零――幼き日
――どうして? どうしてそんな事するの?
――恐いからだよ。何もしなくても君は僕達を殺すだろう? 苦しめるだろう? 傷付けるだろう?
――私はそんな事しない。私を信じて?
――僕達が君を信じても、君は僕達を信用するかい? 君が僕達を信用したとして、君は僕達を傷付けないかい? 本当にそんな事はしないかい?
――しない……私、だって、そんな事思ってない。みんな優しくしてくれて、私を助けてくれて、すごく感謝してる!
――君が僕達に感謝したとして、君は僕達を傷付けないかい? 君がいるだけでみんなが傷付く。みんなが苦しむ。そんな君を、信用して助けられる人なんて、存在しない。
――そんな、じゃあ……いやっ!! 離して!! いやっ、いやだ……やめて、そん……ああ、ああああああああああああああああ!!
心がざわついて、私の心は憎しみでいっぱいになった。
そして、みんなが死んだ。
みんなみんな死んでいって、街は空っぽになった。
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視力、聴力、嗅覚、触覚、味覚……あらゆる五感が消え去り、そして第六感で初めて『死』を実感する。
東京の都心。ある廃れたビルのある一階からそれは広がった。
破壊、破滅、滅亡、壊滅、瓦解。あらゆる破滅的な言葉も当てはまらないその現象は、言わば『消滅』だった。何かが物理的に消え去った訳ではないが、人々の命も、思いも、生活も、希望も、足跡も、何もかもが一瞬で消え去ったのだ。誰もが気付かぬ間にそれはそこにいた全ての人々の間を通り過ぎ、そこにいた全ての人々からあらゆる全てを奪い取った。
その後のその街は血と肉の海だった。
建物の窓はそのほとんどが赤く染まっていた。
私が歩く道は転がる無残な肉細工で彩られていた。
充満した鉄の臭い。生暖かい風が肌を包み、むせっかえる空気は胃の中身を押し上げて止まらない。気持ち悪くなって吐いた事は何度もあった。だがその内、吐くモノも無くなった。持っていた布きれで口を拭った。決して綺麗なものではなかったし、泥の味がしたが、吐しゃ物が残っている感覚よりはましだった。
しかし、耐えられるはずもない。
「もう、嫌……誰か、助けてよ……」
そんな助けを求める声も、風と共に消えていった。
全ての争い事の元凶であり破壊をまき散らす存在である自分の事を誰が助けるというのだろうか。
自分を匿ってくれていた人達はみんな死んだじゃないか、裏切ったじゃないか……そして私は――何をされた?
「あぁああああッ!! 死ねッ!! 死ねぇッ!!」
何度も自分の頭をありったけの力で地面に叩きつけた。頭蓋骨を叩き割らん勢いで。頭が痛い。でも、その記憶が死んでくれればそれでいい。思い出したくない。
涙は溢れない。涙なんて流したら、アイツ等の行為を認めた事になってしまう、それだけは死んでもごめんだ。
暫くその場にうずくまっていたが、街の様子は何も変わらなかった。
青く澄み渡った空に太陽が輝き、街を照らし、気持ち悪く生暖かい風が吹く。
そして私が存在している。
それ以外は何も無い。そう、何も無い。何も無い。私以外が何も無い。
それは何故だ?
「違う……私のせいじゃない……私のせいじゃない!! 私がやったんじゃない、のに……?」
誰に対する弁明なのか自分でも知る由がなかったが、言葉とは裏腹に、確かに私は罪悪感を覚えていた。
私のせいではないはずなのに。私のせいなんだ。私の意思で起きた事でなくとも、それは私の『力』によって起きた事、それは他者からすれば私のせい。
だったらそれは、私のせい?
私は刃物を取り出した。何を亡くしてもこれだけはずっと肌身離さず持っていた。だってこれがないと抑えられないもの。
今までもずっと、こんな泥沼の思考に陥った時はこうしていた。こうすれば心が落ち着く。だって私せいなのだから、私が傷ついたって誰も悲しまない。皆が喜ぶ。
「ぎ、ィ……………………ッ」
腕の痛みをぐっとこらえた。すると不思議と楽しい気分になる。私が私に罰を与えたんだと。
滴る鮮血は持っていた同じく常備している薄汚れた包帯で無理矢理止めた。止血の仕方なんて分からないけど、今まで死んだ事は一度もないからおそらく問題はない。
心が落ち着いた私はまた歩き出した。
乾いた。
全てが渇いた。
何も考えずにまた歩く。
何度も同じ事を繰り返しながら。同じ事を考えて、同じ自分を傷付けながら。
「……? なに、これ」
と、何かが足に当たり、下を見るとボロボロの古びた雑誌があった。何となく手に取ってみて、表紙を見る。
どこから飛んできたのか二年前のもの。何となく手に取り、ぱらぱらと適当にページをめくる。特に興味を引かれるものはなかったが、あるページで手が止まった。何年ぶりか分からないほど久しぶりの漫画だった。そこにはあるヒーローがいた。
彼は戦わなかった。彼は、飢饉や食糧難でお腹を空かせた子供たちの為に食べ物を配っているおじさんだった。彼の見てくれは決してよくはない。彼は、たとえ独裁国家だろうとも、紛争地帯だろうとも空腹を満たし世界を平和にしたいと願い食べ物を配り続けた。けれど戦う力も持たない彼を誰もヒーローと認めなかった。皆は彼を蔑んだ。彼が助けた子どもでさえも彼の事をよく思わなかった。
それでも彼は、皆の為に自分の正義を行い続けた。
誰も自分の事を認めなくとも、自分以外に誰もいなくても、自分には愛と勇気があると言って。
ある日、彼は敵の兵士だと間違えられ、射殺された。
「………………私に、どうしろっての」
今更もう遅いのだ。今の私はもう、誰かの事を考えている余裕などない。助けて欲しい。助けて欲しい人間はどうすればいいのだろうか? 都合のいいヒーローなんている訳がない。そして、都合のいいヒーローは私の事を裏切った、否、そもそも存在しなかった。私は一人で生きていくしかないのだ。誰にも助けを求められない。誰からも手を差し伸べられない。差し伸べたが最後、私に関わったが最後、みんな、みんな死んでしまう。
不思議と涙は出なかった。
だって、それは当たり前の事だもの。
「………………ッ」
拳を握りしめた。少なくとも私はこのまま死ぬつもりはない。
生きよう。
たとえ独りでも、私は抗うと決めたのだ。
~キャラクタープロフィールⅠ~
縞違リョウナ
ちょっと考えすぎる癖のある、金髪ツンデレの女の子。
テンションがとても高く、リアクションも大きい為『分かりやすい』人間とよく言われるらしい。
年齢 十六歳
身長 157.6cm
体重 47.9kg
性格 しんちょう
長所、短所 行動する前にはまず考える事、考え過ぎて結局何も決まらない事がある事
趣味 考え事
特技 ツッコミ