を振り返る――


「還崎君。また貴方の悪い癖が出たようですわね?」


 風にたなびく長くきめ細かい、腰まで伸びた黒髪。前髪は眉の所で切りそろえられ、自信に満ち溢れた双眸が世界を捉える。携える風格は雄々しくもどこか精悍で……冷たい瞳の奥に隠された優しさを窺い知れる奥ゆかしさ。

 なんとも凛々しい立ち振る舞いのどこかの中学のセーラー服を着た少女は、手に持っていたセンスを片手で閉じた。


「おう、お嬢。お前も今日は早いな」

「ええ、還崎君が来ている感じがしましたので」


 滑らかに透き通るようなその声は聴いていると思わずうっとりしてしまう。その美しい容姿も()る事ながら、全てにおいて美しいと断言できた。

 おっちゃんにお嬢と呼ばれたところとそのお嬢が還崎と言ったところから察するに、三人は顔見知りなのだろう。


「あら、そこのあなたは……」

「し、縞違リョウナです!!」


 妖艶とも取れるその瑠璃色の視線に見据えられ恐縮し、思わず反射的に事項紹介てしまう。女の子同士なのに惚れてしまいそうだ。


「縞違リョウナさん……ですか。で、還崎君?」

「かくかくしかじかなんやかんやてんやわんや」

「ふむ、そうですか、まあつまりそういう事だと……リョウナさん」

「ひゃ、ひゃい!?」


 変な声で反応するがセーラー服のその少女は特に気にせず、


「私はメルシィ・クレンドロス。こう見えても日本人ですの。よろしくお願いいたしますね」

「よろしくお願いします!!」

「さて、その必要はありませんと言いましたが、それはつまり私がリョウナさんと一緒にお風呂に入るという事です。二人共、変な事は考えないでください」

「こりゃまいった、どうするよ坊主」

「仕方がないですね」


 意味ありげな会話でお茶を濁そうとする男二人を横目に、メルシィは私の方を向いて言う。


「さ、一緒に入りましょう?」



 ――ポチャン、と蛇口から水滴が一粒、水の溜まった洗面器に落下した。

 それほど広くもない風呂場だが、それでも車三台は入るぐらいの広さはあった。


「あ、あの……」

「女の子同士なのですから、そんなに緊張しないでください。ほら、肩の力を抜いて」


 そっと肩に触れられ、一瞬はビクッとしたものの、すぐに不思議な感覚と共に力が抜けた。風呂場の熱気もあってか、思わず蕩けそうだ。助けを求めるようにセブンを探すが、セブンは既に湯船に浸かり、端っこの方で口を開けてポケーっとしていたので役に立たないと気が付く。


「お近づきの印です。私が頭を洗って差し上げましょう」


 少し楽しげな声色に、不思議と嫌な気分にはならなかった。私は自然とそれを受け入れる。

 風呂椅子に腰かけ、その後ろにメルシィが立った。誰かに頭を洗ってもらうなど、本当に何年振りなのだろうか。私がまだ軋轢魔法の存在すら知らず、未来に希望を持っていた時の事を思い出し……思い出した事を後悔した。しかし、後ろに感じるメルシィの存在は、まるで一瞬でそれをかき消してくれるようで。


「お湯、まずは体からかけていきますね」

「はい、お、お願いします」


 メルシィが湯船からお湯を風呂桶に汲み、肩から少しずつ体にかけていく。

 少しだけ熱いと感じるぐらいの丁度いい温かさのお湯に体が包まれていく。

 心地いい感覚と共に目を閉じる。


「それじゃあ頭にも」


 再びお湯を汲む音が聞こえ、頭に温かみを感じる。

 頭から顔をつたりそれが体にかかる。

 それはタイルの上に水たまりを作った。


「では、いきますよ」

「はい! お願いします!」


 ふふ、という声が聞こえ、メルシィは手にシャンプー付け、私の髪に手を触れた。


「あ……」


 思わず声が漏れる。


「気持ちいいですか?」

「はい……」


 巧みな指使いで泡立つ髪に指を絡ませ洗っていく。頭皮に当たる指は丁度いい力加減で心地いい。


「あ、ふぁっ……そこっ、そこです……」

「ここですねー」



 そして数十分後――私とメルシィ、セブンは湯船に浸かっていた。金髪と黒髪が肩をくっ付けて並んでいて、そこから少し離れた隅っこで茶髪が目を細めて口を開けていた。

 少し前に背中の流しっこなどが繰り広げられたのだが、それはまた別の話として。

 ふと横を見ると水が滴るメルシィさんの顔が視界に入る。濡れた髪は艶やかに薄オレンジの電灯に照らされ、肌は熱気で赤く火照っている。見ているだけでただうっとりしてしまうほどに美しい。


「どうしました?」

「いっ!? いやなななんでもありませんです!」


 明らかに怪しい私の反応にも全く気にせずに顔色を変えず静かに笑っている。しかし同時に、どんな事があっても崩されない笑顔が張り付いたものであるように見えて、美しさと一緒に少しの恐怖も覚えた。

 そんな笑顔のまま少しだけ何かを考えたような素振りを見せた後、メルシィは口を開いた。


「私達の事は、還崎君から聞いていますね?」

「え? えーっと、確か軋轢魔法の人を匿ったり……とかでしたっけ?」

「…………はぁ」

「あ、あれ? 私なんか悪い事言っちゃいました……?」

「いえいえ、これは還崎君に対しての嘆息です。全くあの男は大事な事を何一つ話していないのですね。仕方がありません」


 そう言うと、メルシィはおもむろに立ち上がった。その身体から湯が零れ落ち、その肢体が露わになる。目にも止まらぬ素早さでバスタオルを腰に巻いたメルシィは私の方に向き直ると、腕を大きく左右に広げ、宣言するように、高らかにこう言った。


「私達は『礫祭同盟(れきさいどうめい)』!! この世界を破壊するモノです!!」

~キャラクタープロフィールⅤ~

メルシィ・クレンドロス(本名 滝反(たきそり)九連(くれん)

 ちょっとだけやつれた顔の、長い黒髪が特徴的な美少女。

 何かにつけて解説をしようとするのでとても話が長い事に定評がある。


年齢    18歳

身長    162.5cm

体重    56.3kg

性格    ひかえめ

長所、短所 とても心が広い事、すぐに諦めてしまう事

趣味    お風呂に入る事   

特技    破壊

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