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拾壱――普通を。普遍を。

 ――あれから丁度一日が経った。


 私は心底ふて腐れていた。顔をベッドにうずめている真っ最中だ。

 実際はふて腐れていると言うよりかは、落ち込んでいると言った方が正しいだろう。


「てっきり吹っ切れたかと思ったが、どうやらまだ引きずっていた様だな」


 還崎洋が呆れた様に、それでいていつもの様に単調に言った。


「当たり、前でしょ……人を殺したのに……」

「敵となる人間を殺す覚悟はしておいた方がいいと思うぞ。生きたいのならな」

「分かってるけどさ……」


 自我を以てした軋轢魔法(あつれきまほう)があれ程の被害を及ぼすなど考えていなかった。甘かったと言う事だ。切り捨てるべきなのかもしれない。自分の甘い信念を。それでもまだ、迷いたっかのだ。


「ねえ、洋はさ、自分の家族が敵だったら殺せる?」


 唐突な質問に流石に驚いた様子の洋は、しばらく考え込んだ。


「殺す訳ないね。何を切り捨ててでも守るべき存在だからな」

「ふーん、で、その家族はいるの?」

「教えない」


 回転いすごとそっぽを向いてしまう洋。少しだけ可愛かった。


「だが、お前がそのままでいてくれるなら……」

「なんて?」

「ん、いや、間違えただけだ。気にするな」


 そう言われてもハイそうですかと引き下がれるものでもない。


「洋って自分の事隠したがるよね。私の身包み剥がしたくせに」

「包帯巻いただけだけど」

「それがダメなのよ!! メルシィさんとかセブンとかいたんでしょ!? だったらアンタがやる必要ないじゃない」

「そうだな……色々あって忘れてたけど、そろそろ言わないといけないな」

「……?」


 洋が机に置いてあった魔道アーマーの腕の部分を持って再びリョウナの方を向いた。確かあれは、私が魔法使いから盗んで使っていたアーマーの一部だ。ほとんどが破壊されて、使える部分は少ないと洋は言っていたが……


「お前が戦うかどうかは別として、一応、身を守る為の戦闘能力としてお前用のアーマーを作ろうと思ってな」

「すごい……そんなことできるんだ。でもそれとこれと何の関係があるのよ」

「スリーサイズだ……ッッッ」

「     は?     」


 つまり、洋は私が眠っている間に体中を弄りながら胸腹尻その他諸々を測定していたと?


「アンタはァ……どうしてそう……!! それこそ別にアンタじゃなくてもできるじゃない!!」

「それはもう、返す言葉もございません。はい、この話は終わり!!」

「もういいわよ。続けて」


 ほっと、胸をなで下ろす仕草があまりにもわざとらしくてぶん殴ってやろうかとも考えたが、話が進まないのでグッと堪えた。


「まあ、そんな訳なんで。どんなデザインがいいか意見を拝聴したいと思ってな」

「へー、デザイン……ねぇ。例えば?」


 そうだな……といいながら洋は傍らに置いていた真っ黒なビジネスバッグから書類を何枚か取り出してこちらに差し出した。それを手に取って見てみる。


「まず、一番分かりやすい例としては、お前が戦った少女のものだ。あれは一番一般的な型だな。基礎は体操着型、ズボンはスパッツ、ソックスはスリークォーターだな。ん? どうした?」

「ナンデスカコレハ」

「まあ、驚くのも無理はない」

「驚くも何も。何かがおかしいような気がするんだけど……」


 何故こう、男の夢が詰まってそうな感じになっているのだろうか。もう一枚の方を見ていると。パッと見で分かるスクール水着があった。


「ああ、それはメルシィのスク水型だな。それは主に局地戦闘用だ。無駄なものを全て省いて、付属品に特化させたものだな。メルシィの場合は電撃を発生させる装置や、音響兵器、ミサイル兵器までくっつけてごつい事になってるな」

「えぇ、私こういうの着るの? 嫌なんだけど」

「そんな露骨に嫌がるなよ……」

「だって、だってさぁ、なんなのこれ?」

「仕方がない。何故こんなに男の夢が詰まっているのか。こんなもの真面目な顔して作って恥ずかしくないのか。それについてお話ししよう」

「自覚はあるのね」


 洋はバッグから一層分厚いファイルを取り出した。それをパラパラとめくりながら話し始める。


「まずそもそも魔法ってのは女性しか扱えないものなんだ。軋轢魔法にはその区別はないが、どちらも元は違えどどこからか精製した魔力を使って行使される。で、魔法には、淫乱であればあるほど魔力消費の軽減だったり効果の増大だったりとか言う”恩恵”が増加していくんだ」


