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拾伍――失敗の取り繕い

 リョウナ達一行は帰ってくると、折角だから皆で一緒に寝よう。という事で複数人用の寝室へと来ていた。


「す、すごい……私の部屋のベッドよりも大きい!!」


 リョウナのはしゃぎようにメルシィは少し困惑した様な顔を見せた。

 仕方がない。今までのリョウナにベッドはおろかどこかで寝る余裕すらなかったのだから。


「うぇいっ!!」


 変な掛け声と共に本能でリョウナはベッドに飛び込んだ。

 案の定、ぼふっといった感じにリョウナの体はベッドに沈み、言い知れない心地よさが体中に駆け巡った。

 気を抜けばすぐに眠りに就いてしまいそうだ。


「縞違さんも大変だったんですね……」


 セブンもベッドに飛び込みながら、リョウナの横でそう呟いた。


「うん、何と言うか、迫害って言うのかな。酷かったよあの時は。今はある程度は幸せだけどね」

「それは、よかったです。やはり還崎君のおかげですかね」


 メルシィは流石にしないかと思ったが、ふかふかのベッドの魅力には勝てない様だ。リョウナの隣に飛び込んだ。


「そうも言えますね。やっぱり、私の人生が変わったのはアイツと出会ってから、なのかな」

「還崎君はおよそ出会った女の子とはフラグを建てていきますからねぇ。リョウナさんも気を付けてください?」

「ふ、ふぇ!? それって一体どう言う意図で……!?」

「ふふふ、内緒ですわ?」


 何かを企んでいるかの様なメルシィの笑顔はそれと同時にリョウナの反応を楽しんでいるかのようにも思えた。


「優しいですよね……還崎さんは……」

「どうやらセブンもその内の一人だそうですねぇ」


 そうだったのか、セブンも洋に……洋の事を。


「いやいや私は一体何を考えて……!?」

「どーしましたぁ?」

「何でもありませんッ!!」


 何故だろうか。何故こうも還崎洋は自分の心を惑わせてくるのか。リョウナは理解できない。恐らくこれは俗に言う、好きとかそんな感じの何かそんな感じの感情なのではあろうけれども。


「しかし所詮は一目ぼれの範疇ですよ!! あんなエロ男誰が好きなもんですか!!」

「ツンデレですか?」

「違いますッ!!」


 完全に墓穴を掘っていた。

 ここは黙ったが勝ちだ。と言う訳でリョウナはそっぽを向く事にしたのだが、そうすれば反対側のセブンと目が合ってしまう。セブンに向こうを向けとも言えないしセブンは喋らないしで何とも空気が重い。

 と、背中に何かしらの感触が走った。


「なら、私はどうですか……?」

「ひぁっ!?」


 思わず情けない声が出てしまう。

 そしてよく見てみると、セブンが喋らないのは眠っていたからだった。まるで、起きそうにないくらいに。

 それでいてリョウナの背骨を撫でた指はだんだんと脇腹の方へと寄っていき、こそばゆさもそれに比例して増えていく。しかしその感触はどこか違う。くすぐったいとはまた違った間隔……


「ふゅっ、あ、ひゃ……っ、あの……!! メルシィさん!?」


 メルシィの名前を呼ぶと、耳元で囁かれる。


「どうしました? リョウナさん」


 甘い吐息が耳に吹きかかり、体がゾクゾク震え力が抜けていってしまう。

 一体、一体メルシィはどうしたと言うのか。いきなりこんな百合染みた事をしてくるなんて。そう考えるも、メルシィの甘い吐息と弱点を的確に突いてくるその指使いに思考すらも奪われていく。


