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街と個人と冒険者ギルド。または消え行く怨嗟。

 益者三友 損者三友(孔子)

 三遊間 クリーンヒット 半額デー(詠み人知らず)




 雨雲も去り、柔らかな日差しの中、眠そうに歩く子供達。

 比較的交通量の少ない道ながらも主要道路であり、安全を呼び掛ける初老の面々。僅かに寝坊をして急ぐ足取りのサラリーマン。

 いつもの見慣れた穏やかな光景。


 誰も渡っていない横断歩道が赤を示して数秒、これといって特徴の無い車道の上、突如として現れる堅牢な要塞の如き威風を放つ石造りの建築物。



 歩道橋の上を急ぐサラリーマンが異変に気付き、和やかな一団に向かって叫ぶ。




「冒険者ギルドだ!!」




  かつての痛ましい事故から咄嗟に反応するも、幸いにして走行中の車は見当たらず、当面の危機からは免れた事に安堵する面々。


 だが、彼等は気付かない。

 道の遥か先より、物凄い勢いで此方に向かって、蛇行運転をする存在に。



 冒険者ギルドが現れて程無く、春うららかな日差しを急に奪われた電気屋の主人が訝しげに店から出ると、眼前には日照権を侵害する元凶が堂々と聳え立っていた。



 道に面した電気屋。個人商店の、俗に言うパパママショップ。

 休みも月に四日程で、毎年書き入れ時の時期には休みも無く、少ない従業員と共に配送から設置に接客と朝から晩まで重労働。それでも頑張る、街の電気屋さん。

 

 一日の収支では大店には及ばず、ネット通販にも顧客を奪われてはいるが、それでも地道にコツコツと積み上げて来た人脈は根強く、お陰で不況の最中でもこの商店を存続させる事が出来た。


 そんな目立たないまでも必死に生きてきた彼等の存在意義とも言える城に差す日の光りが、ポッと出の胡散臭い冒険者ギルドに、よりによって日陰に生きる者達の象徴に理不尽にも奪われてしまった。


 例え、どんなに蛍光灯の光が柔らかく、そして明るくても陽光が不必要とはならない。

 四季移ろう国では、三寒四温が表すように日の光りと言っても様々な色合いを内包する。

 眠気を誘う柔らかな日差し、アスファルトを溶かすような照り付ける日差し、肌寒い木枯らしの吹く中にもそっと照らす日差し、乱反射で目が眩む程の雪に差す日差し……


 この国の風土、その恩恵を、小さな小さな個人商店から奪う冒険者ギルド。

 冒険と言えば聞こえは良いが、それは一種の略奪とも言えよう。

 そんな略奪を旨とする者達が集まる冒険者ギルドに、小さな街の電気屋がどうやって立ち向かえよう。


 傲岸不遜なまでに存在を主張する冒険者ギルド。

 このままでは日中の電気代も馬鹿にならないではないか。

 エコという世相もあり節電に努めてきたが、これでは……

 やるせなさと悔しさ、どうする事も出来ない無力さを乗せ、俯き嘆息する主人。長い溜め息を吐き、ふと顔を上げると、視界の隅に映る影。



 先程まではスラロームをキメていた筈が、今は冒険者ギルドに向かって真っ直ぐ猛スピードでひた走る。



 舗装されたばかりのアスファルトを痛め付け、繰り出される猛り狂うエキゾーストノート。



 暴風を纏う鉄の巨獣。



 子供達を避難させた初老の面々が、サラリーマンが、電気屋の主人が叫ぶ。





「転生トラックだ!!」




 今回は無人だ。



 冒険者ギルドに突っ込む転生トラック。


 かつての威風堂々とした略奪者の象徴も今は見るも無惨、跡形も無く吹き飛ばされる冒険者ギルド。

 破砕した残骸すらもタイヤに巻き込まれ、風と共に消え去り、転生トラックもまた不思議と姿を消していた。




 小さな島国の小さな街、小さな小さな電気屋の日照権はかろうじて守られた。









 だが、また第二第三の冒険者ギルドが現れるかも知れない。


 その時、街の意思は、彼等を守り切る事が出来るのだろうか。





 ずっと、麦、百パーセント。

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