 思わずポカンとする。今までになくポカンとした。

 それもそのはず。何だその特性は、と。


「え、ナニソレそれマジなの?」

「マジだ」

「ふざけてるの!? え、何? ふざけてるの!?」


 洋に言っても無駄だとは分かってはいるが、どうしてもそう言いたい。


「理由はある」

「聴こうじゃないの」

「まず、魔法を行使する為には精製した魔力を『魔力流路』と呼ばれる機構に保管しなければならないんだ。その機構はひとえに女性が胎児を育む場所だ。」


 これまた面食らった。と言うより、理解できなかった。

 と、言う事は、魔法使い達は大事な所を酷使しているのかもしれないと言う事なのだろうか。


「一応今の研究では害はないとされているが、普通は嫌だよな。まあ、それすらも気にせずに魔法使いになるほどそれ相応の理由があるんだろ」


 主に復讐、だろう。


「そして何故、魔法を扱う為にその機構に魔力を通す必要があるのか、それは、魔法が神秘だからだ」

「神秘……? それと、関係あるの?」

「ああ、出産も神秘だろう? 神の子の受胎告知を行ったのは天使ガブリエルだ。かつて大魔法使いが書き記した書にある母なる大地と同一視される緋色の女ババロン、胎児を司る天使サンダルフォン。魔法学的に言えば、出産も魔法なんだ」


 新しい生命を育み、産む。成る程確かにそれらは神秘的で、よくよく考えてみれば、不思議な事かもしれない。でもそれは、感覚の問題なのではないか? それが、本当の神秘なのだと言われても、にわかには信じがたい。


「実際、出産を経験した元魔法使いは、その時魔力を感じたらしい」

「そう、言われてもなあ。結局、セクハラアーマーとその神秘ってどう関係しているの?」

「そうだな……これは、女性にはちと言いにくい事なんだ。正直言って女性を冒涜するようなモノでもあるかもしれないからな……ていうか設計者は頭のどっかが絶対に沸いていると思うんだよなぁ」

「まあ、続けて?」


 神妙な面持ちで洋は続ける。


「魔道アーマーには『ジャヒーシステム』と呼ばれるモノが搭載されていて、それは、一言で言えばエロければエロいほど、つまり淫乱であれば淫乱であるほど強くなるんだ。月経の痛みと引き換えにな。俺は別に女性解放運動をしている人ではないが、最初これを知った時はいい気はしなかった」


 つまり、『ジャヒ―システム』を設計した者は神秘である出産や、それに至る為に必要な月経などの生理現象をエロい事に結び付けてしまったという事になる。どうせ子どもを産むためには交わるんだし一緒だろ、と。


「それは、イラッとくるわね」

「ま、そういう事だ。嫌かもしれないが、多少の恥辱がなければ魔法機構アーマーは思うように起動しない。だから我慢してくれ」


 かなり真面目な理由であった事に驚いた。だが、それ以上に、魔法を扱う為に大事な所を使ってしまっている。その事に抵抗を覚えてしまう。問題がないのだと言われてもだ。

 この人を殺しても、広い視野で見てこれからの地球の存続に支障はきたしません。たとえそう言われても、目の前で殺される人を見てそれでいいのだろうとは思わない。それと同じだ。


「嫌なら、最悪の場合メルシィに守ってもらう事もできるけど」


 それもいいかもしれないと一瞬思った。だが、メルシィの言葉を思い出す。


『世界の破壊――』


「メルシィが嫌いな訳じゃないけど、それはダメ」

「だよな」


 メルシィに守ってもらう事はつまり、世界の破壊を認める事と同義だ。認めたくはないし、それをさせる訳にもいかない。いつしか、メルシィを止める事にもなるだろう。その時に、最悪戦う事になっても。

 そして、守ってもらわないと言う事は軋轢魔法を使うと言う事だ。


「リョウナは、結婚して子どもを産みたいか」

「当たり前でしょ、そんな事。普通に平和な家庭を持って、家族で楽しく暮らしたいわよ……」


 その為の色々な事柄を、破壊を齎す為に用いるなど、吐き気がするぐらいだ。

 だが、生きる為には戦わなければいけない。


「まだ……迷ってもいい?」

「いいんじゃないか? ちゃんとした答えを出さずに行動するよりかはマシだな」


 洋はそう言ってくれた。


「そうだ、気分転換に外に出てみるか? セブンと一緒にさ」

「そう、ね。それがいいかもしれないわね」


 なんだかんだ言いながら、洋は自分の事を心配していてくれている。還崎洋は決してあんな奴等とは一緒ではなく、私を理解してくれる、私の味方なのだ。私を守ってくれるのだ。


「ありがと」

「ん? ありがとう? まあ、何に対してかは知らんがその感謝は有り難く受け取っておこう」



 ――リョウナは考える。これからどうするかを。

 洋に出会い、メルシィや、銭湯のおっちゃん。自分を認めてくれる人に出会う事ができた。その人達は自暴自棄になっていた自分に考える余地を与えてくれたが、それと同時に迷いも与えた。それでも諦めるよりはマシなのだ。

 リョウナは誓う、誰にでもなく。自分は絶対に自分の生きる道を決めると。自分自身に誓った。


 リョウナには、迷う余地がある。

 彼女はその事を深く噛みしめ、答えを探し始める。

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