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拾弐――休憩中

 街は人で賑わっていた。

 私達は今、隣町のまた隣町に来ている。できるだけ遠くに行こうという事で少しだけ長旅をした。


「お店に入ったの、本当に久しぶりかもしれないなあ」


 ファミレスの中、感慨深く呟いた。

 私達が座っているのは窓側の端の席だ。


「俺も人とくるのは久しぶりだ」

「わ、わたしもです……」


 何故か緊張してしまう。それと同時に、恐い。セブンが自分為に傷ついている事もすごく辛い。

 いや、だめだ。折角楽しそうにしてるのに自分がこんな辛気臭い感じ出していたらそれこそ申し訳ない。


「じゃあ俺オムライス」

「じゃあ私もオムライス」

「じ、じゃあわたしも、オムライスで」


 一瞬時が止まった。

 すかさず洋がツッコみを入れる。


「ちょっと待て、俺の真似をした訳ではあるまいな?」

「いや、何頼めばいいか分かんないし」

「いやいやいや何でそこで真似しちゃうんだよもっとあるじゃんこれオムライスはメニューの割と端っこのやつだぞもっと真ん中のハンバーグステーキとかあるじゃんか」

「じゃあライスで」

「お前それは面白くないぞ」

「あ、あの……そこはやっぱり『和食か!』って言うツッコミの方が……」


 申し訳なさそうにそれでいて何かすごい事を言ったセブンに二人の注目が集まった。


「す、すいません! 生意気な事を!」

「いや、すごいよセブン!」

「ああ、それは盲点だったぜ……」


 キリが無いので結局全員オムライスを頼む事にした。店員さんが少しだけ苦笑いしたのはきっと気のせいだ。


「わざわざ隣町の隣町まで来てオムライスしか食わんと言うのは、何だろうな……」


 洋が呆れたようにそう言った。


「じゃあ違うの頼めばいいじゃない」

「いや俺は、オムライス食べたいから」

「二人共……さっきから言おうと思ってたんですけど……周りからの視線が……」

「「そう言う事は早目に言おうね!」」


 さて、頬を赤らめながらも落ち着いた三人の元にオムライスがやってきた。

 卵の香ばしい香りとトマトケチャップの酸味の効いた香りが丁度よく混ざり合った黄金比……


「いただきます」

「いただきます!」

「いただきます……」


 スプーンで卵を裂いてみると中から湯気と共に現れるチキンライスがこれまた輝いて見えた。

 それを卵と共に口に運ぶと、口の中に塩辛過ぎないチキンライスの風味とそれを包み込む卵の甘さが広がり、思わず顔が綻んでしまう。

 我ながらテレビに出れそうな言い回しだなと一人で笑っていた。


「どうした遂に壊れたかリョウナ」

「っ!! ち、違うわよ!!」


    @


 とりあえず全部食べ終わり、エアコンの効いた店内でしばらく駄弁る事にした。私としては早く移動したいのだが、洋がトイレに行ってしまったので待たないといけない。


「食べる前に行っときなさいよねまったく……」

「ははは……」


 セブンと話すのは楽しいが、愛想笑いがとても居心地悪く感じてしまう。

 しかしまあ、よくもまこんなに人と話せるようになったもんだと思う。

 何と言うか、人と交流するのも悪くはない。今まで軋轢魔法のせいで避けてきたがこれからはセブンもいるしもっと人と話してみるのも悪くはない、かもしれない。

 しかしまだ、セブンの体が大丈夫なのか、それは気になってしまう。

 自己犠牲がどう言う形でセブンの体に現れるのか。


「リョウナ、どうしました……?」

「ん、いや、セブンの体は、大丈夫かなって」


 突然そう訊かれて驚いた様子を見せたセブンだったが、すぐに何事も無い様に「大丈夫です」、と答えた。


「そう……でも、すごいよね。セブンの力って。それならメルシィさんも言ってたように、平和的に解決できるかもしれないし」

「はい。わたしが理由でメルシィさんが、『世界の破壊』を諦めてくれたらわたしはそれだけで嬉しいです」


 どこか憂いた表情でセブンは続ける。


「あの人は諦めてしまっているんです……。口ではいつも分かり合う事の大切さを説いていますが、あの人はもう今の人類と分かり合う事を諦めているんです……。だからあの人は『世界を破壊』し新しい世界を作ろうとしている……」


 諦める、それがメルシィが出した答え。

 人と分かり合えない事を実感し、それを諦めたのだ。きっとそうなる理由、裏切や何かがあったのだろう。それはリョウナの知る由のないところだし、知ったところでその考えを理解する事はできないだろう。

 だが、その考えを否定したくはない。それはつまりメルシィを否定する事だから。


「でも、わたしは諦めません……きっと分かり合える日が来るはずです。私達だって生きてるんです、だからきっと私は諦めません……」


 控えめに、しかしそれでいて強くセブンは言った。


「私も、私もそう思う。争う事に意味はないと思うし、それに、諦めたくない」

「一緒に、頑張りましょうね……」

「うん!」


 差し出された手を握る。それをセブンが握り返す。

 何の事か周りの人は分かっていないだろうが、『いい話だな』感は漂っていた。


「さて、洋はまだ出てこないわね……」

「そうですね……」


 苦笑いしながら待っていると、店の中に誰かが入って来た。そんなに気にする事でもなかったのだが、車椅子が見えたので何となく注目してしまう。


「――――――ッ!? 嘘……」


 目を見開いた。


「どう、しました……?」


 セブンもその車椅子の方を見る。

 車椅子に座る少女、車椅子を押している女性。少女の方に、リョウナは見覚えがあった。

 夜で暗がりだった、だが、はっきりとその顔は覚えている。

 あの時の、魔術師だった。

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