閑話 -串焼きを買う女-
「ふふふ、やっと手に入った……」
串焼きの袋を握りしめ、不気味に笑う女が一人。
大人気すぎて、数量限定となってしまったそれは、朝早くから並ばないと手に入らない幻の串焼きだ。
串焼きを手に入れた者達に、必死な顔で十倍の値段を提示するむさくるしい男たちや妙齢なご婦人たちが縋り付くのを尻目に、女はニヤニヤと家路につく。
この特別な串焼きを食べるには、まず正装をしなければ、と告白用に買った高級ブランド『ゴウツ・ク・バリ』の服に着替える。
意中の彼に会うとき、女はいつもこのこだわりのブランド服に身を包む。いわばこの服は女にとっての戦闘服だ。
さて、着替え終わりいざ串焼きを頬張ろうとした女。串焼きのタレがベットリと胸元に落ちたのをみて身を凍らせた。
「……むぅっ」
あまりのことに不平のうめきをあげながら女は服を脱ぎすてクローゼットを開ける。
勝負服はすべて洗濯屋に出していて、着替えの服は地味な白いワンピースしかない。
女はため息を一つこぼすと、そのワンピースに着替えた。
それでも、貴重な串焼きを目の前に気を取り直した女は串焼きにかぶりついた。
『コンコンコン』
二串目に手を伸ばしたところで玄関のドアをノックする音が響く。
洗濯屋さん、今日はちょっと早いわね。
財布を手に玄関に向かう女。
「はぁーい、ぇえっ?」
玄関を開けるとそこに立っていたのは最近夢中になっている意中の彼だった。
「おはよう、突然ごめんね」
困った顔の彼をポカンと見上げる女。
「昨日、これ忘れていったから、困っているんじゃないかと思って、ほんと突然ごめん」
彼の手には女の忘れ物が握られていた。
「あ、ありがとうございます」
動揺しつつ、それに手を伸ばした女は自分の恰好がとても地味なことに気づいた。
ああ、よりによってこんな時に……。
舌打ちしたいような気持ちでうつむく女。
「ごめん、やっぱり女性の家に突然来るなんて、無神経だったね」
「いえ、そんなことありません。とても助かりました」
彼の申し訳そうな言葉に反射的に首を横に振り微笑みを浮かべる女。
「そう、よかった。それにしても今日はいつもと印象が違うね……そういう恰好のほうが似合ってて素敵だと思うよ」
「え?」
女は耳を疑い彼をじっと見つめた。
「そういう清楚な服装のほうがかわいくて僕は好きだな」
いつもはどこか距離を置いているような空気を出している彼が優しく微笑みながら女に話しかけてくる。
ハッと気づいた女は串焼きの残りを振り返って拝んだ。
ありがとうございますっ!
串焼き様っ!!
根も葉もない噂だけど、生まれる幸せもあるのだ。




