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拾参――I believe you. Bat,he is liar.

 何故こうなった、と我久(がく)は嘆いた。

 洗礼教会からの命で部下を療養させろと言われ、メルシィ・クレンドロスにボロ負けして大ケガを負った件の部下、還崎(かえざき)哉江(かなえ)を街に連れ出したはいいものの常に無言。これでは我久の精神の方が疲弊してしまう。

 だと言うのに、この状況は一体どう言う事なのか。


「なあ、喧嘩するつもりなら帰るぞ……?」


 やつれた調子で哉江に言う我久。

 我久と哉江の目の前には二人の少女が座っていた。片方は哉江が以前殺し損ねた軋轢魔法。もう片方は恐らく礫祭同盟の一員か。

 哉江に限った事ではないが、軋轢魔法をこよなく憎悪する哉江の事だ。いつ目の前の少女とつかみ合いになるか分かったもんじゃない。

 正に、一触即発の状況。


「なあ、何がしたいんだ」

「少し、黙っていてください」

「おいおい……」


 割と冷たい声で返されて少し傷ついてしまう我久。

 どうやら、多分いつも慕っている上司にまで冷たく当たる程今の哉江の精神状態は乱れているのだろう。


「で、結局アンタは何しに合席したの? まさかその体で私に喧嘩売ろうって訳、じゃないわよね」


 金髪の少女、名前は確か縞違リョウナが、挑発する様にそう言った。


「愚問だな。そんな事をするはずがないだろう? 丁度いい機会だから話でもしておこうと思ってな」

「へえ、驚きね。てっきり続きでもしに来たのかと思ったわ」


 リョウナの隣のおどおどしている少女がかなり居心地悪そうだ。

 できれば一緒に外に出てあげたいぐらいに。

 まあ、我久的には軋轢魔法が何だとかについては特に興味はなく、上の命令に従っているだけだから一緒に外に出てあげても特に問題はないのだが、もしそうしたら絶対にこの店が戦場になるだろう。


「戦う意志のない者、いや、争いを恐れ逃げている者に戦いを挑む意味がない。時間の無駄だ」

「なんですって……? 何でそんな事が分かるってのよ! 勝手に決めないで!」

「目を見れば分かる。お前のその目は今の私ですら恐れている。襲われたら抵抗しよう、それぐらいにしか思っていない。大口叩いても結局何も考えずに自分は悩んでいるそれだけで満足しようとして答えを出そうとしない!!」

「黙れ!! 私は、争いたくないだけだ……!! 争ったって意味はない。だから話し合いで――


 哉江が机を思い切り叩いた。

 物凄い轟音が響き渡るが、哉江の手へのダメージの方が大きかった様だ。だが、そんなことを微塵も思わせないほどに哉江の形相は鬼神じみていた。


「遅いんだよ……!! お前達が私達に和解を求めるにはもう遅すぎたんだ……!!」


 縞違リョウナは黙った。

 その場には何とも言えない重い空気がのしかかってくる。我久が動こうとした時、横合いから男の声が聞こえた。


「ここじゃダメだ。話をするならもっといい所がある」


 黒いジャケット着た長身の少年。

 哉江が振り返り、そして、


「お兄ちゃん……!? なん、で……?」

「いいから。もう出るぞ」


 その少年は店員さんに死ぬ程謝っていた。


     @


 縞違リョウナ達はどうやら着いてこなかったらしい。

 好きで喧嘩を始めた訳ではなかった様だ。


「成る程。廃ビルの屋上とはまたいい趣味をしている。それにしても、エレベーターが動くとはなあ」

「俺が直しました」

「ほう」


 感心する我久。

 しかし、お茶を濁す事はできない様だ。場所は変わっても一触即発は変わらない。

 まず、哉江が言った。


「お兄ちゃん。何であいつらの味方をしているの?」


 先も言っていたが、成る程、還崎哉江の兄、還崎洋は軋轢魔法側にいたと言う事か。

 一応我久も会った事はある。いつの間にか逃げ出していたが、魔法機構アーマーの整備士になる為の試験会場で出会い、話もした。


「俺は誰の味方もしていない。俺はただ俺のやりたい事をやっているだけだ」

「魔道アーマーを作る事か」


 割り込む形で我久が言う。

 還崎洋は首肯した。


「なら何故、逃げ出したんだ?」

「さあて、何故でしょうかね」


 人を食ったような反応、と言う奴か。


「何でいなくなっちゃったの……? ずっと、ずっと淋しかったんだよ? 戻ってきてよ……」


 哉江が専属の部下になってもう何年か経ったが、やはり、涙を見たのはこれが初めてだった。


「還崎洋、お前にどう言う思惑があるかどうかは知らないが、これだけを訊かせてくれないか。お前が哉江の前からいなくなった理由はもしかしたら、軋轢魔法に覚醒したからじゃないか」

「師匠、何を……!?」

「ただの確認だ。まあ、軋轢魔法の反応がないから多分違うだろうが。念の為な」


 前から気になっていた事だ。今のところ我久の中で一番考えられる理由がそれだった。


「……俺には、軋轢魔法はありません」

「そうか、ならいい」


 哉江の方に向き直り、洋が告げる。


「とにかく、俺はまだ哉江のところには戻れない。本当はお前を守ってやりたいが、俺にはやらないといけない事とやりたい事がある。今は、そこのお姉さんに守ってもらえ」


 哉江は黙っている。

 暫しの沈黙。


「分かった。じゃあ、それが終わったら、私を守ってくれる?」

「ああ、約束だからな」

「うん、約束!」


 小指を差し出す哉江。洋は一瞬躊躇った素振りを見せたが、観念したように小さな小指に自分の小指を絡ませた。

 背は高いが少し頼りなさそうな顔をした青年と、体は小さくてもとても心を持つ車いすに乗った少女。傍から見ればどこから見ても仲のいい兄妹だ。だが、その間に渦巻いているモノは、本人達が分かっている以上に大きいものだろう。


「帰りましょう、師匠」


 満足げな表情で、いつもの調子で哉江は振り返る。


「もういいのか?」

「はい……また会おうね、お兄ちゃん」


 車椅子を押しながら、我久は一瞬だけ洋の方を振り向いた。表情は変わらず、何の色もない。まるで兄妹全く同じだ。

 しかし、哉江は何の疑いもなくその言葉を受け入れた様だが、我久にはどうも還崎洋が何か企んでいるようにしか思えなかった。

 もし、軋轢魔法であると言う事を隠す事ができるのなら、洋にしてみればいくらでも嘘の吐きようはある。


「そういや飯食ってなかったな。別の店に食いに行くか」

「はい。そうですね」


 まあ、今は考えなくてもいいか。

 適当な調子で我久は下の階に下りた。

~キャラクタープロフィールⅥ~

我久(がく)真理(まり)

 哉江の直属の上司。

 とても勘が良く(サブカル的な方面で)、洋と哉江の関係にいち早く気が付き、楽しんでいると同時に巻き込まれる事を面倒臭がっている。


年齢    27歳

身長    166.9cm

体重    56.3kg

性格    きまぐれ

長所、短所 堅実である事、自分の命の為なら他を顧みない事

趣味    読書(漫画、ラノベ)、アニメ鑑賞

特技    自分の命を守る事


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