表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

最終話/かんながら つれづれなるまま ひとのみち。または明日とオムニバスとサイコパス。

 盛年重ねて来らず、即時一杯の酒。(陶潜、世説新語)

 せっかくご飯作ったのに、そんなの買ってきて!!買う前に電話の一本でも寄越してくれても良かったんじゃないの!?ねぇ、聞いてるの!?そんなんじゃ、この子が大きくなった時に……(ハイス・イマーセン)



~第一片/「Tais toi.Quelle heure ?」~


 建築年数27年・鉄筋2階建ての「マンション永楽荘」マンションとは名ばかりのアパートだ。

 深夜2時を回ったところ。

 普段は一度床に付いたら朝まで起きる事のない私だが、その日は不意に目が覚めた。

 いや、何かに起こされた。そんな感覚だった。

 思えばそれはこれから起こる事への前兆だったのかも知れない。

 いつもならば夢の中の、不馴れな時間帯。

 再び夢の中へ戻ろうとする意思とは裏腹に、目は急速に冴えていった。


 とりあえず台所で水を一杯飲み、溜息をつく。

 

 「早く寝ないと」


 誰に聞こえる訳でもない独り言を呟き、布団へ潜り込む。


 コツコツコツ……

 すると、どこからともなく足音が聞こえて来た。

 それはどうやら外からで、じっと耳を済ませていると、足音が次第に大きくなったかと思えばピタリと止んだ。


 どうやら、隣の部屋の様だ。


 深夜の静寂をチャイムの音が切り裂く。

 「はぁーい…遅かったじゃなーい」




 「いやぁー道に迷っちゃってさー、ガハハハハッ!!」

 「そうだったのー、心配しちゃったー、グホホホホ!!」


 どうやら隣人の来客らしい。


 隣人は2年前に、ここ『永楽荘』へ引っ越して来た。

 そして、私はこの2年間この隣人を見た事がない。

 だが…以前、私の所へ遊びに来た友人が一度だけその姿を見ていた。

 なんでも「クワガタと山口百恵を足して2で割った感じの女」らしい。



 ちなみにこの「永楽荘」....建築年数こそ結構経ってはいるものの、造りは堅牢で部屋の壁も決して薄くはないが、さしもの城壁も彼等の話声には敵わなかった。



 「何か食べる?」

 「何かあるかい?」

 「何もないわ」

 「ガハハハハハッ!!」

 「グホホホホホッ!!」



 これでは眠ろうにも眠れない。



 そんな事などお構い無しに、二人の会話は続く。



 「父と」




 「子と」




 「聖霊の御名において」


 



  「カルメン」





 「ガハハハハハッ!!」

 「グホホホホホッ!!」




 「最近の子達はよくわからない」



 そう呟いた途端、私もそんな事を思う歳になったんだなと気付く。


 そして、今尚続く彼等の会話に半ば呆れ、半ば憂いでいると──





 「そういえば、最近この辺も物騒になってきたな」



 「そうねぇ、気を付けないとねぇ」



 「まぁ、気を付けても、ナウなヤングの俺らっちって、危険なお年頃じゃん?」




 「ホント、チョべリバって感じぃ?」




 「こいつぅ~、ガハハハハッ!!」



 「やったなぁ~、グホホホホッ!!」





 ちょっと待って欲しい。本当に彼らは若人なのか?

 怪しい人間が闊歩する変な世の中になったものだ。




 「そういえばさぁ、隣って人住んでるの?」




 …………えぇ、住んでますよ…………




 「えーっ?知らなーい」



 ……勘弁してくれ。




 (ドットコム)






 …………ん?






 「ガハハハハハッ!!」

 「グホホホホッ!!」


 「ガハハハハッ!!」

 「グホホホホッ!!」





 駄目だ……やっぱり分からない。






 翌朝。



 鏡を見ると、そこには目の下を黒く変色させた男だけが映っていた。






~第二片/「Je suis malade」~



 『結婚おめでとう!!』



 新郎新婦、家族、友人、知人。

 その式に参列した全ての人が祝福し、また祝福されていた。





 歓声の上がる中、新婦はブーケを、その澄み渡る空へと高く高く放り投げた。






 その瞬間──────





 『オンドリャーッ』





 怒声と共に一人の男が現れた。




 赤いカーディガンに緑のスラックス、底の厚い眼鏡に七三分け。

 スモークチキンを振り回しながら、その男は新婦に襲い掛かった。




 「あっ、危ない!!」




 新婦を守ろうと前に出た新郎。

 男は手にしたスモークチキンで、新郎の頬をペチペチと叩き始めた。





 『薫製が嫌いなんだよう!!』




 ペチペチペチペチ……




 男は半ば泣きそうな顔で、新郎の頬を叩く。

 スモークチキンという名の凶器で。


 ペチペチペチペチペチペチペチ…………




 『トップランナーなんだよう』




 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………




 「き、君!!い、いい加減に……うわっ」



 薫製の臭いによって、新郎の意識は次第に朦朧とし始めてきた。






 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………





 『夢は見るもんでなく、叶えるもんなんだよう!!』





 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………




 「だ、誰か……この男を……」




 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………………




 何故、新郎は、新婦は、神父は、そして周りの者は止めないのか?

