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軋轢魔法少女イリーガル・ストライプ  作者: 井土側安藤
嘯きのディスコード
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拾――未来の選択権

「ほら、食え」


 洋が後ろから手渡すコンビニのおにぎりを無言で受け取る。

 私は乱暴に袋を破り捨て貪るように食べだした。

 そこまでお腹が空いていた訳ではない、ただ悔しかったのだ。洋を守る為とは言え人を殺した。自分達を憎む人間も、何も関係のない人間でさえも等しく殺してしまった。

 他でもない自分の意志で。

 今までの、軋轢魔法が与える影響で、ではなく、自らの意志で。


「威勢はいい癖に撃たれ弱すぎるな、お前は」

「うるさい……!! あそこまで、するつもりはなかったの!! ただ、アンタを守りたくて……」


 目からは涙が零れ出ていた。

 それを屋上の風が吹き付ける。

 鉄格子の様にがっしりと取り付けられた手すりの向こうに見える夜景はとても綺麗だった。人間と軋轢魔法の、言ってしまえば『戦争』が起きている様な世界には見えない。


「殺したく……なかったのに……!」

「全ての人間を守ろうとしても、しんどいだけだと思うけどな。結局その為には誰かと争うんだろうし」

「違う!! 違うよ……」


 涙を腕で拭い、力なく叫んだ。


「争わなきゃ誰かを守れないなんて、そんなの、おかしいよ……」


 たとえ、自らの存在が破壊を生み出すモノだとしてもだ。


「自分勝手かも、しれないけど、私が言える事じゃないかもしれないけど、争わなくて助ける事だってできるはずだよ。絶対に」

「勝手にしろ、無理だとは思うけどな」

「この前は否定しないっていったのに……! 嘘だったの……!?」


 心がざわついた。

 心にもない言葉のはずなのに、動く口は止まらない。


「否定しないのはお前自身だ。だがお前の考えは否定する。無理だ」

「アンタに何が分かるのよ……何も知らないアンタにこの苦しみなんて分かるはずないじゃない!!」


 体がいきなり前に引き寄せられる。見やると、胸ぐらを洋に掴まれ、目を見据えられていた。


「だから、何だってんだ。苦しいから何だってんだ。同情でもしてほしいのか、周りと違う考えを持ちながら、大きな力に抵抗しながら、それなのに今更認めてもらおうとしてるのか……? 人間はな、大きな理想を掲げた時点でもう普遍的ではいられなくなるんだ。そういう風になってしまった人間は、たとえ同じ考えの人間がいたとしても絶対に孤独なんだよ」


 憎しみを感じた。


「争わずに平和を築くだと? 冗談じゃない。力のない人間は、軋轢魔法に苦しめられ、戦いに巻き込まれ、憎みたくない隣人を、家族を、友達を、親友を憎むんだ……!! それと違ってお前には力がある。それがたとえ『破壊』であったとしても、理想を掲げてもそれを達成できず力なく苦しむ人達とは違う道を選べるだろうが!!」

「世界の破壊も、その一つだって言うの……?」


 メルシィ・クレンドロスが言った言葉が思い出される。

 彼女もその一つだと言うのか? 違う道を選んだ結果が全てを破壊する事なのか?


「それが嫌なら……戦うしかないだろ。認められないのなら、抵抗するしかないだろ。お前は抵抗と言う『自由』を選ぶ事ができる人間なんだ。魔道アーマーだって、破壊を破壊で潰す為のものなんだ、戦わないと死ぬんだよ」


 抵抗という自由。

 力がなく選ぶ事もできずただ巻き込まれるだけの人達とは違う。

 自分には選べるだけの選択肢があった。自由を、選択する事が。

 しかしその選択は、争わないという選択肢を除いて全てが争うこと。争わないことは、逃げることなのか?


「それでも……私は……」


 空気が、ざわつくのを感じた。


「暴力で、争いで、殺す事で何かを守りたくない。自分の考えを分かってくれない人を消したって、認めてくれない人が減っただけじゃない」


 ビルの屋上には風が吹き荒れた。


「だから……憎しみだけで選んだ未来なんていらない!!」

「……勝手にしろ」


 洋はむなぐらから手を離し、手すりを持って夜景を見た。

 その表情はいつもと変わらないものだったが、どこか悲しさを感じた様な気がした。


「喧嘩の後は、仲直り、ですわ」

「メルシィさん……」


 両手を後ろで組んだメルシィが屋上の入り口から現れた。

 あたかもタイミングを窺っていたかのように。

 黒い髪は風にたなびいていた。


「メルシィお前、ずっとそこで聞いてただろ」

「中々興味深かったのでつい、ね?」


 イタズラっぽく笑うメルシィ。

 洋はため息をついた。


「二人共、未来を選ぶのは自分自身ですよ。自由を行使できるのは自分自身だけです。お互いの、一方的な思いだけぶつけ合ったって、何も見えてきませんわ。人はお互いを認め合って始めて話しが通じるものです。というか、洋、これはあなたに散々言ってきたことなのですけど?」

「悪かったよ……」


 屈託のない笑みだった。

 私には真似できない。

 こんないい笑顔ができるのは何の悩みも抱えていない。もう自分のやる事は決まって、そしてそれは必ず完遂される。そんな人間の笑い方だ。

 羨ましかった。


「謝るのは私ではないでしょう? さ、リョウナさんも」


 それを聞いて一瞬、洋と目が合った。

 洋がそっぽを向くと、それに反発してそっぽを向いてしまう。


「こちらを向いて両手を出してください。丁度そこに何かを受け取れるようにお椀型に」


 やらないと殺られそうな雰囲気を感じ、二人はそれに従った。


「何を投げるんだ」

「ほいっと」


 おおよそ自動販売機で売ってる缶コーヒーぐらいの大きさのスチールの筒。メルシィから投げられたそれを危なっかしくも受け取った。

 それは、


「あっちぃ!?」

「熱っ!? お前これ熱々のコーヒーじゃねえか!」

「あらあら? 私はそうは感じなかったのですけど、軋轢魔法の力ですかね?」


 おどけた様に嗤うメルシィはとても楽しそうだった。


「それにつられて笑ったりしないからな、俺は」

「ぷっ、私に缶コーヒー投げた時の報いだよ」

「……………………………………………」

「ほら、リョウナさんは笑っていますよ? という訳で仲直り」


 中々どうして強引なメルシィ様。

 私は洋を見た。

 不思議ともう怒りはない。

 洋もそうなのか、髪の毛を掻き毟り言った。


「チッ。すまなかったよ、いちいちつっかかっちまってよ」

「私も、ごめんなさい。洋の言う通り、逃げてちゃだめだよね。うん、そうだ。何も考えていない内からただやりたいことを言ったって意味がないんだ」


 そう言いながら、ありきたりだが手を差し出した。

 苦笑しながら、洋はその手をとる。


「まあ、そういうこったな」

「……ありがと、洋」


 缶コーヒーのタブを開けて、やはり少しだけ飲んでみる。

 開けたてのコーヒーはやはり、ちょっぴり苦かった。

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