「私はですね、あなたの事が大好きなんです。ただの一目惚れではありません……そう、これは紛れもない『愛』。私はアナタを愛しているのです」


 その柔らかい唇が、少しだけ耳に触れる。

 それを機としてメルシィはリョウナの耳を甘噛みした。


「ふぁっ、ぁ……うぅ。ダメ、ですよメルシィさん……そんな急に」

「我慢できないんです……アナタと初めて銭湯に行った時も、ずっと我慢してたんですよ……?」

「でも!! でも、やっぱりこう言うのは幾つかの順を踏んでからじゃないと、いけないんと思うんです!! 何より女の子同士だなんて……!!」

「そう、ですか。そうですよね」


 メルシィの手が止まり、リョウナはもう一度メルシィと向かい合う。

 その目は悲しそうな目、をしてはいなかった。


「あれ……?」


 狩る者の眼(エロい意味で)。


「ではちゃんと順を踏んで、私の子を産んでください!!」


 服も下着も全部脱がされた。

 その豪邸の周りには誰もいない。そして声も外に漏れる事は無い。

 それでも、リョウナの嬉しそうな悲鳴は夜空に木霊した。



「ん、何だ? リョウナとメルシィがヤりはじめた……? やっぱりか」


 ここは洋の隠れ家。いつもの場所である。

 リョウナの為の機構アーマーを徹夜で作っていたところだったのだが、その矢先冷存千銅こと頭領ことおっちゃんからメールが来たのだ。内容は言わずもがな。


「リョウナには、ちょっとばっかし我慢してもらうしかないか。”コレ”は仕方がないしな。どうしようもない」


 自分に言い聞かせるように洋は独り言を呟く。

 と、またおっちゃんからメールが来た。


「今度はなんだ……? 遂に孕んだかっと、成る程、アーマー使ってまで壊しに来たか」


 監視カメラの件だった。

 どうやら壊されたようである。見つからない自信は少なからずあったのだがまあ案の定とも言えるか。

 ただまあ、きっちり壊される前の映像は送られてきたのでそこは安心。

 これでリョウナ達の身体の変化を観察する事ができる。そうでもしないと痩せたり太ったり背が伸びたりする思春期の女の子だ。身体の変化のせいで今まで着ていた機構アーマーが着られなくなる、なんて事も有り得る。

 とまあ理由を言えばこんな事をせずに済むのだが、別の目的もあるので理由は言えずじまいだ。


「リョウナは今作ってるからともかくとして……メルシィは痩せたな。セブンは順調に太っていってるな。良く言えば丸くなってるとも言えるか」


 痩せはあまり問題ないだろう。セブンはまずそもそも非戦闘員なのでアーマーが必要ない。だから関係ない。ただの洋の趣味だ。

 メルシィは背が伸びた訳でもなさそうだし、今回は異常無しだ。


「それにしても……セブンはうまく肉が付いているから大丈夫だが、メルシィは胸無いな。もう、無いな」


 やつれたから、と言うのも理由の内に入るだろうがそれ以前に元々無い。

 もう何と言うか、無い。


「聴かれたら全身抉られそうで怖いな……」


 その時はセブンに助けてもらうとするか。とか何とか考えながら機構アーマー制作に集中しようとパソコンの電源を落とそうとした。だが、そこでまたメールが一通届く。送り主は再びおっちゃん。


「今度はなんだ……」


 洗礼教会に関する情報だ。

 どうやら、来週の今日、正午に洗礼教会が動くらしい。複数人との戦闘になったとしてもメルシィなら何とかできるはずだ。だが、『還崎哉江の療養が終わった』。その文章が引っかかる。

 と言うか、心配で仕方がない。

 心配。そう、メルシィに腹を風穴がもう少しで開く程に抉られ死にかけた洋の妹が、ほんの数日で回復したと言うのはおかしいのではないか? そう感じたのだ。


「だが、教会が人員を酷使する事はあの司令官ならないだろうし……哉江なら無理して戦線に立ちそうではあるな……」


 止めたいがそれは無理そうだ。

 リョウナに、任せるしかない。

 自分では不可能だ。何があっても無理だ。約束する事しかできない洋には哉江を、妹を止める資格も勇気もない。


「何て考えてる暇はないな。時間の無駄だ」


 リョウナに任せればそれでいい。多分勝つだろうから問題ない。その自信に確たる根拠はないが、勝ってもらわないと困るのだからそう思う他ない。


「俺はその為の足がかりを整えてやんないと」


 時計を見た。夜中の十二時丁度だ。

 今日は眠れない。

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