子供と老人と転生トラック。または命と刑の秤。
不定期の不安定です、すみません。
悪貨は良貨を駆逐する。(Thomas Gresham)
私は巨人を駆逐する。 (E.E/アンチ巨人)
雨に濡れるアスファルトの匂いが鼻孔を擽る。
長かった冬を越えてやっと芽吹き始めた街路樹。
せっかくの新学期もどんより雲の雨の中、傘をクルクル回しおしゃべりを楽しむ子供達。
雨ガッパと蛍光色のチョッキを纏い、子供達の安全を見守る初老の方々。孫の姿と重ねて掛けられる言葉と眼差しは傍から見ても暖かい。
その和やかな空気を切り裂かんばかりに一団目掛けて現れる乱入者。否、乱入車。
対向車線の歩道からサラリーマンが異変に気付き叫ぶ。
「転生トラックだ!」
サラリーマンの一声で和やか軍団の柔らかな空気が一斉に止まるやいなや、子供達を離れさせようと動こうとする初老達だが、行動を起こす為に残された時間は余りにも少ない。
転生トラックの運転席には、昨晩にしこたま泥酔、アルコールも抜け切らないまま運転、そして居眠りという人間のクズ。
しかも常習犯という人間のクズ、さらにはつい最近の取り締まりでとうとう免許取り消しとなるも、会社に黙ってのうのうと運転している正真正銘人間のクズが乗っていた。
こんなクズのせいで、未来を担う筈の子供達と、子等を愛し育む初老の方々の命が今にも散らされそうになっている。
もしここで彼等の尊い命が散らされようと、現実は無情だ。例えクズが捕まったとしても、失われた魂は決して帰ってくる事は無い。
帰ってくる事などは決して無いと分かっていても、あまりにも辛くて無惨で非情な現実を少しでもほんの幾ばくかでも和らげたい、実はきっと違う世界で生きているのだ、生きて、幸せに生きている、という現実逃避の一言で済ませるには悲痛過ぎる遺された者達の祈り。
転生トラック。
失われた命に対してクズの方は、如何にも反省しているといった様子で少しでも刑期が短くなることだけに努め、裁判官から言い渡される量刑に釈放されるまで服役し、捕まった事に関しても「自分は運が悪かった」程度にしか思わない。人間のクズ。
一団と衝突間近の転生トラック。
クズは気付かず、目覚めない。
覚悟を決める初老達、何が起きているのか解らない子供達。
秒読み間近。
ほんの一瞬、何かが弾けた。
タイヤが破裂でボンと鳴く。
見事なタイミングで一団をすり抜け、歩道に乗り上げる転生トラック。
シートベルトなど当然と言わんばかりに未装着だったクズは、窓ガラスを突き破り頭蓋の少ない内容物を撒き散らしながら前方に吹っ飛んで行く。
行く先には街の掃除屋の異名を持つ電柱がクズをキャッチ&リリース。
真下に設置されたゴミステーションへと垂直落下。
ゴミはゴミ箱に。
クズがクズに相応しい最期を遂げた後、不思議にも転生トラックもまた忽然と姿を消していた。
初めは何が起きたのか追い付かず呆然とする一団だったが、難を逃れた事を理解した初老達の中でもリーダー格の紳士が子供達に声を掛ける。
絶体絶命の状況から九死に一生を得た、まさに未来そのものへと。
ゆっくりと優しく、それでいて力強い声で。
子供達はきっと忘れないだろう、その言葉を。
語り継ぐであろう、その言葉を。
「ワンパクでも良い、たくましく育って欲しい」
ハムを片手に去る者一人。道に輝くマキビシぽつり。
文面内容共に目茶苦茶で不条理で不合理であっても、子供達やそれを愛する人達が犠牲になりそうな話は今後も無理っくりにでもねじ曲げます。
例えフィクションでも子供達が犠牲になるのはだけは、甘いと言われようが辛い。