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軋轢魔法少女イリーガル・ストライプ  作者: 井土側安藤
嘯きのディスコード
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肆――不安が一抹ほど

 洗礼協会。

 そう呼ばれる特務組織が基地として構える建物の一角、それ相応の優秀な人員の寝泊りする部屋が並ぶ棟の一室。

 胴着を来た少女が、戦闘の為の訓練を受けていた。


「何故、あんなとこにお兄ちゃんが……」


 還崎(かえざき)哉江(かなえ)

 『洗礼教会』所属の魔法使い。

 五歳で還崎家に養子として迎えられるも、そのほんの一か月後に軋轢魔法の齎す『破壊』によって両親を亡くす。その後、兄も行方不明となり、一人取り残されるも軋轢魔法への復讐の為に洗礼教会に入会した。


「それも、そうだけど、何故お兄ちゃんはアイツを助けた……?」


 何か月か前に哉江の義理の兄である還崎洋が魔道アーマーの整備士になると聞き、その時は驚き、喜んだ。

 しかし、どこにも兄の姿はなかったのだ。

 結局その後どうなったかは分からず、それはただの根も葉もない噂、という事になってしまった。


「――――――ッ!!」


 拳を握りしめ、空を切る様に前に突き出した。

 窓が揺れ、花瓶が欠けた。


「動きながら喋ると舌噛むぞ。それとこの部屋は壊さないでくれ」


 そんな哉江の稽古をつけている、哉江の師である女性、我久(がく)はタオルを放り投げ言った。

 受け取り、哉江は汗をぬぐう。


「すいません。少し考え事を」

「兄を見たんだって? まあ、感傷に浸ったり過去を懐かしむのもいいけど、それで精神状態へ影響を及ぼすのはやめてくれよ。魔道アーマーは敏感で繊細だからね」

「はい、問題ありません。戦闘に支障をきたす様な事態にはいたしませんので、ご心配なく」


 どうも、我久はこの生真面目だが無愛想な少女が苦手だ。

 別に嫌いな訳じゃない。無愛想と言えども礼儀はきちんとわきまえているし、何より優秀だ。十四歳にして魔道アーマーを着こなし、その戦闘能力は洗礼教会の実戦暗殺部隊『執行所(コキュートス)』の殺人鬼どもに匹敵するとか。正直、『執行所』の気狂い魔術師共と一緒にはしたくはないのだが……


 まあとにかく、なんというか、とにかくこの非フレンドリーな感じが苦手なのだ。

 他の魔法使いとも必要以上に交流を図ろうとしない。まあ魔法使いは大体がプライドの塊のような奴だから仕方がないと言えば仕方がないのだが。


「そろそろ休め。また今夜、軋轢魔法が活発化する可能性がある」

「はい。では休ませていただきます」


 哉江はスポーツドリンクを一口飲んだ。そのまま備え付けのソファに座る。

 我久が言う。


「お前は、本当に必要以上に話さないな」

「と、言いますと」


 頭を掻きながらため息をつく我久。


「そんなにプライドの塊は嫌いか? そう言う私も嫌いだが」

「彼女達は自分の正義の為に戦っています。それがたとえただの憂さ晴らしであっても、私は特に干渉しません。私は私のやるべきことをやるまでです」

「真面目だねえ……」


 真面目なのはいい事だ。

 我久はそれ以上は何も訊かなかった。我久の性格上誰かと部屋にいながら一言も喋らないのは一番苦手とする事だが、まあ、我慢する他ない。


「真面目、ですか」


 ポツリと呟く哉江。

 我久はそれに驚いた。それもそのはず、我久の言葉に返したとはいえ少し間が開いていたのだ。という事はその言葉に何を返そうか考えていたとかそんな所だろう。意外と頭の中では会話を楽しんでいるのかもしれない。

 哉江は珍しくそのまま続ける。


「兄にも、始めて会った時にそう言われたのを覚えています」


 という事は五歳の時からこんな性格だったのか、と苦笑する我久。


「その兄は、優しかったのか」

「はい。とても優しい兄でした。たった一ヶ月だけの生活でしたが、軋轢魔法でお互いを憎み合う両親から私を庇ってくれて」


 軋轢魔法の瘴気に触れると性格が豹変する事例もあるらしい。恐らくそれによる虐待があったのかもしれない。そこまで深く訊く隙はなかった。

 しかし、だとすると家族で平和に暮らしたのはほんの少しの間、という事になるのか。まずそもそも五歳でいきなり養子、というのも何か不幸な感じをにおわせる。


「寡黙で、必要以上に話す事はないけれど、さりげなく優しくて、素敵な人です」

「ブラコン、というヤツか?」

「ブラコン、ですか?」


 首を傾げる哉江。頭の上に疑問符が見えそうだ。


「いや、なんでもない」


 サブカルチャーには通じていないという事か。

 仕事と兄一筋、悪くはない。

 義理の兄を大好きなブラコン妹が武装して戦う。中々どうしてそそるものがある。


「どうしました、そんな意味ありげな含み笑いをして」

「いや、何でもないよ」


 誤魔化すように立ち上がる我久。


「お前の兄と、哉江は、似ているのだなと思ってな」

「私はまだまだです。まだ兄の様な人間にはなれません。でも、いつかきっと、兄の様な素敵な人に、なりたい。そう思っています」

「目標があるのはいい事だ。それが高ければ高いほどな。さ、もう休憩はいいか」


 それを聞いて、哉江の表情はキッ、と引き締まる。

 タオルを机の上に丁寧に畳んで、置く。


「おう、流石。細かいとこまで気が付くヤツだ」

「師匠、よろしくお願いいたします」


 律儀に哉江は一礼した。


「ああ、じゃあ稽古を再開しよう」

~キャラクタープロフィールⅢ~

還崎(かえざき)哉江(かなえ)

 還崎洋の妹さん。とても自意識が強く、『軋轢魔法』が悪だと絶対に信じてその考えを曲げる事は無い。

 兄の事がとても大好きで、行方不明になった兄を探し出す為に洗礼教会に入ったんだ。



年齢    14歳

身長    159.8cm

体重    45.4kg

性格    さみしがり

長所、短所 真面目な事、融通が利かない事

趣味    兄の事を考える事

特技    兄の手伝い

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