幕間夜話/安酒でも良い、慎ましく与太って欲しい。/または簡単お手軽オツマミ編。
供養より施行。
食う 寝る 遊ぶ(トルストイ)
「辻鳥」に別れを告げた私は暮れ行く町並みを急ぐ。
風が吹きすさび、肌を刺す。
あまりの寒さにポケットに手を突っ込んだまま歩こうとするも、同じ姿勢で歩いて転んでしまい、受け身も取れぬまま肘を骨折した友人を見舞った記憶が頭を過り、そっと手を出す。
家に着き、寒々とした空気を暖める為にストーブを点けてから風呂場へ。一日の汗と疲れをシャワーで流し、冷蔵庫から取り出す缶ビール、二本。
ビールと言えば聞こえが良いが、実は発泡酒だ。
中には「ビール以外は飲めない」だの「マズイ」だの言う者達も居るには居るが、くたびれた三十路過ぎの安月給が毎日飲むには適した有り難い代物だ。
スーパーサッパリやアワビにノッポロ、ましてやABSなどは以ての他だ。確かに美味いのではあるけれど。
ひとっ風呂浴びてからのキンキンに冷やした発泡酒。
プルタブを引くと共にプシュッと聞こえる軽快なSE。
誰に憚る事もなく喉を鳴らし、流し込む。
一気に飲み干したい衝動に駆られるが、これを抑えて半分まで。
半分残した発泡酒を片手に、今夜のアテを用意する。
スライスチーズを焼き海苔で挟む、これを五枚。
これで一品。
パックから開けた絹豆腐の上。刻んだネギ、スライスして水に晒したミョウガ、ちょっと前に流行った食べるラー油を乗っけて醤油を垂らし、変わりやっこの出来上がり。
これで、二品。
あとは厚切りにしたトマトの上に、オリーブオイルと醤油、これにすり下ろしのニンニクとバジリコでも加えれば、即席トマトサラダの完成。
これで三品。
「肉が足りないな」
一人にしては充分な量なのだが、ここでも「辻鳥」が、鳥精肉が、旨みを含んだ煙が……そう、肉だ。
一缶目の発泡酒も残すところ、あと僅か。
手に持っているのは350ml缶。所謂サンゴー缶だ。
500ml缶が二缶は翌日の仕事を考えると、私の酒量にはちょっと多い。
まぁ、明日は休みだから良いのだが。
買い置きしていた豚切り落としをレンジで解凍する間、玉ねぎはざく切り、キャベツを千切る。
そのついでに、胡瓜の漬物を切り分ける。
これにちょいと七味を掛けて、四品目。
熱したフライパンに油を引き、初めに玉ねぎ、次に肉を加える。
人参も加えたいところだが、火の通りと皮剥きの手間から本日は退場願う。
火がある程度通ったところでキャベツを加え、しんなりしたところで塩胡椒をさっと振り、砂糖と酒と味醂を加え、だしの素も一摘まみ、最後に醤油。軽く煮沸ったところで火を止め、ゴマ油をさっと掛ける。
器に盛ったら、白ゴマを振って出来上がり。
これで、五品目。
「辻鳥」のラインナップには断然及ばない物の、洗う事も考えればこれだけあれば充分だ。
これらをテーブルに並べ、テレビを観ながら発泡酒片手に夜は更けていく。