 


 止めないのではない、止められないのだ。



 賢明なる読者諸君ならばお気付きの事だろう。

 そう、彼こそ実は、理不尽なる神によって異世界に飛ばされた異世界トリップチート所持者だったのだ!!






 『ヘレンはヘレニズムなんだよう』






 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………………





 「……ぎゃあっ……」



 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ…………



 「ゆ、ゆうすけ君っ!!」



 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ……………




 『わかってくれよう、ペシミストなんだよう!!』



 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ………………




 孤独な男の啜り泣きだけがその場を支配していた。






~第三片/「Oui ou Non?」~




 たいち君はね、背が大きいの。


 こうちゃんはね、眼鏡をかけてるの。


 それでね、りさちゃんはね、おめめが大きいの。





 こないだね、砂場であそんだの。


 ないしょだよ?


 そしたらね、おじさんがね、言ったの。


 『君たち、こんなところにいたら危ないよ』って。



 『どうして?』って聞いたら、おじさん何も言わないの。



 おじさん?



 知らない人だったよ?



 それでね、おじさん、たいち君のスコップをとっちゃったの。




 そしたら、たいち君おこってね、



 『かえせ』



 って言ったんだ。



 おこりんぼうだね、たいちくん。




 だけどね、おじさんね、




 『なんだと』



 ってどなったの。




 しかたないから、みんなでおじさんに石をなげたの。




 いっぱいね。








 そしたらね、りさちゃんのなげた石がね、



 おじさんの頭にあたってね、おじさん、たおれちゃったの。




 どーんって。




 ほんとだよ?


 そしたら、こうちゃんが言ったんだ。




 『穴をほろう』



  って。




 なんでって?





 知らない。




 それでね、みんなでね、穴をほったの。





 でもね、3時になったから帰ったの。


 3時はね、おやつを食べるの。




 うん、時計もってるからわかるんだ。





 それでね、おやつ食べたから、砂場いったんだ。





 だけどね、みんな帰っちゃってたの。




 ひとりで遊んでも、つまんないから、帰ってきたんだ。





 スコップ?





 これね、たいち君、スコップ忘れてたから持ってきたんだ。





 あわてんぼうだね、たいち君。







 あとね、こうちゃん、眼鏡ね、こわしちゃったみたい。





 持ってこようと思ったけど、こわれてたから、やめたんだ。




 ぐしゃぐしゃーってなってた。



 砂場に落ちてたんだ。


 たいち君とケンカしちゃったのかなぁ?






 りさちゃん?




 わかんない。




 帰るっていってたもん。




 ピアノのお稽古かな?







 おじさん?




 知らないよ?








~第四片/「Ma cherie」~




 キーンコーン……カーンコーン……



 「ねぇ…話って、何?」




 『あ、あの…』




 「えっ?」





 『お、俺と…付き合って下さい!!』





 『だ、だから….お、俺と……』


 「いや、有り得ねーって。マジ勘弁」



 『え…そ、そんな……』




 「何でテメェなんかと付き合わなきゃなんねーわけ?」

 「テメェ、鏡で自分の顔見た事あんの?」

 「つーかマジで有り得ねーから」




 ズドン!!





 散弾銃が火を噴いた。





 「ギャアッ!!」





 『…もういいよ…』




 コツコツコツ……



 一体、彼は何処から散弾銃を取り出したのか?

 賢明なる読者諸君ならばお気付きの事だろう。

 そう、彼こそ実は、気紛れなる神によって無限の収納箱を与えられたアイテムボックス所持者だったのだ!!

 




 キーンコーン……カーンコーン…………





 え…?



 私……



 なんか……マズった……?




 有り得ない光景、有り得ない感覚、有り得ない結末。



 薄れゆく意識の中で、チャイムだけがいつもの様に鳴り響いていた。





…………………………………………………………………………………

……………………………………………………………………………

………………………………………………………………………

 

「異世界チーレム転生者だ!!」


…………………………………………………………………

……………………………………………………………

………………………………………………………


「冒険者ギルドだ!!」


…………………………………………………

…………………………………………

……………………………………


「転生トラックだ!!」


………………………………

…………………………

……………………

………………

…………

……


 



 スヤスヤと笑顔を浮かべている君は、どんな夢を見ているのだろう。


 お腹が空いては泣いて、オムツが汚れたら泣いて、寂しくて泣いて。

 

 母に抱かれて、父が見守る中で、君はどんな夢を見ているのだろう。


 ぐずりにぐずって困ってしまう事もあるけれど、我が子の可愛さよ。


 スヤスヤと眠る君の見る夢、願わくば、優しい夢でありますように。

 取り敢えず、終わらせて頂きました。


 貴重な時間を割いてまで、こんなFuckin’Shit!!なデンパ駄文にお付き合い下さった方には心からの感謝を捧げます。有難うございました!!


 始まったばかりの黄泉津夜話~ヨモツヤワ~の方はまだまだ続けて行きたいと思いますので、宜しくお願い申し上げます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