業と因果と異世界チーレム転生者。または法と執行の狭間。
居は気を移す(孟子)
筋肉をつける為に必要な物?それは筋肉をつける為の筋肉さ。まぁ、サムには伝わらなかったけどね。(外人コーチ)
柔らかな日差しとは対照的に砂と花粉を流し遣る風は肌寒く、鼻炎持ちにとっては辛い季節の到来を告げる。
主要道路から少し離れた場所に位置する公園からは、肌寒い風もどこ吹く風と敷地内を縦横無尽に走回ったり砂場では誰が一番高い山を作れるかを一生懸命に競い取り組む子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。
公園のベンチでは孫を見守る初老の方々、ベビーカーに手を添ながらお喋りに夢中の若奥様達。
今も冷たい風は吹いているが、その公園には春に相応しい暖かな光景があった。
その公園の横道を、マスクで口許を隠し、血走った目の男が息を切らせ走る。
時は僅かに遡り、昼休憩直前に掛かってきた顧客からの電話。
以前に出した見積りに不備があり、とにもかくにも平謝りで気付けば休憩も残り半刻。彼は慌てて職場を飛び出す。
目に見えぬ敵に呼吸器を害されながらも、それでも彼は走る。
目指すはコンビニ。食糧調達は勿論の事、家賃を振り込まねばならないのだ。
到着後より手早く用件を済ませて、引き返しひた走り、現在に至る。
息も絶え絶えなサラリーマンが駆ける道先に現れる複数の黒い影。
お得意先から配送帰りの電気屋主人が気付いて叫ぶ。
「異世界チーレム転生者だ!!」
異世界チーレム転生者。
チートと呼ばれるイカサマを武器に、異世界から来たかのような常識の無さ、重婚どころか一婦多妻などもっての他の法治国家である四季移ろう国で堂々とハーレムを作り上げ、この国に真っ向から喧嘩を売る傲岸不遜な存在、転生者。
そんな異世界チーレム転生者を法治国家が放置する筈もなく、様々な対応策が練られ実行された訳だが。
ある時は取り囲む者達を鼻歌でも歌うかのように、文字通りに千切っては投げ、千切っては投げ。
またある時は頭部目掛けて放たれた銃弾をひょいとつまんで投げ返し、八つ当たりと言わんばかりに周囲の建物ごと手当たり次第に破壊、取り巻きは黄色い歓声。まさに人外。
好き勝手に派手な動きをしていれば足取りも容易に掴めそうなものだが、イカサマチートがそれをさせない。
己が思うままに振る舞い、奪い、壊す。
異世界チーレム転生者。
奴等の向かう先には公園が、子供達が、初老達が、若奥様達が。
このちっぽけな街、花粉症と猛ダッシュで息も絶え絶えなサラリーマン。
誰が奴等を止められるのか。
呼吸さえも苦しいサラリーマンに代わって、再び電気屋主人が叫ぶ。
「転生トラックだ!!」
異世界チーレム転生者達が現れた道の向こう、エキゾーストノートを轟かせ鉄の巨獣が現れる。
転生トラックと異世界チーレム転生者、その取り巻き。
猛スピードで距離を詰める転生トラックを見据えた異世界チーレム転生者は慌てる事無く、何も無い空間に手を伸ばす。
その手には刀剣の類いが握られていた。
この四季移ろう国の法では厳しく取り締まられ、所持を認められる者にも厳重な管理が求められている。
その法すらも異世界チーレム転生者は理不尽をもって捻じ曲げているのだった。
「神魔断罪」
異世界チーレム転生者が呟くと共に、握った刀剣の類いに力を込めると剣先から目映いばかりの光が溢れ出す。歓声を挙げる取り巻き。
迫る転生トラック。尚も微動だにしない異世界チーレム転生者。あと、取り巻き。
衝突の刹那。
一閃。
吹き飛ばされる異世界チーレム転生者。
何事も無く突き進む鉄の巨獣、転生トラック。
全身の骨を砕かれ宙を舞う異世界チーレム転生者は少ない頭蓋の中身を撒き散らし、電信柱に衝突。その下には自治体が設置するゴミ置き場。ゴミはゴミ箱に。
止まる事無い巨獣のゴム製の爪はついでに取り巻き達を巻き込み、それは塵となり、風となって消えて行き、転生トラックもまた不思議と姿を消していた。
法を作るも守るも、破るもそれは人。
そして、どれだけ文明が発達しようとも、未だに花粉症が猛威を奮っている。
果たして、この街の意思は、それを望んでいるのか?
ウワハハハハハハハハハハ ワハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハ
最後の最後で、再び暴悪大笑面。




